第3話
…今日も(あたりまえだけど)来てしまった、学校…。
自転車小屋にはまだわたしの自転車はなかった。
昨日は日野くんを一人(いや、わたしの自転車と一緒に)取り残して裕鷹の車で帰っちゃったし。
怒ってるかなあ…。
「カエ!」
「あ、優ちゃん。おはよう」
「おはようじゃないわよっ!どーゆーことよ!」
「…なにが?」
意味不明発言をする優ちゃんに問掛けた瞬間、メグちゃんが勢いよくドアを開けて教室に入ってきた。
「カナちゃん、ものすっごい噂になってるわよ!」
…なにが!?なんの!?
「日野くんという人がいるってのに…。」
優ちゃんがわたしに向かって呆れた風にそう言った。
??日野くん?
「今日カナちゃんさ、どうやって学校にきた?」
メグちゃんがニヤニヤしながらわたしに聞いてきた。
「車、だけど…」
「やっぱホントの話だったんだ!」
ニヤニヤ笑いを深めるメグちゃん。
「カエ…。」
さっきより一層呆れましたという顔でわたしの名前を呼ぶ優ちゃん。
いやふたりとも、車で来たくらいでなに…?!
そう思ったとき、優ちゃんがうつむきながらすごいことを言ってくれた…。
「すーっごいカッコイイ人の車からカエがおりてきたとか。それで、そのカッコイイ人にカエが学校に入る間際『愛してるよ』とか言われてたとかって噂は、ホントだったんだね…。」
「えええええええぇっ!?」
それが【噂】!?
事実だけどっ!!
ちがう、違うのぉぉ…。裕鷹は兄、だし…
まさか、まさか見られていたとは…!!!
「裕鷹は…」
「えーっ!その人ゆたかって名前なの?呼び捨てぇ?…ってゆうかあたし達、カナちゃんから聞いてなかったよ…その人のことも、日野くんのこととかも!」
「友達でしょ?言ってくれればよかったのに。」
「いや…」
相談もなにも…。
うわあ、こんがらがってきたあ…。
「二股なんてヤルわね、カナちゃん!…でも今日ので日野くんの方に二股バレちゃったんじゃない?」
…二股もなにも、日野くんとも付き合ってないような…。いや、付き合ってるのか!?
「でも、二股はよくないわよ。ちゃんとどっちかに決めなきゃ…っ、あ。」
優ちゃんがわたしの後ろの方を見て、固まった。
メグちゃんもその方向を見る。すると、優ちゃんと同じように固まってしまった。
「メグちゃん、優ちゃん…?」
…嫌な予感。
「おはよう立花さん、林さん、…華苗」
立花さんはメグちゃんの名字、林さんは優ちゃんの名字…で、この学校でわたしを『華苗』なんて呼ぶ人は…!!
わたしは勇気を振り絞って、後ろを見た。
「日…野、くん。」
そこには、いやというほどニコニコした日野くんがいた。
こ、こわいー!!
「ちょっと、いい?」
…日野くんがわたしを『ちょっといい?』といって呼び出すとき、いいことがあるとは思えない。
「うん、なに?ここでもいい?」
ここなら他の人もいるし、安全だし…っ!!
「いや、ここじゃなんだし…学習室、行こうか。」
うわあ、笑顔、四割増してるよ…。
…逆らわない方が身のためかもしれない…。
わたしは優ちゃんとメグちゃんに力無く微笑んで、日野くんの後にトボトボとついていった。