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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
93/196

88:幕引きの魔弾

※連絡

次回から、更新タイミングが午前0時になります。









《SIDE:FLIZ》











「ぅ……あ……」



 ふと、ざらざらとした感覚で目が覚める。

拙い……気付かない間に意識を失ってたみたいだ。

戦場で意識を失うなんて、死んだも同然じゃない……早く、立たないと……!



「―――大丈夫かよ、おい」



 声が聞こえる。

ここで聞こえちゃいけない筈の声に、思わず文句を言いたくなる。

あんたは後ろで護られてるのが今回の仕事でしょうが。

こんな所まで出てきたら意味が無いじゃない……あたしが敵を倒すんだから、アンタは下がって―――



「づ……ッ」



 頭の中をかき回すような頭痛に、思わず呻き声を上げる。

これの所為で気絶してたのか……良く気絶してる間に殺されなかったわね、あたし。

とにかく、何とかして立たないと。


 と―――あたしが立ち上がろうともがいている所で、何かがあたしの額に触れた。

そしてそれと同時に、頭が割れんばかりの痛みがゆっくりと引いてゆく。



「え……?」

「大丈夫、ですか……?」



 霞む視界の中に映ったのは、桜の姿だった。どうやら、回復系の魔術式メモリーをあたしに施しているらしい。

どうして……煉達の所で、あの大量の幽霊達を操っていたはずなのに。

そして、その桜の後ろに立っていたのは、ミナを支える煉だった。



「ちょっと、何でアンタ達がここに―――」

「グレイスレイドの連中はほぼ壊滅。桜も動き回る余裕が出来たから、わざわざ救援に来たんだよ。文句あるか?」

「う……助かったわ、ありがと」



 ここは素直に礼を言っておこう。

下手をしたら……いや、しなくても死んでいたかもしれないのだし。

そう考えると、本当に運が良かったわね、あたし。

思わず自分で感心している所に、何やら眉根にしわを寄せた煉が声をかけてきた。



「ところでお前、視力落ちたりしてないだろうな?」

「え? いや、普通に見えてるけど」

「ならいいが……お前、凄い面になってるぞ?」

「は?」



 思わず、きょとんと目を見開いて、妙に頬が突っ張る事に気づく。

そしてそこまで来て、あたしはようやく、自分が血涙を流していた事を思い出した。

慌てて、袖で頬や目元を拭う。乾いた血がぱりぱりと剥がれ落ちていくのを感じながら、あたしは小さく嘆息していた。

情けない姿だわ……はぁ。



「うん、まあ助かったけど……それにしたって、アンタはどうして出てきたのよ?」

「もうすぐ終わりそうだったからな」

「もうすぐって……」



 その言葉に煉の持っている背信者アポステイトへと視線を向け、絶句する。

その長大な銃身には、信じられないほどの魔力が凝縮されていたのだ。

思わず恐ろしくなるほどの、圧倒的な魔力量。


 と―――呆然としているあたしの耳に、おずおずと手を挙げる桜の声が響いた。



「あ、あの……煉さん、私は―――」

「いづなの方に行きたいんだろ? フリズが治ったんなら大丈夫さ。行ってこいよ」

「は、はい……ありがとうございます!」



 桜は勢い良く頭を下げると、勢い良く前方―――いづなの方へと走って行った。

何だかちょっと変わったわね、桜。

ちょっと前って言うか、この戦いの前まではあんな積極的に動く子じゃなかったのに。



「しかしまぁ……無茶するよな、お前も」

「何よ。しなきゃいけない場面だったでしょ、あれは」

「死んだら元も子もないだろうが……ったく、あんまり無茶すんじゃねーよ」



 やれやれと嘆息しながら言う煉に、思わず唇を尖らせる。

まあ、こいつの視覚ならあたしの様子だって見えてたでしょうし、何も出来なかったのは歯痒かったと思うけど。

でも、こんな風に心配してくれていたって言うのは悪くない気分だ。

あたしとは色々と意見が食い違うけど、それでも仲間は大事に思ってくれてるんだと実感できる。



「よっと……」



 体の調子も整ってきたし、そのまま勢いをつけて起き上がる。

まだ頭の奥がじんじんと重いが、それでもさっきよりは天と地の差だ。

気絶するほどに響く割れるような痛みなど、どこかに消え去ってしまっている。

能力を使わなければ、しばらくは大丈夫そうね。



「煉、ミナは大丈夫なの?」

「ああ、魔力が切れた所で魔術式を使ったからああなっただけだ。

あのまま無理に使い続けてたら危なかったが、症状は軽かったみたいだな」

「そ……ならいいわ。ミナも、あんまり無茶するんじゃないわよ?」

「ん……ごめんなさい」



 ミナは顔色はまだ悪いながらも、話が出来る程度には回復したようだ。

とりあえずは安心して、あたしは再び煉の銃へと視線を向ける。

莫大な魔力を、無理矢理押し込んだような圧迫感。正直、今にも暴発しそうで恐いんだけど。



「それで、決着がつくのよね?」

「そうじゃないと困るがな……とりあえず、俺達もいづなの方へ行こう。お前ももう動けるだろ?」

「ええ……戦闘は正直微妙だけど、能力無しなら行けるわ」

「OK、なら行くぞ」



 あたしの言葉に頷き、煉は歩き出す。

隣に並んでいるミナは―――じっと、邪神の方へと視線を向けていた。


 どんな結末であれ、決着は近いようね。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:IZUNA》











「はぁっ、はぁっ……!」



 荒い息を吐き出す。

うちの様相は、まさに満身創痍といった所やった。

左肩には矢が突き刺さり、腕は上がらなくなってしまっとる。

右の太腿にはそれなりに深い裂傷が走り、走るどころか歩く事すらままならん。

その他にも小さな傷が全身に走り、ギルマン共の血と自分の血で、全身がどろどろになっとった。

白帆薙は曲がった状態だったのを無理矢理使った所為で、ついには折れてしまっとる。

しかし、それでも―――うちの周りにいた百近い敵は、残り一体までその数を減らしとった。



「ッ……は、ははは……!」



 徐々に近付いてくるのは、普段やったら取るに足らない一匹のギルマン。

油断してても負けるような相手やあらへん―――けれど、今のうちは立っているだけで精一杯や。



「あかん……こら、死んだな……」



 目が霞む……意識を保つ事すら精一杯や。

血ぃ流し過ぎてもうたか……あかん、流石に限界や。

最後のギルマンは、うちに嘲笑うような表情を向けとる……視界がはっきり見えとったらかなり腹が立ってたやろうなぁ。

せやけど、霞がかった意識では苦笑することすら精一杯―――もう、ほっとかれても死ぬやろ、これは。



「あーあ、ここまでかぁ……」



 目の前まで迫ったギルマンが、その鉤爪を振り上げる。

折れた白帆薙を持ち上げようと腕に力を込め、それすらも無理な事に思わず苦笑する。


 そして―――次の瞬間。



「ぇ―――?」



 唐突に、ギルマンの首が刎ね飛ばされとった。

緑の血が吹き上がり、その向こう側に蒼い人影を見る―――うちが見知った、その姿を。



「まー、くん……?」

「ああ……全く、無茶をしたな、お前は」

「は、はは……そら、無茶せなあかんやろ……」



 安堵からか、膝から力が抜ける―――崩れ落ちそうになるうちの体を、まーくんは半ばで折れた景禎を地面に落としてから支えた。

普段やったら、武器を手放す必要もなかったやろう。

せやけど、今回ばかりは無理やった。



「まーくん……どしたん、その右腕」

「吹き飛ばされた……傷口は焼いて塞いだから、とりあえずは問題ない」

「フツーは問題やろ、それ……」



 鎧に覆われた硬い胸に顔を預けつつ、そう呟く。

横目に見えるまーくんの右腕は、肩口から千切られたように無くなっとったんや。

まーくんなら、シルフェ姐さんに言えば治して貰えるんやろうけど……それでも、何だか無性に悔しくなってまう。



「済まない、また景禎を折られてしまった」



 うちが沈黙したのをそんな風に勘違いしたんか、まーくんが少しだけ慌てたような口調で口にする。

その様子にちっとだけ笑い、うちは声を上げた。



「そんなん、ええよ。生きててくれただけで、じゅうぶんや」

「……そういうなら、お前も死ぬなよ? 正直、今にも死にそうだぞ?」

「分かっとるよ。こんなん相手に死ぬなんて、己を納得させられへん」

「戦果としては十分だと思うが……何にしろ、お前に死なれては困る」



 どーゆー意味なんやろか。ま、今はええけど。

しかし死なないとは言うたものの、このまま血ぃ流し続けてたらあと数分で意識を失いそうや。

ここで寝たら、意識を取り戻せるかどうかも分からんし。何とか、気合で持ち堪えんと―――



「―――いづなさん! それに誠人さんも!?」

「桜! 良かった、いづなを頼む」

「ぇ……あ、は、はい!」



 と……そんなに待たんでも良かったみたいやね。

どうやら、後方からさくらんがここまで来てくれたみたいや。

しかし、今の反応はちょっと意外やったね。正直、うちそっちのけでまーくんの腕の心配するかと思ったんやけど。

ともあれ、さくらんは大地の精霊の力と魔術式メモリーを使ってうちの身体を癒し始める。

正直な所、もう感覚が鈍って痛みも何も無かったんで、あんまり変わらなかったんやけど……とりあえず力が抜けてく感覚だけは無くなったみたいやね。



「……いづなさん、ごめんなさい。私の力が、及ばなかったから―――」

「なーんでさくらんが責任感じとるん。これはうちの力不足が原因や」



 さくらんは十分に仕事しとったし、ここまでボロボロになったんはうちの力量が足らんかったからや。

力を使ってもこの程度……うちは所詮、力に頼らんと何も出来ない紛い物や。

思わず、苦笑する。



「いづなさん……?」

「んーん、何でもあらへんよー。やれやれ、ここで寝たらまずそうやし、増血の薬とか無いやろか」

「グレイスレイドの補給品を集めた所にあるかもしれないな。後で確かめておこう」

「むー……今日は三食レバニラやね」

「止めろ馬鹿」



 まあどうせ、料理作るんはうちやないけど。

ともあれ、さくらんがいるなら安心や。

まーくんも傷は深いながらも、一応ギルマン程度なら問題なさそうやし。

それに、さくらんが前に出てきたって事は―――



「うお……っ!?」

「ちょっ、いづな!? アンタ大丈夫なの!?」



 やっぱり、煉君たちもこっちに来たみたいやね。

うちの状態を見て仰天する二人に、思わず苦笑する。

流石に、外目から見たらかなり傷だらけやからねぇ。



「やー、フーちゃん。とりあえず水出してくれへん? 全身洗い流したいんやけど」

「う、うん、それはいいけど……ホントに大丈夫なんでしょうね、アンタ」



 フーちゃんが腕を振るうと同時、頭上に大きな水の塊が発生し、そこからシャワーのように水が降って来る。

いつもみたいにお湯にはしてくれへんみたいやね……フーちゃんも力を使い過ぎたんやろか?

まあ、とりあえず自分とギルマンの血を洗い流して、うちは地面に座る。

流石に立ち上がるのは無理そうや。んー、流石にちょっと寒い―――



「ぶっ!? ちょっ、アンタ達こっち見んな! あっち向いてなさい!」

「だからって殴るな!」

「おん?」



 フーちゃんはうちの方を見ると突然顔を真っ赤にして暴れだし、煉君の事を殴りながら向こうへと押しやった。

ちょっと視線を動かせば、まーくんが気まずげに視線を逸らしているのが見える。

何や、この反応?



「いづな! とりあえず服を何とかしなさいアンタは!」

「服ー? って、ありゃ」



 自分の身体を見下してみれば、どうやら戦闘で切れ目が入っていた帯が千切れてもうたみたいやった。

おかげで身体も申し訳程度にしか隠れてへんし……うーむ、今更恥ずかしさ感じる訳でもないんやけどなぁ。

とりあえず、こっちも結構破れてる上の着物を寄せて胸元は隠す。

せやけど、ずっとこのままっちゅー訳にも―――



「……ん」

「ミナっち? おー、あんがとな」



 ミナっちが掌を広げると、そこには創造魔術式クリエイトメモリーで創られたと思われる待ち針のような物があった。

とりあえず、これで服は留めとけそうやね。



「ったく、ここまで来たのに緊張感もクソも無いな……ま、だけど―――」



 煉君が嘆息を漏らし―――それの後に、かしゃんと言う音が続いた。

見れば、背信者アポステイトからマガジンが弾き出され、地面に転がっとる。

これは、まさか!



「―――チャージ完了だ、クソッタレ」



 不敵な笑みと共に、煉君は邪神の方へと向き直る。

その銃口を、忌まわしき海の王へと向けながら。



「俺のモノをここまでボロボロにしてくれやがったんだ……ブチ殺す」



 煉君の怒りに反応するように、背信者の中に渦巻く魔力が荒れ狂い始める。

その力は、まるで解放される瞬間を今か今かと待ち構えとるようやった。


 そして―――煉君が、その名を呼ぶ。



最高位魔術式ファイナルメモリー―――」



 隣にいるミナっちを、力強く抱き寄せながら。



「《魔弾の射手ディア・フレイシュッツ放て魔弾の魔王ザミュエル》ッ!!」



 引き金が、絞られる。

荒れ狂う魔力は一発の弾丸として、ついにその銃口から開放された。

思わず吹き飛ばされそうになる圧力と共に放たれた弾丸は、一瞬で邪神の元まで到達し―――その胴体に、巨大な風穴を空けた。

そしてそれだけに留まらず、往復する魔弾は、邪神の身体を再生を上回る速度で粉微塵に砕いてゆく―――!



「ハッハァッ! Go to Purgatory!」



 この長い夜を締めくくる幕引きの一撃は―――ついに、その役目を果たしたのやった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











「―――来たかッ!」



 歓喜の咆哮が口から零れる。

凄まじい密度の魔力が往復しながら邪神の体を抉ってゆくその様を、戦慄と愉悦を込めて俺は歓迎していた。

長き時を存在して来た邪神は、あの小僧の力によってその身を砕かれてゆく―――


 ならば、ここで畳み掛ける他あるまい!



終極魔術式レクイエムメモリーッ!』



 三人の声が重なる。

まずその極大の力を解き放ったのは、他でもないこの俺自身だった。

眩く輝く銀の槍―――その一突きを、砕け散って行く邪神の足元へと解き放つ。



「死の絶望を食い破れ! 生の希望に満ちし命の枝よ―――《生命の樹セフィロト》ッ!!」



 放たれた銀の光は邪神の足元で収束し、巨大な光の樹となって、その鋭い枝で砕け散る邪神の体の全てを貫いた。

その命を吸い上げられながら邪神は悲鳴を上げるが、その声には最早魂を砕くだけの力は残っていない。



「テオ、合わせろ!」

「応よ! 響け終末の預言フェアキュンディクテス・エンデ!」



 テオが七天剣ズィーベンを振り上げると共に、上空に橙色の魔力で出来た術式陣が構築される。

そこから覗くのは、無数の巨大な魔力刃の切っ先―――



「―――我は全てをヴェアーデ破壊する者なりツェアシュトーラーッ!!」



 その号令と共に、テオの刃は解き放たれる。

上下から刃に貫かれた邪神は、ついにその動きを止めた。

だが、ここで手は抜かない。



「燃えよ、燃えよ、煉獄の炎」



 響くのは、滔々と謳うアルシェの声。

両側に広げられたその腕の先には、巨大な白いリングが形成されていた。

高速で回転するそれは、極大の熱量を放つ白き炎。

最早光にしか見えないそれは、目を灼くような輝きと共に、アルシェの前に収束する。



「其は裁きの焔。愚かなる罪人を染め上げる怒り―――いざ、黙示録を奏でよ!」



 高速で回転する白い炎が、刃と枝によって動きを止めた邪神へと向けられる。

そして―――



「『煉獄の書』、終章終節―――《白き煉獄アルバス・インケンディア》ッ!!」



 リングの中心へとその腕を突き出す―――その刹那、放たれた白き輝きが、邪神の身体を飲み込んだ。

放射される熱量だけで、海面が蒸気を上げ始める。

その輝きの中からは悲鳴すら届かず、圧倒的な熱量の前に邪神の体は焼滅して行く―――!


 そして―――それが止んだ後に残ったのは、ただ光を放つ枝と刃だけだった。



「……ふぅ」



 深々と、息を吐き出す。

ようやく、終わった。



「……ジェイ」

「よう、アルシェ。ちょうど良かった……ちっと体が動かないんでな。浜辺まで運んでくれ」

「はぁ……ホント、馬鹿なんだから」



 俺の言葉にアルシェは嘆息しつつも、そっと身体を支えてくれる。

いつに無く近い距離。だからこそ―――



「―――ホント、バカよ……アンタは」



 ―――そんな、小さな呟きも聞こえていたのだ。











《SIDE:OUT》





















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