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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
91/196

86:血戦

「ははははは! いいね、幸先がいい!

君まで一緒に至るとはね!」











《SIDE:IZUNA》











「……こら、流石に甘えた事言うてられへんなぁ」



 思わず、苦笑してまう。

うちには空を飛ぶ敵の対処は出来ひんから、あの三人の護衛をフーちゃんに任し、うちは前に出てきていた。

これで魂砕きの咆哮がまた来てもうたらうちは終わりやけど、ジェイさんは二度も同じ間違いを犯す人間やない。

それに関しちゃ、信用してもええ事やろう。


 うちらの前には、さくらんによって操られた無数の死体―――まあ、魂が砕かれただけやから肉体的にはまだ死んではおらんかったみたいやけど、とにかく彼らのおかげで大半のギルマンは抑えられとる。

どうも、痛みを感じとらんみたいやしね。完全に行動不能になるまで破壊されん限りは、ずっと動いていられるみたいや。

それでも数の上では不利やし、こっちまで抜けてきてまうような敵やっておる。

そういう連中は―――



「うちの相手、って訳やね」



 傷だらけになりながらも人々の間を抜けてきたギルマンを、うちの一閃が斬り裂く。

斬り方には気をつけんとあかんね。強度を上げてるとは言え、白帆薙だけでこの数を相手にしたら消耗が激しそうや。

いや―――



「……流石にこの数相手にしたら、使い物にならなくなるやろうなぁ」



 小さく、苦笑する。

うちの流派は、何も剣術のみに頼った流派って訳やあらへん。

棒術、槍術、徒手空拳、得物を選ばず、あらゆる方法あらゆる状況で戦う事が出来る。

せやから、刀を失ったからって戦えん訳やない。

……せやけど。



「お気に入りやったんやけどなぁ、この子」



 白帆薙は、うちが向こうの世界にいる時に造り、家を出る時にも持ってきた思い出の一振りやった。

こちらの世界に来てからも、改造したり魔術式メモリーを刻んだりと、この一年間ずっと付き合ってきた武器や。

こんな所で失ってまうのは惜しい、と思う。せやけど―――仲間護る為やったら本望や。


 徐々に抜けてくる数が多くなる。

操った死体たちも善戦はしとるみたいやけど、流石にいつまでももたないやろう。

こちらまで来るのは十か、百か、千か―――ああ、全く。



「本気で戦うんって、嫌いなんやで?」



 そう、呟き―――うちは駆けた。

突然の加速にうちの姿を見失ったんか、ギルマンが目を見開くのが分かる。

その時点で、うちは既に一番前にいたギルマンの足元に到達しとった。



「一拍―――居合・斬風」



 放たれたのは居合いの一閃。

居合いにおいて、鞘っちゅーのは銃身みたいなもんや。

打ち出す方向を決めて放たれた一閃は、ギルマンの首筋を半ばまで斬り裂いて行く。

そして、吹き出す血を避けるように反対側へ。

ギルマン達はようやくうちが接近していた事に気付いたんか、こちらを迎撃しようと武器を構える。

せやけど―――遅い。



「突・間風」



 うちが突き出した刃が、肋骨の間をすり抜けるようにギルマンの心臓を一突きする。

人の体の構造を知り尽くしていればこそ、その狭間を風のようにすり抜ける事が出来る―――そんな、現代ではまるで必要も無さそうな知識を叩き込まれた事を、今になって思い出してもうた。



「……お姉ちゃん」



 ―――脳裏に思い浮かんだ姿を、無理矢理消し去る。

持った刃を峰へ、左手には鞘を持ち、反転。

背後から槍で突こうとしてきたギルマンの一撃を避けつつ、その横っ面を鞘で殴打する。

そして、峰と鞘を使い、相手の首を挟むように一撃―――その首を、へし折った。

鞘は木の方が好きなんやけど、防御に使うには金属製のがええね。



「……っと」



 横合いから振り下ろされた刃を、鞘を使って受け流す。

でもって、横に押すようにしながらその身体を泳がせ、再び心臓を一突き。

どてっ腹に突っ込んでやった方が骨が無くて楽なんやけど、それやとすぐには死んでくれへんからなぁ。


 うちが使う業はあくまでも人間の範囲内や。

それで、何処まで効率を求める事が出来るか。

せやけどうちの流派、基本的には一対一を想定した戦い方やから、結構こういうのは辛いんやけど。



「あーもー!」



 飛んできた矢を移動しながら躱す。まさか、敵味方入り混じっとる状況で矢を狙ってくる相手がいるとは。

もうとことん厄介や。面倒でしゃあない。

とりあえず、他のギルマンの身体を盾にしつつ出方を窺う。

いつもやったら遠距離攻撃の相手は煉君やミナっちが処理してくれるんやけど、煉君は動けんしミナっちはダウン中やからなぁ。



「……ここまで面倒な事になるとは思わんかったで」



 思わず愚痴ってまうのも仕方ないってもんや。

フーちゃんに助けて貰いたい所やけど、生憎まだ能力で上空の敵を撃ち落しとる最中や。

救援は期待出来ひんな。

とにかく、動き回りながら敵を倒すしかあらへん!



「疾ッ!」



 ギルマンの横を通り抜けざまに一閃、頚動脈を切断する。

吹き上がる血を避ける余裕もあらへんし、そのままギルマンの後ろへ回り込むようにしながらギルマンを矢の盾にする。

血を被ってもうたけど、この際もうええわ。


 横から襲ってきたギルマンの喉を裂き、再び移動。次は―――



「両側かい!」



 厄介な事に、左右から同時に攻撃してきおった。

右側は槍で、左側は剣。咄嗟にうちは剣を真上に放り投げ、身を捩りつつも空いた右手で突き出されてきた槍を掴んだ。



『―――ッ!?』



 ギルマンが驚愕の表情を浮かべたのが、視界の端で目に映る。

せやけど、そんなモンを気にしとる暇はあらへん。

そのまま、うちは鞘で振り下ろされた剣を受け止めつつ、掴んだ槍を剣のギルマンの方へと突き刺した。

そして槍を離しつつ蹴り上げて、刺さった方の傷口を広げつつ、槍をギルマンの手から離させる。

体が伸びきったギルマンへ、鞘でもって顎を一撃―――そして、落ちてきた剣を掴み、その喉を斬り裂いた。



「うひー……」



 今のは流石にギリギリやったで。

厄介でたまらんて、こんなん。

ほっと息を吐いたうちは―――目に入ったそれに、咄嗟に首を傾けた。

頭を貫こうと飛んで来た矢が、うちを頬を掠って突き抜けてゆく。



「ッ……乙女の顔に何しとんねん!?」



 流れる血を拭いつつ、うちは再び駆ける。一箇所に留まっとったらただの的や。

流れ矢やなくて、本当にうちを狙ってきている一矢―――弓兵が抜けてきたって事や。

ほんなら、そいつを仕留めん事には一方的に狙われ続ける。



「他は後回し―――や!」



 標的を定め、うちは地面を蹴った。

飛び道具の対処法は、銃と一緒。最善は撃たせない事やけど、無理なら射線に入らない事や。

さっきから放たれてきてた矢で、どの方向にいるかは分かっとる。

躱す、躱す―――躱し切れん、なら!



「居合・玉弾!」



 鞘から抜き放った一閃で、矢を弾き返す。

―――捉えたで!



「一拍・散葉!」



 足で地を擦りながら放たれる、広範囲の一閃。

通り抜け様に二体、そして前方にいた二体のギルマンの首を裂く。

血を吹き出しながら倒れる連中には目もくれず、再び移動を―――



「ッ!?」



 刹那、悪寒を感じたうちは咄嗟にその場から飛び退いた。

そして次の瞬間、一瞬前までうちがいた場所に、翼の生えた巨体が落下する。

例の邪神の眷属……あかん、向こうだけや無くてこっちにまで来てもうたか!



『Ahhhhhhhhhhhhhh―――』

「……どないしよ」



 相手は四メートルぐらいありそうな巨体。

うちの剣で致命傷を与えられるかどうか―――と、考える暇も与えてくれへんか!

上から叩き潰すように放たれた鉤爪の一閃を、うちは横に跳びながら躱す。

その軌道上に倒れとったギルマンは、鱗も骨も関係無しに、あっさりと両断されてもうた。

舌打ちしつつ、その腕に一閃―――肉はそう硬くはないみたいや。



「せやけど……」



 与えた一筋の傷は、ぶくぶくと内側から吹き上がる肉の泡で塞がってもうた。

見ててホンマに気色悪いわ、こいつ。

再生し切れん速度で攻撃する?

分からんけど―――とにかく、やるっきゃないみたいやね。



「はああああああっ!」



 駆ける。そのまま、どてっ腹に一閃。

結構深く傷つけたからか、痛みに呻くような声が敵の口から漏れる。

せやけど、次の瞬間には背中から生えている触手がうちに襲い掛かってきた。

数は三本。槍のように尖った先端が、うちを貫こうと突進してくる。



「キモイっちゅーとんねん!」



 狙いは割と大雑把で、うちに直撃する軌道は一本だけやった。

その一本を紙一重で躱し、振り下ろした刃で切断する。

これもそこまで強度はあらへん。まあ、斬り落とした所からまたぶくぶくと生えてきとるけど。

……ダメや、このままやと埒が明かん。


 刃の血を振り落とし、鞘に納める。



「……本気を出すのは、嫌いや」



 かつて犯した過ち―――取り返しようもなく馬鹿だった自分自身を思い返してまう。

せやけど、そんな事を言って勝てる相手や無い。

だから―――



「この一撃を使ってええんは、うちやなくてお姉ちゃんや。だから、使わせたお前を赦さん」



 敵は、その爪をうちに向かって振り下ろす―――跳躍して躱し、うちはその腕の上に立つ。

爪が掠って胸元を少し裂かれてもうたけど、身体には届いてないから問題無しや。

そして、その腕を伝ってあいつの顔面へと駆ける。うちを遮るように放たれた触手は、うちが身体を捩りつつ屈めた事で脇腹と太腿、そして肩を掠って抜けていった。


 ―――捉えたで。



「無拍―――」



 しゃん、と鈴のように鳴ったのは鞘走りの音。

そしてうちは、敵の背後に着地しつつ刃を鞘に納めた。



「―――残閃」



 一瞬遅れて、眷族の首が転がり―――大量の血が空へと吹き上がる。

うちの流派の中でも特殊な、構えている事が前提の剣術。

そして、無拍のうちにその一閃を終える、神速の居合術。

放たれれば既に斬れている、剣域に捉えれば既に勝負は決していると謳われる奥義。


 うちが使うべきではない、最高の一撃。



「……」



 敵の攻撃が掠った部分から、だらだらと血が流れている。

直撃はせんかったけど、それでも軽い傷と言う訳では無さそうや。

手当てはするべき―――やけど。



「囲まれた、かぁ」



 見渡す限りとは言わんけど、それでも結構な数通り抜けてきてもうたみたいやね。

深々と、うちは息を吐き出した。



「……ええよ、相手したる」



 久しぶりに気が立っとるんや、うちは。

立ちはだかったならば―――斬る。それが敵であるならば、人であろうと鬼であろうと神であろうと。



「遠慮なく来ぃや。もう容赦はせん」



 正真正銘、全力や。

だからうちは、封印していた能力すら使う。



「どうすればええ?」


 ―――全てを斬る。それで終わり。


「どうすれば、全てを斬れる?」


 ―――右前方より。次に、次に、次次次次次―――!



 どいつから斬ればええか、刀が教えてくれる。

どんな風に斬ればええか、鞘が伝えてくれる。

どんな動きをすればええか、纏う衣が示してくれる。

求める答えへと、うちを取り巻くすべての物が導いてくれる。


 ならば最早、疑問は無い。



「寄らば斬る―――その数だけ、屍の山を築いたるで!」



 不用意に近寄ってきたギルマンの首を、居合の一閃で落とす。

刎ね飛んだ首はうちに向かって飛んできた矢の盾となって吹き飛んで行きおった。

効率化する。あらかじめ答えの出た問題へと回答して行く―――!



「この剣鬼を起こした事……後悔せいッ!」



 ―――そして、血煙が舞った。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











 地面に落下した邪神の眷属が、その衝撃で砕け散る。

あたしの前方は、すでに凍り付いて砕け散った肉塊の山が積み上げられていた。



「づ……ッ!」



 目の奥にずきずきとくるような痛みに、あたしは思わず呻く。

能力の使い過ぎの典型的な症状だ……昔からこの症状が出始めたら練習を止める事にしてたんだけど―――



「……こりゃ、そんな事言ってもられないか」



 未だにこちらへと飛んできている敵の姿を見つめ、あたしは頭を抱えながら溜息を吐く。

まだ、止まれない。素手で何とかできる程度の相手ならいくらでも相手してやりたい所だけど、あいつは無理だ。

これ以上能力を使うのは危険……だけど、あたしが倒れれば、後ろには無防備な三人しかいない。

ここは、無茶するしかないのだ。



「―――凍れ、凍れ、凍れッ!」



 こちらに向かって飛んできていた三体を凍らせ、地面に落とす。

加速度的に酷くなってゆく頭痛は、そろそろあたしの意識を朦朧とさせ始めていた。

けれど、その痛み自体があたしが意識を失う事を許さない。

どちらにしても地獄だ、これは。すぐにでもこの場に倒れて、のた打ち回りたい。

でも、誰よりもあたし自身がそれを許さない。



「ああああああああッ!」



 痛みを叫び声で誤魔化し、崩れそうになる膝を叱咤する。

無茶をしてるのはあたしだけじゃないんだ。

いづなだってあんな大群相手に一人で戦ってるし、桜だって大量の霊を操って脂汗垂れ流してる!

だから、こんな所で気を抜くな!



「凍れ……ッ!」



 ガラスが砕け散るような音。

また一匹、地面に落ちて砕け散る。

ひびが入るような音が、さっきからずっと響いて……これは、周囲に落ちている凍った肉塊の音?

それとも、あたしが壊れて行く音なのか。



「づ、ぁ……凍、れ……!」



 何かが頬を伝っている感触がある。

腕で拭えば―――なぜか、そこが紅く染まっていた。



「ぇ……?」



 血?

傷なんて受けてないのに、どこから……?



「ぁ……は、ははは……!」



 いつの間にか、あたしは血涙を流していた。

成程、力を使いすぎるとこうなるのか……知らなかった。

こりゃ、流石に拙いかも―――そんな事を考えていた、刹那。あたしの前に一体の邪神の眷属が降り立った。

砕け散った地面から、小石がいくつも浮き上がる。



「ま、ず―――」



 凍らせ、ないと―――そう、思った瞬間。

あたしの中で、何かが砕け散るような音が響いた。


 ―――思考に、―――うるさい、誰だ、笑うのは―――ノイズが走る―――



回帰リグレッシオン―――」



 そう言えば、小石が落ちるのが妙に遅い。

そして、あたしはさっきから何を口走っている―――?

分からない。けれどあたしの体は、勝手に目の前の小石を相手へ向けて弾き飛ばしていた。


 ―――そして。



「―――《加速ベシュレウニグング神速の弾丸フィルグルーク・クーゲル》」



 刹那、あたしが弾いた小石は、音速を遥かに超えるスピードで撃ち出された。

容赦ない威力が敵を襲い、その巨体に大穴が開く―――続けて迸った衝撃が、その体を粉々に打ち砕いた。

思わず、痛みすら忘れて呆然と目を見開く。



「何、今の……?」



 分からない。自分でも、どうやったのか覚えていない。

けど、とりあえずは助かったみたいね。

今はこちらに近づいてくる敵の姿は無い。

とりあえずは、休憩できそうね……煉が撃たないと、根本的な解決にはならないけど。



「急いでよ、ね……」



 目と頭を休める為に目を瞑る。

敵が近づいて来れば気配でわかる。あたしはそれまで、静かに瞑想する事にした。











《SIDE:OUT》





















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