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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
リオグラス編:異世界の少年と創造の少女
9/196

07:黒い少女

「私は便利屋?」

「上級者向けのな」












《SIDE:JEY》











「小僧。お前、今日はそこのメイドに付いて行け」

「は?」



 朝起き、鍛錬を済ませてからの朝食の後、俺は小僧にそう切り出した。

昨日言っておいた事を早めに実行する為だ。

初心者には悪いが、こいつの武器が有限なのかどうかも分からんので、早めに済ませておくに越した事は無い。



「詳しい事はリコリスが説明する。基本、お前は付いて行くだけでいい」

「あー、まあ、そういう事なら……」



 とりあえず納得はしたようだ。まあ、そんな甘っちょろい事にはならんと思うがな。

ともあれ、こいつの歪みは早めに正しておくに越した事は無い。俺の早とちりと言う可能性もあるが。


 ちなみに、俺が付いていかないのはちゃんとした理由がある。

断じて、面倒臭いとかそういう訳ではない。



「ああそうだ小僧。お前、その武器のどちらかを置いて行け」

「……何でだよ? バランス良く使うべきじゃないのか?」



 抜くかどうかも分からんのに『使う』と言う発想が出てくるのかこいつは。

早とちりと言う事はほとんど無さそうだな。



「専門家に見せてくる。魔力のチャージが可能かどうかも確かめてくるつもりだ。

安心しろ、俺の知る限りで最高の技能を持つ奴だ」

「……まあ、それだったら別に構わないけど」



 こいつ自身、まだこの武器がどういう物なのか分かっていないだろう。

俺としても、いつ暴発するかも分からないような代物を持ち歩いた奴とは一緒に居たくない。

さてと……それじゃあ、あいつに会いに行く準備でもしようかね。



「そのまえに」

「ああ、そうだな」



 リルの言葉に頷く。

昨日発注した品物を受け取りに、俺達はまず商人ギルドに向かわなくてはならない。

あまり時間は経っていない訳だが、まああの連中の事だ。

上等な素材が手に入れば、昼夜を問わず熱中して製作してくれる事だろう。



「食後の紅茶でございます」



 今後の構想を練っていた所に、キッチンからリコリスが戻ってくる。

俺に対しては何かと文句を付けてくるが、こいつは自分の仕事に誇りを持っている。

手を抜くような真似は絶対にしない。


 さてと、どうするかな?

小僧には見えない位置で手の中のゴーグルとやらを弄びながら、俺は小さく笑みを浮かべていた。





















 喫茶『白の蝶』。

知る人ぞ知る……というか、この街の奴なら誰もが知っている喫茶店だ。

その理由は単純。何故なら、ここにはかつて邪神龍を倒した者達の一人……つまり、英雄と呼ばれる人物がいるからだ。



「さて、と……」



 まあ有名と言っても、この店はかなり昔から営業しているから、今では客足もそれなりに落ち着いている。

俺が用があると言った人物こそ、その英雄だ。



「んじゃ、入るぞリル」

「わふ」



 頷いたリルを伴い、レンガ造りの建物の中に入ってゆく。

店の中には、いつも通りのコーヒーの香りが漂う落ち着いた空間が広がっていた。

俺としてもここは慣れた物だ。いつも通りの雰囲気が―――



「アルシェールさん! 実は貴方にプレゼントが―――」

「あー、ごめんねー。ちょっと仕事中だから……」



 落ち着いた……いや、何だあれ。

黒い髪のガキが給仕服姿の女にちょっかいを出している光景……普段のここには似ても似つかないものだ。

つーか、あんな奴初めて見たな。


 視線を下ろすと、リルは耳をぺたりと伏せて不機嫌な表情をそちらへ向けていた。

……まあいい。邪魔だったら叩き出せばいい話だろ。



「おい、ヴァントスのオッサン」

「うん? おお、何だジェイじゃねぇか。戻ってきたのか?」

「ああ、まあな」



 俺はカウンターの向こう、厨房に立っていたオッサンに声をかける。

名をヴァントス……引退前は名の知れた傭兵だった。

俺と同じ槍使いで、一度刃を交えた経験もある。

まあ、俺の圧勝だったが。



「またいい仕事して来たみたいだな。相変わらず景気が良さそうで結構な事だ」

「あれがいい仕事だ? 冗談じゃねぇ、高位の魔物が出る未発掘の遺跡探索で金貨50枚なんて奉仕活動もいい所だ」

「……じゃあ何で受けたんだよ?」

「仕方ねぇだろ、そういう命令だったんだ」



 どの道あの遺跡には足を運ばねばならなかった。

なら、せめて金になるようにあの遺跡の発掘依頼を受けておいたのだ。



「ったく……学者連中ってのはいつも金を惜しみやがる。何が研究費用だ」

「はっはっは。そういえば、お前の古い仲間にも金にがめつい奴がいたんだったか」

「あのヤクザ医師の事は思い出させるな」



 向こうの世界では非合法な商売してる連中をヤクザと呼ぶらしい、と聞いた時から、俺の中で奴のあだ名はそうなった。

まあ、あんな薬物女の事は極力思い出したくも無い。すぐさま記憶から抹消するに限る。


 嘆息し、俺は首をしゃくって後ろで騒いでいるガキを示した。



「で、オッサン。あのガキは何だ?」

「ああ、アルシェの奴が素材集めに行った時に助けた子供らしい。

これがまた結構な才能があったらしく、めきめきと実力を着けて行ってな」

「……あの容姿、要するにまたエルロードの仕業か。妙な能力も付加しやがったな」



 レンと同じ黒髪黒目の容姿は、基本的に向こう側の世界の人間に共通した特徴らしい。

世間慣れして無い様子でそんな容姿の奴を見かけたら、まず間違いなくエルロードに導かれた人間だろう。

あの神は何を考えているのか知らないが、導いた人間に何かしらの才能を与える事が多い。

一度本人に会った時は、与えてるんではなくそういう才能の人間を探してきたのだ、と言っていたが。



「いつ頃からいたんだ、あれは」

「わふ……うるさい」

「あー、まあ、しばらく前だな。お前は入れ違いになってたみたいだが」

「へぇ……ああ、そういや傭兵ギルドでのし上がってきた新人がいたとか聞いたな。あれの事か」



 まあ、正直興味は無いが。

それより問題は、あのガキがひたすら邪魔だと言う事だ。



「オッサン、あれは後どれぐらいで終わる?」

「しばらく終わらんだろうな。何か飯でも食って待ってるか?」

「はっ、冗談だろ? 何で俺があのガキに遠慮しなきゃならん」



 俺は目的があってきたのだ。生憎と、あのガキのお遊びが終わるのを待ってやる義理は無い。

肩を竦めつつ俺は槍を手に取り、石突の方を延ばして絡まれていた女の襟首を引っ掛け、持ち上げた。



「なっ!?」

「わっ……って何だ、ジェイか」

「ようアルシェ。用があるからちょっと面を貸せ」

「勝手だなぁ……まあいいけど」



 槍に釣られながらも器用に両手を広げて嘆息する女。

アルシェール・ミューレ。

こいつこそがかつて邪神龍を倒した英雄の一人であり、『大魔術師グランドマスター』の二つ名を欲しいがままにする最強の魔術式使いメモリーマスター

そして―――



「どうでもいいけど、早く下ろしてくれない? あんたの槍は私でも流石に痛いんだけど」

「どうせ死なないんだろうが、お前は」



 ―――この俺でさえいかなる手段を用いても殺害する事の出来ない不死者イモータルブラッドだ。


 一見した所で全くそうは見えないアルシェに小さく肩を竦め、俺はこいつを床に下ろした。

若干怒ったような雰囲気を漂わせているものの、表情に浮かんでいるのは安堵だ。

あのガキ、そんなにしつこく付き纏ってたのか。

まあどちらにしろ、俺には関係ない―――



「おい、お前ッ!」

「あん?」



 ……向こうの方から絡んで来やがったか。

別に相手してやる理由も無いんだが、こういう手合いは放っておくと面倒事を起こす。



「アルシェールさんに何て事をするんだ! 大体、俺が喋っていただろう!」

「挨拶代わりに魔術式メモリーを投げつけて来やがる奴に対しては真っ当な対応をしたと思うんだがな、俺は」

「随分昔の事を根に持つわね、ジェイ」

最高位ファイナルクラスをいきなり投げつけられて忘れられる訳があるか」



 この女は呼吸をするように魔術式を使う。

おまけに、不死である為禁呪クラスの物までポンポン使用してくる。

危険度で言えば、こいつはこの街の住人の誰よりも高いだろう。



「まあいい。アルシェ、お前に依頼を持ってきた」

「あら、久しぶりね。貴方の装備の魔術式、もう削れてきたの?」

「お前の奴だったら永久に削れないだろうよ。今回は別だ」



 言いつつ、俺は持ってきていた二つの袋を机の上に置く。

先程商人ギルドの方で受け取ってきた品物と、あの小僧の武器、そしてゴーグルが入った袋が一つ。

もう一つは、先日の依頼で得た報酬の一部が入っていた。



「依頼は魔術式の付加と鑑定。報酬は金貨10枚」

「な……っ、お前、金にモノを言わせて―――」



 例のガキが口を挟んでくる。

大方、金にモノを言わせて言う事を聞かせようとしている、とでも映っているんだろう。

だが生憎と、こいつはそんな安い・・女ではない。



「ちょっと、少なすぎるじゃない? 大魔術師わたしを雇うならこの十倍は必要でしょう?」

「な……!?」

「雇うんじゃなくて技術を借りようって言うだけだろうが。昔のよしみとだろ」

「それでもあと五倍ね」

「分かってるよ。だから後の報酬は情報だ」

「情報?」



 絶句しているガキは放っておき、俺はアルシェの身体を引き寄せる。

ほぼ密着するような姿勢になり、ガキがびしりと身を硬直させるが、それは無視。

そのまま俺は、こいつの耳元に小さく囁いた。



「『双子の蝶』」

「……ッ!」



 アルシェの体が、一瞬震える。

あの遺跡で見た謎解き……あれは、かつてこいつに聞かされた話に良く似ていた。

こいつが追い求めているあるものに。


 身を離すと、アルシェは先程とは一変、表情をかなり硬くしていた。

震える掌を握り締めながら、数秒の沈黙と共に顔を俯かせる。

そして―――



「……分かったわ。二人きりで話をしましょう。ヴァントスさん、これから忙しいかもしれないけど、お願い」

「リル、アルシェの代わりに手伝って来い。オッサン、こいつへの報酬はメシか何か食わせてやればいい」

「やれやれ……わがままだなあんた達は。まあいい、引き受けたから行ってきな」



 了解は得た。俺達は頷いて、厨房の奥にある階段へと向かう。

が―――またしても、先程の声が響いた。



「ちょっと待て、どういう事だ!」

「……」



 なんなんだかな、このガキは。

いい加減面倒になってきたので、じろりと奴の方を睨み据えるが……胆力があるのか鈍感なのか、特に怯えた様子も無く叫んでくる。



「さっきの様子は尋常じゃなかったぞ! お前、アルシェールさんに何を言った!」

「お前には何一つ関係ないだろうな」

「ふざけるな! 何か弱みにつけ込んでいると言うのなら、このリョウ・テンドウが黙っていな―――」

「―――黙って」



 あのガキが名乗りを上げようとした瞬間、凍りついたようなアルシェの声が響いた。

光の加減で蒼く見える瞳に激情を隠し、あのガキを睨み据える。



「これは私の問題よ、口を出すな。それにジェイは私の掛け替えの無い友人。侮辱は許さないわ」

「っ……!」

「くく……手間が省けたな。まあ行こうぜ」



 何で態々疑われるような態度を取るんだかこいつは、とアルシェの口が音を出さずに呟く。

俺はそれに小さく肩を竦め、階段を上って行った。


 ちらりと背後を盗み見ると、先程のガキは俯いたまま体を震わせている。

さて、ああいう才能だけで成り上がった類の奴は、一度鼻っ柱をへし折ってやらないと勝手に死ぬんだが……まあ、俺には関係ないか。


 アルシェの後について階段を上り、そのすぐ傍にあった部屋に入り、互いに向かい合うようにテーブルに着く。

さてと、まずは―――



「依頼の内容から説明させて貰うぜ?」

「……ええ、構わないわ」



 アルシェの言葉に頷き、俺は袋の中身をテーブルの上に置いた。

あの小僧から預かってきた術式銃メモリーキャリバーとゴーグル。

そして、商人ギルドに発注しておいた一着のジャケットだ。



「へぇ、これはこれは……中々、面白いものを持ってるじゃない」



 アルシェの注目がまず最初に向かったのは、案の定あの銃だった。



「そいつは、背信者アポステイトと呼ばれる術式銃メモリーキャリバーだ。

件の遺跡の最深部で、恐らくは魔術式を保管するような形式で封印されていたんだろう。

石碑の内容を読み上げた途端に、拾ってきた小僧の持っていた玩具に宿ったようだがな」

「へぇ、これが元々玩具だったとは……術式固着型だと時代の断定は難しいでしょうけど、恐らく対神戦争後期の物ね」



 流石と言うか何と言うか、一目見ただけでそこまでの事に気付いたらしい。

やはり、この手の事に関してこいつより優れた存在はいないだろう。



「それに関しては鑑定の依頼だ。それに刻まれた魔術式などについて調べてくれ」

「ん、了解。それで、残りの二つは何かしら。見たところ、中々豪華な装備のようだけど」



 アルシェの視線はテーブルの上のジャケットに向かっている。

あれは、ケルベロスの皮とエンシェントゴーレムの装甲、そしてクリスタルゴーレムの水晶を使ったジャケットだ。

全体は黒く、肩当てやその他の金具などには灰色のゴーレムの装甲が使われ、一部の装飾に水晶が付けられている。

襟首と袖口の部分には、黒い毛が残っていた。



「こいつには身体強化系の魔術式を刻んでくれ。防御は素材の保護と矢避けぐらいでいい」

「それだけとは言わず、結構な量を刻めそうだけどね。まあやるだけやっとくわ。で、そっちは何なの?

見た感じ、向こうの世界の品物みたいだけど」

「顔面を保護するための道具だとよ。まあこのままじゃ強度に難があるだろうから、保護と視覚強化系の魔術式を頼む」

「ふーん……まあ、了解したわ。魔力の供給形式は?」

「補充型で。どうやら、あの小僧には魔力が無いみたいなんでな」



 向こうから来た人間は魔力を持たないと言う訳ではない。

いや、むしろ大量の魔力を持つ人間も多くいる筈だった。

しかし、あの小僧は魔力を持たない……それがどういう事を示すのかはまだ分からないが。



「リルちゃんじゃ魔力の補充は出来ないと思うけど?」

「まあ、それに関しちゃ何とかするさ。最悪、お前の所に持ってくる」

「ふぅん、いい商売になりそうね」



 にやりと笑うアルシェに、俺は小さく嘆息を漏らした。

こいつに関して言えば、真っ当な報酬だ。高いとか文句をつける事も出来ない。



「まあいい……依頼は以上だ」

「ふぅん。なら、聞かせて貰いましょうか」



 アルシェはテーブルに肘を着き、両手を組みながら口元に持ってくる。

聞きの姿勢に入ったこいつには、嘘偽りは殆ど通用しない。

俺は目を閉じ、口を開いた。



「俺が行った遺跡の事は知ってるな?」

「ええ、事前に話は聞かされたしね」

「そこの最深部、書庫があった場所だ。結果を言っちまえばそこから先に隠し扉があったんだが、

その謎解きに使われていた言葉が―――」

「……『双子の蝶』ね」



 アルシェは口元に当てていた手を額に移す。

表情は隠れて見えないが、長い付き合い故にどんな顔をしているのかは何となく予想が付いた。



「『白と黒の双子の蝶、互いは互いを胸に抱く』、『黒き蝶は地に堕ちる』、『白き蝶は天へと昇る』。

使われた言葉を見ても明らかだな」

「……調べてみる必要があるわね。ありがとうジェイ、十分すぎる報酬だわ」



 息を吐きつつアルシェは元の体勢に戻る。

苦笑しつつ、俺は席から立ち上がった。



「なら、依頼の品に色でも付けておいてくれ。これから忙しいんでな」

「ねえ、ジェイ」



 ドアノブに手を掛けようとした俺の背中に、アルシェの声が刺さる。

その声音に、俺は何も返さず、ただ動きを止めて続く言葉を待つ。



「貴方が言った子供……貴方は、何故そこまで気にかけているのかしら。

貴方なら、見捨ててもおかしくない筈よね。そこまでお人好しと言う訳じゃないもの」

「……命令か、或いは忠告だな。あの言葉がなければ、さっさと放り出していただろうよ」



 俺が言い放った言葉に対する反論はない。

小さく嘆息し―――今度こそ、俺はこの部屋を出て行った。











《SIDE:OUT》





















三点リーダが気になったので方式を変えてみました。


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