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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
89/196

84:魔人再び

2度目の激突と、状況の変化。











《SIDE:MASATO》











 言葉には表しがたい轟音が、張られた結界を軋ませるかのごとく叩いてゆく。

魂砕きの咆哮―――それを聞いた者は等しく魂を破壊され、生きた人形と化すと言う。

しかし、それを真っ向から受けて全く大丈夫な奴らも一体何なのだろうか。

まあ、シルフェリアはオレの魂にはプロテクトがかかっていると言っていたし、ひょっとしたらオレも大丈夫なのかもしれないが。



「……よし、一つ目終了。術式装填メモリーロード!」

「おん? 意外と速いんやね」

「最初はな。これ、上から無理矢理押し込んで行くみたいな感じなんだ」



 弾き出されたマガジンの代わりに新たなマガジンを装填しながら、煉は肩を竦める。

成程、要するに後になればなるほど入れるのに時間がかかると言う事か。

現時点でも凄まじい量の魔力が銃の中で渦巻いているのが分かるのだが、これが六倍になると言うのだ。

成程、これなら邪神に通用すると言うのも頷ける。



「……しかし、兄貴。あんな技持ってたのか」

「……」



 小声でポツリと、煉が呟く。

その言葉はオレにしか聞こえなかったらしいが、他に聞こえていたら面倒な事になっていただろう。

恐らく、あの姿はオレと煉にしか見えていない筈だ。

黒い翼と尻尾―――まるで、魔物のようなあの姿。

あれが見えていたら、フリズなどは確実に動揺していたことだろう。



「とりあえずは順調やね……せやけど、そろそろ来るんやろうなぁ」

「……そうだな」



 邪神の咆哮が止む。

それと共に三人の英雄は邪神への攻撃を開始した―――が、オレにはそれをじっくりと眺めている余裕は無いようだった。



「……っ」



 強い突風を正面から受けたような錯覚が肌を撫でてゆく。

口元は、自然と釣り上がっていた。

いる……奴が、いる。



「……済まんな、皆。しばらく、席を外す事になる」

「了解。頑張って来いよ、誠人」

「お前もな。油断するなよ、煉」



 互いに視線は交わさぬまま言葉を交わす。

互いに笑みを浮かべている事は、恐らく気付いているだろう。

小さく笑いながら、オレは仲間達から離れてゆく。


 あの邪神の咆哮から逃れるのにはこの位置にいる必要があったのは確かだが―――グレイスレイドの軍には悪い事をしたかもしれないな。

奴の気配は、軍の向こう側。英雄達の戦渦を越えたギルマン達が押し寄せてくる、その先頭の辺り。



「―――見つけた」



 そう、奴も同じ事を呟いた事だろう。

だが、分かる。無数の人間を挟んだ向こう側であろうとも、奴の闘気に満ちた視線だけは判別できる。

だから、オレもそれに応えるのだ。オレはここにいるぞ、と。


 感情の昂ぶりと共に、鎧や景禎に宿った精霊が活性化を始める。

足元から立ち昇った風が逆巻き、刀身からは激しい炎が発生する。

そしてそれと同時に、軍の向こう側で強大な魔力の高まりが発生した。



「は、ははは……」

『カ、クカカ……』



 遠く離れているはずなのに、声が聞こえる。

ただの幻聴か、或いは風の精霊が声を運んでくれたか……そんな物は、どちらだっていい。

大切な事は―――



「そこに―――」

『―――いやがったかァアアアアアアアッ!!』



 そして、オレ達は強く地を蹴った。

勢い良く地を蹴り、グレイスレイドの軍の真上で交錯する。

瞬間、強大な魔力と熱量がぶつかり合い、衝撃が迸る。



『ぃよう、マサト! 来てやったぜぇえええええッ!!』

「ああ、待っていたぞガープッ!」



 空中に足を付けながら、オレ達は再びぶつかり合う。

拳と刃での鍔迫り合いを演じつつ、オレ達は至近距離で笑みを浮かべあう。

嗚呼、全く―――さっきのは興醒めもいい所だったからな。

だが、今回は思う存分戦える。


 互いに攻撃を弾きつつ、オレ達は同時に後退する。

しかし、ガープはその無理な体勢のまま、魔力を噴射してオレへと接近してきた。



「何ッ!?」

『ハッハァッ!』



 武器を弾かれた態勢では受け止める事は出来ず、そのまま体当たりを食らって後方へと弾き飛ばされる。

そしてガープは体勢を整えると、そのままオレへと一直線に突進してきた。

こちらに態勢を戻させないつもりか。だが―――



「甘いッ!」

『ぬおっ!?』



 オレは景禎を頭上へと放り投げ、ガープの拳を受け流しながらその腕を掴み、地面へと投げ飛ばした。

当然、ガープは魔力を噴射して落下を防ぐが―――



「堕ちろッ!」

『がッ!?』



 景禎をキャッチすると同時に放った一閃、そこから放たれた爆炎により、ガープは地面へと叩きつけられた。

黒煙に紛れる向こう側へと、更にオレは突撃する―――そこで待ち構えるガープへと!

やはり、この程度では怯みもしないか!



「―――それでこそ、だ!」



 無拍剣。

カウンターを許さぬ速度で放たれた一閃に、ガープは動物的な直感で拳を合わせる。

迸った衝撃が、周囲の砂をクレーター状に吹き飛ばした。

そして、互いに後退する。



『いいねェ! 流石だぜ、マサトォ!』

「あの英雄達を見て、向こうに行ったかと思ったがな、ガープ!」



 地面は砂浜。足を取られかねないので、地面から僅かに浮いた状態で静止する。

そんなオレへと、ガープは立ち込める煙を吹き飛ばしながら直進してきた。

真上から振り下ろされた踵落としを、後退しながら避ける。



『ハッハハッ! 確かにあいつらも魅力的だけどよぅ、俺様は義理堅いんだぜ、マサト!

テメェとの決着もつけないまま、他の誰かと戦うものかよ!』

「そいつは……光栄だな!」



 放たれた回し蹴りを、景禎の刃で受け止める。

相当な熱を感じている筈なのだが、こいつはそれでも攻撃の手を緩めようとはしない。

狂戦士とはよく言ったものだ。

そして、そいつとの戦いを楽しんでいるオレもまた、どこかが狂っているのだろう。

最早、真っ当な人間に戻る日など決して来ない。

分かっている。分かっているのだ。


 そう、その悲哀それすらもオレなのだから。



「はははははははははは―――!」

『クカカカカカカカカカ―――!』



 足を弾き返し、一閃。

しかしそれを、ガープは身を捩りながら躱し、反対側からの蹴りを放つ。

オレはそれに肘を合わせ―――相殺し切れずに、弾き飛ばされた。



「ッ……!」



 流石に、この体勢では力負けするか。

勢いに撥ね飛ばされつつも、刃を構える。何故なら、正面からガープがとび蹴りを放ってきていたからだ。

刃を叩きつけるように、ガープの足を受け止める―――しかし勢いまでは殺し切れず、オレは後ろへ向かって吹き飛ばされた。

―――と、背中に衝撃を感じ、オレの身体はようやく停止した。

どうやら、グレイスレイドの軍の中にまで弾き飛ばされていたようだ。

ガープは……真上か!



「チッ!」



 跳び離れる。

それとほぼ同時、オレが一瞬前までいた場所へとガープの拳が突き刺さり―――オレの下敷きになっていた騎士が肉片となって吹き飛んだ。

周囲が騒然となるが、構っている暇は無い!

飛び上がり、真上からガープへと蹴りを放ちつつこの場から跳躍する。

そのまま、上空へと飛んで行く―――



『おいおい、優しいじゃねぇかマサト』

「生憎、後で文句言われるのは面倒なんでな」



 刃を振るう。オレの隣に並ぶように飛んでいたガープを弾き飛ばし、仕切り直しとするのだ。

互いに刃と拳を構え―――唐突に、オレ達へ向かって無数の矢が飛来した。

オレは風の精霊に命じて矢を弾き返し、ガープにはそもそも矢なんてものは突き刺さるはずもない。

だが―――癇に障る。

矢を射掛けてきたのは、グレイスレイドとギルマン達の両方。

互いに、互いの陣営を援護しようとでも言うのだろうか。



「……オイ」

『テメェら……』



 だが―――邪魔だ。

ぎり、と奥歯を噛み締める。


 オレ達は同時に叫んだ。



「『邪魔してくれてんじゃねぇぞクソ共がァアアアアアアアアアアッ!!』」



 そして、オレはギルマン達へ、ガープは人間達へ―――同時に、突撃して行ったのだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











「―――来たれ、銀の神槍」



 槍が俺の魔力を食らい、巨大な唸り声を上げる。

それはまるで、巨大な狼が咆哮を上げる直前のように。

そして―――咆哮する。



「―――《大神槍グングニル》!」



 突き出された槍より放たれたのは、それ自体を巨大化したかのような銀の魔力刃。

かつて邪神龍の翼を抉った一撃は―――しかし、邪神を貫き通すには足りない。

まだまだ戦いは始まったばかり。相手も、まだまだ再生する余裕はあるようだった。


 だが、それでも俺の口元は恍惚に歪む。

今までいちいち魔術式メモリーの階位を呼ばなくてはならなかったのが、非常に腹立たしかったのだ。

こいつは俺の槍だ。俺が呼びかければ、その場で答えるのがこいつだったというのに。

だが、今は違う。身に宿る神の加護を、槍へと回す事が出来る。

そうすれば、槍はすぐさま俺に従うのだ。



「《七天剣ズィーベン》―――宝剣召喚フォーアラードゥング



 テオが己の剣に命じる。

それと共に、奴の周りには橙色の魔力で構成された無数の魔力刃が発生した。

切っ先を向けた刃は、空を裂くように、縦横無尽に飛び回る。



走れ、疾く速くレント・レント・シュネル!」



 テオの号令に従い、刃達はさらに速度を上げた。

刃は直接相手に突き刺さろうとはせず、邪神の周りを薄く裂くように旋回を続ける。

直接相手に当ててしまえば、そこで魔力が散ってしまうからだ。

舞う刃は邪神を浅く傷つけつつも、その動きを封じる。



最高位魔術式ファイナルメモリー―――《不死殺しの牙クルースニク》」



 遥か上空まで飛び上がったアルシェが、我が主の牙の魔力を召喚して撃ち出す。

どちらも、強大な不死殺しイモータル・べイン。しかし、それらを受けて尚邪神は揺らがず、その全身から生える肉の槍が俺達へと襲い掛かる。



「くははははッ!」



 ああ、愉しい。

寄ってきた相手の攻撃を魔力刃で斬り払いつつ、翼を使って後退する。

今までは飛ぶのは面倒だったんだが、これのおかげで楽になったな。



『Ooohh―――』

「ジェイ!」

「ああ! 叫んでんじゃねぇぞ!」



 テオの言葉を受けて、俺は邪神の顎の下まで入り込み、そこから奴の口を貫くように魔力刃を放った。

下顎と上顎を縫い付けられ、魂砕きの咆哮は口の中に封じ込められる。

……正直な話、あの軍が無ければ放っておいても良かったんじゃないのか?

まあ、今は気にしていても仕方ないか。



「面倒ね……二人とも離れなさい、大きいの行くわよ!」

「無駄遣いすんなって言ったのは何処のどいつだ―――」

「逃げないんだったら巻き込む! 終極魔術式レクイエムメモリー!」

「げっ!?」



 咄嗟に魔力刃を消し、邪神の胸を蹴るようにして跳び離れる。

その俺の耳に、いつか聞いた事のある呪文が響いた。



「還れ、始まりへ―――悠久の凍土にて永久の眠りを! 『創世の書』、序章終節! 《回帰・始まりの凍土ゼロ・コキュートス》!」



 あまりにも短すぎる詠唱。

本来、これの十倍にも上る長い文章を読み上げなければならない筈なのだが。

そして、次の瞬間―――邪神の体、巨大な門、そして周辺の海すらも、全て白い氷に覆われた。



「流石……おっかねぇな」

「相変わらずだな、あいつは」



 凍って砕けた尻尾が再生する様子を眺めながら、俺は小さく嘆息する。

近くでテオもこの様子を眺めながら嘆息していたが。

確か、この魔術式に関してはかなり単純な設計で、ただ単に規模がデカ過ぎたが為に終極魔術式にされているんだったか。

で、構造が単純ならばアルシェはあっさりと詠唱を省略できる。

確か、これの他にももう一つ、かなり手順を省略して一言で唱えられる奴があったな。



「さて、終極レクイエムをブチ込んだ訳だが……」

「終わらないだろうな」



 テオの言葉を引き継ぎ、槍を掲げる。

例え何にしろ、動きの泊まっている今がチャンスだ。



「唸れ雷の鉄槌―――《雷神槌トール》!」



 凍りついた邪神を砕くため、最も破壊力に優れる一撃を振るう。

雷を放つ魔力の鉄槌は、大上段から振り下ろされ―――邪神の掌に、受け止められた。



「な……ッ!?」



 思わず、驚愕の声を漏らす。

まさか、アルシェの魔術式を食らって完全に凍り付いてなかったと言うのか!?

そのまま熱量を上げて叩き潰そうとするが、それよりも先に奴が口を開く―――



「拙い―――!」



 咆哮が来る!

だが、アルシェは終極魔術式の反動で動けない、こちらは今から魔力を消しても間に合わない。

ならば―――



「くっそ、ここで俺かよ!」



 毒づきながら、テオが構える。

その白いクレイモアに宿るのは、橙色の魔力光。



「《七天剣》―――三対の翼をフリューゲル・ゼクス!」



 叫び、テオは背中に魔力の翼を作り出す。

それに合わせ、こちらはさらに槍へと魔力を注ぎ込んだ。

ここで武器を引けば邪神の腕が自由になる―――そうすれば、奴の声を遮る邪魔をされかねない。

だから、ここでさらに圧力を増やす。邪魔はさせるものか!



破壊せよツェアシュテート―――衝撃の波よシュトゥルムヴェレン!」



 テオが剣を振るう。放たれた衝撃波は、一撃で城壁の一角を破壊する威力を持つ強大なものだ。

それが、一直線に邪神の喉元へと向かい―――直前で割り込んだ魔物が、砕け散った。



『な―――!?』



 三人の驚愕の声が、重なる。

翼が生え、口から無数の触手を生やした邪神の眷属。

いつ召喚したのかは知らないが、それが海の中から無数に姿を現している。


 衝撃波は僅かに邪神の体を揺らしたものの、奴の動きを止めるには弱すぎる。

拙い―――



『OoooaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』



 鼓膜をぶち破らんばかりの咆哮が、響き渡る。

ヤバい、軍が総崩れになる。そうなれば、あのガキ共の元まで敵が到達する!



「クソ……何とか耐えろよ、小僧」



 悪態を吐きつつ、《雷神槌トール》の魔力を消し去る。

放たれたもんは仕方ない。今は、この無駄に大量に出てくる眷属をいかに捌きながら邪神を止めるかだ。

流石に、俺達の顔には先程までの余裕はなくなっている、

やはり、いくら状況が前よりましとは言っても邪神は邪神。

とことんまで危険な相手だ。



「面倒な事になって来たな、畜生め―――」



 俺は、思わずそう呟いていた。











《SIDE:OUT》





















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