表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
85/196

80:再会と仮初めの休息

一先ずの幕間、そして久方ぶりの再会へ。












《SIDE:IZUNA》











「う、嘘やろ……?」



 鉄の柱の上に立つミナっちを見上げ、うちは思わずそう呻く。

確かに、オリハルコンでの攻撃が効くもしれないとミナっちに伝えたのはうちや。

ミナっちの攻撃をいかに当てるかと考えていたのやって確かや。

せやけど―――あそこまで鮮やかに倒してまうなんて、信じられへん。



「ミナって、あそこまで強かったっけ……?」



 フーちゃんも、呆然とした表情で声を上げる。

それに関してはうちも同感やった……いや、ミナっち自身が強くなった訳やないんやろう。

魔力の総量も能力も変わったんやあらへん。

ただ、創造魔術式クリエイトメモリーを使うんに必要となる想像力……創造する物のイメージが更に多様に、強固になっただけなんや。

それさえあったらミナっちが強くなる事は分かっとったし、だからこそ皆で案を出し合ってミナっちの技を考えとったんやけど……まさか、こうも使いこなしてまうなんて。



「やっぱ凄いんやなぁ、ミナっちは」



 驚きを通り越して、最早感心の域やね。

凄く素直やから、イメージしたとおりの事をそのまま現実に反映できるんやろう。

ま、とりあえずこれでドゥラッドっちゅー魔人は片付いた。

後は、まーくんの方の魔人やけど―――そう思って、まーくん達の方へと視線を向けようとした瞬間やった。



「わっ!?」

「な、何やっ!?」



 唐突に起こった地震が、うちらの足を取る。

結構な揺れで、立ってる事すらままならんほどの規模や。

さすがのリコリスさんもバランスを崩しかけとるんで、とりあえず三人で身体を支え合う。

ちなみにミナっちは、早々に空中へと浮き上がって難を逃れとった。

何や、いきなり地震やなんて……しかも、結構な規模やで、これ。



「し、震源は何処や……場所によってはまずいで、これ」

「あ、あたしに聞かれたって分からないわよ」



 いくら地震大国出身とは言うても、こんな規模は体感した事もない。

しかも異世界で耐震も何も無いやろうしなぁ……予め建物が崩れてて助かったかもしれへん。

と―――恐々と周囲を眺めるうちの耳に、ある声が響いてきた。



「―――わん!」

「リル!? 今まで何処に行ってたのよ!?」



 驚異的なバランス感覚で地震の中を走り抜けてきたリルリルがそこにおった。

うちらに駆け寄ってきたリルリルは、こんな状況にもかかわらず、元気に腕を振りながら声を上げる。



「わう。邪神が復活」

「なっ……大丈夫なの、それ!? ッていうか、煉は!?」

「わふ。だいじょうぶじゃない。早く、ここから逃げる。レンは安全な所」

「に、逃げるったって……」



 んな無茶な、としか言いようがないやんけ。

こんな地震の中やと歩く事すらままならん。

逃げるんやったら、空を飛ぶしか―――そんな事を考えていた、ちょうどその時やった。

うちらの頭上を通り過ぎるように、巨大な影が横切ってゆく。



「え……あ!」



 その姿を見上げて、思わず声を上げる。

そこにいたんは、ミナっちにじゃれ付くように顔をこすり付ける白いワイバーン―――シルクやった。



「でかした! ミナっち、まーくんたちを回収して脱出するで!」

「ん……でも、だいじょうぶ。ね?」

「まあ、とりあえずはな」



 ミナっちが顔を上げる。その視線の先にいたのは、さくらんを抱え上げながら飛んどるまーくんの姿やった。

マントが独りでに舞い上がっとる所を見ると、うちが提案した風精霊の使い方を実践したみたいやね。

何や、予想以上に使いこなしとるみたいやけど。

とりあえず三人はシルクの上に乗り、ゆっくりと地面に降下してくる。

うちらも地震でふらついとったけど、苦労しながらシルクの上に乗り込んだ。

ちなみに、リコリスさんはミナっちの腕輪の中に姿を消してったんやけど。



「よし、乗り込んだ! ほな、とりあえず上昇や!」

「ん……シルク、出発」

「グォフ!」



 シルクが大きく翼を羽ばたかせ、地面を蹴りながら飛び立つ。

正直、この離陸の瞬間が一番揺れるんで、結構気ぃ張らんといかんのやけど。

そして旋回するように上空へと向かってゆくと、地震によって崩れてゆく町と―――海の中から現われた、巨大な建造物が目に入った。



「な、何よあれ……?」

「門、か?」



 海に浮かんだ巨大な門。

無数の柱と、不規則に亀裂の走った地面。

そして、不安定でありながら完成した紋様―――あかん、見つめとると頭が痛くなってくる。



「ルルイエ、やっけ……? そこまで話に詳しい訳やあらへんし、それに関しちゃ確証は無いんやけど……あそこから復活するっちゅー事で間違いは無いみたいやね」

「その……あまり、直視しない方が……」

「せやね。ミナっち、とりあえずあれから離れるように―――ミナっち?」



 ふと視線を向けると、ミナっちは例の門の方でもなく、虚空をじっと見つめ続けとった。

その視線の先を追ってみても、特に何かがある訳やない。

けれど、ミナっちはぽんとシルクの背を叩き―――まるでその意思に従うように、シルクは飛ぶ向きを変えた。



「み、ミナっち!? どないしたん!?」

「……」



 ミナっちは答えず、先ほど向いていた方向へと直進する―――その行動に、リルリルが驚いたようにぴんと耳を立てとった。

何なんや、一体―――そう口にしようとして、思わず目を見開く。

ある高度を通り過ぎたとき、空中のある場所で唐突に一人の姿が現われたんや。



「―――よう、良さそうな乗り物に乗ってるな。相乗りはOKか?」

「ん……勿論」



 にやりと笑いながら言う彼に、ミナっちは嬉しそうに微笑みながら手を伸ばす。

その手を取って、彼は……煉君は、シルクの上に乗り込んだ。



「よ!」

「……こんな所にいたのね、アンタ……心配して損したわ」



 悪戯が成功したような表情で笑う煉君に、フーちゃんが深々と嘆息を漏らす。

空中に足場を作って姿を隠しとった訳やね。成程、地上からは見えへんようになっとるみたいやし、ここなら安全に狙撃できる訳や。



「にしても、何か久々な気がするな」

「実際に会ってないのはほんの数日だがな……まあ、無事で良かった」

「そりゃこっちの台詞だ。さっきの戦い、見ててヒヤヒヤしたぜ?」



 肩を竦めて言うまーくんに、じろりと睨むように視線を細めながら煉君は言う。

その言葉にまーくんはぎくりと身を硬くしとるけど……一体何をやったんや、まーくんは?



「まあ、とりあえず話は後だ。今は兄貴達の所へ行こう。リル、案内を頼めるか?」

「わう」



 コクリと頷いたリルリルに煉君は満足気に頷くと、ミナっちの隣を陣取って座る。

状況の説明がいるかどうか考えとったけど、まあ煉君はずっと地上の様子を見とったみたいやし、問題は無いやろ。

どっちかっちゅーと、うちらの方が説明して欲しい感じやしね。


 とりあえず、ミナっちがリルリルから説明を聞き、頷く。

そしてぽんと背中を叩くと、シルクは頷くように吼えてから、海から離れるような方向へと飛び始めた。

あの建物が視界から消えて、うちはようやく緊張を解いて息を吐き出す。



「ぷはぁ……あー、大変やった」

「こちとら、空中にいて助かったと思ったぜ。特に誠人の方の魔人なんか、絶対に戦いたくねぇ」

「まあ、あれは仕方ないとは思うがな……」



 煉君の言葉に、まーくんは深々と嘆息する。

うちの足をつかんだ、あのバイザーの魔人の事やと思うんやけど……一体、何をやったんやろう?

ちゅーか―――



「まーくんは魔人を倒せたん?」

「いや……決着が付く前にこの状態になったからな。また後で来る、だそうだ」

「また来んのか、あれ……」



 嫌そうに顔をしかめる煉君に、うちは思わず首を傾げる。

しかし、魔人が一匹残ってもうたか……厄介かもしれへんし、一応考えとかなあかんね。

と―――そんな事を考えている内に、シルクが徐々に降下を始める。

どうやら、ジェイさん達の所に着いた見たいやね。



「とりあえず、後回しかぁ……」



 今は、あの人達と話をせなあかんやろう。

これから始まるであろう戦いの予感に、うちは深々と溜め息を漏らしとった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











 ワイバーンに乗って降下してきた小僧共を見、小さく肩を竦める。

それなりに働いては来たようだな。



「兄貴、魔人は一体逃したけど―――」

「まあ、とりあえず当初の目的は達成できたからな。これで問題は無い」



 駆け寄ってきた小僧にそう返し、それに続いて降りてきたミナ達へと視線を向ける。

大体予想は付いていたが、やはりこいつら、ここまで付いて来たか。

まあ、ここまで早く辿り着くのは予想外だったが。

おかげで、グレイスレイドの軍が辿り着く前にここまで状況が進展しちまったからな。

まあ、俺達が消耗する事無く状況をここまで発展させられたのならば、悪い事ばかりとも言っていられないが。


 と―――俺の事を見つめていた、狐娘の視線が細められる。



「ジェイさん、これで問題ないっちゅー事は、邪神が復活する所まで予定の内やったって事なん?」



 やはり、こいつは抜け目がないな。

小さく嘆息し、肩を竦める。



「それに関してはその通りだ」

「な……ちょっと、どういう事よ!? 邪神が復活したら大変な事になるんでしょ!?

邪神が復活しないようにする事が目的じゃないの!?」



 まあ、こいつはこういう反応をするだろうな。

気持ちは分からんでもないが、フリズの剣幕は受け流す。

生憎と、こちらにも余裕はないんだ。



「復活しなけりゃ、倒す事は出来ない。俺の・・目的は、あくまでも邪神を滅ぼす事だ」

「でも、倒したってまた新しいのが現れるんでしょ!?」

「よく知ってるな。だが、再び邪神が現れるまでにはそれなりに長い時間がかかる。

少なくとも、それまでは安全って事だ」



 説き伏せられ、フリズは口を噤む。

しかし、こいつらにそんな事を吹き込んだのはどこのどいつだ?

またエルロードが変なちょっかいを出しているんじゃないだろうな。

……有り得そうで怖い所だ。


 ちらりと隣を見ると、アルシェの奴がじっと邪神の封印を見つめていた。

あれを直接破壊する事は不可能だろうな。結構な力を感じる。

と―――俺の耳に、小さく妙な声が響いた。



『みゅ……本当に、アルシェなのですね』

「む?」

「え……?」



 その声に、アルシェが反応する。

じっと邪神の封印を見つめていた視線が、小僧達の―――正確には、あの霊媒の小娘の隣へと向く。

ん……何かがいるみたいだな。姿は直接見えないが、気配は感じとれる。

最初から霊視能力を持っているアルシェは、どうやらその姿が見えているようだった。

アルシェの瞳が、大きく見開かれる。



「嘘……フェゼ、何で貴方がここに?」

『みゅ……ボクは、ずっとこの地にいたのです。貴方に殺されてから、ずっと』

「っ、ごめんなさい、フェゼ……あの時、私は―――」

『いいのです。悪いのは、貴方達を利用した人間なのですよ、アルシェ』



 響く声は何とか聞こえるな……何だ、邪神時代の頃の知り合いか?

その声の主に対して、アルシェは小さく御免なさいと、謝罪の言葉をつぶやいている。

少なくとも、知り合いであるのは確かみたいだな。



「アルシェ、大丈夫か?」

「ジェイ……うん、大丈夫。えっと……その子を、フェゼを見つけたのは貴方なの、サクラ?」

「ぁ、ぇと……そんな感じ、です……」

「そう、ありがとうね。それで、私の話は聞いたのかしら?」



 アルシェがそう聞くと、小僧を除いた連中が互いに視線を合わせ、気まずげに頷き合う。

ふむ……どうやら、二千年前からいる霊にコイツの話を聞いたみたいだな。

しかし、そんな奴がこんな所にいるとは。



「私の話を聞いちゃったか……正直、昔の仲間達ですら知らない事だったんだけど……ジェイ以外」

「あー、何かすんません」

「別にいいわよ、聞いちゃったもんはしょうがないし」



 嘆息しつつアルシェが言った言葉に、小僧共が胸を撫で下ろす。

聞いちゃまずい事だとでも思ってたのだかな。

こいつの二千年前の詳しい話は、この世界では俺しか知らない事だと思っていたが―――いや、本人から聞けるような詳しい内容は俺しか知らないだろう。

当時コイツの近くにいた人間が、どんな視点でその出来事を見ていたのかは知らないがな。


 ま、ともあれ今はそんな話をしている場合じゃない。



「で、アルシェ。封印の状態はどうなんだ?」

「え? ああ……そうね。完全に解放されるにはまだ時間がかかりそうだわ。

それでも、そんな長くはかからないでしょうけど。目算になるけど、明日の夜明け前って所ね」

「また、微妙な時間帯だな」



 グレイスレイドの先遣隊ならもうじき着くだろうから、その中にがいれば問題は無いが。

まあ、向こうも時間勝負である事は分かっているだろうから、さっさと寄越すだろう。

あと気にするべきは、こいつらの使い方ぐらいか。



「で、お前らも参加するつもりか?」

「ここまで来たら引き下がれへんて。邪魔はせぇへんよ」

「まあ、お前らに邪神を殴れなんざ無茶な事は言わんがな」



 人間にしては確かに実力はある方だとは思うが、流石に経験不足だろう。

邪神と直接戦うには不安すぎる面子だ。

だから、こいつらのやるべき仕事は簡単である。



「お前らは小僧の護衛をしていろ。小僧、お前は前にも言った通り、お前の最大の一撃を邪神に叩き込んで貰うからな。

そのための時間稼ぎをその連中に任せろ」

「最大チャージって結構時間かかるんだけど……大丈夫なのか?」

「そいつらに聞くんだな。ああ、ミナ。小僧の魔力カートリッジを満タンにしておけよ」

「ん」



 とりあえず魔人の狙撃やなにやらで魔力を消費しているだろうからな。

出来るだけ最善の状態で臨んでおくべきだろう。


 こいつの一撃が決まるか否かで、俺達の行く末が変わるだろう。

正直な話、これは賭けだ。

かつて邪神龍と戦った時は、最終的にはたった三人だったが、それまでに多くの犠牲を払った。

しかし、今回のメンツはこれだけである。



「やれやれ……」



 多勢に無勢、全くもってその通りだ。

けれど、やらねばならない。

これで最後にしなければ。



「―――ホント、損な性分だ」



 誰にも聞かれぬように―――俺は、小さく呟いていた。











《SIDE:OUT》





















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ