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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
82/196

77:二体の魔人

長き因縁と、短い終わりの始まり。











《SIDE:MASATO》











『撃て、我が子らよ』



 魔人ドゥラッドの号令と共に、周りの扉や窓、様々な場所から現われたギルマン達がオレ達へ向けてその掌を向ける。

狭い空間内で、周囲は完全に包囲されている。

この状況は拙いが……フェゼニアの能力ならば防げるか?


 かつん。



「《創造クリエイト鉄の尖塔アイアンタワー》」



 と―――意外な事に、まず最初に動いたのはミナだった。

彼女がその杖で床を打つと同時、オレ達の周囲を覆うように鉄の壁がせり上がったのだ。

そしてそのまま延び続ける壁は天井のようなものまで発生し、そのまま上へと伸び続けてゆく。



「ちょ、これってまさか―――」



 いづなの驚いたような声。

そしてそれを遮るかのように、何かが破壊されるような轟音が頭上から響いた。

建物の中で建物を作り出せばどうなるか―――そんな事、分かり切っている。



「……ちょっと、無茶苦茶過ぎない?」

「だいじょうぶ。みんなを、ちょっと上に運ぶ」



 言うと、ミナは再び地面を杖で打つ。

それと同時、オレ達の足元にも鉄で出来た地面が創造された。

そして感じる、エレベーターに乗った時のような感覚。どうやら、塔を伸ばして上へと向かっているようだ。


 ある程度の高さまで上り、唐突にオレ達の周囲の壁と天井が消滅する。

周囲には、瓦礫の山と貸した教会の姿。



「凄まじいな、これは」



 敵の攻撃を防いだ上で、建物を破壊して敵を全員生き埋めか。

効果的だが、普通は思いついてもやらないだろう、こんな事は。

しかし―――



「まだ、終わってない」

「せやね……こんな程度でやられるんやったら苦労せんか」



 周囲の気配はまだ消えていない。瓦礫に押し潰された程度では、魔人はびくともしないようだ。

油断無く、全員が武器を構える―――瞬間、瓦礫の中から巨大な水の柱が立ち昇った。

その先端に立つ魔人、ドゥラッドはこちらへと忌々しげな視線を向けている。



『やってくれたな……我らが父を祀る神殿を破壊するとは』

「ええやないか、見晴らしがようなったんやで?」

『減らず口を―――』



 ドゥラッドは、こちらへと掌を向ける。

しかしにやりとした笑みを浮かべたままのいづなは、オレ達へ向けて叫び声を上げた。



「皆、跳べ! さくらんは風操作!」

「は、はい!」



 そのいづなの声に従い、全員が鉄の塔から飛び降りる。

それとほぼ同時にドゥラッドの掌から水流が放たれ、塔の上を吹き飛ばしていた。

オレ達は桜の呼び出した精霊の風に包まれ、地上へと勢いを殺しながら降りてゆく。



「《創造クリエイト魔術銀の槍ミスリルスピア》」



 降りながらも、相手に追撃をさせないためにミナが槍を放つ。

空を裂き、高速で射出された槍は一直線に魔人へと向かい―――躱そうとする気配すらなく、弾き返された。



「……!」



 ミナが目を見開く。

魔人の目の前にまるで見えない壁でもあったかのように、攻撃はいとも容易く弾き返されたのだ。

そして、魔人の視線はミナの方へと向く。



『成程、報告にあったのは貴様か』



 ドゥラッドはそう呟き、ミナへとその掌を向ける。

同時に魔人の周りには、《水の槍アクアランス》……ただし、二桁以上の数のそれが発生する。

咄嗟に、ミナは杖をそちらへと向けた。



「《創造クリエイト魔術銀の盾ミスリルシールド》!」



 創り上げられたのは、ミスリルで創られた、ミナの全身を覆うほどの巨大な盾。

ミナが最も多用する、逆に言えば最も信頼している防御の技だ。

そこへ向けて、魔人の魔術式メモリーが放たれる。

その水の槍は―――いとも容易く、盾の表面を抉った。



「なッ!?」



 思わず、目を見開く。

頑強なミスリルで創られた盾を、第一位魔術式ファーストメモリー程度の魔術式で傷つけただと!?

続け様に放たれる水の槍によって、瞬く間に盾は薄く削られてゆく。

拙い、空中では救助に向かう事も―――



「ミナ!」



 刹那、フリズの声が響き―――魔人の周囲に浮かんでいた水の槍が、立て続けに爆発した。

どうやら、能力を使って魔人の放っていた水を全て蒸発させたらしい。

立ち込める蒸気に魔人の姿が消えるが、あれがどの程度通用した事やら。

ともあれ、攻撃が止んでいる間にさっさと地面に着地するが吉だろう。空中では戦う事が出来ない。



「……っ」

「大丈夫ですか、お嬢様」



 流石に焦りを表情に出しているミナを、一足先に着地していたリコリスが支える。

流石は魔人と言った所か……あの吸血鬼を相手にした時を思い出す。

あまり、楽観視できる状況ではないようだ。



「皆、庭の方へ! ここで戦うんは流石に不利や!」



 いづなの声が響く。

確かに、瓦礫の上などと言う不安定な足場では満足に闘う事はできないだろう。

頷き、建物の前にあった広い庭の方へと駆ける。

そんなオレの横をミナを抱えたリコリスが通り抜けて行ったが、とりあえず問題は無いだろう。

と―――



「むぎゅっ!?」



 いづなの悲鳴。

そちらを向けば、いづなが瓦礫に足を取られて転倒している所―――いや、違う!

瓦礫の間から伸びてきた手が、いづなの足を掴んだのだ!

舌打ちし、そちらへと駆ける。



『ハッ、やってくれたなクソガキ共!』



 瓦礫を押しのけて現われたのは、顔面を黒いバイザーのような物で覆った魔物。

耳の辺りからひれのような物が生えていて、全身は光沢のある鱗で覆われている。

まさか、あれも魔人か……!?

その魔物は、いづなの足を掴んで持ち上げると、その身体を大きく振りかぶる。

地面に叩きつけるつもりか!



「乙女の身体に……何してくれとるんや!」



 咄嗟に刀を抜き放ち、いづなはそいつの腕を斬りつける。

が、その鱗に弾かれ、奴の身体に傷を付ける事は叶わなかった。



「な……!?」

『無駄無駄ァ! テメェごときの玩具で、俺様の身体に傷を付けられるかってんだ!』



 距離がありすぎる、間に合うか!?

魔物は、腕を振り上げ―――その腕を、蒼い光の糸によって絡め取られた。



『ぬ……っ!?』

「お嬢様のご友人だ。離せ下郎」



 放たれたのは、リコリスの《光糸ストリングス》。

それによって、魔物の動きが一瞬止まる。これならば、間に合う!



「おおおおッ!」

『チッ!』



 魔物はいづなを掴んでいた腕とは逆の、左腕でオレの一閃を受け止めようとする。

景禎の一撃は神速で魔物へと迫り―――その腕に、半ばまで食い込んで止まった。

予想はしていたが……本当に硬いな、こいつは!



『ぐ……テメェ、そんな玩具で俺様に傷を付けやがって……!』

「貴様が掴んでいる女の造った武器だ……あまり舐めるなよ」



 魔物の口元―――牙がずらりと並ぶそこが、愉悦の笑みに歪められる。

奴はいづなを放り出して《光糸ストリングス》を振りほどくと、跳躍して距離を開けた。

煙を上げながら、奴の腕に付いた傷が消えてゆく―――が、どうやら切り裂かれた鱗までは再生できないようだ。



『テメェは面白そうだ……俺様の名はガープ。父なるダゴンより生まれし魔人!

テメェをブチ殺すぜ、名乗りな!』

「……シルフェリア・エルティスが人造人間ホムンクルス、神代誠人だ」



 いづなが立ち上がるのに手を貸しながらも、オレは魔人―――ガープから視線を外さずにいた。

戦闘狂、という単語が頭に浮かぶ。こいつは正しくその類だろう。



「……まーくん」

「下がっていろ、いづな。恐らく、他にも生き残ったギルマン達がいる筈だ。お前はそちらを相手にしていてくれ」

「……了解や。頑張ってな」



 自分ではアレに傷をつけられないと判断したのだろう。

一瞬悔しそうな表情で俯いてから、いづなは踵を返して庭の方へと走って行く。

ガープはそれに攻撃するような真似はせず、ただただオレだけを注視していた。



「……随分と気に入られたものだな」

『ハッ、俺様は今まで退屈だったモンでな。楽しそうな戦いがあるってんなら、極限まで楽しませて貰おうってだけだ。テメェも、楽しめよ!』



 その声と共に、ガープは地面に拳を叩きつける。

瞬間、発生した衝撃波が地面を覆っていた瓦礫を周囲へと吹き飛ばした。

冷静に見極めてそれを躱しながらも、ガープからは視線を外さずにしておく―――が、どうやら瓦礫に紛れて攻撃しようとしてきた訳ではないらしい。

見れば、吹き飛んだ瓦礫はオレ達の周囲で山積みとなり、半径十数メートルほどの円形の広場が完成していた。



「……コロシアム、という訳か」

『観客はいねぇがなぁ! さぁ、俺様を楽しませてくれよな、マサト!』



 牙だらけの口から歓喜の咆哮を上げ、ガープは駆ける。

意識を冷たく研ぎ澄ませ、オレもまた奴へと向けて駆け出した。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











「誠人!?」



 誠人の姿が、魔人と共に瓦礫の向こう側に消える。

どうしよう、あいつ一人で戦える相手なのかしら。

誰かが助けに行った方が―――



「余所見しちゃダメ」

「ミナ?」



 声を掛けられ、振り返る。

見れば、ミナはあたしの前でじっと魔人―――ドゥラッドを睨みつけていた。

……そうね、あたしたちの相手はあっちだもの。



『やれやれ……あの馬鹿者め。暴走するなと言っておいたばかりだろうに』



 嘆息したような声音で、ドゥラッドは誠人たちの方へと視線を向けている。

あのガープとか言う魔人の行動は、あいつにとっては予想外だったみたいね。

でも、あたしたちの中で最も接近戦に秀でた誠人を連れて行かれたのはちょっと辛いかもしれない。

誠人一人であいつを倒せるなら、それに越した事は無いんだけど―――



「……いづな、どうする?」

「どうもこうも……やるしかあらへんよ」



 じっと魔人を見上げ、忌々しげな口調でいづなは声を上げる。

ま、そうね……どうにした所で―――



「直接凍りつかせちゃえば、それで終わり―――ッ!?」



 あの魔人を凍りつかせようとして、驚愕する。

どれだけ力を込めても、あいつ自身の分子に干渉する事が出来なかったのだ。

どうして……力はしっかりと発動してるはずなのに!



『古き神の力か……だが、我らが父の加護を持つ我には無意味だ』

「そんな……ッ!?」



 あまり使いたいとは思えなかった力だけど……それでも、完全に効かなかった事はこれが初めてだ。

流石に、動揺が隠せない。絶対に一撃必殺の能力だと思ってたのに。



「ぁ……あれ、フェゼニアちゃんの力と同種のもの、だそうです……」

「力の流れの《遮断》……面倒やね。さっきミナっちの技を防いだんもその力かいな。対策はあるん?」



 桜の言葉に、いづなが目を細めながら問いかける。

あの力を突破しない限り、あたし達に勝ち目はない。



「ぇと、あの力を突き抜けるだけの強い拒絶の力……だそうです」

「ぅえぃ……了解や。ミナっちちょっと耳貸し」

「ちょっと、悠長に喋ってる暇はないわよ!?」



 手をこまねいているあたし達に向けて、ドゥラッドは掌を向ける。

そこに発生した水の龍を、あたしは力で蒸発させた。

どうやら、あいつ自身じゃなければ干渉できるみたいだけど……あいつ、水蒸気爆発が全く効いてないわね。

また遮断の力か……!



「……ん、分かった」

「よし、ほんなら……何とかしてあのタコの親分の動きを止めるで!」



 さっきの爆発で、いづながミナに伝えた言葉を聞くことは出来なかった。

けど、何か対策があるのかしら。あれを突き抜けるだけの技があるの?

分からないけど、たとえ不確かでもそれに賭けるしかないか。



「ほんなら、とりあえずあいつをこっちまで引きずり落としてやらん事には始まらんな」

「あれを捕まえる事さえできれば私が何とかできるのですが……済みません」

「気にせんで。それより、リコリスさんは中衛で援護をお願いします。後はミナっちの護衛を」

「了解いたしました」



 リコリスの言葉に頷きつつ、いづなは指示を飛ばす。



「フーちゃんはうちと共に前衛や。そんで、さくらんは……まーくんの所に行ったって」

「ぇ……」

「こん中で、まーくんの援護に最も適しとるんはさくらんや。頼んだで」

「ぁ、は、はい!」



 この中で最も火力のある桜を向かわせるのは少し不安だったけど、この際仕方ない。

正直な所、いづなも誠人の事が心配なのだろう。

桜なら誠人の刀への付加や、桜の《未来視》に、フェゼニアの防御もある。

十分彼の役に立てるだろう。



「さてと……」



 前に向き直る。

瓦礫の下からは、徐々にギルマン達が這い出してくる所だった。

多勢に無勢、結構きつい場面ではある。

……ったく、もう。



「こういう時に助けに来るのが筋ってもんでしょうが……遅刻よ、遅刻」



 ここにいないあいつに向かって、小さく呟く。

ともあれ、いない奴に向かって文句を言った所で始まらない。

何とかして、こいつらを倒さなければ。



「《創造クリエイト鉄の大分銅アイアンスタンプ多重創造フラクタル》」



 ミナのその声と共に、空中にいくつもの鉄塊が生み出され、地上へ向けて落下する。

相も変わらず『16t』などと冗談みたいに書かれた鉄塊は、地面に広がる瓦礫を圧縮し、そこに立ち上がっていたギルマンと共に平坦な地面へと変えた。

一応、あの魔人の方へ向けても創ってたみたいだけど、それはあっさりと弾き返されたらしい。

それは予想していたのか、特に気にした様子もなかったけど―――とりあえず、これで動き回りやすくはなったわね。



「ほな……行くで、フーちゃん」

「ええ、了解よ」



 頷き、あたしは駆ける。

ふわふわと舞い降りてきた魔人―――空中に浮いてれば手が出しづらかったのに、余裕のつもりか。

なら、その余裕をぶち壊してやる。こっちを舐めた事を、心の底から後悔させてやる。


 しかし、あいつめ。

これで本当に来なかったら、後で説教よ、あのバカ。



「はああああああああッ!」



 脳裏に浮かんだ考えは全て捨て去り、戦いに集中する。

倒すべき相手は目の前。考えるべきは、あいつをどうやって倒すかという事。


 ―――あたしたちは、負けない!











《SIDE:OUT》





















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