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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
80/196

75:魔人との戦い

或いは、因縁の始まり。











《SIDE:MASATO》











 唐突に、部屋の扉が蹴り開けられれる。

咄嗟に振り向いたオレの目に入ったのは、こちらに敵意を向ける男の姿。

そして―――



「ご苦労様だな」

「な、がふッ!?」



 天井から飛び降りて男の首を刈り取った椿の姿だった。

椿の《未来視》のおかげで奇襲を避ける事が出来たが―――これは、どういう事だ。

倒れた男の首から緑色の血が吹き出るのを見つめながら、オレは小さく目を細めた。



「失敗したな。殺さずに捕らえて情報を吐かせれば良かったか」

「肝心のミナがここにいない以上、言っても仕方ない事だがな」



 肩を竦めつつ、窓を開ける。

何に狙われているか分からない―――と言うか、まあまず間違いなく邪神の手の物だろうが、こちらの位置がバレている以上ゆっくりと尋問する時間も無かっただろう。


 ちなみに、ミナは先ほど、『ちょっと行ってくる』と言って出たまま戻ってきていない。

てっきりトイレか何かだろうと思っていたのだが、一体何をしに行ったのやら。

まあ、リコリスを連れていた以上危険は無いだろうが。



「とにかく、行くぞ」

「ああ」



 互いに頷き、窓から飛び降りる。

軽々と着地し、とりあえず走り出すが―――さて、何処へ行ったものか。



「相手は邪神の眷属、こちらは何故か攻撃を受けている。ならば対抗策は」

「ふむ、そうだな……一つは、逃げると言う事か」

「態勢を立て直すと言う点ではいい話かもしれないが、仲間がバラバラになっている時点で却下だ」



 椿の言葉に、嘆息しながらそう答える。

相手に関する詳しい情報が分からない以上は手が出しづらい。

基本的に、受け手に回る事しかできない筈だが。



「その二。こちらから打って出る」

「敵が何処にいるのかも分からないのにか?」

「まあ、確かに詳しくは分からないが……それでも、大まかな予想は付くのではないか?」



 言われて、オレは思わずその建物・・・・へと視線を向けていた。

邪神の眷属とは、即ち邪神の信奉者。そんな相手が最もいそうな場所と言えば―――



「……教会か」

「少なくとも、何かいそうだろう?」

「それはそうだが、情報収集ならミナを連れて行きたい」

「今更情報収集も何もあるか。行ってみて、襲ってきたなら迎撃する。襲われなかったらその時はその時だ」



 考えているようで何も考えていないな、こいつは。

しかし、教会と言うのは確かに気になる場所だ。

調べればいくらでも重要な情報は出てきそうではある。だが―――



「とりあえず、仲間との合流が先だ」

「それに関しては、確かに同感だな」



 先ほど襲ってきた相手を見るに、人間に化けた魔物が存在しているらしい。

何処までが敵か分からない以上は、出来るだけ仲間で固まっておきたいからな。

とりあえず、いづなたちを追いかけるとするか。



「まあ、その前に―――」

「……だな」



 ただでさえ少なかった人通りが、全くなくなっている事に気付く。

それと共に、周囲に満ちるのはこちらに対する攻撃の意思。

横を見れば、椿も既に例の剣―――比翼剣とか言う双剣を構えていた。

こいつの目には、既に敵の姿が見えているのだろうか。



「誠人、下からだ!」

「下?」



 意味が分からず、首を傾げるが―――咄嗟に感じた悪寒に従い、オレはその場を飛び退いていた。

それとほぼ同時、オレが立っていた場所から巨大な水の柱が立ち昇る。

そしてその水の柱の中に人影が見えたと思った瞬間、そこから幾つもの水の刃が放たれた。



「チッ……」



 舌打ちしつつ、回避する。

水は剣で斬る事は出来ないからな。

距離を取りつつ刃を抜き放ち、構えると―――水の柱は消え、そこに一体のギルマンが姿を現した。

ただし、普通のギルマンとは違い、紅い鱗を持ったギルマン。腕には硬質化した鱗が刃のように伸びていた。

奴はこちらを見て視線を細めると、再び地面へと潜ってゆく。



「地面を泳ぐ能力だと……!?」

「驚いている場合か、誠人! また攻撃が来るぞ!」



 椿の言葉に従い、反射的にその場から駆け出す。

相手の気配が読めない。椿は《未来視》で何処から出てくるか分かるようだが―――



「誠人、前から飛び出してくるぞ!」

「ッ!」



 その言葉と共に、ギルマンは前方の地面からこちらへと飛び掛ってきた。

奴が振るって来た腕の刃に、こちらも景禎を合わせる。火花が散り、刃と刃がぎちぎちと音を立て―――奴は、オレに向かって口を開いた。



「ッ……!」



 反射的に、身体を傾ける。

それとほぼ同時、奴の口から迸った水は、射線上にあった店の看板へと命中し、それを地面に落とした。

高圧水流、ウォーターカッターだと!?



「拙……!」



 水を吐き出しているギルマンの口が、こちらを向こうとする―――刹那、跳んできた刃が奴の腕に突き刺さった。

釵のような形をしたその武器は、間違いなく椿のもの。

痛みで集中が途切れたのか、水の噴射を止めたギルマンは、距離を取ったオレと椿の両方を視界に収める位置へと後退した。



「……苦手そうな相手だな、誠人」

「全くだ。オレはこういう暗殺者タイプは苦手なんだよ」

「暗に、ワタシは苦手だと言っているのか?」



 小さく笑いつつ、椿は残ったもう一方の刃を振るう。

それと共に、ギルマンの腕に突き刺さっていた刃は独りでに抜けて椿の手へと納まった。

手元に戻ってきた剣に小さく笑みを浮かべ、椿は呟く。



「比翼の鳥とはよく言ったものだ。二本セットな訳だな」



 今のも比翼剣の効果というわけか。

しかし、厄介な相手とぶつかってしまった物だ。

こちらからは攻撃が仕掛けづらく、向こうからの攻撃は察知しづらい。

何か打開策がないものか―――そう思っていた、瞬間だった。

突如として、椿が髪を解いたのだ。



「椿……いや、桜か?」

「は、はい……」



 右側で髪を結ったその中身は、間違いなく桜へと変化していた。

しかし、何故このタイミングで―――髪を結った桜は、きっとギルマンを睨むとその両手を地面につく。

その動きを見たギルマンが、とっさに桜を標的に定めて地面に潜るが……その、次の瞬間。



「……火の精霊さん、地の精霊さん……お願い」



 地面から、周囲の景色が揺らめくほどの熱が発生した。

精霊にどんな願いを伝えたのかは知らないが、その熱に蒸し焼きにされそうになったギルマンが、慌てて地面から飛び出す。

―――今!



「はあああああッ!!」



 裂帛の気合と共に跳躍する。

例え地面の中を自由自在に泳ぐ事が出来たとしても、空中では方向転換できまい!

その身体を両断するつもりで力を込め、刃を振り下ろす―――



「何ッ!?」



 瞬間、ギルマンの体が唐突に横へ動いた。

掌から噴射した水流で、体を動かしたのだ。

紙一重の差で刃は体から外れるも、その伸ばされた腕を切り落とした。

仕留め損なったか……!



「だが、この状況では地面には逃げられんぞ」



 着地し、刃を相手へと突きつける。

切っ先の向こう側にいるギルマンは、忌々しげな視線をオレと桜へ向ける。

地面は相変わらず熱を発し、奴の逃げ場を奪ったままだ。



「誠人さん、防御は自分で出来ます……どうか、敵に集中して下さい……」

「……了解した」



 頷き、駆ける。

型の通りに高速で駆け抜け、踏み込む動作の中に刃を振り抜く動作を組み込み、連動させる。

完全なる無拍剣の型―――しかし奴は元から後退して避けるつもりだったのか、その胸を僅かに斬っただけに終わる。



「ち……ッ」



 刃を振り抜いた重心移動を利用し、横へと跳ぶ。

そしてオレが一瞬前までいた場所を、ギルマンの口から放たれた水が貫いた。

しかし水はオレを追尾するようには振られず、桜へと向かう。

咄嗟に止めようとするが、その前の桜の言葉に踏みとどまり、オレは全力攻撃の為の構えを整えた。

桜は、向かってくる水を避けようともせずに見つめ―――小さく、笑みを浮かべる。



「ボクの力の前には、そんな水鉄砲など何の意味も無いのです!」



 桜の口から放たれたのは、不敵な響きの混じったそんな声。

あの言葉遣いは……今度はフェゼニアを憑依させたのか?

にやりとした笑みを浮かべたフェゼニアは、掌を向かってくる水の流れへと向ける。

そして次の瞬間、水鉄砲は何か見えない壁に阻まれたかのように弾き返された。

そんな情景を視界の片隅に捉えながら、オレは刃を振るう。



「オレ達を甘く見すぎたな、邪神の手下が―――」



 このギルマンは、恐らくオレが桜を守る為に動くと思っていたのだろう。

だからオレへの防御をおろそかにしながら桜へ攻撃した。

だが、オレは桜の言葉を信じた。それ故に―――



「終わりだッ!!」



 ―――この一閃を、逃れる術は無い。

振り抜かれた刃は、ギルマンの硬い鱗を切り裂き、その首を容赦なく刎ね飛ばしていた。

気色の悪い緑色の血を振り落とし、刃を鞘に納める。



「やるな。今はフェゼニアか?」

「ぁ、いえ……私に戻りました……」



 どうやら、さっさと桜に戻ったらしい。

色々と分かりづらくはあるが、ある意味では便利な体質だな。

一人分の身体でああも様々な力を発揮する事が出来るとは。



「先程のは?」

「フェゼニアちゃんの……《遮断》の力、だそうです……」



 フェゼニアが持っていると言う《神の欠片》の力か。

いかなる力の流れも遮ってしまうと言っていたが、防御面では中々優秀な能力のようだな。

今後世話になる事もあるかもしれない。

……流石に、この間はからかいすぎたかもしれないな。後で謝っておいた方がいいだろうか?



「あ……」

「ん? 桜、どうかしたのか?」

「ぇと、あの……そのギルマンから抜け出した黒いもやもやが、その……どこかへ、飛んで行きます……」

「黒い靄?」



 オレには見えない……という事は、何かしらの霊体か何かか。

それが抜け出して、飛んで行く?



「魂か何かか?」

「分かりません……でも、似てるけどちょっと違う、ような……ごめんなさい」

「いや、謝る必要は無い。それで、何処へ飛んで行ったんだ?」

「ぇと……」



 桜は空を見上げ、視線をぐるりと動かしてゆく。

その先にあったのは―――



「……教会、ですね」

「……また教会か」



 ここまで極端に怪しいと、逆に笑えてくる物だ。

例の彫像と冠、そして台座に刻まれていたアルファベット。

椿が地下で見たと言う、体一部だけ魔物と化している人々。

そもそも、邪神を崇拝する教会と言う時点で既に十分怪しいのだが。



「追ってみるべき、でしょうか……?」

「……いや、気にはなるが深追いは禁物だ。仲間にメッセージも残せていないからな。

とりあえず、行き先の分かるいづなと合流しよう。それからミナを探す」

「はい……分かりました」



 コクリと頷く桜に、こちらも頷く。

そしてオレ達は、先程いづなたちが向かっていった商店の方へと走っていった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











「ねぇねぇ、やっぱりあの町ごと消し飛ばしちゃった方がいいんじゃないの?

あの子達を皆町の外に連れ出せば問題ないでしょ?」

「……面倒な事に、こちとらリオグラス王家の依頼を受けてるんだよ。

そんな依頼を受けた連中が、勝手に他国の領土に永久凍土を作り出してみろ。一気に国際問題だろうが」



 アルシェの言葉に、深々と嘆息する。

俺が早く追いかけていなかったら、こいつはさっさと終極魔術式レクイエムメモリーで周辺の海域ごとあの町を消し飛ばしていただろう。

使おうとしていた魔術式メモリーを聞いた限りでは、永久氷の中に凍結封印するつもりだったようだが。


 それに、現状では、まだ邪神が復活していない。

俺がすべき事は邪神の殲滅だ。封印が解ける前に何とかしてしまったのでは意味がない。

だから必要な事は、あの魔人どもを追い詰めて邪神を不完全な形で復活させる事だ。

邪神の復活には非常に面倒な手順がかかる。多少なりともそれを妨害すれば、邪神は弱体化したまま開放される事だろう。

俺達がすべき事は、その邪神を最大級の一撃で確実に殲滅する事。

そして、その確実性をあげる為には―――



「まだ、グレイスレイドの連中が到着していない。それじゃあ確実性に欠けるだろ、アルシェ」

「……まあ、貴方の槍と同格の武器なんて、連中しか持ってない訳だけどさ」

「やるなら、またあの三人でやりたいしな。しかし……あの聖女も、随分と罰当たりなことをするもんだ」



 くつくつと笑う。

だが生憎と、あいつと再び会える事への期待の方が大きかった。

出会えば厄介な事になるだろうが、それすらも楽しみだ。



「どちらにしろ、大舞台の始まりだ。精々、派手に楽しもうじゃねぇか」



 あの町を見下せる断層の上に立ち、俺は小さく笑みを浮かべる。

決戦の時は、目前へと迫ってきていた。











《SIDE:OUT》






















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