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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
73/196

68:最後の英雄

「いつだって馬鹿は最初に脱落する。そのくせ、後からひょっこり顔を出したりするんだ」












《SIDE:JEY》











「……勝手な事してくれやがったな、このバカ」

「うう……失念してたわ」

「わふ」



 俺の目の前には、あの小僧の能力を忘れて転移に失敗したバカが一人。

こいつがノコノコと現れたのは、俺がリンディーナの《転移テレポート》でサムヌイスに着いたちょうどその時だった。

どうやら、こいつの力を持ってしても、あの小僧と共に転移する事は難しかったらしい。



「で、何であんな事をした?」

「……分かってるでしょ、ジェイ」



 すっと、アルシェの瞳が細められる。

その銀色の瞳の奥にある感情に、俺は目を逸らした。

分かっていたのだ。こいつが、何故こんな行動に出たのかは。

けれど―――



「悪いが、お前の企みは失敗だ、アルシェ。俺に止まる気は無い」

「でしょうね……分かってるわよ、貴方の事だもの」



 深々と、アルシェは息を吐き出す。

その反応に何も言い返せず、俺は口を噤んでいた。

こいつ以外ならば、俺はこんな迷いを抱いたりはしないだろう。

こいつ以外ならば、俺はこの生き方に躊躇いを抱いたりはしないだろう。

こいつ、だけは―――



「……済まん、アルシェ」

「謝らないで。謝られたって……気休めにすら、ならないんだから」



 誤る事すら出来ないのならば、俺には何も言える事は無い。

深々と息を吐き出し、俺は周囲へと視線を走らせた。



「それで、どうする? あの小僧の位置は掴めてるのか?」

「いいえ……って言うか、あの子魔力を持ってないからさっぱりトレースできないのよ」

「あいつの武器の魔力カートリッジで追えるだろう」

「それは今やってる所……結構魔力の気密性が高いから、中々掴めないのよ、あれ」



 まあ、魔力が簡単に漏れ出すような物だったら意味は無いか。

とりあえず、死ぬ前に見つけてやらねばならんな。



「もう……逸れなければ集落を消し飛ばしてたのに」

「いきなり終極魔術式レクイエムメモリーを撃つつもりだったのか、お前は」



 こいつだったらやりかねんか。

いきなり永久凍土が発生するか、或いは極大の熱量で蒸発させるか……どっちにしろ、一撃で消し飛ばせる威力には変わりない。

無限の命を持つが故に、いくらでも自分の命を消費する魔術式メモリーを連射できる最強の魔術式使いメモリーマスター

相変わらず、反則的な生き物だ。



「まあ、その集落とやらにあの小僧が紛れ込んでる可能性もある。いきなり消し飛ばす訳にもいかんだろう」

「そうね……ああもう、厄介な能力持ってるんだから、あの子は」

「忘れてたお前が悪い。リル、あいつの事を探せ」

「わう!」



 一応連れてきておいて良かったな。

こいつの攻撃力だと、高度な不死殺しイモータル・ベインを持っていても邪神にはダメージを与えられないからな。

となると、こいつはあの小僧の護衛にでもつけておくべきだろうか。


 しかし、忌まわしき海の王か。

もう少し調べてくる時間が欲しかったな……こいつの暴走さえ無ければ情報収集もできたんだが。

流石に、名前も能力も姿も知らないような相手と戦うのは不安が残る。

無いものねだりをしても仕方ないのだが。

駆けて行くリルの背中を見送り、俺は小さく嘆息した。



「俺とお前と小僧……攻撃力としては足りているだろうが―――」

「正直、向こうの攻撃が私達だけに集中すると厳しいわね」



 邪神の攻撃は半ば呪詛と化した力を持っている。

例え第五位の不死者イモータル・ブラッドである俺達とは言え、邪神の攻撃で受けたダメージは瞬時に再生させるのが難しいのだ。

今考えてみると、よくあの邪神龍を滅ぼせたものだと思う。



「この際、グレイスレイドの軍が到着するのを待ってみてもいいと思うけど?」

「期せずしてそうなる可能性もあるがな」



 あの聖女と、奴の保有する戦力である七徳七罪が動いている。

あまり会いたくはない相手だが、それでも戦力となる事は確かだ。

奴としても、俺達が倒されれば邪神を止めるだけの力が無くなる事は理解しているだろう。

手を貸さないなどと言う事は無いだろうが―――



「あの女の手を借りるのか……」

「まあ、気が進まないのは分かるけどね」



 アクの強さで言えばお前も似たり寄ったりだと思うがな。

まあ、口に出すと面倒なので特に何も言わないが。

どうにしろ、ここまで来た以上は後戻りも出来ない。

ならば、腹をくくるしかないだろう。



「さてと……精々、派手に楽しませて貰おうか」



 海の方―――件の邪神が封印されている場所へと向けて、俺は小さく笑みを漏らしていた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











 高速で空を駆ける人工精霊。

かつて見た時は鳩の姿をしていたそれは、今回はまた違う姿を取っていた。

体が全て白い雲のような霧のような物で出来ているのは同じだが、今回のそれは両腕が翼となっている龍―――即ち、ワイバーンの姿をしていた。

相変わらずいいとは言いがたい乗り心地のそれに五人で乗りながら、オレ達は空を駆ける。



「うう……」

「フーちゃん、大丈夫なん?」

「何とか……」



 振り落とされないように必死にしがみつきながら、フリズはこのスピードと振動に呻いている。

ちなみに前と同じようにいづなは、ワイバーンの首にしがみ付き、ミナは創り出した金属で身体を固定している。

結果として桜はオレが支える事になった。



「やー、やっぱり空飛んでる生き物は速いんやなぁ。馬車なんか比べ物にならへんで」

「まあ、迂回しなければならない所を簡単にショートカット出来るからな」



 風を切るようなスピードで飛びながらも、オレ達には話す余裕があった。

桜が風の精霊を操り、ワイバーンに追い風となるような風を吹かせているからだ。

無風とは言いがたいが、以前鳩に乗った時ほど凄まじい風圧を感じる訳ではない。

身体を固定できないジェットコースターよりはマシと言う物だろう。



「しかし……シルフェリアは何故ああも簡単に協力してくれたんだろうな」

「せやね。なんか知ってたような感じやったけど……何でやろな?」

「あの人が打算無しに協力なんてありえないでしょうしね」



 酷い言われようだが、基本的に他人を信用しようとするフリズにすらそう思われているのなら、それに間違いは無いだろう。

しかし、それならば尚更、何故あの女はオレ達に無条件で協力しようとしてきたのだろうか。

後から何かしら要求してくる可能性もあるが、現時点では特に何も言われていない。

あの女、一体何を考えている?



「まあ何であれ、今は煉の所に向かうのが先決だ。訳を聞くなら後からでもできる」

「せやね。あんまり余計な事を気にしとる暇も無いんやし―――」



 いづなは、オレに向かってそう笑いかけ―――脳天から真っ二つに両断された。



「―――ッ!?」



 いづなの後ろにいたフリズまでもを斬り裂き、光の剣が通り抜ける―――その光景を、幻視する。

良く見てみれば誰も何も変わっていない。が―――その先に起こる事を、オレは理解していた。

反射的に、景禎を抜き放つ。



「おおおおおおおおおおおッ!!」



 元々座っていたこの体勢では少々無理があるが、それでもこの不安定な足場で踏み出し、刃を全力で振るう。

その一閃が、ワイバーンを真っ二つにしようと現われた橙色の魔力刃を受け止めた。



「ぐ……っ!」



 体勢や足場に無理があるというのもあるが、それらを差し引いたとしても重い!

が、それでも一瞬で状況を理解したのか、いづな、そして恐らくはフリズもその刃の軌跡から逃れる。

しかしその一瞬の気の緩みからか、重さを増した刃によってオレはワイバーンの上から弾き飛ばされていた。



「まーくん!?」

「誠人さんっ!」



 いづなと桜が反射的に手を伸ばす。

二人の手は辛うじてオレのマントと足を掴んだが、その勢いのまま二人もワイバーンの上から弾き出されてしまった。

尤も、弾き出されようが出されまいが、真っ二つにされたワイバーンはそのまま消滅してしまったので同じ事だが。



「な……っ!?」

「―――《浮遊レビテーション》!」



 ミナは咄嗟に、ローブに刻まれている魔術式を発動させる。

そしてそのまま、彼女はフリズへ向けて手を伸ばした。

―――こちらも、その様子を悠長に見ている暇など無いのだが。



「桜、精霊操作!」

「風の精霊でうちらを浮かすんや!」

「は、はい……ッ!」



 空中でオレの腰にしがみついていたいづなが、オレの腕に掴まっている桜に指示を飛ばす。

桜は目を瞑り、小さく口を動かす。精霊に囁いているのだろうが、この気流の中ではその言葉を聞き取る事はできない。


しかし精霊にはきちんと聞こえていたのか、オレ達の落下速度が体感できるレベルで低下した。

一先ずこちらは安堵しつつも、ミナ達の方へと視線を向ける。



「《創造クリエイト魔術銀の鎖ミスリルチェイン》!」



 その声と共に、銀色の鎖がミナの杖からフリズへ向かって伸びる。

光と共に現われた鎖はフリズの腕の周りまで到達し―――彼女は、それをしっかりと掴み取った。

銀に輝く鎖は人一人分の体重を受けながらも千切れる事無く、ぎしりと金属同士が擦れる軋みの音を響かせる。

が―――その落下が収まる事はなかった。



「あかん……ミナっちの《浮遊レビテーション》だけやと体重を支え切れん!」

「桜、もう一度―――」

「ッ、《創造クリエイト》―――」



 オレが桜にもう一度精霊操作を頼もうとしたその時、重さに喘ぐ苦しそうなミナの声が耳に届いた。

その手の中の杖では、宝玉の中に埋め込まれた歯車が高速で回転を始めている。

そして―――



「―――《鉄の塔アイアンタワー》ッ!」



 次の瞬間飛び込んできた光景に、オレは思わず目を疑っていた。

地上から数百メートルはあろうかというこの位置―――今フリズがいる足元の辺りまで、巨大な鉄の柱が唐突に現われたのだ。

そこへ向かってフリズは受身を取りながら着地し、ミナはふわふわと浮遊しながら降りてゆく。

その光景を眺め―――思わず、呆然と呟いた。



「……あんなの、アリなのか?」

「改めてありえんなぁ、あれ……」

「凄い……です」



 凄いと言うか、むしろ反則だろうあれは。

鉄の柱の周りを手すりの付いた階段が覆っていく様を見つめつつ、オレは半ば呆れの嘆息を漏らしていた。

と言うか、こんな巨大な物を作って魔力が切れないのだろうか。



「と、とりあえず大丈夫そうやけど……さっきの、一体何やったん?」

「ッ! そうだ―――」



 先程見えたあれは、間違いなく魔力刃だった。

となれば、それを放った存在がどこかにいる筈である。

地上へと視線をめぐらせ、不審なものがいないかどうかを探す……と。



「……るさない」

「さくらん?」

「許さない……私から……そんなの、ダメ……よくも、よくも、よくも……!」



 うわ言のように言葉を発する桜へと視線を向け―――思わず、背筋が粟立った。

彼女の瞳は、いつだったかのように酷く暗い光を宿していたのだ。

そして次の瞬間―――突如として、地上が火の海と化した。



「うひょぇいッ!? ちょ、さくらん! 落ち着きぃ!」

「皆、私から奪う……んなの、ずるい……わたしは、そんな……ッ!」



 いづなの悲鳴と抗議も聞こえていないのか、桜はブツブツと恨み言のような言葉を呟き続ける。

そんな彼女の体は、小刻みに震えていた。

これは……まさか、恐怖?



「ッ、落ち着け桜!」

「は……ぁぅ……?」



 ならば、とオレは左腕に抱えていた桜を胸に抱き寄せた。

こいつの暴走は怒りと言うよりも、仲間を失う事への恐怖から発生していたのだろう。

失う事を恐れるあまり先程の精霊の暴走が起こったのだろうが……危険にも程がある。



「オレ達は誰も死んでないし、死なせない。だから安心しろ」

「ぁ……は、はぃ……」



 オレの言葉が聞こえたのか、桜はようやくその暴走を収めた。

そしてそれに伴って地上を覆っていた炎も消える……どうやら、鉄の塔に影響はなかったようだ。

溶けないようにとフリズが能力で干渉していたのだろうか。



「今回はやばかったわ……せやけど、どうやら敵さんの姿は見つかったようやね」

「む……?」



 いづなの視線を追って地上を見下す。

すると、そこにはオレンジ色の障壁を張る白い両手剣を持った男が立っていた。

その鎧に刻まれた青い龍の紋章からも分かるが―――あれば、グレイスレイドの騎士だ。



「ッ……!」

「領空侵犯とかそういうのがある訳や無いと思うんやけど……どないする?」

「……いきなり攻撃されたとは言え、何かの間違いの可能性もある。それに、グレイスレイドと事を荒立てるのは得策じゃない」

「せやね。でも、警戒は怠らんようにな」



 ゆったりと着陸しながら、いづなと頷き合う。

そして先程見つけた男へと、抜いたままだった景禎を構えながら向き直った。

金髪に緑の瞳を持った精悍な男。

その手に携えているのは白い両手剣……あれからあの攻撃を発したのか?

男はこちらの姿を確認すると―――剣を地面に突き刺してその場から三歩ほど下がった。



「済まない、人が乗っているとは思わなかった! この通り、こちらに攻撃の意思は無い!」

「……こちとら、危うく真っ二つにされる所やったんやけど……どうしてグレイスレイドの騎士さんがこんな所に?」

「こちらとしても色々と聞きたい事はあるんだが……」



 巨大な塔を見上げつつ男は乾いた笑みを浮かべる。

しまったな、ミナの創造魔術式クリエイトメモリーを見られてしまったのか―――と、その塔を見上げていた男の表情が、一瞬で硬直した。



「カレナ、それに聖女様……!?」

「え?」



 男が見上げた先にいるのは、階段を駆け下りてくるフリズとふわふわと浮遊しながら降りてくるミナの姿。

だが、フリズをカレナさんと見間違えた、だと?

それに、ミナが聖女? 一体、どういう事だ。



「……お兄さん。あの子はフリズっちゅーて、カレナさんの娘やで」

「娘……そうか、もうそれだけ時間が経っていたんだったな」



 何やら妙な反応だ。

いづなも不審に思ったのか、若干硬さの混じった声で言い放つ。



「あんさん、何者なんや?」

「……オレの名は、テオドール・ラインだ」

「は?」



 その言葉に、いづなは驚愕と共に顎を落としていた。

当然だろう。その名は、オレでも聞いた事がある。

かつて邪神龍を討伐した五人の英雄。あの迷宮の最下層まで到達した存在。

ジェクト・クワイヤード。

アルシェール・ミューレ。

シルフェリア・エルティス。

カレナ・フェレス。

そして―――テオドール・ライン。

歴史に名を残す最後の英雄にして―――



「じょ、冗談やろ……だって、テオドール言うたら―――」

「ま、無理も無いか。オレ、あそこで死んだんだしな」



 ―――ジェクト・クワイヤードを庇って死んだとされる、あの戦いでの最後の戦死者だった。











《SIDE:OUT》





















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