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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
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66:戦いの予兆

「わたしは、貴方に不屈の意思を教わった」











《SIDE:FLIZ》











 王宮の中を駆ける。

時々出てくる兵士や騎士は、全てリコリスの《光糸ストリングス》が縛り上げてしまっていた。

これ、後々大変な事になるんじゃないかと思うと、物凄く憂鬱な気分になってくる。



「大丈夫ですよ、フリズ」

「ルリア?」

「貴方達に罪を問うような真似はさせません。安心してください」



 誠人に抱えられながら道案内をする王女様―――ルリアは、あたしに笑顔を向ける。

まあ、彼女が言うなら大丈夫なんでしょうけどね。

今はその事は考えないようにしておこう。



「それで、道は?」

「はい、もうすぐ……そこの角を左に曲がって、直進です」

「……あ」

「桜?」



 指示に従って角を曲がった直後、ぽつりと桜が声を上げる。

誠人が疑問符を浮かべると、桜は走ったまま虚空を見上げつつ声を上げた。



「お姉ちゃん、です……ちょっと、慌ててる……」

「さくらん、代われる?」

「はい、では……」



 どうやら、椿が近くに来ていたらしい。

いづなの指示に頷いた桜は、走りながら器用に髪を解き―――



「―――やはり、煉はいないか」



 その視線を、鋭い物へと変えた。

一瞬で変わるから何だか分からなくなりそうだけど、椿になったみたいね。

でも、椿も煉が連れて行かれた事を知っていた?



「つばきん、そっちでは何があったん?」

「会議室にいた数名が、アルシェール・ミューレの転移を感知した。ジェイ曰く、自分の力だけで邪神を倒そうとしている、だそうだ」

「っ……どうして会議室の中の事を知っているのかは、今は聞きません。ですが―――邪神が復活しようとしているのですか!?」

「む……まだ確定ではないらしいが、十分考えられる可能性だそうだ」



 ルリアが発した言葉に、椿は頷く。

初めて見た顔に、いづなに向けて『誰だこいつは』みたいな表情を向けてるけど。

そんな視線に、いづなは肩を竦める。



「フレンドリーな王女様や」

「何? ……いや、成程。確かにそうか」



 一瞬驚いたように目を見開くが、椿は納得したように頷く。

恐らく、ルリアの髪と目の色を見てそう判断したのだろう。

蒼銀は、本来この国の王族しか―――いや、王族でも中々手に入らない特徴だからだ。

だから、この国ではこの特徴の子供が生まれるまで子供を作るらしい。

ルリアも第二王女、数にして五番目の子供。これでも結構早い方だそうだ。



あの・・話では、我々も邪神とは関わらなくてはならない……だが、煉一人では分が悪いだろう」

「とは言うても、煉君以外に邪神に通用する武器を持っとるのはおらんのやけどな」

「それでも、あいつだけに戦わせる訳には行かないでしょ」



 そもそも、アルシェールさんは何考えてるのよ!?

あいつを連れて行っておいてジェイを連れて行かないなんて……一体、何を考えてるの?

煉よりはあの男の方が遥かに勝算があるでしょうに。



「……ともあれ、会議室に行くのだろう? もうすぐそこだ」



 椿が視線を向けた先、T字路になってる廊下の正面にある扉。

後もう少し―――しかし、その扉を塞ぐように両側から兵士達が現れた。

さらにはあの連中、何を思ったのか抜剣し始めたのだ。



「……しゃあないか」



 いづなが刀に手を掛ける。

真っ向勝負で負けるとは思わないけど―――変に足止めを食らって捕まりでもしたら、王や公爵を問い詰める事は出来なくなるし、ここで止まる訳には行かない。

ならば―――少々不本意だけど、ネームバリューを使わせて貰うわよ!



「邪魔をするなッ!!」



 能力を発動させる。

あいつらが持っていた剣の、刀身の分子を加速させる。

真っ赤に赤熱して熔けた剣が地面に着く前に再び冷やしつつ、あたしは動揺した連中へ向けて叫び声を上げた。



「カレナ・フェレスの娘、フリズ・シェールバイトの前に立つのがどういう事か―――分かってんのかアンタ達はッ!!」

「な……っ!?」



 ただでさえうろたえていた兵士達が、その言葉で更に動揺する。

英雄の娘が相手となれば、連中だって動揺せずにはいられない。

相手は、視線だけで人を殺せる能力を持った人間。その強大な能力は、全世界に響き渡っているのだから。



「退けぇッ!!」



 再び、気迫を込めて一喝。

それに押されて道を明けた兵士達の横を通り抜け、あたしは半ば体当たりするように会議室の扉を押し開けた。

中にいる人間は多くない。公爵と、門の前で会った姉弟、それに見た事のない人達が何人か。

正面にいる人は、その髪や瞳の色から見ても国王に間違いないだろう。

そんな室内が、騒然となる。



「何事だ、兵士達は何をやっている!」

「―――お父様」



 と、そこで地面に下ろされたルリアが割り込んだ。

とても子供とは思えない意思の篭った視線で、父親―――国王の事を真っ直ぐと見つめる。



「先程、『大魔術師グランドマスター』アルシェール様が現われ、わたくしの友人を連れ去って行きました。

何が起こっているのか、説明していただけませんか?」

「ルリアロス。私は庭園にいろと言った筈だが?」

「答えになっていませんわ、お父様。何故わたくしの友人が連れ去られなければならなかったのですか」



 巻き込みたくないのか、不安にさせたくないのか―――王からは拒絶の意思が伝わってくる。

けれど、ここで止まる訳には行かない。


 周囲の様子を観察する。

ジェイとリルの姿は何故か無く、リンディーナとか言うあの人は地面に座り込むような姿勢で、肩で息をしている。

それ以外の人たちも、何処と無く慌てたような雰囲気……やっぱり、邪神の話?

アルシェールさんが動いたから、その話に信憑性が出てしまった?

でも、何でジェイがいないのか―――



「……《転移テレポート》やね」

「え?」

「あのアルシェールさんの娘言うなら、あの魔術式メモリーぐらいは使えるやろ。

ジェイさんはそれで例の集落とやらへ転移させて貰ったんや」

「……っ、鋭いわね、貴方」



 苦しそうな表情で、リンディーナさんが声を上げる。

そんな……それじゃあ、ジェイも煉もアルシェールさんも、皆グレイスレイドまで行っちゃった訳!?



「……お父様」

「ミナ、レン君が連れ去られて動揺していたのだろう?

気持ちは分からなくもないし、王女殿下の事もある。今回は不問とするから、彼らと一緒に―――」

「ダメ……このままだと、ダメなの」

「何……?」



 公爵の言葉に、ミナは首を横に振る。

確かに、このままだとエルロードの言葉を果たせない。

ゲームだなんて言葉は気に入らないけど、負ければあたし達は生き残る事が出来ないのだ。

と―――そこで、いづなが小さく笑みを浮かべた。



「一か八かやけど、ちょうどええ機会や……つばきん、まーくんに憑依し!」

「何?」

「《未来視》の強化……今なら、試してみる価値があるやろ」

「《未来視》……? 娘よ、そなた等にはそのような力があるのか?」



 その言葉に食いついてきたのは国王だった。

正直、ここでこうやって立っているだけでも不敬なんだろうけど……王は気にした様子も無くいづなに問いかける。

その言葉に、いづなは小さく頷いた。



「本当ならそんな先の事は見えへん筈なんですけど……もしかしたら、力を強化できるかもしれへんのです」

「ならば、この先の事―――邪神が復活するかどうかも読めるというのか?」

「王!」

「よい。ルリアロスも、どうやら邪神の事に関しては想像が付いているようだからな」



 本当はあたし達が喋っちゃったからなんだけど、まあ言わないでおこう。

とにかく、王様の許可まで貰えたのだ。

いづなの視線を受け、椿は頷きながら目を閉じる。

リンディオとか言う人がその様子に驚愕の声を上げていた―――幽霊の状態の椿が見えるのね、彼。

あたしには見えないけれど、そのすぐ後に誠人の様子が変わったのが見て取れた。

そして、誠人―――いや、椿が声を上げる。



「……本来ならば、ワタシの《未来視》はそんな先の情報を読み取る事はできない筈なのです。

だが、今ならもっと先の事、そしてもっと離れた場所の事を読み取れる筈―――」

「……頼んだで、つばきん」



 椿は頷き、目を閉じた。

正直、エルロードが言っていたルールが本当に合っていると言う確証は無い。

ルールだと言っている以上は合っていると言う前提で話を進めるしかないのだ。

そして、誠人と椿の《欠片》が同一の物だと言う確証もない。

憑依すれば《欠片》を触れ合わせる事になるの? 本当にそんな先、そんな遠くの事を読み取れるの?

確証は、何も無い―――


 ―――思考に、ノイズが走る―――


―――けれど、あたしには何故か確信があった。


 そして、皆の視線が集中する中、椿が静に口を開いた。



「……砂浜。緑色の血液。魔物の残骸。海に浮かぶ巨大な門。翼と槍の魔獣。

黒く染まった海。巨大な破壊の爪痕。そして―――ぐっ!?」

「お姉ちゃん!?」



 突如として、椿が身を捩って咳き込み始めた。

崩れ落ちそうになるその身体を、いづなと桜が両側から支える。

能力を使いすぎた? それとも、何か別の―――あたしが問いかけようとしたその瞬間、椿は歯を食いしばりながら机に拳を叩きつけた。

人造人間ホムンクルスの身体能力は容赦なく振るわれ、頑丈そうな机の表面を陥没させる。



「……邪神は、復活する。無数の眷属達と共に。そして……煉は、その槍に貫かれて死ぬ」

「―――ッ!!」



 視界が、揺れる。いや、あたしが揺れたのか?

気付けば、あたしは部屋の壁に背中を預けていた。

あいつが……死ぬ?

勝手に連れ去られて、それで殺されるって言うの?

そんなの―――



「絶対に、ダメ……!」



 その小さな呟きに、はっとして目を見開く。

その言葉は、他でもないミナの物だった。

いつものような無表情ではなく、強い意思の篭ったその目線。

自分の命よりも大事にしているあの杖を握り締めながら、ミナは呟く。



「……いづな、お願い」

「分かっとるよ。うちら同盟は、決して仲間を見捨てたりせぇへん。

放って置いたら死ぬって分かっとるんや。このままなんて、うちが絶対に許さん!」



 バン、といづなは強く机を叩く。

その音に、固唾を飲んでこちらの様子を見つめていた人々が、びくりと身体を振るわせた。



「これを信じる信じないはそっちの自由や。信じて戦う準備をするんも、信じんで後悔するんも勝手にすればええ。

せやけど、うちらは行く。うちらの仲間が殺されるんを、黙って見とる訳にはいかん!」

「待ちたまえ。そんな危険な場所にミナを連れて行くつもりか」



 その声を上げたのは公爵だ。

気持ちは分からなくもない。自分の娘がそんな死地に飛び込んでゆくのを黙って見ている父親はいない。

けれど―――いづなは、そんな『父親』の前で啖呵を切る。



「当たり前や! 危険な場所に飛び込んで行くのを承知でジェイさんにミナを預けたのはあんたの判断やろ!

それとこれの何が違う! 今ここにいるんはあんたの娘のミーナリアやない、うちらの仲間のミナや!

自分の判断なら、最後まで責任持ちぃ!」

「ッ……!」



 その視線に篭る気迫に、あたしだけではなく、歴戦の勇士である公爵までもが押される。

それだけ、いづなは本気なのだ。この同盟へ、いづなは本気で関わっている。

当たり前だ。懸かっているのは自分の命、そして仲間の命なのだから。



「リンディーナさん、やったね。うちらの事、ジェイさんと同じ所まで転移させる事は可能ですか?」

「……無理よ。魔力が回復しないし、そんな大量の人数を一気に飛ばすのは無理」

「了解や。ほんなら、大至急ゲートまで戻るで」



 言って、いづなは踵を返す。

ゲートまで戻れば、確かにファルエンスまで転移する事は出来る。

けど、その先はどうするつもりなのかしら。

とにかく、あたしもいづなの背中を追いかけ―――



「く……くはははははっ!」

「……?」



 突如として響いた笑い声に、いづなは振り返った。

みれば、何と国王が腹を抱えて笑っている。



「……何か?」

「いや……ジェイの奴、思ってたより面白い奴を身内に引き込んでいたんだなと思ってな。

邪神に通用する力を持つガキってのも興味があるが、中々いい人材が揃ってるみたいじゃねぇか。

どうだ、この国に仕えてみる気はないか?」

「王! ふざけている場合ではありません!」

「頭が固いんだよ、オルグス」



 ……何というか、軽いわね。国王ってこんなのでいいのかしら?

その様子に、いづなも小さく嘆息しようとして―――それを噛み殺す。

流石に、国王の前でそんなポーズは出来ないか。



「国のトップが軽々しく言うべき言葉やないです。周りを納得させられるだけの理由を見つけてから勧誘してください」

「くく……成程、確かにな。ではオルグス、高速馬車を用意しろ。こいつらをゲートまで送り届けるんだ」

「は、はぁ……」



 送って貰えるのは助かるけど、何でそこまで?

しかも、高速馬車ってかなり高いはずなのに。

そんな表情が出ていたのか、国王は口元に笑みを浮かべたまま言い放った。



「何、邪神が現れるというのなら、その為に利用できるものは全て利用しようとしているだけだ。

目下、最も頼りになるジェイの身内だ、それならば信用するだけの価値がある」

「……分かりました。この場は、有難く受け取っておきます」



 いづなの表情の中にあるのは警戒感。

それを表面に出してしまっているという事は、それだけ余裕が無いっていう事だ。

だから、手を貸して貰えるならば飛びつく他に選択肢は無い。



「……お父様、ルリア」

「ミナ?」

「いってきます」



 ぺこりと、ミナは頭を下げる。

震える手の中にあるのは、きっと様々な不安だろう。

公爵もそれに気付いているからこそ、止めるための言葉を口にする事が出来ない。

言葉を発したのは、ルリアの方だった。



「どうか御無事で、ミナ。また、レンさんのお話を聞かせてくださいね」

「ん……約束」



 二人は向き合って小さく笑う。

そして、ミナもまた踵を返した。

決別とは違う―――束の間の再会から、再び会う約束を交わしただけの事。

普段と変わらないその挨拶。だからこそ、必ず果たそうと願うのだ。



「いこ、フリズ」

「そうね。必ず、煉を助けるわ……いづな!」

「了解や! ほんなら、馬車は城門の前にお願いします! ほな、行くで!」



 公爵の心配そうな視線―――それを振り切るように、あたし達は走って会議室から出て行ったのだった。











《SIDE:OUT》





















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