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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
リオグラス編:異世界の少年と創造の少女
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05:迷宮要塞都市ゲート

「説明役は嫌いなんだよ、面倒で」

「でも、結構上手いわよね」












《SIDE:REN》











 何つーか・・・・・・空気が澄んでるな。

都会の空気とは訳が違う。空気が美味いって言うのはただの表現かと思ってたが、本当の事だったのか。


 ともあれ、やっとの思いで遺跡から抜け出した俺達は、近くにあるという街に向かっていた。



「迷宮要塞都市ゲート、って言うのか?」

「ああ」

「都市なのに、迷宮で要塞?」

「まあ、それには理由がある」



 言って、兄貴は遠くの方を指差した。

そちらには、さっきから俺が気になってたもの・・・・・・天を衝くように逆向きで地面に突き刺さる、銀色の三角錐があった。

傍目から見ても分かるが、あれは人工物じゃない。

あんな物、俺達の世界でも創れるはずが無い。



「あれが突き刺さってる場所の真下には、魔物が無限に沸いてくる迷宮があるんだ」

「無限にって・・・・・・どんな場所だよ?」

「説明が面倒だな」



 いや、そこで面倒がられるとさっぱり分からないんだけど。

俺のそんな視線が通じたのか、兄貴は溜め息交じりに説明を再開した。



「三十年前、この世界は邪神によって滅亡の危機を迎えていた」

「邪神?」

「邪神龍ファフニール・・・・・・その名の通り、巨大な黒い龍の姿をした邪神だ。

奴は強力な魔獣を無数に連れてこの世に顕現し、世界を破壊し始めた。

長きに渡る戦いの末、神の力を借りて奴を地面の底に叩き込む事に成功したんだが、奴はそこを迷宮へと変化させやがった」



 あー、もしかしてあの三角錐が神の力って奴か。

で、その下に広がってる迷宮がその邪神龍とか言う奴の作った迷宮だと。



「おまけに、奴は魔物が湧き出すゲートを無数に開きやがり、迷宮は魔物の温床となった訳だ。

邪神はこの世に存在するだけでも世界に悪影響を及ぼすから、無視する訳にも行かない」

「他の神様は何もしなかったのか?」

「出来なかったんだよ。邪神が破壊した分を再生する為に力を使わないといけないからな。

正神と邪神が世界で振るった力は同じでなければならない。

あの杭を打たせるのにも説得に苦労した。おかげで、世界の一部は破壊されたまま直ってないしな」



 それがその迷宮とか言う所の事なのだろうか?

それとも別に破壊された場所とかがあるのか。

まあとにかく、神様が難儀だって言う事は分かった。



「それでその邪神龍とか言うのはどうなったんだ?」

「世界中から戦士を募り、奴を討ったそうだ。尤も、数十人といた精鋭は、僅か四人しか生き残らなかったらしいがな。

おまけに、その内の一人はその後すぐに死んだし」

「うわぁ・・・・・・」



 悲惨だな・・・・・・元の世界の戦争でも言える事だけど。

ただ、こっちは生き残る為に戦ってるんだよな。それは純粋に被害者だ。



「話が逸れたな。あの都市が何故迷宮要塞都市と言われているかというと、まだ例のゲートが残ってるんだ」

「破壊できないのか?」

「破壊してもすぐに別のゲートが開く・・・・・・何処にそれを生み出している魔術式メモリーがあるのかも分からない。

『邪神の怨念』なんて呼ばれてるな」



 なんて不毛な・・・・・・どうしようもないな。



「で、その迷宮とゲートを見張る為の要塞はそのまま冒険者達の街となり・・・・・・その名前を纏めて、迷宮要塞都市ゲートと呼ぶようになったんだ」

「へぇ・・・・・・歴史は深くは無いけど多いんだなぁ」



 あそこの足元から魔物が湧き出してくるのか・・・・・・見てみたいような見てみたくないような。

小さく唾を飲んで、俺はホルスターの銃に触れてみた。


 この銃は、背信者アポステイトと言うらしい。

詳しい事は分からないが、中々便利で強力な銃だ。


 マガジンを見てみた感じ、装弾数は二十発に見える・・・・・・が。

実はこの銃、威力の調節が出来るのだ。目盛りのようなのが親指を添える辺りについていて、そこで三段階に調節出来る。

一番弱い威力ならハンドガン並み、中くらいならマグナム並み、最大なら何と大砲並の威力を叩き出せる。

まあ、威力の度合いに関しては映画とかゲームとかを見てての予想でしかないけど。


 で、この弾の数が二十発に見えたのは、何と最大威力での弾数だったのだ。

他の威力で言うと、大砲一発がマグナム二発、ハンドガン十発に相当する。

ハンドガンとして撃ってたら相当燃費が良さそうだ。


 しかし残念な事が一つ。弾が切れたら魔力チャージをしなきゃならないんだが、これが恐ろしく金がかかるそうだ。

何とかそれだけの金を稼げるようになるまでは、撃つのはなるべく自粛しなくてはならない。残念な事に。

残るゲージは、両方とも後十七個。計画的に使わなければ。



「まあ、今ではあの都市も、冒険者達の修行の場だ。何せ、討伐系依頼には全く困らない。

この国、リオグラスが他の国から攻められない理由もあの迷宮にある」

「確かに、あんなモンは抱えたくないだろうなぁ」



 しかし、迷宮か。もしかして、下に行くほど魔物が強くなったりするんだろうか。

そう思い聞いてみると、



「よく分かったな。下の方が邪神龍の残した力が強く、『神の槍』の力が及びにくいからな」

「・・・・・・何て典型的な」



 確かに、それなら冒険者の修行としてはちょうどいいのかもしれないが。


 冒険者・・・・・・か。興味が無い訳じゃないんだけどな。

エルロードを探すのに、兄貴に任せると言った所で聞いてはくれないだろう。

依頼すればいいのかもしれないが、生憎とそんな金は無い。


 俺自身が旅に出られるだけの実力を手に入れなければ、俺は元の世界に帰る事は出来ないだろう。

って言うか、神様頼りって言うのも何か不安だ。会えたとして、ちゃんと帰してくれるかどうか。


 まあ、この銃を使ってみたい、魔法を使ってみたいというのもある。

・・・・・・こんなに血の気が多かったのか、俺。



「おい、何してる小僧。置いてくぞ」

「・・・・・・なぁ、その小僧って言うの止めてくれよ」

「ガキの分際で何言ってやがる」

「わふ」



 眠そうに欠伸をしながら歩いていたリルが、この時ばかりは声を上げて頷いた。

畜生、理不尽だ。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











 遺跡から歩いて数時間、ようやく街に着いた。

あんな近くにある遺跡だってのに、よく調査が入らなかったもんだ。

まあ、あの狭さであの魔物の強さだったら分からなくも無いが。



「さてと・・・・・・とりあえず、一端家に戻るぞ」

「え? 家があるのか!?」



 俺の言葉に、小僧が何やら驚きの声を上げた。

そんなに意外か。



「俺はこの街を拠点にして活動してんだよ。わざわざ宿屋暮らしにする意味が無い」

「へぇ・・・・・・そういうモンなのか。冒険者って言うから、もっと放浪してるイメージがあったぜ」



 まあ、それも間違いじゃないんだがな。

家を持てるほどに安定した収入を得られる冒険者は多い訳じゃない。

そもそも、いつ死ぬかも分からん職業の奴らが固定の財産を持つ事はあまり無いからな。


 胸中で苦笑しつつ、俺たちは表通りを歩く。



「・・・・・・なあ兄貴」

「何だ?」

「何か俺たち、注目されてないか?」



 注目されてるのはお前ではなく俺だがな。

若干自意識過剰な気がするな、このガキは。



「傭兵の間じゃ、ちっとは名の知れた人間なんだよ、俺は」

「ああ・・・・・・確かに、兄貴は強いからな」



 頷いてはいるが、どうせこいつはこの世界での基準なんて分かっていなかっただろう。

まあ、これから教えてやればいい話だが。


 とりあえず、周囲のものを指差してしきりに何か聞いてくる小僧を適当にあしらいながら、俺達は居住区の方へと足を進めた。

割とでかい屋敷が立ち並ぶ、高級住宅街だ。

個人的には、こんなでかい屋敷じゃなくても良かったんだがな。


 周囲を見渡しながら呆然・・・・・・というか居心地悪そうにしている小僧を引き連れ、建物の前に立つ。



「兄貴・・・・・・もしかして」

「ああ、ここが俺の家だ」

「・・・・・・金持ち?」

「最高ランクの傭兵の収入を舐めんなよ」



 言いつつ、屋敷の扉を開ける。

それと同時、中から声がかかった。



「お帰りになられやがりましたか、ジェイ様」

「ああ、今戻ったぞ、リコリス」

「わう!」

「ええ、お帰りなさいませ、リル様」



 メイド服を着た、紅いショートヘアの女。

俺の顔を見るなり早速毒を吐いてくれやがったこいつは、俺の後ろに視線を向けて訝しげに首を傾げた。



「ジェイ様、その方は?」

「ああ、こいつはレン・・・・・・エルロードに導かれた人間だ」

「これ以上私の仕事を増やすつもりですか。食い扶持を増やさないで下さい」

「まだ何も言ってねぇだろうが」



 このアマ・・・・・・預かりものじゃなかったら放り出したい所だ。

と―――そんな俺達のやり取りを黙ってみていた小僧が、不意に声を上げた。



「すげぇ、本物のメイドさんだ! 初めて見た!」

「あん? 珍しいか、メイドなんて」

「俺達の世界・・・・・・って言うか、俺達の国だったら本物は見た事無いぜ。

俺達の国ではメイドさんを好きな人は結構いるから、そういう格好してるだけの奴はたまにいるけど」

「ほほう」



 その声を上げたのは、あの毒舌メイド服だ。

ギラリと瞳を輝かせ、小僧の方に視線を向ける。



「と言う事は、貴方はメイド服の素晴らしさが分かる人間でしょうか?」

「勿論だ! 最近変なデザインの奴多いけど、やっぱりそういうゴシックで基本的なのがいいよな!」

「素晴らしい! 貴方はとても分かってますレン様! あそこの駄目主人ジェイ様とは訳が違う!」

「やかましいこのメイド服狂いが」



 この女、何故か知らないが異様にメイド服に執着があるらしい。

俺的には全く理解できず、よく分からんと言ってみたらこの敬意の省き具合だ。

主人に敬意を払わないのはメイドとしてどうなんだオイ。

全く、何だってこんな妙なモンを拾ってきちまったんだか・・・・・・まあいい。今に始まった事じゃない。



「リコリス、戻ってきてすぐだが、出かけるぞ」

「何処へ向かわれるのですか?」

「傭兵ギルドと商人ギルド・・・・・・リル、お前が商人ギルドに行って来い」

「わふ・・・・・・わかった」



 ギルドと言うのは複数存在しており、傭兵ギルドや商人ギルド、魔術ギルドと言うのも存在している。

また、一般には知られていないが盗賊ギルドや暗殺ギルドなど、非合法な連中も存在しているのだ。

まあ、あいつらは教団みたいなものだったが。


 俺たちが今回何故商人ギルドに向かうかと言うと、あそこは魔物の部位を買い取ってくれるからだ。

魔物の部位は薬や道具、武器や防具へと加工する事ができる。

だからこそあの連中は冒険者からそれを買い取り、自分達の商売に利用しているのだ。

討伐系依頼以外で倒した魔物は、あそこに持って行く事が通例になっている。


 今回はケルベロスの牙や皮、クリスタルゴーレムやエンシェントゴーレムの装甲がある。

結構な収入が期待できるだろう。

それでも、メインの傭兵ギルドの依頼量の方が高くなるとは思うが。

魔物を狩ってた方が効率がいいんだったら、傭兵ギルドに人が集まらないからな。



「では私もそちらに・・・・・・」

「いや、リコリス。お前はこっちだ」

「・・・・・・・・・・・・」



 すっげぇ嫌そうな視線を向けてきやがったが、無視。

生憎と、こいつの反応に一々付き合ってやるほど暇ではない。



「小僧を『黒狼の牙』のメンバーに加える。その登録に付いて来い」

「パーティに加える? 何故そんな事を?」

「エルロードを探すって言っている以上は、俺たちと行動する気なんだろうからな。だったら、その方がやり易い」



 どんな話になっているのか分からないのか、小僧は呆けた表情で俺を見上げている。

リコリスはといえば、猜疑的な目で俺の事を見つめていた。

『本当に大丈夫なのか?』とでも言いたいのだろう。

まあ、心配の先は俺ではなくこの小僧だろうが。


 俺は、ギルドランク最上位、Sランクの傭兵だ。

そのパーティに入ろうと近寄ってくる奴はごまんといる。

生憎と、俺は信頼出来ない奴に背中を任せる気にはなれないので、その手の話は全て蹴っているが。


 そんな所に、突然ぽっと出のガキだ。

周囲の反応は目に見えているだろう。

まあ、だからこそリコリスを付けるのだが。



「お前はそいつの護衛だ、リコリス。しっかり見とけ」

「ああ、そういう事でしたか。それならば了解いたしました」



 後は、一度だけ目配せしておく。

少しだけ目を見開いたが、リコリスは小さく頷いた。

さて、と。



「・・・・・・あ、そうだ。リル、ちょっと待ってろ」



 袋の中に魔物の部位を詰めて持って行こうとしたリルを引き止め、俺は一度屋敷の奥へと入って行く。

そして適当に紙とペンを探し出し、そこに商人ギルドへの連絡と言うか依頼を書き込んだ。

適当な封筒にそれを入れ、俺は再び玄関へと戻る。

商人ギルドへの依頼を書いた手紙をリルに持たせ、きっちり渡すように伝えておく。

これで準備は完了だ。



「さてと・・・・・・それじゃ、出発するぞ」



 全員にそう告げ、俺たちは再びこの屋敷を後にした。











《SIDE:OUT》





















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