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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
サムヌイス編:邪神の封印と神のルール
67/196

62:ルール

そして、ついに『彼女』は姿を現す。











《SIDE:REN》











 王都へ出発する前。

少しだけ時間が出来た俺達は、準備が整うまでの間街に繰り出す事になった。

以前来た時と同じく、多くの人々と出店の数々。

そんな光景に、ミナは目を輝かせていた。



「あはは。ミナ、何か買って食べるか?」

「ん……あれ」



 珍しく俺の手を引っ張って歩いて行くミナに、小さく笑みを零す。

ミナはゴージャスな料理で舌が肥えているのかと思いきや、こういうチープな出店の料理が好きだったりする。

ジャンクフード好きって訳じゃないと思うけど……あの時食べたのがそんなに衝撃的だったのかね。



「ミナって意外とああいうのも食べるのね……当たり外れあると思うんだけど」

「フリズもそう思うか」

「まあねぇ」



 俺達と一緒に来ていたフリズは肩を竦めながら同意する。

ちなみに、いづなは例の如く武器屋へと直行し、誠人と桜はそれに付いて行っていた。

何でフリズがこっちに付いて来たのかは良く分からんけど。



「にしても、邪神かぁ。何だかスケールのでかい話になってきたわね」

「ああ。正直、俺たちに何とか出来るレベルじゃないと思う」



 兄貴やアルシェールさんが苦戦するような相手、俺達じゃどうしようもないだろう。

今回は関わらない方がいいと思うんだが……どうなる事やら。



「って言うか、あたし達が付いて来る意味ってあったの?」

「ミナが公爵に会う機会だったからここまでは来たけど、この先も付いて行っていいのかね」

「あたしに聞かれても知らないわよ」



 屋台でクレープを買っているミナの背中を眺めつつ、二人で小さく嘆息する。

まあ、ここに来るまで邪神の話は知らなかったのだから仕方ないけど。

それにしても、邪神か。忌まわしき海の王だっけ?



「フリズ、今回話に上がってた邪神の事、何か知ってるか?」

「忌まわしき海の王? 名を呼ぶ事すら憚られるって言われて、そんな風に呼ばれてるんじゃなかったかしら。

詳しくは知らないけど、二百年以上前に現れて、それでグレイスレイドの南にある海域に封印されたんだったと思うわ。

一般人じゃその程度しか知らないわよ」



 要するに、詳しい話は何も無しか。

それぐらい昔からいるんだったら、俺の銃の威力はかなり高まるだろうけど……正直会いたくはないな。

封印されてるだけって言うのがなんとも不気味だけど。



「封印するしか出来なかったのかね」

「さあ? ジェイみたいな人がいなかったんじゃない?」



 まあ、倒せてるんだったら倒してるか。

でも、邪神を倒した事のある兄貴だったらきっと何とかできるはずだ。

不死身になってより強くなってる筈だし。



「災害みたいな物よね、邪神って。向こうから勝手に現れて蹂躙していくんだから」



 肩を竦めてフリズはそう呟く。

言いえて妙だ―――そう言おうとし、しかしその言葉は遮られた。



「―――それは、抗えないと言う事?」



 他でも無い、ミナの言葉によって。

視線を向けた先にいるミナは、いつも通りの無表情。

しかし、いつものぼんやりとした雰囲気を圧倒する、巨大な威圧感を湛えていた。

思わず息を飲み、二人で彼女の姿を凝視する。



「『邪神』は、二千年前から繰り返されてきた。人は、それから抗う事で生きながらえてきた。

だから抗う事をやめた時こそ、人間の最期」

「ミ、ミナ?」



 普段と違うその雰囲気に、フリズが頬を引き攣らせながらそう問いかける。

しかし、ミナは調子を変えぬまま声を上げた。



「邪神を滅ぼしても新たな邪神が現れる。この世界が天秤として成り立っている以上、それは絶対のルール。

神と同じ数だけ、邪神が存在してしまうから」

「……ミナ、どうしてそんな事を知ってるんだ?」

「勉強した」



 俺の問いかけに、ミナはポツリとそう答える。

一応、質問には答えてくれるのか。しかし、どうしたんだ?

いつもと様子が違う―――こんな様子のミナは初めて見た。



「邪神を全て滅ぼすならば、同時に神も滅ぼさなくてはならない。

けれど神を滅ぼせば、この世界は法則を失い崩壊してしまう。

故に、邪神は現れ続ける。僕らの世界に定められたのは、滅びの運命」



 『僕』?


 ぞっとするような感覚が背筋を駆け抜ける。

先程まで、つい数秒前まではミナだった筈だ。

けれど、違う。こいつは、ミナじゃない。


 口元を歪めて嗤っているこいつ・・・は、ミナでは有り得ない!


 ―――違和感が、周囲を満たす。

世界が乖離して、喧騒に包まれていたはずの街並みには俺達だけが立っていた。

そして、目の前に立っていたのは―――翠の髪のミナではなく、白い髪の少女。



「資格を得た者よ、初めまして? それともまた会ったね、かな? 僕の事は知っているだろう?」

「ッ……アンタ、まさか」



 白い髪、簡素なシャツとジーンズ、それにナップザック。

一見するだけでは、ただの旅行気分の少女だ。だが、彼女の存在はそんな程度の低いものでは無い。

俺を―――いや、俺達をこの世界へ導いた張本人。

《旅人の神》……エルロード。



「ようこそ、マヨヒガへ。僕は君達を歓迎するよ、《欠片》の少年少女たち」

「お前……ッ!」



 背信者アポステイトを抜き放ち、エルロードへと向ける―――が、彼女の姿はその一瞬で消え去っていた。

―――とん、と何かが背中に当たる。



「ッ!?」

「怒り易いが計算高いのが君だろう? あまり感情的に武器を振り回す物じゃないよ」



 エルロードは、いつの間にか俺の背に自分自身の背中を預けて立っていた。

ぞっとするような感覚、それを振り払うようにこの神を押し返そうとする。

が、彼女はまたしても俺の傍から姿を消し、そして元々立っていた位置へと移動していた。



「あまり邪険にしないで欲しいな。僕は、君達にルールを教えに来ただけだよ」

「ルールって……アンタ何様よ!? ゲームでもやってるつもり!?」

「何様って言われても、神様だけどね。まあ、ゲームと言えばゲームだよ」



 口元を歪めながら、エルロードは嗤う。

両手を広げながら、彼女は言い放った。



「先程も言った通り、この世界は常に滅びの危機に瀕している。

神が存在する以上は邪神が存在し、そして邪神は常に世界を滅ぼそうとしてくる。

この二千年の間は神の傀儡デウス・エクス・マキナ達が頑張ってくれたけど、今回は君達に頑張って貰おう」

「何を言ってるんだよ、お前は!」



 ゲーム、それにルールだと!?

こいつは、この世界で遊んでいるとでも言うのか!?



「怒る気持ちは分からなくもないけど、生き残りたいのならば乗るしかないよ?

乗らなければ、この世界ごと君達が滅ぶだけだ」

「アンタ……!」



 こいつが俺達をこの世界に呼び込んだのは、これが目的なのか?

俺達を使ってこの世界でゲームする事が?

あるいは最初から後が無い状況に追い込んで、この世界を救わせる事?

それとも、他の何かが―――



「君達は僕の指定した七つの《欠片》を集めた。神の傀儡の力を借りてね。

これがゲームをスタートする為の条件だったんだが、まあここまではいいだろう」

「七つの《欠片》……まさか、俺達の《神の欠片》の事か?」

「その通り。そして条件を満たしたから、ここで《欠片》のルールを教えよう」



 ニヤニヤと笑いながら、エルロードはそう口にする。

条件も何も、俺達が集まったのは偶然―――いや、本当にそうなのか?

俺がミナと出逢ったのはこいつの存在があったからだ。

まさか、俺達全員の出逢いもこいつが仕組んだ事なんじゃないのか?


 そんな俺の疑念を他所に、エルロードは笑みを消さず、右手の人差し指を立てながら続ける。



「《欠片》のルールその一。《欠片》同士は互いに干渉し合う」

「干渉……?」

「互いが互いを刺激し、《欠片》の力を徐々に強めてゆく。心当たりがあるんじゃないかな?

例えば―――ミーナリアの力が、徐々に強まっている事とか」

「―――ッ!」



 そうだ、ミナの感情を読む力は、俺と出会ってから強まってきている。

俺の力は確かめていないが、他の皆は……?



「ルールその二。同じ《欠片》は複数存在する事もある」

「……あたしと、お母さんの事?」



 確かに、フリズとカレナさんの力は同じ物だ。

しかしエルロードの言い方だと、二人の《欠片》は別の物なのか?

フリズが力を手に入れたのは偶然? それとも―――



「ルールその三。同じ《欠片》は、触れ合っているとより強い力を発揮する」

「……?」



 これは良く分からない。《欠片》が触れ合う?

どういう風にしたら触れ合った状態になるのだろうか。

そもそも、同じ《欠片》なんてフリズとカレナさんしか知らないし、確かめようにもどうした物か分からない。


 俺達が押し黙っているのを見つつ、エルロードは笑みを浮かべたまま続ける。



「現時点で君達に教えられる《欠片》のルールはこれだけだ。

残る二つのルールは君達にはまだ早い。世界の生誕と二千年前の真実を知ったなら次の一つを教えよう」

「……最後の一つは?」

「それは隠しルールだ。条件を教える事は出来ない……気付いた時・・・・・には満たしている条件だからねぇ」



 クスクスとエルロードは笑う。

くそ、こいつ本当にゲーム感覚で楽しんでやがるな……!



「《欠片》のルールはこのぐらいで……それでは、君たちが成すべきゲームのルールを公開しよう」



 ぱちんと、エルロードは指を鳴らす。

その掌の上に現れたのは天秤。それを俺達へ向けて示しながら、エルロードは歪んだ笑みを浮かべる。



「世界のルールその一。この世界には神と邪神が存在している。その数は等しくなければならない」

「……リオグラスの主神フェンリルと、グレイスレイドの主神ミドガルズ。そして、エルロード。

それだと、三体の邪神が存在しないといけない筈じゃない」

「忌まわしき海の王と、姿を現していない邪神。これがフェンリルとミドガルズに対応する邪神だ。

僕には既に専用の邪神がついているから問題は無いよ」

「いや、問題でしょ……」



 表情を変えぬまま言い放ったエルロードに、フリズは頭を抱えながらそう呻く。

三体も邪神がいたらどうしようもないような気がするんだが。

エルロードは笑みを消さぬまま、小さく肩を竦めて見せた。



「僕に対応する邪神は悪さをしない子だからね。放っておいても問題は無いから安心するといい。

まあ、一度人間の文明を滅ぼしてはいるけど」

「いや、それの何処を安心しろって言うんだよ」

「悪さはしないって言っているだろう?」



 その邪神とやらは、古代の文明を滅ぼした張本人か何かなんだろうか。

敵にならないのならばそれに越した事は無いが、気をつけておかなければならない。



「世界のルールその二。顕現した邪神は世界を滅ぼそうとする」

「……それは、そうだな」



 邪神龍は世界を滅ぼそうとしていたと言うし、そうじゃないなら脅威では無いだろう。

邪神を滅ぼさなければならない―――だが、倒しても次の邪神が現れる。

イタチごっこじゃねぇか、そんなの。



「世界のルールその三。神が滅びると、世界の法則が崩れてこの世界は存在出来なくなる」

「……」



 フリズは沈黙したままその言葉を聞いていた。

神が滅びるとか世界が崩壊するとか言われても正直イメージできないが、とりあえず拙い事態なのは確かなのだろう。



「これらのルールを踏まえた上での、君たちの勝利条件は……この世界を崩壊させる事無く、『邪神・・』を永久に葬り去る事だ」

「な……不可能じゃねぇか、そんなの!?」



 ルール上で既に破綻している。

神が存在する以上、邪神はいくらでも出現する。

邪神の出現を止める為に神を殺せば、世界は存在する事が出来なくなる。

これらのルールが生きている以上、その勝利条件を満たす事は不可能だ。


 こいつは一体、俺達に何をやらせたいんだ?

そのゲームとやらの為に、俺達をここに呼び寄せたのか!?



「あまり慌てない事だよ。君達はまだ情報を全て得ている訳では無いんだ。

天秤システム・ライブラトリーを等しく釣り合わせる為の方法は、必ずどこかに存在する」

「ッ……なら、敗北条件は何だ!」

「―――君達が負けたと思った時こそ、君達の敗北の瞬間だよ」



 エルロードは嗤う。

残酷なゲームマスターは、俺達へ敗北必至のゲームを叩き付ける。

勝手にこの世界に叩き込んだくせに―――!



「……上等だ」



 ぎり、と歯を食いしばる音が響く。

目の前の神へ、その威圧感を弾き返しながら最大の殺意を叩き付ける。



「絶対に、テメェに勝ってやる。俺達が勝った時は覚悟してもらうぜ、エルロード……!」

「ふふふ……楽しみにしているよ」



 この世界が滅べば、俺達だって生きてはいけないだろう。

勝手に呼び出されたこの世界で、勝手に殺される?

冗談じゃない。それならば、たとえどれだけ不利なゲームであろうと勝ってやる。

俺のその表情を見届けたエルロードは―――その笑みを浮かべたまま、姿を消した。

瞬間、消え去っていた筈の人々が再び現れ、世界は元通りの喧騒を取り戻す。


 戻ってきた……のか?



「―――レン?」

「あ……ミナ?」



 ふと気が付くと、ミナが目の前に立っていた。

俺の隣には、周囲をきょろきょろをと見回すフリズの姿。

フリズもあれを覚えている……やはり、白昼夢を見たとかいう事ではないようだ。



「あれは……」

「レン、どうしたの?」

「いや……何でもない」



 そういえば、ミナはなぜあの場所に呼ばれなかったんだ?

あの時、奴はミナに化けていた……いや、まさかな。



「煉、さっきのは……」

「ああ、覚えてる……皆と相談した方がよさそうだな」

「ええ、そうね……こりゃ、結構深刻な事態だわ」



 七つの《欠片》と、奴は言っていた。


 九条煉―――《他者の意思の篭った魔力の拒絶》

 ミーナリア・フォン・フォールハウト―――《感情の受信》

 フリズ・シェールバイト―――《分子振動の制御》

 神代誠人―――《超直感》

 霞之宮いづな―――《無機物の情報を読み取る》

 雛織桜―――《超霊媒体質》

 雛織椿―――《未来視》


 恐らくは、この七つ。

奴の言っていた事は、俺達七人全てに通じる話の筈―――


 ―――思考に、ノイズが走る―――


―――無視はできない。何か直感じみたものが、俺達にそう告げている。



「ミナ、行こう。皆と合流する」

「……ん」



 頷いたミナの手を引いて、少しだけ駆け足で歩いてゆく。

と―――ふと、ミナの小さな声が耳に届いた。



「まだ……足りない」



 その声に後ろを振り向くと、ミナは俺達が先程までいた方を眺めている所だった。

その辺りには、まだ見ていない屋台がいくつか。

もう少し時間が取れればよかったんだけどな……まあ、王都まで行けばまた何かあるかもしれない。

その時にまた何か買ってやるか……とりあえず、今は後回しにするしかない。


少しだけ申し訳なく思いつつも、ミナの手を引いて俺達は歩いて行った。











《SIDE:OUT》





















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