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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ゲート編:迷宮探索と霊媒少女
59/196

55:救出作戦準備

全て偽善。自分の為に、人を救う。












《SIDE:FLIZ》











 先程の救出作戦を終え、あたし達は一旦地上に戻ってきていた。

本当ならさっさと次の階層に潜って、捕まった人達を助け出したい所だったけど、そういう訳にも行かない。

やらなきゃいけない事が多すぎる。



「うおっ!? 何やってんだお前ら!?」



 と、そうあたし達に声をかけてきたのは、迷宮の入り口で警備みたいな事をしてる兵士のうちの一人だった。

あたしたちが初めてここに来た時と同じ人物で、メガネの方は目を見開いて驚いている。



「やー、ちょうどよかったわ。ちょっと服みたいなもんあらへん?」

「い、いや……それよりも、これはどんな状況なんだ?」

「ゴブリンに捕まってた人達を助けただけやで?」

「……驚きましたね。かなりの数がいたのではありませんか?」



 まあ、実際かなりいたんだけど。

それでも、結構有利に戦う事が出来たはずよね。


 あたし達が助け出した人たちの数は五人。

みんな冒険者で、迷宮を探索している最中にあいつらに負けて捕まったとか。

男の仲間は殺されたのか、或いは逃げ出したのか……どっちだかは分からないけど、彼女達は話したがらなかった。



「とりあえず、体が覆える程度のモンでもええから、何か無い?」

「ま、まあ毛布ぐらいでしたら」

「んー、まあしゃあないか。ギルドまで行きゃ、保護してもらえるやろ……さて、皆」



 兵士の人に毛布を取りに行って貰いながら、いづなはあたし達の方へと振り返った。

その眼の中にあるのは、普段とは違う真面目な色だ。



「うちらの次の目的は、15~19階層につかまっとる生存者の救出になる……それに関して、異論は?」



 一瞬、誰か反対意見を言うかと思ったけど―――事の他、誰もそれを口にする事はなかった。

あたしに遠慮してるって訳じゃないと思うんだけど……どうなのかしら。

まあとにかく、今後の方針に関してはそれで決定のようだ。



「ほんなら、それ相応の準備が必要やね。まず、今回は目的の階層の地図を購入するんや。

あらかじめ地形が分かっとった方が有利やからね。

それから、簡単にでも治癒系の魔術式メモリーを覚えといたほうがええやろ」

「ああ、それだったら桜が使えるぞ。ワタシには使えんが」

「了解や。ほんなら、怪我人の対応はさくらんに任せるで」



 そういえば、桜ってタイプとしては魔術式使いメモリーマスターなのよね。

幽霊操ったり精霊操ったりするのの方がイメージ強くて忘れてたけど。



「さて、次の作戦を行うに当たって、皆に―――特にフーちゃんには覚悟しておいて貰わなあかん事がある」

「……覚悟?」



 煉が首を傾げる。

けど、あたしには分かっていた。

さっきあの捕まった人達の話を聞いた時から、覚悟していた事だ。



「とてもやないけど、全員を助けられるとは思えん。既に酷い目にあってる人がいると思う。

既に死んでもうた人やっていると思う。うちらは万能の力を持っとる訳や無い。

出来る事と出来ない事がある。せやから、予め覚悟しとき。目の前で誰かが死んでても、判断を誤ったらあかん。

動揺してまえば、他の誰かを助けれなくなってまうかもしれんのや」



 いづなの視線が向いているのはあたしだ。

当たり前と言うか、当然だと思う。この中で最も動揺しそうなのはあたしだから。

でも、大丈夫。



「……あたしだって、万能じゃないわ。ううん、万能なんてこの世のどこにもない。

だから分かってる。あたしは、あたしの出来る限りの事をするだけよ」

「……うん、フーちゃんならそう言うと思ったで」



 小さく笑ういづなに、あたしは肩を竦めた。

本当に、この子はあたしの事を理解してる。

いや、きっと仲間の事は皆理解してるんだわ。ただ、あたしの事は付き合いが長い分詳しく分かってるだけ。

でも―――理解してくれる友人がいるのは、本当に嬉しい事だ。



「ほんなら、行動開始や。うちらに出来る限りの事をするで!」

『応!』



 そして、同盟は再び始動する。

あたしに力を貸す為に。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 傭兵ギルドへは、俺とミナが行く事になった。

あそこでは、俺は既に顔を知られているからだ。

なぜなら―――



「『黒狼の牙』所属、レン・クジョウだ」

「は、はいっ!?」



 俺はまだ、兄貴のパーティの籍を失った訳では無いからだ。

そもそも、パーティって言うのは複数等掛け持ちで登録してもいい物だから、俺みたいな奴がいない訳ではない。

俺のギルドメンバー証には、二つのパーティ名が刻まれていた。

そこで、『最強の傭兵の連れ』という肩書きを持った俺が、ギルドへ赴く事になったのだ。



「迷宮内で魔物に捕らえられていた冒険者を救出した。一時的に、彼女達を保護して貰いたい」

「は、はあ……しかし、ギルドでそのような事は―――」

「兄貴……じゃなくて、ジェイの頼みでもか?」

「そ、それは……し、支部長! 支部長~!」



 別にそんな事頼まれた訳では無いが、ここでは名前を利用させて貰う。

ギルドでは、別に傭兵に対する保証を行っている訳ではない。

と言うより、傭兵達の活動に関しては完全に自己責任だ。


 しかし流石に、こんな一文無しどころか何も持っていないような状態で人を放り出すほど冷血と言う訳でもないだろう。

せめて、着る物ぐらいは用意してくれる筈だ。

支部長……アマンダさんまで話が通れば、多少は考慮して貰えるだろう。


 そう思いつつ、俺はふと依頼ボードの方を見て―――にやりと、笑った。



「レン?」

「ふふふ、いい事を思いついたぜ、ミナ」



 ミナは、他人の詳しい考えまでは読めないから、俺が何を考えているかまでは分からないだろう。

けれど、俺と、不安そうに周囲を眺めている救出した冒険者達を交互に見つめ―――



「ん、レンならできる」



 自信満々に、そう呟いた。

……ホント、ミナは俺の事を信じてくれるよな。

軽くミナの頭を撫でてから、俺は依頼ボードの方へと向かう。

そこに張られている依頼の内容を一つ一つ確認し、その中の一つを手に取り、破り取った。

その内容を改めて読み返している所で、後ろの方から声がかかる。



「前々から興味はありましたが、まさかこんな活動までなさるとは」

「っと……すみません、アマンダさん」



 傭兵ギルドゲート支部の支部長、アマンダさん。

彼女は毛布を羽織っているだけの冒険者達の姿を見つめつつ、小さく嘆息していた。



「それで、彼女達をこのギルドで保護して欲しいと?」

「はい、そういう事です」

「己の力量に似合わぬ場所に行って捕らえられた以上は、自己責任というものでは?」

「まあ、それに関しちゃ反論の余地はありません」



 捕らえられていた冒険者達がむっとした表情を見せるも、否定のしようがない。

彼女達が己の力量を見誤って捕らえられたのは事実なんだから。

けれど、それではこちらも安心して救出作業に移れないってモンだ。だから―――



「―――個人として、ギルドより発行されている依頼を受けます」

「ほう?」



 ピクリ、とアマンダさんは左の眉を吊り上げる。

しかし、驚いた表情では無い。俺がコレを言い出す事を予想していたのか?


 俺が持ってきた依頼は、ギルドから発行された物。

『迷宮第15~19階層にて行方不明になった冒険者の捜索』だ。

ギルドもこの状況を重く見ていたんだろう。

まあ、ひょっとしたらこの間のデュラハンの件と混ざっている可能性もあるんだが。


 とにかく、依頼として受けるのであれば、ギルドには彼女達を保護する義務が生まれる。

依頼を請け負った際のある程度のバックアップは、ギルド側の義務だからだ。

傭兵が全力で、気兼ねなく依頼に向き合う為、ギルドは傭兵を支援しなくてはならない。



「個人で依頼を受ける際のランク制限は存在しない。傭兵はあくまで『自己責任』……ですよね?」

「成程、確かにその通りです」



 先程のアマンダさんの言葉を逆手に取った言い方―――それに、彼女は口の端を少しだけ持ち上げた。

面白い、とでも言いたげな表情だ。



「しかし、その依頼のランクはA。救出と護衛と言うのは、そう簡単な物ではありませんよ?

三つもランクが下の貴方に、この依頼がこなせるでしょうか?」

「ええ、こなせます。彼女たちの存在が何よりの証明だ」



 俺は、救出した女性達を示す。

俺やミナには怪我一つ無く、俺達は彼女達を救出した。

負傷したのはいづなのみ、しかも軽い切り傷程度だ。

万全の態勢で行けば、救出の余裕は十分にある。



「……しかし、驚きですね。貴方に、『無関係の誰かを助ける』なんて考え方があるなんて」

「心外な。目の前で助けを求められて、それでも無視するほど人でなしじゃありません」

「助けを求められて、ですか。果たして誰の助けなのやら」



 ……ホント、この人は色々と見透かしてくるな。

特に反論はせず、俺はじっとアマンダさんの瞳を見つめる。

彼女もまた、それに返すかのように俺の瞳を見つめてきた。

じっと、無言の睨み合いが続く―――



「……まあ、いいでしょう」



 先に相好を崩したのは、アマンダさんの方だった。

彼女は小さく苦笑を浮かべ、声を上げる。



「最初に規則を口にしたのはこちらですからね。依頼の受理を拒否する訳には行きません。

こちらも、バックアップとして要救助者の保護に努めましょう」

「よし……それでは、これから仕事に取り掛かります」



 依頼の受理を許可され、手続きを行う。

これで、作戦前の準備は整った。

具体的な救出計画の方は、いづなが何とかしてる筈だろう。

とりあえず、戻って確認を―――



「あ、ちょっと待って!」

「ん?」



 ギルドから出て屋敷に戻ろうとしていた俺を、救助された女性のうちの一人が引きとめた。

特に誰と名前を聞いた訳ではないので分からないが、オレンジがかったショートヘアの女性だ。

彼女は俺達に対し頭を下げると、懇願するように声を上げる。



「妹を、お願い……連れて行かれたの。必ず助けて……!」



 成程、フリズに頼んだのはこの人か。

正直、面倒な事をしてくれたな、とは思わなくもない。

まあ、助ける事に関しては俺も納得しているので問題は無いんだが。



「あまり期待はしないように、としか言えない。理由は分かると思うが」

「……ええ、それでもよ。生きてさえくれていれば」

「……分かった、最善を尽くそう。その妹さんの名前は?」

「レイラよ……お願いね」



 どういう理由・・でその妹とやらが下の階層に連れて行かれたか、彼女は分かっているんだろう。

そしてどれだけ時間が経ったのかは知らないが、決して無事・・だとは考えられないと言う事も分かっているようだ。

ならば、文句は無い。これで後から何か言われても困るからだ。



「さてと―――」



 面倒な事になったな、とは思う。

だが、俺はこの状況を少しだけ楽しんでいた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











「おー、治った治った! 流石やね、さくらん。色々出来て器用やなぁ」

「いえ……その、頼まれましたし……」



 上機嫌で肩をぐるぐる回すいづなと、ひたすら恐縮する桜。

その対照的な二人を見つめながら、オレとフリズは嘆息を漏らしていた。

これから本格的な戦闘を行わなくてはならないと言うのに、随分と明るい雰囲気だ。


 ゲートに戻ってきたオレ達は、助けた人々を煉に任せ、迷宮のマップを購入して屋敷に戻ってきていた。

とりあえず、必要な要素である桜の魔術式メモリーを確かめてから作戦会議に入ろうと言う話になっていたのだが―――



「ちょっと、いづな。いつまでも騒いでないで、何か分かった事は無いの!?」

「んー……ま、それなりやね」



 とりあえず落ち着いたいづなが、口元に笑みを浮かべつつそう声を上げる。

五枚の地図を広げたいづなは、一本指を立てながら声を上げる。



「これは、ごく最近更新された物や。せやから、比較的正確な情報やと思うで」

「ぁ……牢屋の事、描いてあります……」

「その時に牢屋の中に人がいたんかどうかはともかくとして、今はその牢屋の数やね」



 言いながらいづなが前に押し出したのは、第15階層、第17階層、第19階層の地図。

そこには確かに、牢屋らしきマークが記されていた。

つまり―――



「オレ達が行くべき階層は、あと二つか」

「せや。ただ、問題は―――」



 いづなが、第19階層の地図を示す。

それに関しては、オレも気付いていた事だが……牢が、二つあるのだ。



「第17階層に関しては問題は無いはずや。牢屋前のエリアの広さ的には、むしろ第15階層のほうが広かったんやし。

せやけど第19階層やと、どちらか片方を救出しとる間にもう片方の警備を強化されてまうかもしれん」

「えと……じゃあ、どうするんですか……?」

「ちっと危険な賭けになるんやけど……二手に分かれよう思うんや」



 確かに、そうするのが合理的だろう。

若干危険度は上がるが、万全の態勢の相手に挑むよりはマシなはずだ。

だが、それにはどのような編成にするかと言う問題があるだろう。

いづなもそれは分かっているのか、小さく肩を竦めて話を続ける。



「編成やけど……まず、高い感知能力を持っとるまーくんとつばきんは別々の方がええ……ッ!?」

「ん、どうした?」

「や、ちっと背筋に寒気が……何や、今の?」



 いづなは自分を抱き締めるような姿勢で周囲を見回すが、特に何も見つからなかったのか、嘆息交じりに話に戻った。



「で、煉君とミナっちは、まあどうあってもミナっちが離れるとは思えんから一緒や。そうなると―――」

「……接近戦で高い能力を持つオレが、二人と組むべきか」

「せやね。もう片方は安定した戦闘能力を持つうちとつばきん、そんで最強の能力を持つフーちゃんや」



 いづなと椿が前に出て敵を抑えながら、フリズが能力で敵を駆逐して行くか。

成程、どちらも中々安定しそうな組み合わせではある。



「まあ、不死殺しイモータル・ベインが片側に偏るっちゅー問題もあるんやけど、それはミナっちにホーリーミスリルの短剣でも創って貰えばええやろ」

「そもそも、そんな不死性を持った敵は出てこないだろうしな」

「せやね。ま、油断はせんようにな」



 ふむ……まあ、とりあえずは問題無さそうだな。

地図の上だけでは分からない事も多いが、地形が分かるだけでも違う物だ。

地図の形を暗記し、自分が辿るべき道を覚える。



「ま、詳しい作戦に関しては煉君たちが帰ってきてからやね」

「そうね……ありがと、いづな」

「礼を言われる筋合いはあらへんよ、フーちゃん」



 同盟として協力するのだ。

力を貸すという見返りが確定している以上、礼を言う必要は無い、といづなは言う。

それでも、フリズは礼を言いたいのだろう。


全く―――本当にいい友人同士だな、お前達は。











《SIDE:OUT》





















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