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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ゲート編:迷宮探索と霊媒少女
56/196

52:探索再開

足りない部分を補う、一つの体と二つの魂。











《SIDE:REN》











「ほんなら、こっからまた本格的にスタートやね」



 邪神龍の迷宮、この間の第12階層を越えた第13階層。

白い石で作られた遺跡のような迷宮で、俺達は探索を再開した。

メンバーは普段の五人に加え、桜を加えた六人。

椿も加えると七人になるのか?

彼女の場合どう数えていいのかよく分からないが、とりあえず前よりも戦力が増えたのは確かだ。



「さくらん、事前に打ち合わせた事、出来そうなん?」

「……大丈夫、です。霊たちは……まだ、私に友好的みたい、です」



 このアンデッドが多発するこの階層では、桜を連れていれば襲われないのではないか。

その考えは憶測の域を出なかったんだが、力を操れるようになった桜にはそれが可能となったらしい。

実際、近くにいたスケルトンが俺達の方に寄って来ようとしていたが、桜の姿を見ると武器を下ろしてどこかに立ち去っていった。

その様子を確認し、いづなはにやりとした笑みを浮かべる。



「こら、順調やね。ほんなら、さっさとこのアンデッドの階層をクリアしてまおうか」

「そうだな。まあ、戦わない以上は敵の素材は手に入らないが……」

「下の階層の方がいいものくれるんだし、さっさと行っちゃいましょ」



 フリズの言葉に同意し、俺達は歩き出した。


 いくら襲ってこないとはいえ、魔物の隣を通り抜けるのは結構緊張する。

一応気を抜かないようにしながら、俺達はマップを作成していった。



「うーむ……特に代わり映えせんなぁ」

「形は違うとは言え、パターンは一緒だからな」



 相も変わらず、このフィールドは上下二層に分かれたた古い建物のような造りをしている。

その分マップを作成する手間が掛かり、非常に面倒だ。

まあ、分かりやすく通路は直線になっているから、書きやすいと言えば書きやすいんだけど。



「落ちてるアイテムも冒険者が落としたモン……しかも、この階層じゃ特に貴重なモンも無しや」

「まあ、それは仕方ないだろ。俺達も、まだまだランクは低いんだし」



 一応、ここ数日の探索で、多少は仲間達のランクも上がった。

まず、ミナはFからEランクに、誠人はEからDランクに上昇した。

これは、これまで稼いだポイントをランクが低い二人に集中させた結果だ。

これによってDランクが四人、Eランクが一人と言う事になり、パーティランクもDとなった訳だ。

今回初めて登録した桜が加わった事で、ポイント的にはかなりギリギリだけど。



「まあ、あんまり稼げないのは事実だけどさ……こういう、身元が分かる物は持ち帰ってあげない?」



 言って、フリズが持ち上げたのは傭兵ギルドのメンバー証だった。

ここで死んだ奴が身につけていた物だろうか。

まあ、死んだという事ぐらいは伝えた方がいいのかもしれないけど―――いづなは、小さく肩を竦めて嘆息した。



「迷宮で行方不明になった時点で死亡扱いにされとるよ。それに、生存を信じたい人はそんなん持ってったぐらいじゃ信じようとせーへん。

逆に、こういう所で慈善事業なんぞやっとったら、変に目ぇ付けられるだけや。

冷静やない人の場合、『お前たちが殺したんだろ』みたいな事言うて来るかもしれへんし」

「う……」

「フーちゃんの優しさはええ所やと思う。せやけど、この業界では『甘い』としか言われへんよ」



 ……ま、正論だな。地球の人間が大半を占める俺達のパーティは、ただでさえ目を引く存在だ。

これ以上変に目を引くような行動はするべきではないだろう。人前では。


 フリズも、妙に突っかかるような事は言わない。

正しい事は正しいと理解できるし、自分のポリシーに反しない程度ならば妥協できるんだろう。

そんなフリズの様子に―――いづなは、小さく笑みを浮かべた。



「ま、フーちゃんは甘くてええんや。その分、シビアな判断はうちがする。

助けられるかどうかって話なら、遠慮なく言うてもええんやで。うちかて、助けられるんなら助けたいんや」

「……うん。ありがとう、いづな」



 いづなの言葉を受け、フリズも少しだけ笑う。

俺達は皆デコボコだけど、互いを補う事は出来る。

だから、俺達は同盟なんだ。



「さってと、ほな、どんどん進んでまおう! こんな所にいても辛気臭くなるだけや!」



 いづなは、拳を振り上げながら明るく言葉を口にする。

やっぱ、いづなが纏めてくれると俺達も繋がりやすいな。


 いづなの指示に従い、俺達はこの遺跡の階層を進んで行った。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











 第15階層に降りると、周囲の光景はまたも様変わりした。

先程までの、白い石材で作られていた遺跡は影も形もなく、周囲が岩壁で覆われた洞窟のような場所へと変化してる。

所々に松明が掛けられており、一応探索するのに困らない程度の明度は保たれていた。

この階層の事についていづなに質問しようとし―――思わず、首を傾げる。

いづなの表情は、気が進まないとでも言いたいかのように曇っていたのだ。



「どうした、いづな?」

「あー、うん……この階層、避けようかどうか悩んどった所なんや」

「避けようかって……どうしてだよ?」



 煉も、オレと同じように疑問符を浮かべる。

今まで上から順に攻略してきたと言うのに、何故ここだけ避ける必要があるというのか。

オレ達のその疑問に、いづなは深々と嘆息しながら答えた。



「ここの階層で出てくる奴、ゴブリンやオークがメインなんや」

「うえ……」

「?」



 いづなの言葉に、嫌そうに顔をしかめるフリズと、首を傾げるミナ。

桜もあまりよく分かっていないようだ。

いづなは周囲を見回し、フリズしか状況を理解していない事に気づくと、再び嘆息を漏らす。



「……まあ、何や。一言で言うと、その種族は『女の敵』なんや」

「―――ッ!!」

「?」

「あー、ミナっちは煉君に教えて貰ってぇな」

「そこで俺に無茶振りか!?」



 ミナは分かっていないようだったが、それ以外の全員がいづなの言わんとした事を理解したようだ。

成程、それは確かに避けたい所だろう。こちらとしても、彼女たちに無理強いするつもりは無い。



「どうする? 避けたいのならばそれでも構わないが」

「まあ確かに、神の槍で第20階層まで行ってまえばこの階層については問題無いんやけどな。

その第20階層から魔物のランクが一段階上がるらしいんや。

せやから、ここで実力をつける必要はあると思うんやけど……」

「気が進まない訳か」

「せやね」



 聞けば、この階層で出てくる敵は集団戦を得意とするタイプだそうだ。

狭い空間内で集団を相手にするという事は、オレ達の連携を高める事にも繋がる。

今後、もっと強力な敵を相手にしていく上で、オレ達の連携は必ず必要になるだろう。

確かに、こういう場所で鍛えておく必要はある筈だ。



「……一応、皆の意見を聞いとくで。煉君はどうや?」

「俺は……うーん、難しいな。相手の強さがどんなもんなのか判別できないし」

「あー、せやね。この階層の敵は、うちらなら一対一でも十分相手に出来るレベルや。

まーくんなら問題なく無双出来るレベルやね」

「……そうか」



 ぽつりとつぶやき、煉は口元に手を当てながら沈黙する。

しばし思案して―――煉は、声を上げた。



「俺は、進んでも問題ないと思う。こっちは誠人と椿のおかげで奇襲は受けない筈だ。

しかも、相手が来る方向だって分かる。こちらから待ち受けられれば十分勝機はあるだろ。

最悪、フリズの能力でどうとでもできる……だろ?」

「……まあ、そりゃあね。あいつら相手なら、能力使うのだって渋らないわ」



 吐き捨てるように、フリズはそう告げる。

どうやら、彼女もゴブリンやオークは相当嫌いらしい。



「じゃあ、まーくんは?」

「……索敵と言う仕事をする以上、こう責任が積み重なる場所は気後れするな。まあ、それはいつもの事だが。

十分対処可能である、と言うのは煉と同意見だ。だが、お前たちが行きたくないと言うのならば無理に進むつもりはない」

「そりゃ、俺だってそう思ってるさ」



 取り返しのつかない事であるからこそ、慎重になるのは当然だ。

だが、いつかは足を踏み入れねばならない事でもあるだろう。

これは流石に、判断が難しいな。


 オレの言葉に頷きつつ、いづなは視線を隣に移す。



「んー、じゃあ、ミナっち」

「レンが行くなら、行く」

「や、そーゆー事やなくて……元々あんまり分かっとらんみたいやし―――」

「―――レンが護ってくれる。だから、大丈夫」



 自信満々に、ミナは胸を張ってそう断言した。

あまりと言えばあまりな発言に、隣で煉が頭を抱えていたが。

そしてミナの様子にいづなはきょとんと眼を見開き―――大きく、笑い声を上げた。



「あっはっはっは! せやね、うちの男の子達は皆頼りになるんや!

ほんなら、うちはまーくんに護ってもらおーかな?」

「ぁ……わ、私も誠人さんに……」

「おい」



 いづなに向かって半眼を向けるが、向こうは気にした様子もなく身を捩っている。

バシバシと膝を叩いているいづなに、オレは深々と嘆息した。

そして、桜も何故こいつに同調する。



「ひー、ひー……ほんなら、フーちゃんは煉君か?」

「なっ、誰がこんな奴に―――」

「能力込みならフリズの方が俺より強いだろ。助けなんかなくても大丈夫だって」

「っ―――このアホッ!」

「痛てっ!? 何で殴るんだよ!?」



 何と言うか―――まあ、分かり難いようで分かり易いやり取りを始める二人を尻目に、いづながようやく調子を元に戻す。

その口の端には、先程と同じ笑みが浮かんだままだったが。



「よし、ほんなら進んでみよか」

「……大丈夫なのか?」

「護ってくれるやろ?」

「まあ……それは、そうだが」

「ほんなら、問題なしや」



 どうやら、もう決定してしまったようだ。

まあ、何の確信を得たのか知らないが、いづなが問題ないと判断したのならば大丈夫だろう。

それでも、前よりも責任が積み重なったことに嘆息を漏らす。

と―――



「ぇ……? あ、うん……分かったよ、お姉ちゃん」

「桜? 椿が何か言っていたのか」

「はい……代わる前に、一つだけ……一回、刀を抜いてください」

「む……?」



 理由は分からなかったが、とりあえず言われた通りに刀を抜く。

桜はそっとその刃の腹に触れると、小さく声を上げた。



「……風の精霊、さん。誠人さんを、護って……」



 その呟きが空気に溶けると同時―――景禎が、一瞬だけ緑色の光を放った。

そして次の瞬間、刃を中心として風が渦巻き始める。



「これは……!?」

「お姉ちゃんが、『ワタシが物に宿れるなら、精霊でも同じではないか?』って言って……それで、誠人さんを護って貰おうって……」

「成程……これは、凄いな」



 少し思いつき、刃を軽く振るうと、通路の先の方にあった松明の火が揺れた。

どうやらイメージをそのまま反映できるらしい。

これならば、遠隔攻撃が可能だろう。

と、その様子を見ていたいづなが、興味深そうにさまざまな方向から景禎を眺め始めた。



「ほー、こんな事が出来るんやね。ホーリーミスリルの魔力親和性はかなり高いし、それのおかげなんかな?」

「良く分からないですけど……たぶんそう、です」

「ふむ。こら、ちょっと研究してみる価値はありそうやね。帰ったら色々試してみよか」

「は、はい……えと、それじゃ、お姉ちゃんと代わります」



 言いつつ、桜は右側で結んであった髪を解く。

彼女達なりの儀式のようだが、正直どんな効果があるのかは良く分からない。

まあ、肉体が変わらない以上、一目でどちらか分かるようにしてくれるのはありがたいのだが。



「……さて、ワタシの思いつきも中々役に立っただろう?」



 目を瞑っていた桜の声音が変わる―――椿と交代したのだ。

彼女は左側で髪を結びつつ、小さく笑みを浮かべた。



「同盟を組んで初の戦線がこのような場所とはな。中々にスリルがあっていい」

「今更ながら、ホント性格違うなぁ、二人って」

「分かりやすくていいだろう?」



 しばらくどちらか片方を見ていると、もう片方に変わった時に凄まじい違和感を覚えそうだ。

正直な所、今ですらイメージを修正するのに苦労している。



「所でつばきん、ちょいと聞いてみたい事があるんやけど」

「ふむ、何だ?」

「つばきんって、誰の身体でも乗り移って操れるん?」



 そういえば、椿はいづなの身体に乗り移った事があったか。

ふむ、と椿は呟いてから声を上げる。



「相手が拒まなければ乗り移るのは簡単だ。逆に、拒まれると難しいな。まあ、気付かれないようにやればいいんだが、それには時間が掛かる」

「ふーむ……まあ、簡単に敵を操るとはいかんのやね。ま、それでも結構利用できそうなタイミングは見つかりそうや」

「君は面白い事を思いつくからな。期待している」

「にゃははは。ま、楽しみにしとってや。さて……ほんなら、出発するで」



 すっと、いづなの視線が引き締まる。

いつものふざけた様子を消すと、途端に厳格なイメージが出るから不思議だ。



「隊列をちょっとだけ変更すんで。前衛をまーくんとつばきん。中衛にうちとフーちゃんとミナっち。後衛に煉君や。

索敵に関しては二人の能力を当てにしとるよ」

「フフ、任せてくれ」

「了解した」



 椿の持つ《未来視》は、ほぼ万能の索敵能力だろう。

これならば、この階層でも安全に進んでいく事が出来るはずだ。



「ほな、出発や。くれぐれも、気ぃつけてな」



 いづなの号令と共に、オレ達は第15階層、ゴブリン達の巣食う洞窟を進んでいった。











《SIDE:OUT》





















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