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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ゲート編:迷宮探索と霊媒少女
55/196

51:精霊

「歩く核弾頭やね」

「……言い方は大げさだが、あながち間違いでもないか」












《SIDE:JEY》











 俺の屋敷で勝手に歓迎会なんぞというものを開きやがった小僧共。

まあ、やっちまったモンを言っても仕方ないのだがな。

嘆息交じりに酒を飲んでいた時―――ふと、今回新たに加わった小娘が俺にある事を問いかけてきた。


 今自分に見えているものは何なのか、と。


 しかし、また珍しい奴を拾ってきたもんだ。

二つの魂で一つの肉体を共有し、そのどちらの魂もがエルロードの言う《神の欠片》を保持している。

これほどの力を持つ魂が一つの肉体を共有できると言う時点で信じがたい事だったが……異世界人ってのは皆こうなのか?

嘆息を抑えきれず、最早呆れの領域に至りながらも俺は声を上げた。



「……お前の見ているそれは、恐らく精霊だな」

「精霊、ですか……?」



 サクラとかいうこの小娘は、アルシェの治療を受けて以来、子供の姿をした小さな霊体を見ているという。

正直な話、俺もこの説は信じられないと思っている。

記録上、魔術式メモリーも無しに精霊と交信した人間は存在しないからだ。

更に、森の民であるエルフィーン以外は、精霊とは極めて相性が悪い。

それをヒューゲンが、生身のまま交信しているなど信じられなかったが……そうとしか考えられない状況だ。



「自然霊、意思を持つ自然。言い方は様々あるが、精霊と言う呼び名が最も一般的だな。

自然界に蓄積した生命力―――即ち魔力が、意思を持ち霊としての形をとったもの、とされている」

「この子達が……」



 小娘は虚空を見上げながら呟く。

どうやらその辺りにいるらしいが、生憎と見えないどころか魔力すら感じ取れない。

精霊の持つ魔力は世界の魔力そのもの。

常に空気中に満ちている魔力と同じ物である為、人間にはほぼ判別不能なのだ。



「本来、ヒューゲンには干渉不可能な存在だ。アルシェでさえ見る事は不可能だしな」



 と言うかそもそも、あいつには精霊なんて寄って来れないだろうがな。

まあ、魔術式で精霊の力を利用する位ならできるだろうが。

小さく肩を竦めながら思い出していると、隣から小僧が声をかけてきた。



「なら、無害なんだよな?」

「……一概にそうとも言い切れんな。自然災害ってのは精霊の暴走から発生するもんだ。

例えば竜巻とか、雷とか。まあ、両手で数える程度しか見えてないならとりあえずは問題は無いだろうが」

「あ、はい……大丈夫だと思います……」



 まあ、例え数が少なかろうと、危険な物は危険なのだが―――唐突に致命的なレベルになる訳では無いだろう。

一応リスクを避けるためにも、一から説明しておくか。



「魔術式っていうのは、世界に刻まれた記憶を魔力を用いて再現する法の事だ。

例えばかつて竜巻が起きた記憶を、魔力によって再現し、操る。

そして、そのオリジナルとなる現象は、大抵精霊が引き起こした物であると言われている」

「自然現象を引き起こす、か」



 人造人間ホムンクルスのガキが視線を細めながらそう呟く。

こいつは恐らく、今の状況がどういう事なのかを理解しているのだろう。

小さく、嘆息する。



「間接的ながら、お前は新たな魔術式を作り上げてしまう可能性がある訳だ。それも、世界に負担をかけない自然的な方法で」

「……それって、危ないんとちゃう?」

「ミナの創造魔術式クリエイトメモリーと同じか、或いはそれ以上に知られるべきではない力だな」



 自分で新たな魔術式を作り上げ、それを自分だけで独占しようなどと言う考えを抱く奴が現れるのは想像に難くない。

これも、ミナと同じく公にするべきでは無い力だろう。



「桜、オレ達以外には気付かれないように気をつけろ」

「は、はぃ……」

「……ま、普通は想像もせんだろうがな」



 ヒューゲンが精霊と交信など、普通に考えれば与太話もいい所だ。

不用意に話したりしなければ問題は無いだろう。

さて、それはそれとして。



「一応、精霊との交信の方法は伝えておく」

「ぇ……?」

「そこまで精霊に好かれている場合、お前の感情で精霊が暴走する可能性もあるからな。

そうなりかけた時に、精霊を止める為の方法は必要だろう?」

「うわぁ……」



 引き気味にフリズが呻くのが聞こえてくる。

流石に、感情次第で自然災害を起こすような事は避けるべきだろうからな。

全く以って、厄介な事だが。



「方法としては、リルがお前達に言葉を伝えているのと同じ事だ」

「えと……魔力に意思を乗せて伝える、ですか……?」

「そうだ。ただ気をつけるべきなのは、精霊はお前の言葉を解する訳ではないと言う事だ。

精霊が感じ取るのは、あくまでお前の意思と願い。何をしたいかと言う事を、純粋に願って伝えなければならない」

「願って……」



 人間には難しい事かもしれんがな。

どうした所で、人間には裏側の意思というものが存在する。

精霊はそれすら感じ取り、願いを曲解してしまう可能性がある。



「交信する時は余計な考えを抱くなよ。奴らに人間の価値観は存在しない。

お前が願った事を、最も効率的な方法で叶えるだけだ」

「た、例えば……?」

「そうだな……例えば川を渡ろうとした時、橋が流されていて渡れなかったとしよう。お前の願いは、『向こう側に渡りたい』だ」



 これだけならば問題は無い。だが―――



「その時同時に、『この川が邪魔だ』等と思ってしまったとしよう」

「……どう、なるんですか……?」

「頼む精霊にもよるが、火の精霊に頼めば川を一瞬で干上がらせるかもしれない。

地の精霊ならば川底を隆起させて川を塞き止めてしまうかもしれないな。

氷の精霊なら、遥か先まで川を凍て付かせてしまう可能性もある。

最悪なのは水の精霊の場合だ。その願いを聞き入れるかどうかは分からんが、川の流れを上流で捻じ曲げる可能性があるだろう。

最悪、近くにある村が川に流されるかもしれん」

「そ、そんな……!?」



 ショックを受けたように呻く小娘。

まあ、仕方ない事ではあるが、聞かせておかなければどうなるかは分からない。



「まあ、具体的な方法をイメージして伝えれば大丈夫だとは思うがな。

あまり大雑把な願いを伝えると、方法を選ばずに叶えようとする可能性があるって事だ。

今の場合、水の精霊に対してならば、水の上を歩くイメージを持ちながら願いを伝えていれば問題ない筈だ」

「な、成程……」

「爆弾みたいだな、それ……」



 危険度で言えばそれ以上だろうがな。

本当に厄介なモンを拾ってきたな。

やれやれと嘆息しながら、俺は続ける。



「とにかく、精霊の力を使う時は注意しろ。

そして万が一暴走した時は、何が何でも止まるように意思を伝えるんだ。分かったな?」

「は、はい……」



 まあ、とりあえずこれだけ言っておけば危険は理解しただろう。

後は、使い方さえ注意すればいいだけの話だ。



「まあ、何だかんだ言っても結局はお前の力だ。使用についてはお前に任せる。使うタイミングは見誤るなよ」

「……分かり、ました……」



 危険な力は、使いどころさえ誤らなければそれだけで十分力になるだ。

冷静な判断力さえ身につければ問題は無いだろう。

―――問題は、この自分の意思の弱そうな小娘がそんな力を持っちまってる事だが。

まあ、それは周りの連中が何とかフォローするだろう。



「はぁ……まあ、後でアルシェにも聞いておけ。流石に、俺よりは詳しいだろうからな」

「あ、ああ。分かったよ」



 頷いた小僧に、嘆息する。

厄介な事になったもんだな、本当に。


 しかし、《神の欠片》か……エルロードめ、一体何を考えている?

今回のシルフェリアに対する『忠告』は、間違いなくこの娘の事を言っていたのだろう。


 かつて、《天秤》……神の座と呼ばれる場所に俺達は辿り着いた。

邪神龍に神の槍を打たせる交渉を行う為だ。奴と初めて会ったのは、その時だった。

その時は特にどうこう思っていた訳では無いが、それ以来奴は度々俺達の前に現れると、一方的に『忠告』を言い残して行くようになったのだ。


 奴の忠告に従った結果、俺はミナを見つけた。

そして、あの小僧を拾ったのも間接的ながらそれだ。

聞けば、シルフェリアがあの狐娘やこの小娘を拾った時にも同じような事があったらしい。

掌の上で踊らされている―――そんな感覚が、どうにも腹立たしい。

まあシルフェリアは、拾った連中が研究の役に立っているようだからそれほど気にしてないみたいだがな。



『君の持つ《神の欠片》の力はいずれ必要になる物だ。危険を感じたなら、すぐに離脱する事だよ』



 あの時、奴がカレナに伝えたのはそんな言葉だった。

その時はどういう事か分からなかったが……いや、結局今でも分かっていないな。



「……不吉な奴だ」



 口の中に流し込んだ酒は―――どうにも、美味いと感じる事は出来なかった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











 やれやれ、本当に騒がしいな。

歓迎会も終わり、リビングで倒れるように寝ていたいづなやフリズを部屋に運んだオレは、体を冷ますために屋敷の庭に出てきていた。

ちなみに、煉は起きていたものの半分寝ているような状態で部屋へ戻っていき、ミナはその後ろを付いて行っていた。

明日の朝の騒ぎが何となく読めたような気がしたが、まあそれほど問題は無いだろう。

と―――



「ぁ……誠人さん」

「桜か」



 庭には先客がいた。

植えてある木に背中を預けながら腰かけている桜は、オレの事を見つめて目を丸くする。



「どうしたん、ですか……?」

「いや、少し涼みにな……お前は?」

「私も……です」



 小さく微笑みながら、桜は言う。

どうやら、そうやって笑う事が出来る程度には余裕が出来たみたいだな。

オレ達に牙を剥いたあの時は、本当に余裕がなさそうに見えた。



「怖い……ですか?」

「む?」

「私の、力……」



 桜はそう呟き視線を伏せた。

桜の力―――即ち、精霊を操る力。

下手をすれば、大きな災害すら起こしてしまうような強大な力。



「私は……自分の力、好きになれません……悪霊を引き寄せて、しまうのも……沢山、破壊してしまうかもしれないのも……」

「……」

「私は……怖い、です」



 やれやれ、と嘆息する。

一難去ってまた一難と言うか、どこまでも問題は事欠かないな。

頭を掻きつつ、肩を竦める。



「確かに、怖いな」

「……です、よね」

「だが」



 オレのその言葉に、桜は顔を上げた。

小さく口の端を持ち上げつつ、オレは続ける。



「その怖さを理解しているのであれば、オレは問題ないと思う。

怖いから、軽々しく使おうとは思わない……そうだろう?」

「ぁ……は、はい」



 桜は己の力にトラウマのようなものを抱いているだろう。

それならば、軽々しく力を振るうような真似はしない筈だ。

それに、彼女には目付け役・・・・がいるからな。



「それでも不安な事があるのなら、オレ達を頼ればいい」

「でも、こういうのって自分で何とかした方が……」

「気にする必要はない。それとも、オレ達を裏切るつもりでもあるのか?」

「そんな事ないです!」



 思わず、目を見開く。

突如として出た大きな声に、オレだけでなく本人までも驚いていた。

気まずそうに顔を伏せる桜に、オレは小さく声を出して笑う。



「ぅぅ……ひどい、です」

「クク、済まんな。だが、それならばいくらでも頼ってくれて構わないんだ。

そして助けられた恩を感じるならば、その借りを返してくれればいい。

オレ達はそう言う繋がりだ。さっさと慣れた方がいい」

「……分かり、ました。これからは、頼ります。だから―――」



 桜は立ち上がり、オレの正面に立つ。

少しだけ顔を俯かせ―――そして、オレの事を見上げた。


 ―――酷く、暗い色を宿したその瞳で。



「絶対に、私を、見捨てないで」

「―――ッ! ……ああ、分かっている。オレ達は仲間だ……誰も、見捨てはしない」

「良かった……」



 心底、安心したように桜は笑う。

だが、一瞬見えた背筋が粟立つような暗い瞳―――あれは、何だ?

あれが、アルシェールの言っていた何らかの異常なのか、それとも何か別の―――



「誠人さん……?」

「あ、ああ。何だ?」

「いえ、あの……ボーっとしてた、みたいですから……ごめんなさい、疲れてるのに……」

「いや、問題は無い。そちらも、疲れたのなら休んだ方がいいぞ?

あれだけ眠っていたとは言え、まだ病み上がりだ」

「はい……そう、ですね。ありがとう……誠人さんは?」

「オレはもう少しここにいるつもりだ」

「そう、ですか……では、お休みなさい」



 そう言うと、桜はオレに微笑みながら礼をして屋敷の方へと戻って行った。

その背中を見つめつつ、首の後ろを擦りながらひとりごちる。



「……一体、何なんだ」



 殺気にも似たあの気配。

彼女の様子が豹変した理由は一体何だ?



「……魂の異常、か」



 しばらくは様子を見ていた方がいいのかもしれないな。

すっかり吹き飛んでしまった眠気に辟易しながら、オレは屋敷の中に消えた背中をいつまでも眺め続けていた。











《SIDE:OUT》





















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