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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ゲート編:迷宮探索と霊媒少女
52/196

48:新たなる仲間

それは、世界の真実へ至る鍵。











《SIDE:REN》











 さっきあいつらが出て行ってから、あまり時間は経っていない。

が、あいつらはさっさと戻ってきた。

―――かなり血まみれになりながら。



「おいおい、何があったんだよ」

「何、ちょっとした厄介事だ。もしかしたらまた面倒なのが来るかも分からんがね」

「……リコリス」

「は、警備を強化しておきましょう」



 桜―――いや、今は椿か。

とにかく、彼女の言葉を受けて、兄貴は顔を顰めながらリコリスに指示を飛ばした。


 黒い衣を脱ぎ捨てつつ、椿は嘆息する。



「済まないな、君達には迷惑をかけてばかりだ」

「まあ、確かに色々あったけど……」

「事情があったんやろ? ほんなら、しゃあないって」



 フリズといづなが言葉を繋げる。

その二人の台詞に、椿は少しだけ顔をほころばせた。

フリズが甘いのはいつもの事だが、今回直接被害を被ったいづなまで許してるんだったら、俺は特に言う事は無い。

まあ、問題は―――



「……」

「そちらの彼女には、まだ警戒を解いて貰えないか」



 俺の後ろに隠れたままのミナに、椿は苦笑していた。

やはり、ミナは心を読めないのが怖いらしい。

裏切られる事に対する恐怖が勝っているのか、他の皆が信じると言っても、そうそう信じられるものではないようだ。



「……心が、読めない」

「む?」

「ああ、えーと……兄貴、言っちゃっても大丈夫か?」

「まあ、問題ないだろ。シルフェリアの身内になったんだろうしな」



 兄貴って、シルフェリアさんの事どう思ってるんだかな。

互いに牽制し合ってはいるけど、完全に敵対してる訳じゃないみたいな感じがする。

それじゃなきゃ、シルフェリアさんの身内である誠人やいづなに秘密を話す事を許可しなかっただろう。


 まあ、何はともあれ許可は貰えた。

全部話すにはちょっと早いし、とりあえずだけども。



「ミナには、相手の心を読む力……いや、そこまで正確じゃないか。相手の感情を読む力があるんだ。

けど、桜や椿の感情は読めないらしくて、それで怖がってるんだ」

「ほう、そんな力があったのか……調査不足だったな。しかし、ワタシ達は読めないか」



 俺達を狙ってくるのに、一応は調査してきてたって訳か。

敵にならなくて本当に良かったな。

と、そこで誠人が口を挟んだ。



「ちょっと待て、椿。お前の力も読心ではないのか?」

「え? ちょっと誠人、どういう事よそれ?」



 フリズが首を傾げる。

かく言う俺も理解できない。一体何処からそんな話が出てきたんだ?

そんな俺達の視線を受け、誠人は目を細めながら声を上げた。



「あの時のリビングアーマー、覚えているか?」

「ああ、あいつか。それがどうかしたのか?」

「あのリビングアーマーに取り憑いていたのが、この椿らしい」

「は?」



 一瞬何を言われたのか分からず呆然とし―――そこでようやく、俺は椿が幽霊だった事を思い出した。

こうやって普通に会話してるから、あんまり実感が無いんだけど。


 ともあれ、あの時誠人は攻撃を先読みされている感覚があって、それを読心だと思ったんだったな。

でも、それだったらさっきの椿の驚き方はおかしい。

一体どういう事だろうかと、俺達の視線が椿に集中する。

それを受け、彼女は小さく肩を竦めた。



「……まあ、君達には負い目もある。まだ仲間となりきれている訳では無いが、信用の為に話しておこう。

確かにワタシにも、君達の言う『力』のような物はある。桜の持つ霊媒の力のようにな」

「それは、一体……?」

「ワタシの力は、先に起こる事を直感的に感知する能力。即ち、《未来視》だ」



 その言葉に、俺達は思わず絶句していた。

先程椿は読心に驚いていたが、彼女の力の方がよっぽど凄いのではなかろうか。



「連中は桜の力ばかり気にしていたからな。ワタシはうまく力を隠す事が出来た。

この事までばれていたら、流石に手放そうとはしなかったかもしれないからな」

「成程なぁ……しっかし、うちらって特殊な力持っとるのが多いんとちゃう?」

「それは―――」



 確かに、そうだ。

ミナの読心、正確に言えば《感情の受信》。

フリズの力は《分子振動の制御》。

桜には《超霊媒体質》、そして椿には《未来視》。

俺のは《他者の意思の篭った魔力の拒絶》だとアルシェールさんは言っていた。

まあ、何か俺のだけあんまり役に立たないんだけど。



「でも、誠人といづなに力は無いんじゃないか?」

「そうとも言えんよ。まーくんには人並み外れた、ちゅーかむしろ異常なほど鋭い直感があるやないか。

それに……言っとらんかったけど、うちにも力はあるんやで?」

「えっ!?」



 その言葉に驚いたのは、他でもないフリズだった。

一番知ってそうな奴だったんだけど、フリズでも知らない事だったのか。

そのことに苦笑を漏らしつつ、いづなは続ける。



「うちの力、口では説明しにくいんや。無理矢理言うなら、《無機物の情報を読み取る》力なんやけど」

「……どんな力なんだ、それ」



 よく分からない。

周りを見ても、皆良く分かっていないようだった。

いづなは、再び苦笑する。



「無機物の扱い方が分かる、っちゅう感じかな。刀を打つ時も、何処をどう打てばいいかが伝わってくる。

刀を振る時やって、どうすれば望む結果が得られるかが分かるんや。

この力が無かったら、こんな若造があんな刀打ったり、無拍剣をあっさり極めたりなんて出来るはずあらへん」

「……お前、実家ではかなりの逸材だったんじゃないのか?」

「せやね。まあ、あんな家継ぐ気なんてさらさら無かったんやけど」



 才能の無駄遣いと言うべきなのか、これは?

とにかく、これで全員に力があるって事になるのか。



「……偶然にしちゃ、出来すぎだよな」

「せやけど、偶然以外には説明のしようが無いのも事実や。うちらが出逢ったのは、完全に偶然やで?」



 確かに、その通りだ。

俺達を拾ったのが兄貴とシルフェリアさんだったから、いずれは出会う可能性はあったけど、拾われた事自体が偶然である以上はそれしか説明できない。



「けど、そうじゃなかったら何なんだ? 力同士は惹かれ合うってのか?」

「根拠が無い以上は首を縦に振れないが、それもあるのかもしれないな」



 俺が適当に言った言葉に、誠人が頷く。

冗談のつもりだったんだけど、否定する材料が無いのも事実か。

全く、どうなってんだかな、これは―――



「―――《神の欠片》」

「え?」



 唐突に、兄貴が声を上げた。

俺達の視線が集中する中、思案顔のまま兄貴は続ける。



「かつて、エルロードがカレナの力をそう呼んでいた。同種の力だって言うなら、お前らの力もそれに当たるのかもしれないな」

「お母さんの力の事……それって、どういう事なのよ?」

「さあな。あの時は忙しかったから、詳しく問い詰めた訳じゃない。俺に分かるのは、奴がそういう風に呼んでたって事だけだ」



 《神の欠片》か。

兄貴でも分からない、となると他の英雄の人達でも分からないのか?

アルシェールさんに聞いてみて、それでもダメだったら直接エルロードに聞いてみるしかないのか。



「しかし思わぬ展開だな、こりゃ」

「いいんじゃないの? バラバラだったあたし達でも、繋がりがあったみたいで楽しいじゃない」

「そうだな。まあ、ノーラはそうでもなかったみたいだけど―――」

「―――呼びました? って、あら。戻ってくるの早かったですね」



 噂をすれば何とやら。

誠人達が出かけている間に風呂に入りに行っていたノーラとリルが戻ってきた。

そんなノーラ達の様子に、椿が目を見開く。



「む、ここには風呂があるのか?」

「あー、正確にはシルフェ姐さんの家やけどね。こっから転移術式陣で行けるで。ちゃんと日本式や」

「ほほう、それは素晴らしいな。是非入りたいのだが、構わないか?」

「ええよ。結構広く作ってあるんやで」



 シリアスな話は何処かへすっ飛び、すっかり風呂の話になってしまった。

まあ、今日は色々あって疲れたし、そろそろ休んでもいい頃かもしれないが。



「やれやれ……ま、また明日でいいか」



 兄貴は嘆息交じりに席を立つと、さっさと自分の部屋に戻って行ってしまった。

そして女性陣も、洗面用具を取りに移動を始めている。

俺は誠人と視線を合わせ―――共に、嘆息した。



「俺ら、結構立場弱いよなぁ」

「女が多い時点で、分かりきった事ではあったがな」



 女のグループ意識は凄まじい。

どうやら、これは何処の世界に行っても変わらない事のようであった。

まあこの屋敷の住人って、殆どが向こうの世界の住人だった訳だけど。











《SIDE:OUT》




















《SIDE:SAKURA》











「ねえ、ジェイ。アンタ最近、私に頼りすぎじゃないの?」

「他に出来る奴がいない事ばかり頼んでるんだ、仕方ねぇだろ」



 奥の方で顔を寄せ合って口論している二人の英雄を眺めながら、私はじっとその場に立ち尽くしていた。

ここは、『白の蝶』という喫茶店。

私の体を何とかしてくれる人がここにいると聞いて、私たちはやってきた。

他の人達は、なんとなく『やっぱりか』とでも言いたそうな表情をしていたけれど。



「……大丈夫、でしょうか」

「問題は無いだろう。アルシェールは、あの男の頼みを断った事は無いそうだからな」

「昔っからの知り合いだって言うのは分かるけど、どういう関係なんだかなぁ、あの二人」



 淡々と語る誠人さんと、茶化すような口調の煉さん。

対照的な二人だけど、彼らは結構仲がいいみたいだった。

そんな二人の様子に、少しだけ緊張が解れる。


 と―――どうやら、話は纏まったみたいだった。



「はー、そんな面倒な事はあんまりやりたくないんだけどねぇ……えーと、貴方がサクラ?」

「ぁ……はい、そうです……」

「ふむ……うわぁ、こりゃ酷いわね。確かに私以外には無理だわ」



 アルシェールさん、だったかな。

この人は、私を一目見ただけで、私の状態に気付いてしまったようだ。

この人なら、何とかできるかも……!



「で、アルシェ。どうだ?」

「理論上は可能よ。けど、施術が終わるまで彼女が正気を保っていられるかどうかが問題ね」

「え……?」

「一度体験したから分かるでしょ?

魂に魔術式メモリーを刻むって言うのは、凄まじい苦痛を伴うのよ。

しかも、魂から直接痛みが届くから、魔術式や薬品じゃ痛みを緩和できない。

肉体にダメージが入る訳でもないから死ぬ事は無いけど、その分痛みを感じ続ける事になるわ。

死ねないまま体を切り刻まれるようなものよ」

「うげ……」



 フリズさんが、顔を顰めて呻き声を上げる。

他の人たちも、皆一様に顔色を青くしていた。けど―――



「私……やります」

「桜、大丈夫なのか?」

「一度、体験しましたから……でも、今回は、これが終われば楽になれる……だから、頑張れます」



 その痛みに耐えれば、私は昔のように生活できるようになる。

そうすれば、もう毎晩のように死の夢にうなされる事も、耳元で怨嗟を囁かれ続ける事もなくなる。

この地獄のような世界から、解放されるのならば―――



「やります」



 苦痛なんて、今更何の意味があるだろう。

この絶望が消えるのならば、心地よい痛みだと私は思う。

それに、お姉ちゃんが憑いていてくれるんだから、怖くなんてない。


 私の表情を見て、アルシェールさんは額に手を当てながら嘆息した。



「後悔すんじゃないわよ……恨まれたって何も出来ないんだから」

「大丈夫、です……」

「全く、ジェイの周りはどうしてこう……」



 アルシェールさんはブツブツと文句を言いながら顔を覆っていたけれど、やがて覚悟を決めたのか、真直ぐな視線で顔を上げた。



「これからする施術で、貴方の魂に刻まれた魔術式と、逆の魔術式を刻み込む。

そうすれば、少なくとも自分に近寄ってくる霊を取捨選択出来るようになる筈だわ。

多分、貴方ほどの力があるなら、精霊も近付いて来るようになるかもしれないわね。

精霊に護らせておけば、勝手に悪霊が入り込むなんて事もなくなる筈よ」

「……」

「ただし、苦痛はかなりの物になる。かなり体力も消耗する事になるでしょうね」

「大丈夫や、うちらがしっかり面倒見るで」



 かけてくれる言葉に、心が温かくなる。

二人きりで生きていくしかないんだと、そう思っていたけれど―――何となく、救われた気がした。



「……分かり、ました。お願いします」

「ええ、それじゃあ上に行くわよ」



 アルシェールさんの後を追って、厨房の奥の階段を目指す。

ふと振り返ると、思いがけず誠人さんと視線が合った。

四文字分だけ、唇が動く。



『桜、付いているのは私だけではないようだな』

「……うん、お姉ちゃん」



 こくりと、頷く。

お姉ちゃんだけではなく、待ってくれている皆に向かっても。


 そして、私は階段を上って行った。











《SIDE:OUT》





















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