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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ゲート編:迷宮探索と霊媒少女
51/196

47:暗殺者ギルド

誰かを憎むのならば、その人物を知るべきではない。












《SIDE:MASATO》











 夜も更けた時間帯。

オレは、屋敷の外でじっと二人……いや、三人か?

とにかく、彼女達が出てくるのを待っていた。



「雛織桜、雛織椿か……」



 人間と幽霊の姉妹。

何らかの命令を受け、オレ達の前に現れた少女。

オレに施された施術と同じものを施せと言っていた辺り、死にそうな人間でもいるのだろうか。


 それと、気になるのは暗殺者ギルドと言う存在だ。

何故、彼女はそんなところに所属していたのか。

椿の話を聞く限りでは、元の世界にいた頃はあんな風に気が触れていた訳ではなかったらしい。

魂に刻まれた魔術式メモリーとやらで言う事を聞かされていたのか。



「……」



 騙していたのだろう。

止むを得ない状況であったのは確かだが、納得出来るかどうかはこちらの問題だ。

本人があの様子だったとは言え、いづなが死に掛けたのは紛れもない事実なのだから。



「……いや、らしくないな」



 苦笑。

普段のオレだったならば、いづな自身が問題無いと言っている限り、口を挟もうとは思わないだろう。

ならば何故、こうもあの姉妹の事が気に入らないのか。

向けられた好意が偽りだったからか?

いづながあんな事になったからか?

それとも―――



「近親憎悪、か」



 事情を詳しく聞いたわけではない。

だが、彼女―――桜も、俺と同じように本来とは異なる身体にされてしまったと言う訳だ。

それに関しては、シンパシーを感じていると言っても嘘にはならないだろう。


しかし、彼女は体自体が変わってしまった訳ではない。

だから煉と同じように、望むならば元の世界に帰る事も可能な筈だ。

オレはきっと、それが気に入らないのだろう。



「……無様だな」



 彼女は何も悪くは無い。

結局は彼女も、被害者に過ぎない。

オレはむしろ幸運な方だろう。死んだ筈なのに、こうして生きているのだから。

だが、彼女は―――



「待たせたな」



 響いた声に、振り返る。

そこには、桜を伴ったシルフェリアが立っていた。

いつも通り、白衣を着て何も持たないその姿。

一体何を準備していたのかと聞きたい所ではあるが、あまり意味は無いだろう。



「……それで、何処へ行けばいいんだ?」

「はい……これで」



 桜が取り出したのは、一枚の紙だった。

細かく魔術式が刻まれているそれは、スクロールと言うやつなのだろう。転移の魔術式だろうか。

あまり彼女とは目を合わせず、オレはシルフェリアに向き直る。



「オレのすべき事は?」

「一応、貴様は護衛だ。見てくれだけは十分手練だからな」

「アンタと比べられても困るがな」



 オレの中では、英雄と呼ばれている人物達は皆人間では無い。

まあ、カレナさんだけは、まだ普通の女性らしい所を見ているのでそうでもないのだが。



「分かったな? では、出発するぞ」



 そう言い放つと、シルフェリアは桜の手からスクロールをひったくり、すぐさま発動したのだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:SAKURA》











 いつも通り、帰りの分だけ受け取った転移符を使って、ギルドの本拠地に到着する。

薄暗く、中心に魔法陣のようなものが刻まれた部屋―――ここが、暗殺者ギルドの玄関。



『今回で、ここに来るのは最後に出来る筈だ』



 うん。そうだね、お姉ちゃん。

今までずっとこんな場所にいたけど……きっと、抜け出せる。


 眠るたびに見せられる、私の中に入ってきた怨霊達の断末魔の感覚。

耐え難い苦痛と共に、私自身に刻み付けられた魔術式メモリー

それを実感するたび、磨り減っていく自分自身。


 ここは、地獄だった。


 でも、今日で抜け出せると思えば―――少しだけ、心が軽い。

私は、扉の前に立つ男にギルドメンバーの証を見せつつ声を上げた。



「……サクラ・ヒナオリ、です……任務、達成しました」

「……」



 人と話すのは、苦手。

私の事を理解してくれるお姉ちゃん以外とは、殆ど話した事も無い。

だから、いつも何も話さないこの門番さんは、むしろ気安い相手だった。


 門番さんは、何も言わずに扉を開ける。

私も、何も言わないままその門を通った。



「フン、相変わらず辛気臭い場所だ」

「来た事……あるん、ですか?」



 シルフェリアさんが発した言葉に、私は思わず首を傾げる。

こんな隠された場所、普通は入って来れないと思うんだけど―――

そんな私の疑問を、彼女は鼻で笑いながら応えた。



「ただ延命する程度の事で私を指名したのだ、元々知り合いだったと考えるのが普通ではないか?」

「常人の思考回路をアンタのものと一緒にするな」



 半眼で言う誠人さんの言葉に、私も胸中で同意する。

この人の考えている事は、全く分からない。

私があの屋敷を訪れた時も、この人はまるで、あらかじめ私たちが来る事を知っていたみたいだった。



「フン……まあいい。とにかく、さっさと案内しろ。別に、私が自分で行ってもいいがな」

「あ、いえ……案内します」



 シルフェリアさんの言葉に、こくりと頷く。

この人をギルドマスターの所に案内して、私はここから抜け出すんだ。


 ここから出たら、この体の事も治してもらえる。

そうしたら、私は―――私は、どうしよう。

この人の助手? 私は、自分では何も決められない。

ずっと、そのまま―――



「おい、着いたのなら扉を開けろ」

「ぁ……はい、ごめんなさい……」



 いつの間にか、私はギルドマスターの部屋の前まで到着していた。

急かされて、その扉を開ける。



「……待ちわびたぞ」



 その部屋のベッドの上、そこに白い髪と髭を蓄えた老人が横たわっていた。

あの人が、暗殺者ギルドのリーダー。

誰も名前を知らない、“マスター”と呼ばれる人物。

その姿を見て、シルフェリアさんは口の端を釣り上げた。



「久しいな、小僧」

「相変わらず……口の減らん女だ」



 マスターの声は、ずっと変わらぬ鉄のような硬さを秘めたまま。

それにしても、マスターを小僧呼ばわりなんて、この人って一体―――


 そんな私の視線をよそに、彼女はつかつかとマスターに近づいてゆく。



「……よくもまぁ、こんな人間離れした肉体をヒューゲンの身で作り上げたものだ。

さすがに、多少は衰えているようだがな」

「老いには勝てん、という事だ……貴様がいなければ」

「道理だ」



 くつくつと、シルフェリアさんは笑う。

そんな二人の様子に、私は困惑して視線を巡らせていた。

警備のための暗殺者を配備してはいるけれど、彼らが近づいてくる様子はない。

後、この部屋にいるのは―――



「……」



 誠人さん。

あの屋敷での騒動以来、目を合わせようとしてくれない。

……嘘は吐かなかったけど、騙していた。だから、仕方ないと思う。



「さてと、それでは商売の話をするか」



 はっとして、前を見る。

マスターの体をくまなく調べていたシルフェリアさんは、いつの間にかベッドの脇から離れて煙草を吸い始めていた。

お香のような、ハーブのような匂いが部屋に立ち込める。



「貴様の新たな肉体を造る。貴様のスペックに耐え得るだけの一品には手間がかかるのでな。これには金貨三千枚を頂こうか」

「……貴様にしては安いな」

「無論、もう一つあるからな」



 そう言ったシルフェリアさんの視線が、私の方を向く。

そうだ、これがもう一つの条件。



「その小娘達……サクラ・ヒナオリとツバキ・ヒナオリを頂く」

「……」

「貴様も、私がそいつらに興味を抱く事は分かっていただろう?

貴様にとっても私にとっても、いい買い物と言う訳だ」



 マスターは、静かに目を閉じたまま沈黙している。

どうして? すぐに納得できる条件のはずなのに。

私が首を傾げていると―――ようやく、マスターが声を発した。



「いいだろう。交渉成立だ」

「クク……サクラ、こちらへ来い」

「……はい」



 私は……頷く。

そう、これは結局、私の持ち主・・・が変わっただけなんだ―――



「留守の間の準備は出来ているのだろうな?」

「ああ……」

「ならいい。サクラ、こいつの魂を抽出しろ」

「……はい」



 シルフェリアさんの言葉に従って、私はマスターに触れる。

その指先に冷たい何かの感触を感じた私は、ゆっくりとその手を離した。

掌を上に向ければ、そこにあるのは―――静かに揺れる魂。



「クク、いい買い物だったな。ここまで面倒を短縮できるとは」



 そう言って、彼女は懐から取り出した試験管を近づけ、さらにマスターの魂に何かの粉末を振り掛けた。

すると、マスターの魂は渦を巻くように試験管の中へ吸い込まれて行き―――試験管を半ばまで満たす青い液体へと変化する。

しっかりと蓋をし、シルフェリアさんはそれを白衣の中に仕舞った。



「さて、貴様らの仕事はこれで終わりだ。私はもうしばらく作業をしてから戻る。

まあ、戻ると言っても私の工房の方へだがな」

「……了解した」



 誠人さんは、その言葉に頷くと踵を返した。

私は、一度シルフェリアさんの顔を見てから、急いで彼の事を追いかける。

部屋の外に出れば、彼は意外とすぐ近くにいた。



「……誠人さん」

「……済まんな」



 何を、謝っているんだろう。

私には、分からない。

だって、私は―――



「出口まで、案内して貰えるか」

「……はい」



 誠人さんの言葉に、頷く。

もう、ここには用はないから。もう、こんな所にいたくないから。

そして私は、歩き出した。


 隣で、ぽつりと誠人さんが声を上げる。



「……お前は、どうしてこの世界に来たんだ?」

「どう、して……?」

「オレは、エルロードによって無理やり連れて来られた。お前は、どうなんだ?」

「私は……」



 思い出す。

あの日の事を。私が、何もかも失ってしまった日の事を。



「……私は、何も知らない内に。でも、お姉ちゃんが見たって言ってました」

「見た?」

「私の家族は……みんな、押し入った強盗に……殺された、そうです」

「―――ッ!?」



 私は、どうしたんだろう。

気が付いた時には、私はこのギルドに拾われていた。

そして―――



「私は……助かったんでしょうか? それとも……より悪い方へ流れて、しまったんでしょうか?」

「お前は、帰りたいと思わないのか?」

「どうでしょう……帰ったとして……どうすればいいんでしょうか?

仲の良かった友人も、いない……親戚も私の事は、怖がっていた」



 私は、良くないものを呼び寄せる。

そう言って、皆私を遠ざけた。

私の事を大事にしてくれたのは、お姉ちゃんだけだったのに。



「私は……どこに行けばいいんでしょう?」

「お前は、何かやりたい事はないのか?」

「やりたい、事……」



 私が、やりたい事。

そんなの、考えた事も無かった。

私はいつも、誰かに決められてきたから。

お姉ちゃんに、助けて貰ってきたから。



「分から、ないです」

「そうか。なら、それを探す事にするか?」

「え……?」

「あいつに引き取られたと言う事は、オレ達の仲間になるのと同じ事だろう。

オレ達が、お前の手伝いをする。その代わり、お前の力をオレ達に貸して欲しい。

……そういう風に繋がってるんだ、あそこに集まってた連中は」



 あの連中……あの屋敷にいた人たちの事?

そんな風に、他人同士で繋がっていた?

……羨ましい、と思う。でも、私に出来るのかな―――



『やってみるといい、桜』

「……お姉ちゃん」

「む、椿がいるのか?」

「はい……普段は、このストラップの中に入ってます」



 言って、私は腰に付けたテディベアのストラップを示す。

私が、唯一向こうの世界から持ってきたものだ。

お姉ちゃんは、私が身体を使っている時は大体ここに入っている。



『どの道、彼らと仲良くする必要はあるだろう。今後は彼らと付き合って行かなければならないのだからな。

ワタシ達だけでは、この世界で生きてゆく事は無理だ。だから、力を貸してもらえ。その代わりに、ワタシ達の力を貸せばいい』

「そう……なのかな?」

『ああ』

「……事情を知らないと、一人で喋っているようにしか見えんぞ」



 普通の人にはお姉ちゃんは見えないから、まあ仕方ないかな。


 独りぼっちは、怖い。

だから、助けて貰おう。その代わり、私達の力を貸す。



「誠人さん……」

「ああ、何だ?」

「よろしく……お願いします」



 ぺこりと、頭を下げる。

その私の仕草に、誠人さんは少しだけ笑ってくれた。


 頼って生きる事は、いい事とは言えないと思う。

でも、悪い事と言い切れる訳でもないから。

何となく、少しだけ気が楽になったような気がした。

と―――



『桜、済まないが代わって貰えるか?』

「どう、したの……お姉ちゃん?」

『少しな。頼む』



 何だか分からないけど、お姉ちゃんは真剣な声音だった。

何か、起ころうとしてるのかな。


 お姉ちゃんの言葉に従って、私は髪をほどいたのだった。











《SIDE:OUT》




















《SIDE:TSUBAKI》











 目を開ければ、低かったはずの視界が高く変化する。

桜の身体を使い、ワタシは周囲を見渡した。

隣には、見上げるほどに背の高い男―――神代誠人が立っている。



「……椿か?」

「ああ、そうだ」



 髪を左側で結びつつ、ワタシは頷いた。

とりあえず、問題は無さそうだな。

腰の後ろの短剣二本を確かめ、ワタシはマサトへと視線を向ける。



「済まないが、早速協力して貰う事になりそうだ」

「何だと?」

「この先で、何人かが待ち構えているようだ。敵意を持っているな。

フン。どうやら、マスターの延命を望まない連中もいるようだ」

「成程な」



 誠人は理解が早いな。

まあ、ワタシとしてもその方が助かるのだが。



「一応聞いておくが、人を殺した事は?」

「無いな。だが、必要な時に躊躇うほど覚悟が無い訳ではない」

「上出来だ。それでは、行くぞ」



 ワタシは腰の後ろにある二本の短剣を抜き、誠人はその長大な太刀に手を掛ける。

そして―――ワタシ達は、転移術式陣の部屋に飛び出した。

まず一人目は、扉の上からワタシに向けて飛び掛ってくる。



「―――甘いな」



 身体を回転、左の剣で相手の剣を逸らしつつ、右の剣で降って来た男の首を貫く。

ごぼごぼと血を吐き出しながら絶命した男を放り捨て、ワタシ達は背中合わせでその場に立った。

周囲には、三人の人影が現れる。その内の一人が、ワタシに対し忌々しげな視線を向けた。



「貴様……!」

「何故気付いた、か? わざわざ種を教えてやるほどワタシは親切では無いぞ」

「……ギルドマスターの座でも狙っていた、という訳か」



 誠人の言っている事に間違いは無いだろう。

マスターは、かなり長い間この組織の長を務めてきたと言う。

魔人を倒した数ならば、ジェクト・クワイヤードやアルシェール・ミューレをも上回るとすら言われる猛者だ。

もしも彼が新たな肉体を手に入れれば、他の人間がギルドマスターに就任する可能性は限りなく低くなる。

だから、それを阻止する為に、シルフェリア・エルティスの機嫌を損ねようとしている訳だ。



「所有物であるワタシ達を狙う事でな……まあ、無駄な目論見だ」

「何だと?」

「気付かれた時点で、暗殺者などと言う存在は既に終わっているんだ」



 ―――その一言を言い切る前に、暗殺者の首が一つ宙を舞っていた。

誠人が、一瞬で抜刀して首を刎ねたのだ。

残る敵の数は、たったの二人。

誠人は流れるような動作でもう一人へ向ってゆく筈だ。

ならば、ワタシはもう一人を狙おうか。



「馬鹿が……」



 ワタシが駆けると、視線の先にいた相手は嘲笑を浮かべた。

まあ、当然だ。『雛織桜』が近接戦をできるなどと言う話は、周囲に伝わっていない。

あくまでも、ワタシ達の事を死霊使いネクロマンサーだと思っているのだ。


 だが、違う。

ワタシの本領は、そんな事ではない。



「死―――」

「見えている」



 相手が右手に持っていた短剣を躱しつつ、更に左の袖の中に隠していたブレードを右の短剣で受け止める。

そして、ワタシは残る左の短剣で、この男の心臓を貫いた。



「が、ぁ……!?」

「残念だったな。ワタシと桜では、見えている世界が違うんだ」



 絶命した男を押しのけ、ワタシは肩をすくめる。

どうやら、誠人の方はワタシが仕留めるよりも速く、残る一人を仕留めていたようだ。



「流石だな、誠人。あの妙な剣技は、やはりかなり厄介な技のようだ」

「……何故お前が、その事を知っている?」

「フフ……あの時のリビングアーマー、誰だったと思う?」



 ワタシが小さく笑って見せると、彼はいつも冷静だった表情を唖然とした色で歪めて見せた。

ふふふ、これが見てみたかったんだ。



「お、おい。ならばあの力は―――」

「それは皆の前ででも話させて貰おうか。とりあえずは、そこから帰ろう。

まだ敵がいないとも限らないからな」

「あ、ああ。そうだな……では、行こう」



 うろたえながら言った誠人に、ワタシは小さく笑う。

さてさて、中々楽しくなりそうだな、と。











《SIDE:OUT》





















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