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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
グレイスレイド編:少年と少女と過去の英雄
40/196

37:フリズとジェイ

手を取り合うには、あまりにも遠い

理解されぬ性を、抱えているのだから


           BGM:『花冠』 天野月子











《SIDE:REN》











「へぇ……それでレンさんはあの人に付いて行ってるんですか」



 騎士隊詰め所の応接室。

俺はそこで、ミナやノーラと共に兄貴が戻ってくるのを待っていた。

とりあえず、サントールにいる間は慌しくてまともに話も出来なかった為、ちゃんとした自己紹介から話し始めたのだ。

ノーラは最初俺の事を警戒していたが、話をしている内にある程度は心を許してくれたらしい。

まあ、あの時俺は彼女の事を殺そうとしていた訳だし、警戒されるのは当然だけど。



「それにしても……さっきからミナちゃんの事、『秘密だ』とか『それは話せない』ばっかりですね」

「あー、すまん。兄貴が許可した奴じゃないと、本当はなにも喋っちゃいけないんだ。

村でミナの力をばらしちゃった事も怒られたばっかりだし」

「……ん」



 ミナの立場はこの上なくデリケートだ。

ノーラを助ける為だったとは言え、あんなにあっさりとばらしてしまったのは判断が甘かったと言わざるを得ない。

まあ、ミナが勝手に言っちゃった訳だけど。


 公爵令嬢であること、創造魔術式クリエイトメモリーの事、そして現在の立場。

それに最近は、出逢った頃よりも更に正確に他人の感情を読めるようになってしまった。

あらゆる秘密が、ミナにとって致命的な事態を引き起こしかねない。

ミナの為にも、とにかく口を硬くしていないといけないのだ。



「まあ、それなら深くは聞きませんけど……レンさんは、これからどうするつもりなんですか?」

「どうするって?」

「いえ、あの人と一緒に傭兵をやってるんですよね? なら、何か目的があっての事なのかなって」

「……あー」



 俺の目的は、この世界に来た当初から変わっていない。

変わっていないんだけど―――



「俺の目的は、エルロードを探す事。そして、元の世界に帰る事、なんだけど……」

「レンが帰るなら、わたしも一緒に行く」

「……って言い張っちゃって」

「あらあら」



 いつまでも一緒にいて欲しい、と言うミナに対し、俺が約束できなかった理由。

意を決してそれを打ち明けてみれば、返って来たのはこんな言葉だった。

これには流石に参った。嬉しいのは確かなんだけど、そんなあっさり言っていい言葉ではない。

と言うか、あっさりじゃなくても言っていい言葉じゃない。

ミナだって、こっちの世界に大切なものがいくつもある筈だ。

なのに何故俺を選んだのかは分からないけど、このままというのは流石に拙い。



「だから、ミナを説得できるまではとりあえずこっちにいるつもりだ」

「連れて行ってあげないんですか?」

「……それが出来たらどれだけ気が楽か」



 ミナは公爵家を継ぐのに問題がなくなるほどの功績を挙げる為に旅をしている。

それに、こちら側の世界にとっても結構重要な役割を持った人間の筈だ。

なのに、立場だの何だの放り投げて俺と一緒に来ると言っている。

今の状態が全く意味を持たなくなってしまう。


 それに、向こうの世界でのミナの扱いだって困るだろう。

こちらの世界でさえ常人離れした容姿をしてるのに、向こうに連れて行ったらどれだけ人の目を引く事か。

戸籍その他の問題もあるし、彼女を連れて行く事は難しい。



「ふーむ……ミナちゃんは、そんなにレンさんの事が好きなの?」

「ん」



 こくりと、ミナは頷く。

こうやってストレートに感情表現をされると本当に恥ずかしいんだが。



「レンは、わたしを助けてくれた。レンは、わたしにイヤな心を向けない。それに、わたしと同じ匂いがする」

「同じ匂い?」

「そう。でも、フリズとマサトといづなにも感じる」

「わ、私には無いんだ……」



 同じ匂いって言うのは初耳だった。一体どういう意味だ?

ミナはいつも突拍子も無い発言をするから、こうやって意味を考えさせられたりする事があるんだが、今回は特に分からない。



「だから、皆に教えても大丈夫だと思った。でも、ジェイに怒られた……」

「ま、まぁ……本気で怒ってた訳じゃないって。そこまで気にしなくていいよ、ミナ」



 しょんぼりと沈むミナを慰めつつ苦笑する。

兄貴もミナが沈んでいると強くは出られないのか、途中で説教を切り上げちまったんだけどな。

あの時の兄貴のうろたえた様子を思い出し、俺は小さく笑った。

兄貴、本当にミナには弱いな。



「―――とにかく、わたしはレンと一緒」

「ふーむ……この子を引き剥がすのって、無理じゃないですか?」

「やっぱ、そういう結論か……」



 ノーラ言葉に、深々と嘆息する。

兄貴にも早々に匙を投げられちまったし……ホント、どうしたもんかな。


 ―――そんな事を考えていた、瞬間だった。



「―――ノーラ!」

「ひゃぅ!?」



 ドアが、弾け飛ぶような勢いで開かれる。

そこにいたのは―――



「二人もいたのね、出かけるわよ!」

「フ、フリズ!?」



 完全武装した姿の、フリズだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











 墓参りを終え、カレナからの文句を聞き流しながら、俺達は帰路についていた。

この立ち位置というのも、中々懐かしいものだ。

いつもいつも、後ろから話しかけてくるのがカレナだったからな。



「全く……それで、ジェイ。これからどうするの?」

「ん、ああ……そうだな」



 一応、依頼達成の報告をする為にゲートへと戻るつもりだが、急ぎと言う訳でもない。

ギルド支部長から伝えられた指名の依頼である為、期限というものが無いのだ。

それならば、もうしばらくこの街に留まっても問題は無かった。



「ここまで来て、シルフェリアの奴に顔を見せなかったら、次に会った時に酷い事になりそうだからな。

とりあえず、あいつが顔を見せに来るまではここにいるか」

「……自分からは行かないんですか」

「あの女の領域に足を踏み入れる事自体が危険行為だ。確実に俺を殺す為の罠を張ってるだろ」

「相変わらずね、貴方達は」



 呆れた表情のアルバートやカレナの言葉を聞かなかった事にし、がりがりと頭を掻く。

奴も、リルがいるから俺がここに来た事は既に分かってるだろう。

放っておけば、その内顔を見せる筈だ。会いたくはないが。



「まあ、とにかくしばらくはここにいるのね?」

「そういう事だな」



 急ぎの用事は何もないし、たまには骨休めもいいだろう。

まあ、たまにはゆっくりとするかね―――と、思いつつ視線を上げた時だった。



「……あ?」



 その視線の先に、こちらへ向かって来る者の姿があった。

先頭を走ってくるのは、フリズとか言うカレナの娘。

そしてそれに続くのが吸血鬼の小娘にうちの小僧、そして若干遅れてミナだった。

何やってんだ、あいつらは。



「見つけたわよ!」

「……まあ、別に隠れてた訳じゃないが」



 こちらの姿を確認すると、びしりと指をさして宣言するフリズ。

後ろにいるカレナとアルバートを含め唖然としていたが―――その手に手甲が装備されている事に気付き、俺は目を細めた。

足を少しだけ開きながら、フリズに対して問いかける。



「何の用だ?」

「あたしと勝負しなさい!」



 まあ、大体予想した通りか。

ちらりとカレナの事を覗き見てみれば、その顔に苦笑を浮かべている所だった。

こいつにも、似たような所があったからな。



「復讐のつもりか? 止めろとは言わんが、抵抗はさせてもら―――」

「違うッ!」



 ……何だと?

かつてのカレナは、容赦なく俺に襲い掛かってきた。

あの時の俺は甘んじてその拳を受け入れたが、カレナ自身がが何故抵抗しないのかと主張してきた事もあり、きっちりと相手するようになったのだが―――



「あたしは、まだあの頃は幼かったし、アンタがお父さんの仇だなんて言われても実感無いわよ。

けど、お母さんから聞かされてた話で、お父さんがどんな人だったか位は知ってる。

アンタがそうしてくれなかったら、お父さんは死んでも死に切れなかった事も分かってる!」



 でも、とフリズはかぶり振って声を上げる。

その瞳に、強い意志を宿しながら。



「それでも、あたしにとって大切な人だった! 大事な大事な家族だった!

アンタはその人を、あたしから奪う事で救った!

あたしが何にも出来なかったのに、そんなのって悔しいじゃない!」



 思わず、目を見開く。

こいつが言っているのは、あの頃のカレナと同じ、自分本位の我がままだ。

けれど―――その我がまますら、他の誰かの為のものだと言うのか。

一体、どういう風に育てたらこんな風に考えるようになるんだ。



「あたしからお父さんを奪った事は恨むし、お父さんを救ってくれた事は感謝する。

でも、それじゃあたし自身がけじめをつけられない―――だから、戦って」

「く……ははは」



 面白い、こいつは本当に面白い。

自分の感情をしっかりと理解した上で乗りこなし、その上で俺との戦いを望むと来たか。

一応は俺に対する嫉妬もあるようだが、それも含めてけじめを付けたいと言うのだろう。



「カレナ、お前の娘は随分しっかりしてるじゃねぇか」

「……何、その比べたような言い方は」

「そのままだよ……フリズだったな」



 俺に向かって拳を突き出しているフリズに対し、笑みを浮かべながら槍を取り出す。

目の前にいるこの娘に応えるように、俺は槍の穂先を突きつけた。

戦いの気配を感じ取り、周囲の野次馬達が距離を開けてゆく。



「手加減はしてやる。かかってきな」

「言ってろッ!」



 そう叫び、フリズは動き出した。

その拳で打ちかかってくるかと思いきや、最初に行ったのは魔術式メモリーの詠唱だ。



第二位魔術式セカンドメモリー、《流水の槍ウォータースピア》!」



 放たれた魔術式が俺に向かい―――いや、俺の手前に落下して飛沫を上げた。

狙いを外したのかと思ったが、その飛沫に身を隠しながらフリズが接近してきている事に気づく。

その拳で、宙に浮いた氷の粒を俺の顔に向かって飛ばしながら。



「はっ、本当に面白いな、お前は!」



 目くらましと牽制と攻撃を同時にやってくるとは。

カレナは能力を徹底的に攻撃へと使ってくるが、こいつはこういう搦め手で来るようだ。

感心しつつも、俺は身体を屈めるように低くしながらフリズの足の間へと槍を突き入れる。



「わっ!?」



 フリズは咄嗟に跳び上がり、俺の斜め前方へと身体を投げ出した。

いい反応だが、後が続かない。持ち手を先へと動かしつつ、俺は槍を回転させるように横殴りの一撃を放つ。



「きゃッ!?」



 手甲でガードするも、威力を殺しきれず、フリズは横の方向へ弾き飛ばされた。

そこへ追撃を入れるような真似はせず、フリズが起き上がってくるのを待つ―――が、すぐさま甘さに気付かされた。



第三位魔術式サードメモリー、『瀑布の書』第四章第三節―――」



 こいつは、俺が手加減するであろう事に付け込んでいやがった。弾き飛ばされながら、魔術式を唱えていたのだ。

距離がある内に、短縮出来ない魔術式を唱えたか!



「―――《天の大滝ハイフォール・プレス》!」



 フリズの号令に従い、上空から巨大な水の塊が俺に向かって降り注いだ。

それを見上げながら、笑みを浮かべる。



「《強化:身体能力リーンフォース・フィジク》」



 身体強化を己に施し、俺は大きく槍を振りかぶる。

そして―――それを、俺に向かって降り注いでくる水の塊へと叩き付けた。

木の板で水面を強く打ったような音が響き、大量の水が周囲へと四散する。

水の勢いを完全に押し返し、自分自身が水を被らないようにしなければ、こちらの体が凍らされるだろう。


 周囲には雨のように水が降り注ぐが、俺だけは水を被らずその場に立つ。

その俺の姿を見たフリズは―――その口元に、笑みを浮かべていた。

何かと思うが、今度は待ってやるつもりは無い。

槍を構え、フリズへと接近―――しようとした瞬間、俺は足を滑らせてバランスを崩した。



「な……っ!?」



 地面に槍を突き刺して何とか立ちながら、周囲の状況に目を見開く。

水がばら撒かれた地面。そこは、全て氷で覆い尽くされていたのだ。

だが、これでは向こうも移動出来ない筈では―――そう思いながら前を向き、俺は今度こそ驚愕した。



「はあああああッ!」



 フリズが走り寄って来る。

その足が踏み出される部分の氷だけが、溶けて水へと変わっていた。

カレナは見せた事の無いその芸当に、目を見開く―――正気に戻った時には、フリズは既に目の前で拳を振りかぶっていた。



「舐めんじゃ、無いわよッ!!」



 ―――ご丁寧に身体強化まで施された拳が、俺の左頬に突き刺さった。

その一撃に、倒れないまでも勢いに押され、地面を擦るように後ろへと後退させられる。

少しだけ切れた口の中の傷はすぐさま消えたが、僅かな鉄の味は確かに口の中に残った。


 ―――追撃とばかりに近寄ってきて放たれた拳を、左手で受け止める。



「ッ!?」

「……悪かったな。ガキと思って甘く見た」



 その体に、槍の柄を叩きつける。

近距離で威力は無かった為に後退しかさせられなかったが、それだけで十分だ。



第二位魔術式セカンドメモリー、《半月斧バルディッシュ》」



 槍に魔力を流し込み、その力を発動させる。

俺は槍を振り上げ―――その刃を、己の足元へと叩き付けた。

轟音と共に、周囲の氷を地面ごと粉砕する。



「いっ!?」



 驚愕の声を上げるフリズに、俺は小さく笑みを浮かべた。

全く―――本当に、あの頃を思い出す。



「今度は真面目に相手してやる。構えな」



 持てる全てを以って、お前の相手をしてやろう。

そう口の中で呟き―――俺は、拳を構えるフリズへと駆けた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











 体中にある鈍い痛みと、僅かな揺れであたしは目を覚ました。



「ん……いつつ」



 あたし、どうしたんだっけ?

ジェクトと戦って、あいつに一発入れたまではよかったんだけど、あいつが地面を粉々にして―――



「レン、起きた」

「え……て、はぁっ!?」

「耳元で叫ぶな、うっせぇな」



 近くで聞こえた女の子の声に周囲を見渡し、あたしはようやく自分の状況を把握した。

あたしは、煉に背負われていたのだ。



「ちょ、何してんのよ!?」

「いや、何って……お前を運んでるんだが」

「何で!?」

「カレナさんに頼まれて」



 お母さん、何してんの!?

ノーラでもいいでしょうに、何で態々煉に頼むのよ!?

さっきのアレね、比べられるような発言されてちょっとした意趣返ししてるんだわ。

でも、何であたしに対してやるかな!?

言った本人に対してやりなさいよ!?



「しかしお前、やるな。あの兄貴に一発入れるとは」

「……何よ」



 あたしが背中で錯乱してる事に気付かず、煉は暢気に声をかけてくる。

何だか慌ててる事が馬鹿馬鹿しくなって、あたしは小さく嘆息した。



「さっきのアレなら、手加減されてたからでしょ。

その気になってからは、抵抗すら出来ずにボコボコにされたじゃない」



 しかも、丁寧に顔やら腹やらは避けながらだ。

紳士的だと評価する奴もいるだろうが、あたしからすれば手加減されてるようにしか感じない。

けれど、煉はあたしの言葉に首を横に振った。



「例え油断してようが手加減してようが、兄貴は普通なら一発も喰らわないさ。

そんな兄貴に当てられたってだけでも、凄い事だと思うぞ?」

「そうかなぁ」



 色々と疑問だけど……まあ、とりあえずはスッキリした。

あいつは優しくもないし、必ずしもいい奴って訳じゃなさそうだけど―――それでも、悪い奴じゃない。

お父さんを殺したのが悪い奴じゃなくて、あたしは安堵していた。

前世のあたし達を殺した奴みたいな人間のクズじゃなくて、本当に良かった。



「まあ……もう少し観察してやるけど」

「何か言ったか?」

「別に、アンタには何も~」



 こいつも、ノーラの事を殺そうとはしたけど、それでも悪い奴じゃなさそうね。

あいつがあの時言ってた事だって、決して間違いじゃなかった訳だし。

こいつとあたしの考え方は、きっと相容れないだろう。

いや、この世界の価値観そのものが、あたしとは合わないのだ。

異端なのは、あたしの方。



「ねえ……アンタって、あたしの事嫌いじゃないの?」

「は? 何でだ?」

「だって、根本的に考え方が相容れないじゃない」



 こいつは、大の為なら小を捨てる。

あたしは、どちらも選ぶ事ができない。

現実主義と、理想主義。相容れない、互いを嫌悪し合うような関係の筈だ。

けれど―――こいつは、小さく肩を竦めてあたしの言葉を否定した。



「別に、お前の考え方が嫌いって訳じゃねぇよ。実現はまず無理だとは思うが」

「……この間は成功したじゃない」

「結果論だがな」



 ……否定は出来ない。けど、真っ向から言われるとムッと来る。

そんな様子が伝わったのか、こいつはくつくつと笑っていた。



「でもまぁ、成功したのは事実だ。お前って、俺が無理だと思う事をあっさりと実現するよな」

「え?」

「サントールでの事も、今日の事も。だから、尊敬できると思ってるぞ」

「な……何言ってんのよ」



 こんな風に褒められると、流石に照れる。

それに、こんな対極みたいな奴に考え方を認められると、何だか嬉しかった。

見えない位置で少しだけ笑い、体重を預け―――



「ミナちゃん、あの二人いい雰囲気だけど、いいの?」

「いい。レンはみんなのもの」

「……って、ノーラ!?」



 レンの背中の上で振り向くと、あたしの事をニヤニヤした視線で見つめるノーラの姿があった。

隣にいるミナは、いつも通りの無表情で感情が読み取れない。



「あら、嫉妬したりしないの?」

「レンが好かれるのは、わたしも嬉しい」

「ちょ、ちょっと! あたしはこんな奴の事なんて!」

「背中で騒ぐな、暴れるな。一応、まだ貧血だって治り切ってないんだろうが」



 レンの言葉に、あたしは渋々声を収める。

しかしそれをいい事に、ノーラは言葉を続けていた。



「自分だけのもの、とか思ったりしないの?」

「むしろ、わたしがレンのもの」

「……ちょっと、煉?」



 アンタまさか、あの子に妙な事してんじゃないでしょうね?

言外にそんな意思を滲ませると、煉は後ろに向かって大きく声を上げた。



「いやちょっと待て、ミナ! 俺はまだ何もしてないだろ!?」

「……? 何もって、何?」

「墓穴!? って、ちょっと待てフリズ、首を絞めるな……!」



 かるーくチョークスリーパーしながら、あたしは小さく笑う。

何だか、とても懐かしい気分だ。

前世の友達同士のような、そんな気安い関係―――



「……ふふ、私のフリズに手を出すから……」



 ―――背後から何か聞こえた気がしたけど、多分空耳だろう。

家までの帰り道、あたしは久しぶりに笑った気がした。











《SIDE:OUT》





















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