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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
グレイスレイド編:少年と少女と過去の英雄
33/196

30:サントールでの出逢い

そして、物語は交差する。












《SIDE:MASATO》











「何よ、これ……」



 フリズの、呆然とした声が響く。

辿り着いたサントールの村、そこは、人気の無いゴーストタウンと化していた。

周囲を見回したいづなが、困惑したように眉根を寄せる。



「人の気配、完全にあらへんな。村ごと移動してもうたんかな?」

「確かに、伐採のし過ぎか大分森から離れているみたいだがな」



 村から南の方向を見ると森が見えるが、移動するには少々時間が掛かりそうだ。

林業で生計を立てている以上、この位置取りはやり辛いだろう。

とりあえず村の中に入って周囲を見回してみるが、やはり人の気配は感じない。



「折角会えると思ったのになぁ……」



 ぼやくフリズの声が聞こえてくる。

しかし……オレは、何か妙な胸騒ぎを感じていた。

何か、嫌な予感がする。



「とりあえず、今日の拠点になりそうな所を探しとこか。せめて屋根がある所で眠りたいし」

「そうね……とりあえず、宿屋っぽい建物でも探しましょうか」



 とりあえずは宿、と言う訳でオレ達は村の中を歩き出した。

不気味なほど音がしないそこは、まだ日があるというのにどこか薄暗い印象すら覚える。

とは言え、もう夕方に差し掛かる時間帯だ。

さっさと拠点となる場所を探しておくべきだろう。



「お、あそこなんてええんとちゃう? しっかりしてそうやで」



 いづなが示した方向を見てみる。

村も小さいのでそれほど上等な宿があると言う訳ではないが、それでも一応はしっかりした建物のようだ。

周囲のある家は、いくつか窓が割れていたりと廃村らしい風貌を見せていたが、あの建物は比較的大丈夫そうに見える。



「どうせ人がいないんやったらええ宿に泊まりたい所やけど、無いなら仕方ない」

「ホント、いい性格してるわね、アンタは」



 半眼で睨むフリズの視線など何処吹く風で、いづなは宿の扉を開く。

瞬間―――オレは、違和感を覚えた。



「……おかしい」

「いづな?」

「埃があんまり積もっとらんのや。放置されていた村なら、もっと汚れててもおかしくない筈や」



 オレが感じた違和感の正体を、いづなは一瞬で感じ取っていたようだ。

部屋の内部は殆ど痛んではおらず、うっすらと埃が積もってはいるものの、掃除されていた頃の面影を見る事が出来る。



「じゃあ、誰かがここに住んでるって事?」

「それもありえるんやけど……うん、少なくとも人はいそうやね」



 言って、いづなは足元を示す。

視線をそちらへと向けてみれば、うっすらと埃の積もった床に、複数の足跡が残っていた。

それらをじっと見つめながら、いづなは呟く。



「3、4……ううん、5人みたいやね。結構最近のもんや」

「ええと……誰かいませんか!」



 フリズが大声で建物の奥に向かって呼びかける―――が、反応は無かった。

出入り口の辺りの足跡が多いのを見た感じ、もしかしたら外に出ているのかもしれない。

先ほど見かけた二人の人影は、もしかしたらこの人物だろうか。



「……ちょいと、調べてみよか」



 言って、いづなは足跡を追って歩き出した。

オレ達もあまり足音を立てないように気をつけながら、その後を追う。

奥の方、客室へと続いてゆく足跡を追うと、二つの部屋の前に辿り着いた。


 とりあえず、ノックをしてみるが……反応は無い。

背後に視線を向けて、二人に確認を取る。

二人が頷いたのを見、オレはゆっくりと扉を押し開けた。



「……いないな」



 中に人の姿は無い。

だが、埃を払ってあると思われるベッドの上に、荷物のような物が置かれていた。



「ん、やっぱり人はおるみたいやね……せやけど、これ」



 荷物の蓋を開けてみたいづなが、眉根を寄せて首を傾げた。



「どうかしたのか?」

「これ、旅装や。ここに住んでる人間の物とは思えへん」

「え、え? どういう事よ?」



 話についていけてないフリズに、いづなは肩を竦めながら立ち上がった。

沈みかけた夕日の映る窓を背景に、眉根にしわを寄せつつ声を上げる。



「この荷物の持ち主は、旅の途中にここに立ち寄った……つまり、うちらと同じ状況や。

せやけど、それならこの建物があんまり汚れてへん理由が説明できひんのや」

「その旅の人達が掃除したって事は……無いか、流石に」



 一夜の宿にするだけの物に、わざわざそこまでする理由が無いからな。

しかし、それならばこの宿が汚れていない理由は何だ?


 ……いや、分かっているのだ。ただ、それを信じたくないだけで。

来た時から極力話題にしないようにしてきたが―――どうやら、随分と信憑性が出てきてしまったようだ。


 夕日は、徐々に地平線の向こうへと落ちてゆく。

逆行になって見え辛かったいづなの顔は、外の明かりは弱まるに連れてその硬い表情を明らかにしてゆく。

そして、いづなは―――その可能性を口にした。



「うちに考えられる可能性は一つだけ……この村が、ごく最近壊滅したっちゅう事や」

「―――ッ!!」

「フリズ!?」



 いづなの言葉を聞いた途端、フリズは踵を返して外へと走り出していた。

咄嗟にその腕を掴もうとするが、すり抜けるようにフリズは部屋の外へと飛び出していく。



「まーくん、追いかけるで!」

「ああ!」



 この状況で一人になるのは拙い。

オレといづなも部屋を飛び出し、宿の外へと出る。

ちょうど日が落ち、周囲は闇に包まれようとしていたが、オレの目ならフリズを追う事が出来る。

あいつの背中を確認し、走り―――出そうとした、その瞬間。



「―――ッ!?」



 唐突に、右足を何かに掴まれる。

転びそうになった所を何とか耐え、反射的に足元へ視線を向ける。

そこには―――地面から飛び出してオレの足を掴む、青白い手があった。



「まーくん!」



 いづなが刀を抜き放ち、オレの足を捕らえる手を斬りつける。

指を飛ばされオレの足を離した手は、しかし痛がるような様子も無く地面に掌を着いた。


 そして、その下にあったものが地面の上に現れる。

それは、青白く血の気の引いた人間―――



「ゾンビ……ちゃう、こいつは食人鬼グールや!」



 いづなのその声と同時、周囲から同じように手が生えてくる。

オレも景禎を引き抜き、足元に注意しながらいづなと背中合わせで立った。



「……これが、村が滅んだ原因か?」

「っちゅーより、成れの果てやね。食人鬼っちゅーのは、別の魔物によって生み出されるモンや」

「別の魔物?」

「せや、向こうの世界の人間やって誰もが知っとる大物……吸血鬼ヴァンパイアや」



 その言葉に、オレは事の重大さを理解した。

拙いのだ、オレ達はそいつを相手にする事は出来ない。

何故なら……オレ達は、不死殺しイモータル・ベインを誰一人として所持していないからだ。



「勝利条件は全員が朝まで生き残る事や……行ける?」

「……行くしかあるまい」



 負ければ死に、こいつらの仲間入りをするだけだ。

ならば、全力を尽くす以外に道は無い。



「突破するぞ、いづな。フリズに追いつく!」

「了解!」



 ―――オレ達は刃を構え、死体の群れの中へと飛び込んだ。











《SIDE:OUT》






















《SIDE:FLIZ》












「ノーラ、ノーラ!? 何処にいるのよ、いるなら返事して! あたしよ、フリズよ!?」



 日の落ちた村の中を、あたしは走り続ける。

ベルレントの事もあったせいか、あたしはとても冷静ではいられなかった。

長らく会ってないけれど、それでもノーラは友達だ。

村が壊滅したなんて信じたくない。血の痕だって無いし、ただ廃村になっただけだと思いたい。

でも……いづなの言葉には、信憑性があった。


 その時、ふと―――背後から、物音が聞こえた。



「ノーラッ!?」



 あたしは、咄嗟に振り返る。

そこに―――『死』が、立っていた。



「え……?」



 頬の肉が削げ、右腕がなくなっている死体。

人ではありえない、けれど確かに人であったモノ・・

それが、あたしの方にゆっくりと歩いてくる。



「ひ……っ!?」



 脳裏に、ベルレントの城で見たものがフラッシュバックする。

地面に落ちて砕けた死体、見えない手に握り潰された死体、銀色の牙に噛み砕かれた死体。

死体、死体、死、死、死―――!



「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



 あたしは、反射的に能力を使っていた。

ボコボコと死体が中から膨れ上がり、弾け飛び、そして炎上する。

余波で地面すらも赤熱させて、あたしの力はようやく収まった。



「あ、あ……」



 手が、体が、震える。

あたしは、今―――人の形をしたものに、力を使ってしまった。

膝から崩れ落ち、地面に蹲る。



「う、ぇ……げほッ、おぇえ……!」



 あたしの意に反して、胃の中の物がこみ上がってきた。

耐え切れず吐き出しながら、あたしは同時に涙を流す。


 嫌だ、怖い、怖い―――!



「は、ぁ……逃げ、ないと」



 炎に照らされて、まだいくつか同じような魔物が寄って来るのが見える。

ふらつく足で立ち上がり、何とかあいつらから離れようと歩き出す。

けれど―――足に力が入らない。がくがくと震えるだけで、動こうとしてくれない。


 ノーラも、こんな事になってしまったのかしら……?

頭のどこか冷静な部分が、そんな事を呟く。


 死の手が、あたしに伸ばされる。



「……」



 あたしはそれを、見続ける事しか出来ない。

死と言う恐怖が、あたしを縛り付ける。

力を使わないようにする為に鍛えてきたのに、何の役にも立たないなんて―――



「たす、けて……」



 もう、死ぬのは嫌―――そう、心の中で叫んだ刹那。


 お腹の底に響くようなズドンという音と共に、あたしに手を伸ばしていた死体は吹き飛んでいた。

そして同じ音が二度、三度と響き、周囲に近寄ってきていた死体たちが吹き飛んで行く。

さらに、その吹き飛んだ死体に向かって、虚空から現れた銀色の剣が降り注いだ。

銀の剣の貫かれた死体は、煙を上げながら消滅してゆく。



「大丈夫か!?」



 背中に感じた気配に、あたしは肩越しに振り返った。

そこにいたのは―――銀色の銃を携えた、黒い髪の少年。



「ミナ、この子を見ててくれ!」

「ん」



 彼は翠の髪をした女の子に指示を飛ばし、あたしの前へ飛び出してゆく。

そして、両手に持った銃を向け、遠くの方にいる死体達を狙撃した。

二度、三度と身体を揺らしながら地面に崩れるあいつらを見つめて、ようやく彼は息を吐く。



「はぁ……間に合ってよかった。しっかし、生存者がいたなんてな」

「え、と」



 黒髪の少年と、あたしの後ろに控えるようにしている翠の髪の少女。

生きている人間に触れる事で、あたしはようやく冷静になる事が出来た。



「あの、ありがとう……助かったわ。来てくれなかったら死んでたかも」

「ん、ああ。まあ、これが俺達の仕事だしな」

「仕事?」

「ああ。正確には、兄貴……うちのパーティリーダーが請けた仕事だけどな」

「パーティって貴方、傭兵?」



 よく見たら、傭兵ギルドメンバーの証を身につけている。

そうか、さっきあの宿に置いてあった荷物って、彼らの物だったんだ。


 銃をホルスターに仕舞い、彼はがりがりと頭を掻く。



「しっかし、何だこれ。あんたが何かやったのか?」

「え、あー」



 彼の視線の先は、未だに少しだけ赤熱した地面と、その上で炭化した死体。

さっき、あたしが能力を暴発させた痕だ。

能力の事は明かせないし、何とか誤魔化さないと。



「そ、そう。魔術式メモリーを使ったはいいけど、後に続かなくって」

「そっか……まあ、間に合ってよかった」



 どうやら彼は魔術式にはあんまり詳しくないのか、あっさりと誤魔化されてくれた。

まあ、銃なんて物を使ってる上に黒髪黒目だし、向こうの人間なんだろうから詳しくないのも頷けるけど。


 ふと、横を見ると―――さっきの女の子が、じっとあたしの顔を覗き込んできていた。

ぎょっとして、思わず後ずさる。



「な、何?」

「……ん。悪い人じゃ、ない」

「は?」

「あー、ミナは目を見ると敵意の有る無しが分かるらしくて。気を悪くしたらゴメン」



 あ、ある意味凄い特技を持ってるわね。

しかし、この子……ミナって言ったかしら。すっごく整った顔をしてるわね。

あたしは女なのに、思わず見惚れちゃいそう。



「でも……ちょっと、嘘吐いた」

「……ッ!?」

「ミナ、そういうのは面と向かって言わない。必要なら後で俺や兄貴に教えてくれればいいから」

「……ん」



 少年の言葉に、ミナは素直にコクリと頷いた。

驚いたわ……嘘吐いてるかどうかまで分かるのね、この子。

彼女に色々と注意した後、彼はこっちに向き直った。



「一応、自己紹介しとく。俺は九条煉……いや、レン・クジョウだ。そっちの子はミナ」

「……よろしく」

「あ、うん。よろしくね。あたしはフリズ・シェールバイトよ。フリズでいいわ……そっちは煉とミナ、でいい?」

「うん……? あ、ああ、構わない」

「ん」



 煉が一瞬首を傾げたけど、二人とも頷いてくれた。

口の中がちょっと気持ち悪いけど、とりあえず落ち着けたわね。

深呼吸して心を落ち着けていると、煉がこっちに声をかけてきた。



「で、フリズだっけ? 他に生存者とかはいないのか?」

「あ……そうだ、誠人といづな! それにノーラも探さないと!」



 あたしとした事が、そんな大事な事を忘れてるなんて!

あたしの様子にただならぬものを感じたのか、煉があたしに問いかける。



「どうした、知り合いがいるのか?」

「そ、そう! あたしの仲間が向こうの方に! あと、この街にあたしの友達が住んでたの! 探さないと……!」

「落ち着け、その仲間はどっちにいる?」

「あ、あっちの方に」



 言って、あたしは宿が合った方向を指差す。

そちらを見つめると、煉は小さく息を吐き出した。



「なら、心配はいらない。あっちには兄貴が行ってる。兄貴は俺達の中で一番強いから大丈夫だ」

「でも、ノーラがまだ何処にいるのか!」

「居場所が分からないのか? じゃあ、そのノーラって子を探そう」

「……いいの?」

「どうせ原因はリルが探してるし、見つけたら兄貴が行くだろ。俺達の出る幕は無いさ」



 ミナの問いかけに、煉は頷いて答える。

どうやら、協力してくれるみたい。



「言っておいてなんだけど……そこまで協力して貰うのは」

「いいんだよ、どうせ俺達は生存者を探せって言う指示を受けてるんだから。それなら、その子を探すのと同じ事だ」

「……ありがとう、助かる」



 こんなところで協力を得られるとは思わなかった。

彼がどうしてここに来たのかとかは分からないけど、それでもここは信用しよう。



「よし、それじゃあ行くぞ」

「ええ!」

「ん」



 そうしてあたし達三人は、闇と死に包まれた廃村を進んで行った。











《SIDE:OUT》





















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