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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
グレイスレイド編:少年と少女と過去の英雄
32/196

29:告白

絶対に、赦さない。

怒りと憎しみが、不殺を縛り付ける。


             BGM:『2』 OneRoom










《SIDE:MASATO》











 あれから、オレ達は追われるようにベルレントを出発していた。

別に、実際に指名手配されたという訳ではないのだが、どうしようもなく居づらかったのだ。


 指名手配にならなかったのは、恐らくアルシェールの事があるからだろう。

あの宰相は、彼女がオレ達に対し親しげに話しているのを見ていた。

つまり、オレ達を彼女の身内だと勘違いしたのだろう。

もしもオレ達を追って捕まえようとするような事があれば、彼女からの報復があるかもしれない。

そうすれば、今度こそ国が滅びる。



「あの国、大丈夫かしら……?」



 まだ普段の明るさの戻らない顔で、フリズはそう呟く。

オレといづなはふと視線を合わせ、揃って小さく息を吐き出した。



「まあ、しばらくは混乱するやろうけど、王位継承権を持っとる人はまだいるやろうし、国は存続できるやろ」

「今回、敵となったのは『邪神』だ。国民の怒りの矛先をリオグラスから逸らせる事も出来るだろうからな。

あのまま戦争になるよりは、遥かにマシな結果だっただろう」

「……そう」



 呟いて、フリズは再び無言に戻る。

オレ達の二歩後ろを歩いているフリズに対し、どうしたものかと思わず肩を落とした。

あまりの元気の無さに、いづなが小声でオレに囁きかけてくる。



「あれ、本当に重症やで……うちが胸を揉んでも無反応やったし」

「お前も何をやってるんだ。まあ、確かにかなりショッキングな出来事だったからな。

しかし、これは本人の心の問題だし、オレ達が口を出してどうこう出来るものではないだろう」

「せやね……」



 再び、嘆息。

やはり、フリズがいないとオレ達も締まらないと言うべきか。

いづながふざけて、フリズがツッコミを入れて、オレがそれを傍観する……そういうスタイルが、既に出来上がっていたのだから。

やはり彼女に元気がないと、いづなも安易にふざける事ができないのだろう。



「傍にいてやる事と、相談があったら乗ってやる事……今のオレ達には、その程度しか出来ない。

幸い、考える時間は十分にあるだろう。その為の徒歩だからな」

「余計ネガティブにならなきゃええんやけどね……フーちゃん、あれで結構繊細やから」

「なるようになるだろうさ。信じてやれ」

「……ん、せやね」



 ともあれ、今はそっとしておいてやろう。


 今回オレは初めての徒歩での旅だ。

どの程度のペースを保つべきか、手探りでの行軍となる。

まあ、オレの体のスペックを考えれば、どう考えてもオレが二人に合わせる形になるだろうが。


 軽く草が取り払われただけの街道の上、オレは先の方へと視線を向けてみる。

かなり強化されている視力を持ってしても、その先は見えないが。

とりあえず、地図を広げてみる。



「今夜はどうするつもりだ?」

「野宿になりそうやね。明日になったら、この途中にある村に立ち寄って補給の予定や」

「今日は辿り着けないか」

「無理やろうね。走り続けてようやく夕方に辿り着くぐらいや」



 オレには可能かもしれないが、他の二人には無理だろう。

こんな状態のフリズだ、せめてしっかり休ませてやりたかったが、この際仕方ない。

火の番などはオレが受け持つ事にしよう。

幸い、この身体は睡眠を取らずとも十分に活動できる。

……便利は便利だが、本当に人間離れしているな。

ともあれ、使えるのならば存分に活用させて貰おう。



「さて、もう少し頑張って行こか。きっちり進まんと、明日村に辿り着けなくなってまうからな」

「ああ、そうだな」

「……」



 フリズからの返事は無い。

だが、小さく息を吐いて、視線を前に向ける気配だけはあった。

まだまだきついだろうが―――それでも、彼女なら何とかできるだろう。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











 街道から少し外れた場所で、あたし達は野営をしていた。

携帯食料の干し肉を軽く火で炙っただけの簡単な食事を取り、ぼんやりと空を見上げる。

幸い空は綺麗に晴れていて、雨が降る心配は無さそうだった。



「いいペースやね。これなら、明日には予定通り着けそうや」



 焚き火を使って苦労しながら地図を照らしつつ、いづながそう口にする。

今回は、あたしが足を引っ張っちゃってるわ……ちょっと、自己嫌悪。


 二人は、あたしを慰めるような事は言ってこない。

ただただ、普段通りの自然な仕草で接してくる。

だからこそ、あたしがいないその空間に、酷い違和感を感じてしまう。

まだ出逢って短い時間しか経ってないけど……やっぱり、あたし達は仲間なのよね。

こうやって一緒にいるのが、いつの間にか自然になっていた。


 二人は、何も聞いてこない。

どうしてあたしが、ここまで人の死を苦手としているのか。


……聞いてこない?

違う。二人は、待ってくれているんだ。

あたしが、自分から話すのを。


 だから―――



「……ぅ」



 体育座りで、腕に顔を埋める。

口を開けたけど、上手く言葉を出せないまま、あたしは顔を隠し続けた。

でも、話したい。

話して、楽になりたい。


 勇気を、振り絞る。



「……二人とも、聞いてくれる?」



 顔は、伏せたまま。

けど、二人が身じろぎしてこちらを見る気配だけは分かった。

―――歯を食いしばって、覚悟を決める。



「二人には、話す。あたしが、どうしても人が死ぬのがダメな理由」

「フーちゃん……」

「……分かった、聞かせてくれ」



 無理をするな、って言う言葉が無かったのが逆にありがたかった。

そんな事を言われたら、あたしはまた躊躇ってしまったかもしれないから。



「あたしは、向こうの世界で死んでこっちに来たって、二人には教えたわよね。その時、あたしが孤児院にいた事も」

「ああ、せやね」

「あたしの昔の両親、自動車事故で二人とも死んじゃったのよ」



 怖い。

思い出すだけで、体が震えてくる。

出来る限り思い出さないようにしてきたけど、両親の事を思い出そうとすると、いつもあの光景が眼に浮かんだ。



「あたしも、一緒に車に乗ってた。こっちは軽自動車で、向こうはトラック。

もう随分昔の話だけど、自分が生きてたのが未だに信じられないわ。

でも、怖かった。痛くて、狭くて、苦しくて。車が……横転してたのよね」



 それだけじゃない。

それだけだったら、どれだけ良かったかしら。



「でも、本当に怖かったのは……あたしを抱き締めてくれてたお母さんが、少しずつ冷たくなっていった事。

怖かった……何も出来なくて、何も考えられなくて。ただ、怖かった」



 声が、震える。

涙が滲んで、歯を食いしばって耐えようとしたけど、それと同時にぽろぽろと零れてしまった。


 と―――その時、あたしは隣に誰かが近寄ってきたのを感じた。

少しだけ顔を上げると、いづなが悲しそうな表情を浮かべてこちらを見ているのが見える。

そしていづなは、あたしをそっと抱き寄せてくれた。

いつもは恨めしく感じるこの胸だけど、今は暖かくて、優しい。



「聞くよ、最後まで。傍におるから、頑張って」

「ん……あたしは、それから孤児院に入った。

始めは塞ぎ込んでたけど、ちっちゃい子供の世話とかで、いつまでもそうしてはいられないって思って。

だんだん、今みたいな性格になっていった。けど―――」



 あれは、唐突に訪れた。

『あたし』の、最期の日。



「あの日、あたしは車に撥ねられた。昔事故に遭った日から、ちゃんと信号は守ってたのに。

薄れてく意識の中で見えたのは、あたしの事を確認する男の顔……!

あの日、交通事故を起こして、あたしの家族を殺して捕まったあの男の顔だったッ!

あいつは、あの男は、あたしを殺して笑ってたのよ!?」



 許せなかった。

生まれて初めて、人を本気で殺してやりたいと思った。

理由なんて知らない、事故を起こして捕まった事への逆恨みか何かだろう。

でも理解できなかった……ううん、理解なんてしたくなかった。



「どうして、どうしてあんな酷い事ができるのよ!?

どうしてそんな事で、簡単に人を殺せるのよ!?

許せなくて、殺してやりたいほど憎くて、でもあんな奴と同じになんてなりたくなかった!」

「……」



 いづなは、ただ黙ってあたしの事を抱き締めてくれる。

あたしはいづなの胸に顔を埋めながら、ただただ感情のままに叫んでいた。

叫んで、泣き喚いて、みっともなく醜態を晒し続ける。


けど―――少しだけ、すっきりした。



「……次に目が覚めたとき、『あたし』はあたしになっていた。

赤ん坊の頃には自覚は無かったけど、でも徐々に昔の事を思い出して行ったわ。

しばらくは何も認めたくなかったけど……でも、お父さんやお母さんは、あたしにちゃんと愛情を注いでくれた。

だから、それに応えようって……そう、思ったわ」



 気持ちが落ち着いてからは、あたしは神様に感謝していた。

もう一度、あたしに素敵な家族を与えてくれてありがとうって。



「元の世界じゃなかったのはショックだったけど、それでもある意味良かったのかもしれない。

こんな力を持って元の世界に転生してたら、あたしはあの男を殺しに行ってたかもしれない。

そしたら、取り返しがつかない事になってたと思うから」



 視界に収めるだけで相手を殺してしまえるこの力。

怖いし、あまり好きじゃない。けど、お母さんがコレを使ってたくさんの人を救ったと思うと、嫌いにもなれなかった。

お母さんは戦う事が、命を奪う事がどういうことかしっかり教えてくれたけど、それでもあたしは、コレを使って人を殺す気にはなれない。

『あたし』を殺したあの男と、同じになってしまうかもしれない事が怖かったから。


 少しだけ落ち着いたあたしは、いづなの胸から顔を上げた。

手で涙を拭い、少しだけ苦笑する。



「けど、あたしって不幸な星の下にでも生まれてるのかしらね。

結局、こっちの世界でもお父さんは死んじゃった……アルバートのおっちゃんは謝ってたけど、ここまで来ると恨みも何も無かったわ」



 殆ど一緒に暮らさない内にお父さんは死んじゃったから、まだ実感があまり無かったって言うのもあったけど。



「でも、それでも悲しいものは悲しかった。お母さんまで死んじゃうんじゃないかって、怖くなったわ。

また、独りぼっちになっちゃうんじゃないかって。でも―――もう、平気」



 あたしは、小さく笑う。

あたしを支えてくれたいづなと、ただ黙って話を聞いてくれた誠人に。



「騎士団の皆が、家族になってくれた。貴方達二人が、あたしの友達に……ううん、仲間になってくれた。だから、もう大丈夫」

「……あんがとな、フーちゃん。思い出すの、辛かったやろ?」

「ううん、いいのよ。二人には、知っておいて欲しかったし」



 今でも思い出すのは辛くて苦しい。

けれど、全てを吐き出してみたら、何だか気が楽になった。

辛い事ばかりだったけど、仲間がいるんだと思うと心が軽くなる。



「……ありがとう、二人とも。あたしの話を聞いてくれて」

「オレ達は共犯で、同盟で、そして仲間だ。気を遣う必要は無いさ。

巻き込みたいなら巻き込めばいい。それだけ、オレ達も付いて行くし、協力もするさ。その代わり―――」

「うん、あたしも貴方達を助けるわ」



 この二人は、あたしみたいに『人を殺せない』なんて甘い事は言わないだろう。

あたし自身認める事は出来ないけど、それでも人を殺すと言う事がどういう事なのか、分かってるつもりだ。

だから、あたしの出来る範囲で手伝おう。

それで辛くなったら、またいづなに胸でも貸してもらえばいい。


 あたし達は、仲間なんだから。



「本当に、ありがとう」











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











 翌日、準備を終えたオレ達は中継地の村へ向けて出発していた。

オレは一睡もしていないが、行動には全く支障が無い。

睡眠を取らずとも、動かずにいればさっさと体力を回復できるようだ。


 そして朝から歩き続け、もうじき昼になると言う時間帯。

そろそろ目的地が見えてくるかもしれないという所で、フリズが声を上げる。



「そういえば、中継地だっけ? そこって何て村なの?」



 フリズは、昨日の一件以来元の元気を取り戻していた。

朝起きると簡単な食事を作り始めたフリズに、オレ達は安堵したものだ。



「サントールっていう村やね。特に何かあるって訳やない……森の近くやから、林業で生計を立てとるみたいやけど。

まあ、森ってのは魔物が多い所やし、きっちり自衛手段は整えとる場所やろうね」

「へぇ……ん? サントール?」

「フリズ、どうかしたか?」



 サントールという単語に、フリズはふと首を傾げていた。

オレの問いかけにも答えず、フリズは顎に手を当てながら虚空を見上げて考え込んでいる。

しばしそのままで唸り続けた彼女は―――ふと、ぽんと手を叩いた。



「そうよ、ノーラが住んでる村の名前じゃない!」

「ノーラ? 誰や、それ?」

「前にファルエンスに住んでた友達よ。父親が学者かなんかで、色んな所を転々としてるらしいからあんまり長い間一緒にはいなかったけど。

で、その子が元々住んでる場所が、そのサントールって村なのよ」



 どうやら、いづなと出会う前の友人のようだ。

いづながこちらに来たのはおよそ一年前と聞いているから、幼い頃の友人と言った所だろう。

フリズの言葉に目を輝かせるいづなは、妙な笑顔で声を上げた。



「ほー、そんならその友達と会えるかもしれんのやな。その子、可愛えん?」

「……アンタ、また妙な事しようと思ってんじゃないでしょうね?」

「あっはっはー」



 否定しろ、せめて。


 ともあれ、父親の事情とやらで村を出ていなければ会える可能性は高いだろう。

フリズにとって良い事だろう。色々とあったのだから、そういう心休まる出来事があるのは助かる。



「でも、可愛い子よ。もう随分昔だから印象は変わってるかもしれないけど。

明るい茶色の髪で、あの頃は髪をお下げにしてたわね」

「ほうほう」

「手をわきわきさせんな変態」



 すっかり平常運転に戻った二人に、小さく嘆息する。

まあ、こうしていてくれた方がこちらとしても安心は出来るが。


 ふと、視線を上げる。

するとオレの目には、その先に村の影が映っていた。

どうやら、もうすぐ到着出来るようだ。



「やれやれ……」



 とりあえず、今日はベッドで休みたいものだ。

火の番をするというのは中々暇なもので、正直二日も連続でやるのは御免被りたい所だったのだ。



「……ん?」



 ふと気付いて、目を凝らしてみる。

村の入り口の辺りに、黒い人影が二人見えたのだ。



「村の人間か?」



 何かを話していたと思われる二人は、そのまま村の中へと入っていく。

これだけ距離が開いているとどんな相手なのかはよく分からないが。


 ……直感が、何かを囁きかける。



「まーくん、どないしたん?」

「いや、何でも無い」



 何とも表現しがたい予感に、オレは首を横に振った。

感じたものの感覚を上手く言葉にする事が出来ない。

一体何なんだろうか、これは。


 一抹の不安を抱えつつ、オレ達はサントールの村へと向かって行った。











《SIDE:OUT》





















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