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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
グレイスレイド編:少年と少女と過去の英雄
30/196

27:勇者カズマ

『勇者』と書いて、『都合のいい道具』と読む。










《SIDE:MASATO》











「エ、エルザから離れなさい!」



 硬直した空気の中で、真っ先に言葉を発したのは王女だった。

エルザというのは、恐らくこの騎士の事だろう。


 騎士から視線は外さぬまま、いづなは声を上げる。



「ほんなら、このおねーさんに武器を納めるよう言うてくれへんと困る。

うちらはそこの勇者君に興味があっただけなんや、別に危害を加えようって訳やない。

せやから、双方武器を納めるのが得策とちゃうか?」

「貴様、何を―――」

「分かりました」

「―――ひ、姫様!?」



 こうしていると、こちらは完全に悪者だな。

まあ、ここで戦闘になっても何もいい事は無い。

オレも刀から手を離し、フリズも構えた拳を開く。


 女騎士はまだしばらく渋っていたが、やがて諦めたのか剣から手を離した。

それを見たいづなも、にっこりと笑みを浮かべながら刀を鞘に納める。



「あんがとな。ほな、自己紹介といこか、勇者君」

「え、あ、ああ……ええと、俺は星崎和馬だ。それで、あんた達は?」

「傭兵だ。三人でパーティを組んでいる」



 言いつつ、首から提げていたドッグタグを取り出す。

いづなやフリズも同様に、同じ物を示した。

そのまま、自己紹介を続ける。



「傭兵ギルド所属、いづな……うちらの言い方なら、霞之宮いづなやね」

「同じく、神代誠人だ」

「あたしはフリズ・シェールバイト。まあ、よろしく」



 フリズの名乗りに、一瞬正体がばれないかどうか不安になったが、カレナさんは旧姓の方で有名だったので大丈夫のようだ。

そしてこの名乗りに、勇者は驚いたような表情を浮かべ、オレの事を凝視してきた。

確かに、この姿は日本人離れしているからその反応も当然だ。


 簡単な自己紹介を終え、いづなが再び話し始める。



「勇者君の想像通り、うちやまーくんは地球の出身や。

ベルレントの勇者がうちらの同郷やと聞いて様子を見とったんやけど、迷惑かけてもうたね」

「い、いや……でも驚いたな。俺以外にも地球の人間がいたなんて」



 ……何だ、それは?

まるでこの世界に、自分以外の地球人がいないと思っていたかのような反応だ。

ちらりと、エルザと呼ばれた騎士や王女の様子を盗み見てみる。


 騎士の反応は分かりやすい。極端に動揺している。

こいつは旅人の神に導かれた人間の事を知っていた、ならば意図的に教えなかったと言う事か?

そして王女。こちらは困惑か。

この王女の反応は、旅人の神の事を知らないような印象を抱くが……果たして、この世界の人間にそんな事がありえるのか?

よほどの箱入りでもない限りはありえないと思うのだが。


 いづなもオレの考えた事に気付いたのだろう。

一瞬訝しげな表情を浮かべたが、すぐさま元の笑みに戻す。



「成程、知らんかったんやね。この世界には、うちらみたいな人間は結構おるで」

「なっ、本当かそれ!?」

「ホンマやで。なぁ、騎士さん?」

「っ……!」



 どうやら、この騎士は本当に素直な性格をしているようだ。

分かりやすく動揺を表に出し、びくりと身体を震わせて見せる。

その反応に眉根を寄せ、オレは星崎に問いかけた。



「……星崎。お前は、どう言う風に聞いていた?」

「え、いや……そういう事は何も言われなかったぞ? エルザ、アンタは知ってたのか? それにリナも!」

「わたくしは、エルロード様の事は殆ど知りませんでした……エルザ、貴方は?」

「わ、私は……」



 知っていたのに、言わなかったか。

だが、この素直な性格の騎士が、そういった事を態々隠すだろうか。

他にも、色々と説明できる人間はいたはずだ。

それが、何故誰も教えなかった?



「……必要な事のみに集中させる為、っちゅう事か」

「ちょっと、いづな? 何一人で納得してんのよ?」

「教えんように指示されてた、って所やろうね。その指示の出所は何処なんかな、騎士さん?」



 どうやら、いづなは何かに気付いたようだ。

視線を細め、いづなはそう問いかける。普段おちゃらけているだけに、真面目になった時の迫力はかなりのものだ。

だが……成程、何となく分かってきた。



「戦争に集中させる為、と言った所か?

もしも戦場で同郷の人間に出会ったりしたら、剣を振るうのに躊躇いが出るかもしれないからな」

「な……っ!?」



 星崎が絶句する。

全てが分かる訳では無いが、これも一つの理由だろう。

オレとて、同郷の人間が敵では剣に迷いが出るかもしれない。

オレ達にとって、この世界における繋がりは非常に薄いものだからだ。

だから、僅かな繋がりでも惜しい。


 それを、知らせぬままに解決しようとしていた訳だ。



「……気に入らんな」

「せやね。騎士さん、その指示は誰が出したもんや?」

「そ、それは―――」



 女騎士は言葉に詰まる。

どうやら、結構な上役のようだな。

と―――そこで、王女が声を上げた。



「もしかして……ウェルバー、ですか?」

「っ!」

「そいつは?」

「この国の宰相、だったかな。何か、嫌な笑みを浮かべてる奴だ。あいつ、俺を利用しようとしてたのか……!」



 星崎の言葉に、オレといづなは視線を合わせる。

何やら、キナ臭い。シルフェリアに言われていた通りだ。

足を踏み込むべきか、それとも一端引くべきか―――だが、ここで止まっては結局進展しないか。


 と、そこで何かを思いついたように星崎が顔を上げた。



「そうだ、ジェクトさんに相談しよう! ウェルバーの奴が何を考えてるか分からないけど、あの人なら味方になってくれる筈だ!」

「あ、でもそいつ―――むぐっ」

「おお、あの英雄ジェクトかぁ。うちらも会わせて貰ってええ?」



 喋ろうとしたフリズの口を押さえ、ニコニコと笑みながらいづなは声を上げる。

その行動に星崎は一瞬訝しげに眉根を寄せたが、自分の状況を優先したのか、首を縦に振ってきた。


 ふむ……こいつも見極めなければならないか。



「ああ、構わないさ。いいよな、リナ」

「ええ、カズマ様」

「姫様、ですが!」

「彼らはカズマ様と同じ所から来た方々なのでしょう? きっと協力してくださいます」

「しかし……!」



 苦労してそうだな、あの騎士は。

口を押さえられたフリズの目つきがそろそろ危険な角度まで釣り上がって来たが、気付かない振りをしてこの国の三人を見守る。

……まあ、あの抱えるような体勢では頭に胸が当たるからな。

どうやら、フリズが爆発する前に話は纏まりそうだ。



「決まった、あんた達を城に連れて行くぜ」

「おお、ホンマか! おおきになぁ」

「礼を言われるほどの事じゃないさ。じゃあ、付いて来てくれ」



 ニコニコと笑みを浮かべる王女と、不満げな表情の騎士。

オレ達を先導するように歩いて行く背中を見て、いづなはようやくフリズを解放した。

フリズはいづなに向かって噛み付くように叫ぼうとするが、いづなが唇の前に人差し指を立てているのを見て押し黙る。

そのまま、いづなは小さく囁くように声を上げた。



「まだ、信用するには早いで、フーちゃん」

「え……?」

「向こうの世界の人間やからって……いや、向こうの世界の人間やからこそ、易々と信用するのはあかん。

それに、この国はキナ臭い部分が多すぎるんや。全員敵と思っといた方がええ」

「同感だな」



 日本人は外面を作るのが上手いからな。腹の中にどんな化け物を飼ってるか分からない。

あの中で一番信用出来そうなのは、むしろあの女騎士の方だ。

隠し事が出来ないタイプだからな、あれは。



「フーちゃんが人を信じたいのは分かるんや。けど、ここは危険な場所や。

せやから、みんなの安全の為にも慎重にならなあかん……お願いな」

「……分かったわよ、そういうのはあんたの方が得意だしね。あたしは、いづなの指示に従うわ」

「おおきにな……ほな、行こか」



 少しだけ遅れてしまった事に気付き、星崎たちの背中を追って歩き出す。

この先には何が待ち受けているか分からない。

背中の太刀の重さを確かめるようにしながら、オレは城へ向かって進んでいった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:IZUNA》











 勇者君の案内で、うちらはベルレントの城までやってきた。

小国と言う割には意外と広い……まあ、リオグラスに領土を取られなかったらそれなりの規模の国やったしなぁ。


 さて、勇者と王女の鶴の一声で易々と城の中に入れたウチらは、まず『ジェクト』に会いに行く事になった。

とりあえず、ここでニセモノかホンモノかをはっきりさせておきたい所なんやけど、下手な事は出来ひんから困る。

まあ、一応逃走ルートぐらいは把握しとこか。


 うちらはそのまま城の中には入らず、城の横手にある広場のような所へ連れて行かれた。

どうも、そこで騎士たちが訓練をしとるみたいやね。

そして武器を振るう騎士達の中で、一人だけ異彩を放つ銀色の男。



「ジェクトさん!」

「おや? やあ、カズマ。お姫様のエスコートは出来たかい?」



 ……爽やかや。話に聞いとった性格とまるで正反対方向や。

思わず噴き出しそうになるのをこらえて、うちは話に耳を傾ける。

どうやら、勇者君が全部説明してくれとるみたいやね。



「まさか、ウェルバーが……?」

「ああ、そうなんだ。だから―――」



 観察する。

うちは、戦闘要員やない。

多少は刀を振るえる。そこらの兵士程度で、一対一なら負けへん自信はある。

せやけど、うちにそれ以上は無理や。


 せやから、うちは見る。

うちに出来る、精一杯の事をする。精々、参謀程度しか出来ひんけど―――



「……どうだ?」

「黒やね」



 まーくんも、うちの事に気付いとるんやろう。

分かってて付き合ってくれるから、ありがたい。



「フーちゃんを見て全く反応せぇへんかった。カレナさんの生き写し言われとるのにな」

「……なら、どうする?」

「うちらの目的は、あくまでも『ジェクト』や。この国の都合に付き合う義理はあらへん。

まあ、勝った事実があればええと思うよ。あのニセモノがどの程度の実力かは分からへんけど、この状況で殺すんは拙い」

「……分かった」



 すっと、まーくんの視線が細められる。

まーくんは、人を斬る事への嫌悪感を排除されてしまっとる。

せやけど、罪悪感だけは残っとる筈や。

罪悪感すらなかったら、殺人鬼になってまうかも知れへんから。

シルフェ姐さんがやった事や。けど、止めなかったうちかて共犯や。

責任は取らんとな。


 と―――ようやく、向こうは話が纏まったみたいやね。



「了解したよ。それで、君達はどうするんだい? 出来れば、私達に協力してくれると助かるんだが」

「一緒に行こうぜ、同郷のよしみだ」

「……悪いが、それは了承できない。遠くから来たもんでな。だから、旅の目的を果たさせて貰う」



 言って、まーくんは景禎を引き抜く。

周りの騎士たちが警戒して剣に手を掛ける中で、まーくんは真直ぐに『ジェクト』を見据えて言い放った。



「一手、付き合って貰いたい。オレとアンタ、一対一の勝負だ」

「……ほう。それは、私が誰か知った上で言っているのだな?」

「ああ」



 すっと、『ジェクト』の目が細められる。

隣のフーちゃんは心配そうにしとるけど、それでも止めるような事はせんかった。

せやけど―――



「……もし逃げる事になったら、頼むで」

「……了解」



 小声で頷いたフーちゃんは、周囲を見回し始める。

全員の位置を確認しとるんやろう。

その間に、まーくんはいつもの―――うちと同じ脇構えに刀を持つ。



「その武器でやる気かな?」

「ああ。どうせ、木刀でやろうが一撃当たれば殺す事に変わりは無い」



 その言葉に頷き、『ジェクト』は槍を構える。動揺しないって事は、一応は不死者イモータル・ブラッドなんかな?

周囲の人間は、皆巻き込まれんようにじりじりと後ろに下がってゆく。

緊迫した空気に包まれた場所。その中で、一瞬たりとも表情を崩さず、まーくんは相手を見据える。


 そして―――その姿が、爆ぜた。



「―――ッ!!」



 一瞬。それで、全ては済んでもうた。

まーくんの景禎が『ジェクト』の首筋に突きつけられるまで、半拍と掛からない完全な無拍剣。

相手に出来たのは、槍の穂先をピクリと動かす事だけ。


 うちの技、自分の物にしとるなぁ、まーくんは。



「……こんなものか」



 刃を離し、まーくんは刀を鞘に納めた。

そのまま、動けないままでいる『ジェクト』に背を向ける。

周囲は困惑と驚愕に包まれて、まーくんに対して反応できる者は一人も―――



「……何だよ、それ」



 ―――否、一人だけおった。

その言葉に反応したまーくんが、愕然とした表情を貼り付けたままの勇者君に視線を向ける。



「何でお前、そんな事が出来るんだよ! 俺は一度も勝った事なんてないのに!」

「何故、と言われてもな」

「出来るからとしか言えへんな」



 ついでに言っておくと、うちでも同じ事は出来るはずや。

フーちゃんなら、武器を熔かしてまえばそれで終わりやし。



「何で俺に出来ない事が、同じ異世界人のお前に出来るんだよ!? 俺はここなら何でも出来る筈なのに!」

「……」



 まーくんの視線が、冷ややかなものに変わる。

成程、この勇者君は、こっちの世界を肯定的かつ非現実的に捉えとる人間みたいやね。

要するに……力と才能に溺れてもうた人間、って事や。



「その程度なら、戦争など辞めてしまえ」

「―――ッ!?」

「オレよりも強い人間はいくらでもいる。オレを一睨みで殺せる人間だって知っている。

貴様は、貴様程度の力で世界をどうこう出来るとでも思っているのか?

自分が世界にとってどんな存在であるかを勘違いしているなら、この場から立ち去れ。

戦場は、貴様の遊び場では無い。貴様の判断一つで消える命があると―――」

「誠人、落ち着きなさい。アンタの言いたい事は分かったから!」

「……済まん、フリズ」



 まーくんは、冷静に見えるようで、結構感情豊かやったりする。

何か自分の琴線に触れる事があると、こうなってまうみたいやね。



「さて、行こか」

「ああ」



 周りが混乱しとる内に退散した方が良さそうや。

下手に話がこじれても面倒―――



「待て」

「……何だ」



 ―――やったんやけどなぁ。

うちらを止めたのは、意外にも茫然自失としていた『ジェクト』やった。



「君のその力、本当に人間か?」

「……何だと?」

「本当は魔物の類では無いのか?」

「―――ッ! ふざけんじゃないわよ、アンタッ!」



 あまりの言い草に、フーちゃんが激昂する。

うん、今のは流石にうちでもカチンと来たわ。


 ―――好きで人間辞めた訳やない誠人に、あんな事言いよるとはなぁ!


 うちは刀に手を掛け―――ようとした所を、まーくんの手によって遮られた。

背中を向けて表情の見えないまーくんから、低い声が伝わってくる。



「否だ。だが、純粋に人間とは言えんな」

「人間ではない? ならば、ここで討伐せねば―――」

「―――オレは、シルフェリア・エルティスの人造人間ホムンクルスだ」



 その言葉に、『ジェクト』は今度こそ沈黙した。

まーくんのその手が、再び景禎に伸びる。



「オレの受けた命令は、ジェクト・クワイヤードの確認。

そして本物であろうと偽物であろうと、一度殺して来いと言う無茶苦茶なものだ。

面倒だから見逃してやるつもりだったが―――」



 刃が、抜き放たれる。

普段の無機質な声に、隠し切れない怒りがあるのを、うちは感づいとった。



「―――どうやら、本当に命令を果たした方が良いようだな、ニセモノ」

「な、にを……!」



 周囲の兵士達がざわめく。

せやけど、まーくんは止まらない。



「シルフェリアは二年前に本物のジェクト・クワイヤードに会っている。

口調を『俺』から『私』に変えたのはどういう心境の変化だ?

色が変わった髪をいちいち銀に染め直したのか?

一緒に連れていると言う人狼族ヴェーア・ウルフの少女はどうした?

―――何故、リオグラス王と親友の貴様が、リオグラスに仇為そうとしている?」



 『ジェクト』の表情が、絶望に染まる。

周囲の困惑の声を他所に、まーくんは再び刃を構えた。

次の一拍で、相手の首が落ちる。


 ―――その、一拍に達する刹那。

巨大な爆音が、衝撃と共に城全体を揺るがしたのだった。











《SIDE:OUT》





















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