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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
グレイスレイド編:少年と少女と過去の英雄
28/196

25:勇者と英雄

それは、よくある話。

彼らは、それとは異なる道を行く。











《SIDE:MASATO》











「はー……はー……も、もう二度とゴメンだわ……」



 ベルレントに近付いたオレ達は、近くの街道に着陸して、そこから徒歩で向かう事にしていた。

鳥に乗ったまま近くに降りたら間違いなく警戒されるからだ。

ちなみに、付近に着陸した所で、鳩は役目を終えて消えた。


 そして、あまり良いとは言えない乗り心地に息も絶え絶えになった少女が一人。



「帰りは、絶対に徒歩か馬車よ……あんなの、二度と乗るもんですか……」

「まあ、それに関しては安心してええよ。急ぎって事で、行きの分しか貰うてないし」



 帰りはゆっくりと行く事になる訳か……追われながら帰る可能性もある訳だが。

一応、殺さずとも倒すだけでもいいとは言われたが、それはそれで難しいだろう。

ニセモノだったとしても、一応かなり重要なポストにいるはずだからな。



「とりあえず、そろそろ行くが……大丈夫か、フリズ」

「え、ええ……何とか」



 ふらふらと、青い顔のままフリズは立ち上がる。

とりあえず、歩くぐらいなら問題無さそうだ。



「さて、行こか~」

「ああ、もうじき日も暮れる」



 朝に出発して一気にここまで来たが、時刻はもう夕方を過ぎようとしている。

さっさと街の中に入って、宿を取りたい所だ。


 と―――そこで、後ろから声がかかった。



「あら、そこの人達……ベルレントに行くの?」

「ん?」



 響いた声に振り向く。

そこにいたのは、黒い衣を纏い、青い髪をツインテールにした少女だった。

悪戯好きそうな銀色の瞳が、きらりと輝く。



「せやけど、それがどないしたん?」

「今、入りづらいわよ? あそこ、結構警戒中みたいだし」

「うぇ、マジで?」



 少女の言葉に、オレ達は―――特にフリズが―――顔色を曇らせた。

これでは目的を果たす事はおろか、今日は野宿する事になってしまう。

そこで、オレはふと首を傾げた。



「お前はどうする気なんだ?」

「私? まあ、入り辛いって言っても色々方法はあるわよ」

「方法?」

「良かったら一緒に来る? こうして出会ったのも何かの縁だし」



 正直、渡りに船だ。

だが、彼女に何かメリットがあるだろうか?

そんなオレの表情を読み取ったのか、少女はくすりと笑う。



「警戒するのも当然だけど、あんまり気にする必要は無いわよ。別に、嫌だって言うなら構わないけど」

「……いや、世話になる」



 どの道、オレ達に選択肢は無い。

このまま帰るのではあまりにも意味が無いからだ。

オレの返答に二人も同意すると、少女は再び笑みを浮かべる。



「よし! それじゃ、一緒に行きましょ。私の名前はアルよ、よろしくね」

「うちはいづな言うんよ、よろしゅうな」

「あたしはフリズ。で、こっちは誠人ね」

「人の台詞を取るな」



 簡単な自己紹介を終え、街に向かって歩き出す。

門番から見えないような位置に降りたとは言え、比較的近くだった為、門はすぐに見えてきた。

その前に立つのは、一人の門番。



「止まれ、この国の人間でないものは、今このベルレントに許可無く立ち入る事は出来ん」



 やはり、止められた。

オレ達は互いに目を見合わせ、そして一様にアルに視線を向ける。

オレ達の視線を受け、アルは小さくにやりとした笑みを浮かべた。

そして、彼女は門番の手を取りながら媚びるような上目遣いで声を上げる。



「ごめんなさい、私達傭兵ギルドの者なんですが、この先の港に行く為の補給をしなくちゃいけないんです。

大変な時期だというのは分かります。ですが、どうかこの街で一泊させてください」

「おぉ……」



 その言葉に、門番はアルの顔を見て、握られた手の方を見つめ、そして再び彼女の顔に視線を戻した。

そして門番は一歩後ろに下がると、一度咳払いをし、それから声を上げる。



「ゴホン……ど、どうやらこの街で活動する傭兵のようだな」

「……そういう話になんの?」

「しー、フーちゃん余計な事言わんといて」



 小声で話す二人の言葉は聞こえなかったのか、門番は視線を逸らしながら道を明けた。

横に立つ門番の、その握られた右手を見ながら、小さく息を吐き出す。

そして、隣を歩くアルに声をかけた。



「一体、いくら握らせたんだ?」

「金貨一枚。真面目な門番さんへのご褒美よ」

「また、随分と大盤振る舞いだな」



 どうやら、この女は随分と金持ちのようだ。

色々と気になる部分はあるが、あまり触れないでいた方がいいかもしれない。

何か、この女からは怪しい気配を感じる。



「さて、私はこれから宿を取るつもりだけど、一緒にどうかしら?」

「あ、いいの? あたし達もそのつもりだったんだけど」

「せやね~。フーちゃんは今日は疲れたみたいやし」

「……思い出させんじゃないわよ」



 姦しく騒ぐ三人の女を一歩下がりながら見つめ、小さく嘆息する。

アルと名乗ったあの少女……彼女は一体、何の目的でここまでやってきたのか。

こちらの目的を喋れない以上、そういった話題を出すのは控えねばならないが。



「それじゃ、向かいましょうか」

「いぇー!」

「外で泊まるのって久しぶりだわ」



 気にしすぎ、か。

ともあれ、感じた違和感だけは忘れないようにしながら、オレは三人に付いて行った。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:IZUNA》











「ほな、ちょっと情報を纏めとこか」



 そう言うて、うちは荷物の中から紙を取り出した。

メモの書かれた紙。しかしその記述は、全て日本語で書いとる。

誰かに拾われても読まれんようにする為やな。


 アルさんと一緒にやってきた宿屋。

流石に部屋まで一緒にすんのは躊躇われたんで、うちとフーちゃん、それにまーくんで部屋を取った。


 しかし、アルさんは不思議な人や。

うちの眼力を持ってしてもおっぱいの大きさが測れんとは……!


 まあ、それはともかく。



「食事中に辺りの人に聞いてみて集めた情報や」

「そういえば、そんな事してたわね」

「で、とりあえず纏めてみた情報がこれやね」



 言いながら、うちはメモを差し出す。

そこに書かれとるのは、この街で噂になっとる二人の人物についてや。



「英雄と……勇者?」

「英雄はジェクト・クワイヤードの事か。敵国の英雄ではなかったのか?」

「まあ、邪神にトドメ刺した言うんは、世界を救ったのと同じやしね。今はそれよりも、この勇者君についてや」



 カズマ・ホシザキ。

どういう字ぃ書くんかは知らへんけど、間違いなく日本人の名前やね。



「このカズマ言う子は、エルロードに導かれた人間にまず間違い無さそうや。

どーも、連日連夜神様への祈りを捧げとったみたいやで」

「勇者って……あの世界から来た人間でしょ?

しょっちゅう見るって訳じゃないけど、別にそこまで珍しいものだったかしら?」

「と言うか、戦争の為にそいつを呼び出したのか。エルロードも何を考えている」



 そう言う二人の顔は不満気やね。

まあ分からんでもないけど、国っちゅうんは大抵そんなモンやろう。



「まあ、あの神様の事や。連日のお祈りの声で寝不足になってもうたから、いい加減黙らせる為に連れてきたとかそういうんとちゃう?」

「……テキトーね、神様」



 まあ、うちも一度喋ったっきりであんまり詳しい訳とちゃうんやけど。

それはともかくとして、や。



「導かれた人間の特徴として、やっぱり結構な才能をもっとるみたいやね。

視点を変えてみりゃ、小国を救う為に神様が遣わした勇者様って訳や」

「小説の主人公か何かか?」

「本人がそんな風に勘違いしとる可能性もあると思うんやけど、まあそれはどっちでもええ。

で、この国としては、この二人が戦争の為の切り札みたいやね」



 勇者カズマと、英雄ジェクト。

味方の士気を上げる意味としては十分なラインナップやね。



「この国の人から出てくる言葉は、大抵褒め言葉。

たまにジェクトへの不信とか、かつて敵であった事への不満を持っとる人もいるみたいやけど、やっぱり口に出す人は少ないみたいやね」



 これ以上ない味方なんやから、それも当然やけど。

もしもホンモノやったら、例え大国相手でも十分に戦えるはずやしな。

まぁ、リオグラスに勝てるか聞かれるとまだ分からんけど。



「勇者は分かった……だが、ジェクトはどうなんだ?

ニセモノなのかホンモノなのか、その判別は付けられるか?」

「長い銀髪に蒼い瞳、白銀の鎧を身に纏い、その手には蒼い炎を纏う銀の槍。

清廉にして潔白、神に愛された最強の騎士。それが英雄譚に語られるジェクトの姿や。

ここの『ジェクト』も、それと全く同じ姿をしとる」

「判別付けづらいわね」

「せやけど」



 うちは、眉根を寄せるフーちゃんの言葉を遮る。

この話には、まだ続きがあるんや。



「英雄譚に語られるジェクトは、それであっとる。けれど、それからもう三十年も経っとるんや。

姿ぐらい変わっとってもおかしくないんとちゃう?」

「え、姿って……不死者イモータル・ブラッドになったって事じゃなかったの?」

「シルフェ姐さんが言うには、ホンモノは邪神の呪いによって神の加護を失っとるそうや。

かろうじて瞳の蒼は残っとるらしいんやけど、銀の髪ではなくなってしもうたんやて」



 あと姐さんが言うには、ジェクトの性格は清廉だの潔白だの言われるものではなく、単なる天然ボケだったらしい。

何でも、幼い頃は王族の影武者として軟禁されてたんで、一般的な教養を全く学んでなかったそうや。

それが今では陰険な性格になった言うてたけど、姐さんのフィルターかかっとるから何処まで本当なのかは分からへん。



「あの人の言う事って、何処まで信用できるの?」

「一応、二年ぐらい前に一度会ったらしいんや。そん時は殺し合いになった言うてたから、記憶は確かやと思うで」

「この世界の連中が聞いたら卒倒しそうな内容だな」



 二人の引き攣った表情に、うちもうんうんと頷く。

まあ、人は誰しも幻想を抱くモンやからね。



「で、この事を鑑みるに、やっぱりあのジェクトはニセモノやと思う」

「まあ、そうだろうな。問題は、一体誰がこの事を始めたかだ」



 そう、まーくんの言う通りや。

一体誰が、『ジェクトのニセモノ』を作り上げよう思うたんか。

あの『ジェクト』本人が売り込んだモンか?

それとも、この国の誰かが作り上げたんか?

分からへんけど、下手に突っつくんは危険やと思う。



「やっぱ、もう少し情報が必要やね……場合によっちゃまーくんとかフーちゃんの肩書きを使う事になるかもしれんから、逃走方法は確保しとかんと」

「あたしや誠人の?」

「英雄の娘、或いは英雄の造った人造人間ホムンクルス。ニセモノを揺さぶるには十分な要素や。

せやけどこれを使うんは危険やから、出来るだけ避けて調査したい所やね」

「……成程な」



 さて、今言える事はこんな所や。

これは、ちょいと長丁場になってまうかもしれへんな。



「ま、今日はもう休んどこか。明日から活動せんといかんし」

「そうね……あたしも、今日は疲れたわ」

「そうだな。では、オレは部屋に戻る。また明日な」



 言いながら立ち上がり、まーくんは部屋を出て行った。

さて、と……ぐへへへへ。フーちゃんと二人っきりで夜を―――



「ああ、いづな? 分かってると思うけど―――」



 うちが振り向いた瞬間、フーちゃんの瞳がギラリと輝いた。



「―――変な事したら、物理的に頭を冷やすわよ?」

「……うーい」



 フーちゃんの言葉に、うちは渋々とベッドに戻ったのだった。まる。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











 昔からだが、オレは結構勘が良い方だ。

あの日、ウルフベアからしばらく逃げられたのも、その勘に従った結果だった。

そして、今日もオレは『何か』を感じ、こうして夜の街を移動している。



「……」



 オレのこの身体は、人間のものでは無い。

その為、人間の常識では考えられない行為をする事が出来た。

例えば、完全に呼吸を止めると言う事。

この身体には、元々のオレの体の一部が劣化を止めた状態で使われており、それの為に酸素を必要とはしている。

だが、それに必要な酸素は、別に肺を使った呼吸でなくとも大丈夫なのだ。

皮膚から吸収している酸素だけでも、十分に維持できるらしい。

その為、ずっと呼吸を止めていても活動できるのだ。


 まあ、水中ではそうも行かないのだが。



「さて……」



 声を出す為には呼吸はいるので、完全に人体の構造を無視している訳では無いんだがな。

オレは建物の屋根の上を跳躍しつつ、小さく肩を竦めていた。

目指すのは、街の中央に見えていた城。


 今のオレは呼吸に加え、魔力までもを抑えている。

この機能はシルフェリアに説明されたもので、背後から近付いて斬るには最適らしい。

体重移動に関してはいづなの体捌きを持っている時点でマスターしているも同然なので、移動の際の音も殆ど無かった。

今は刀も置いてきているので、音を立てる物は殆ど無い。


 とりあえず、城壁に隣接する建物の中で一番高い屋根に上ってみる。



「ふむ、跳び移る事も出来そうだな」



 教会のような建物の屋根の上から跳躍し、城壁の上に跳び移る。

夜目も利くので、その辺りに兵士がいない事も確認済みだ。


 さてと、ここまで来てみたがどうするか。

流石に、城の中にまで入るのはリスクが高い。

せめて構造が分からなければ―――ん?



「あれは……」



 思わず口に出していた事に気づき、口を噤む。

城のバルコニーに、二人の人影が見えたのだ。

黒い髪の少年と、青みがかった銀髪の少女。

明らかに東洋人の外見をした少年は、恐らく件の勇者だろう。

気配は消したまま、迂回するように城の屋根に跳び移る。



「―――ですが、カズマ様」

「大丈夫だよ、俺は勇者なんだろ? 任せておいてくれれば心配は無いさ。ジェクトさんだっているんだし」



 ……成程、やはり予想通りだったか。

こいつが、カズマ・ホシザキとか言う奴らしい。

それと一緒にいるこの少女は、セオリー通りならこの国の王女か何かか?



「違うんです。私は、貴方をこの国の都合で呼び出してしまった事が……」

「いいって、そう言ってるだろ。それに、俺だって楽しんでるんだぜ?

こんな風に力が使えたらって、いつも思ってたんだ」



 慰めの為の嘘なのかは知らんが、こいつはこの世界に来た事に関しては不満を持っていないようだ。

対する王女は、カズマを呼び出してしまった事を悔いているようだな。

これが演技だったなら、こいつは相当な演技派だろう。



「ほら、悲しまないでくれよ……そうだ、明日二人で街に出かけよう。まだ回ってない所、沢山あるだろ?

案内してくれたら嬉しいんだけどな」

「ふふ……本当に、お優しいんですね、カズマ様。分かりました、一緒に―――」

「―――お忍びで、な」



 少年少女が笑う。

こういう場面を予期せぬ形で出歯亀してると、何だか背中が痒くなるな。


 ―――ともあれ、いい事を聞いた。

明日、勇者とやらは街に出る。

色々と調べるチャンスだろう。


 二人がバルコニーから姿を消したのを見計らって、オレも来た道を戻り始める。

明日は、忙しくなりそうだ。











《SIDE:OUT》





















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