表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
グレイスレイド編:少年と少女と過去の英雄
25/196

22:パーティ結成

実は誠人とフリズの間にフラグ要素は無かったり。










《SIDE:MASATO》











 いづなを起こし、少し休憩してからオレ達は傭兵ギルドへ向かった。

盾に二本の剣が組み合わされた看板と、粗暴な喧騒が聞こえてくる扉。

対し、こちらは少女二人と女性一人、そしてオレ。

あまりにも似つかわしくない光景だ。



「さて、それでは入りましょうか」



 先陣を切ったのはカレナさんだった。

見るからに危なそうな場所に、彼女は何の躊躇いも無く入っていく。

そして、それに当然のように続いて行くいづなとフリズ。


 ……本当に、女と言うのは理解しがたい生物だ。



「これは……」



 中は、思ったよりは清潔だった。

夕方の時間帯になろうと言う所なので、仕事を終えた傭兵達が一杯やっている所がいくつかあるようだ。

が―――その喧騒が、一瞬で静まり返る。



「お、おい、あれ……!」

「ああ、“氷砕”のカレナだ」

「あいつが……」



 鋭敏になったオレの耳に、周囲の囁き声が届く。

畏怖の視線を向けられるカレナさんは、そんなものは露ほども気にせずに受付に向かって行くが。

成程、彼女が英雄と言うのも頷ける。流石の貫禄だ。



「こんにちは、支部長さんにお会いできますか?」

「え、あ、あ……は、はい! どうぞこちらに!」



 カレナさんの言葉に、受付の男は呆けたような表情で彼女を奥へと案内して行った。

残されたオレ達は―――と言うよりもオレは、周囲をキョロキョロと見回す。


 まず目に付くのは、周囲にいる傭兵達。

こちらの様子を伺ってはいるが、カレナさんの娘であるフリズがいるからか、ちょっかいを出そうと言う者はいない。

まあ、手を出されても困るから面倒が無くて助かるんだが。


 後は、何やら紙がいくつも張ってあるボードか。

コルクボードのような物だが、そこに依頼と思われる紙がいくつも張られている。

『ウルフベアの討伐』、『ケルア草の採取』、『ペットを探してください』……まあ、お約束か。

例によって、依頼と言うのは何でもありのようだ。

上の方にはランクと思われる文字が書かれていて、上位の物ほど討伐系の依頼が多い。

まあ、この辺りではB以上は殆ど無いようだが。



「……そう言えば、お前達のランクは?」

「おん? うちはDやで?」

「あたしも。大体同じぐらいの時期に登録して、行く時は一緒に行ってたから」

「成程な」



 この二人それほどでもない……それとも、傭兵としては普通ぐらいのランクなのだろうか。

元々あまり討伐系の依頼は受けていないようだったし、そんなものかもしれない。



「Bまで行けば一流の傭兵やね。まあ、まーくんなら割とすぐ上がれると思うで」

「男にそのあだ名はどうなのよ……確かに、話に聞いた限りならAに行けるんでしょうけど。

でもアンタ、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「随分とお節介だな」



 一々こちらを案じてくれるフリズには、一応感謝しておく。

まあどうにしろ、こちらにはそこまで心配の必要は無いと思うのだが―――



「分かってないわよ、アンタ……傭兵で稼いでいくって事は、人を斬るかもしれないって事よ?」

「……」



 それは、分かっていた。

元々武器は、オレたちの世界で言えば人を傷つける為のもの。

この武器が人を斬る事もあるだろう。


―――その事に嫌悪感を覚えない自分自身を、嫌悪する。



「どうやら、それに関しては問題無さそうだ」

「え……?」



 大方、またあの女シルフェリアの仕業だろう。

性格が改造されている事はとっくに分かっている。

今回のは、殺人に関する嫌悪感の排除、と言った所だろうか。



「……そう」

「フリズ?」



 と、オレの言葉を聞いたフリズは、そう小さく呟いて顔を俯かせた。

その様子に疑問符を浮かべるが、問いかける前に服の袖を引かれる。

そちらへ向けば、いづなが唇の前に人差し指を立てている所だった。

そのまま、オレにこっそりと耳打ちする。



「フーちゃんな、人が死ぬんってごっつ嫌いなんや」

「人を殺す事ではなく、人が死ぬ事自体がか?」

「そうなんや。昔は動物だって殺せへんかったんやで?

今じゃ狩りなんかでは割り切れるようになったみたいなんやけど、人間相手は全然ダメや。

せやから、そっち方面の話は振らんといてあげてな?」

「ああ、了解した」



 むしろ、人としては彼女の方がよっぽどマトモだ。

その方が、平和に暮らす事ができるだろう。



「そういうお前はどうなんだ?」

「うちは……好きやないけど、仕方ないなら割り切れるで。うちかて、死ぬ訳にはいかんしな」

「まあ、それはそうだ」



 他人と自分の命を天秤に掛ければ、普通の人間なら自分の命の方に傾くものだ。

少なくとも、見ず知らずの他人の為に命を投げ出せるような人間はいないだろう―――普通は。

まあともあれ、いづなは必要とあらば相手に切っ先を向ける事が出来そうだ。



「あ、せやまーくん。まーくんはうちらのパーティに入らへん?」

「パーティ?」

「せや。何人かの傭兵で組んでパーティが作れるんやけど、その方がまーくんもやりやすいんとちゃう?」

「オレは構わないが……お前達は大丈夫なのか?」



 これから、人を相手にする仕事を請ける事もあるかもしれない。

そういう時、フリズは戦う事が出来ないだろう。



「別に、パーティ組んだからって何でもかんでもパーティでやらなきゃいけないって訳じゃないんだし、大丈夫よ」

「……そうか。なら、こちらからも頼んでいいか?」



 正直な話、まだオレも良く分かっていない事が多い。

いざと言う時に質問できる相手がいるのは大きいだろう。


 オレの言葉を聞き、二人は笑みながら頷いてくれた。



「よろしゅうな、まーくん」

「ま、登録済んでからだけどね」

「ああ、よろしく頼む」



 ともあれ、金を稼ぐ上ではこれでいい筈だ……まあ、言われた金額を溜めるまでにどれだけ掛かるかは分からないが。

だがそれでも、これもいいかもしれないと思い始めている自分もいた。

束縛された世の中から解放された、とでも言うべきか。

今のオレに自由がある訳では無い。

だが、もしかしたら元の世界にいた頃よりも、ある意味では自由なのかもしれなかった。


 いづなは、この世界にこれた事をよかったと言っていた。

いづなにとっては、この感覚が強いのかもしれないな。


 と―――そこで、奥からカレナさんが戻ってきた。



「はい、お待たせ。話はつけましたよ」

「ありがとうございます、助かりました」

「いえいえ。それでは、登録を済ませてくださいね」



 やはり、顔が広いようだ。

頷き、オレは戻ってきた受付の男性へと近付く。



「マサト・カジロさんですね?」

「ああ」

「では、まずはこの書類に記入をお願いします」



 渡された書類には、名前や使う武器などを記入する欄があった。

これは、ギルドが依頼者に傭兵を紹介するような時にでも使うのだろうか。

とりあえずその他の注意事項や、死んでも当方は責任を負いません的な部分を流し読みし、受付に提出する。



「ありがとうございます……武器はカタナ、ですか?」

「ああ、これの事だが」



 言いつつ、右肩の後ろから突き出ている柄を示す。

やはり、この世界では西洋剣の方が主流らしい。

多少刀身が反っている、斬る為の剣と言うのも存在するのかもしれないが、恐らく日本刀ほどでは無いだろう。



「良ければ、見せて貰っても構いませんか?」

「……だそうだが、いづな」

「別に構わへんよ」



 肩を竦めながらいづなは言う。腕を組んで胸を強調するようなポーズは癖なのか。

恨めしそうにフリズが隣で見ていたが、それはともかく。


 柄を握り、刃を抜き放つ。

途中まで抜けば、後は鞘から外れるようになっている為、特に引っかかる事も無く抜刀できた。

銀に輝く美しい刀身が、窓から入ってくる夕日を反射する。



「……」



 これで良いかと聞こうとした時、何故か受付の人が唖然とした表情でオレを見詰めているのに気が付いた。

刀に見惚れているのかと思ったが、むしろ視線はオレの方に向いている。



「まーくーん。野太刀をよりでっかくしたような剣、片手で持ち上げたらフツーは驚かれるやろ」

「……ああ」



 この体のスペックを意識するのを忘れていた。

日常生活の中でも力のセーブを意識しなければならないのは結構面倒だ。


 嘆息しつつ刀を鞘に収め、オレは受付に問いかけた。



「とりあえず、これでいいか?」

「え、ええ。では、受理いたしました。ギルドメンバーの証をお渡ししますので、また明日ここに来てください」

「あ、その前にパーティ登録して貰ってもええ?」



 と、ここで少し離れていたはずのいづなが近付き、声をかけてくる。

そう、パーティ登録だ。

実際に登録が完了していない状態でもそれが出来るのかは知らないが。



「うちは、『異界の風』のいづなや。マサト・カジロをパーティメンバーとして登録するで」



 言って、いづなは胸元からドッグタグのような物を取り出した。

その様を見てフリズが恨めしげな視線を向けていたが、気にしないことにする。


 受付の人は、ドッグタグを受け取り何やら確認を始めた。

そしてしばらくすると頷き、オレの方に視線を向けてくる。



「確認しました。貴方もそれで構いませんか?」

「ああ、構わない」

「了解いたしました。ギルドメンバー証のデザインはこれと同じにいたしますか?」

「形の注文を付けられるんや。何も言わんと腕輪型になるで」

「ふむ……まあ、それなら同じ形にしておくか」



 手甲のような物を装備しようかと考えているし、腕輪型では邪魔になるだろう。

紛失しやすそうな所が玉に瑕であるが。



「承りました。それでは、明日もう一度当ギルドにお越し下さい」

「ランクはFからよね?」

「はい、その通りです」



 ふむ、とフリズが呟く。

登録したてでは最低ランクなのは仕方ないかと思うのだが。



「パーティランク下がっちゃうわね……まあ、この際仕方ないか」

「パーティランク?」

「せや。個人でランクがあるんと同時に、パーティでもランクがあるんやで。

パーティランクは受けれる依頼のランクに直接影響するんや。ま、さっさとまーくんのランクを上げてまえば済む話やけどね」



 成程、そういうシステムもあるのか。

後で色々と聞いておいたほうがいいかもしれないな。



「あんだけ言われてたんだし、ランク上げるのなんてすぐ終わるでしょ。まあともあれ―――」



 フリズは、オレに向けて手を差し出す。

その顔に、友へ向ける笑顔を浮かべながら。



「ようこそ、あたし達のパーティへ。アンタの事、歓迎するわ」

「……そうか。なら、よろしく頼む」



 当たり前だが、世界は広い。

あまりにも広すぎて、途方に暮れてしまう。

けれど、この世界で生きてゆく事は出来る。

今は、仲間がいるからだ。



「よろしく、頼む」



 もう一度呟き―――オレは、フリズの手を握り返した。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











「ほな、また明日な~」

「軽い依頼でも試しに受けてみられればいいが……まあ、楽しみにしている」

「ええ、じゃあまた明日!」



 街を出て森の方へと向かってゆく二人の背中を見つめ、あたしは小さく溜め息を漏らした。

いづなと同じ、向こうの世界の人間。

けれど、一度死んで、そして力を手に入れてしまった男。



「信用できる……わよね」



 いづながあそこまで心を許してるって事は、それだけいい奴って事だろう。

今日一日付き合ってみて、あいつが悪い奴じゃない事は十分に分かった。


 けど―――



「……怖い」



 あたしは、怖い。

あたしの秘密を知って、あいつはあたしを裏切らないか。

あたしの能力を知って、あいつはあたしを怖がらないか。


 世界は広い。あたし達は、誰もが孤独だ。

誰にも言えない秘密を抱えていたあたしを救ってくれたのは、いづなただ一人だけ。

他の人間には喋った事は無い。あたしのお母さんにも。

だって、怖いから。裏切られたら、あたしは破滅だ。



「だから……ゴメン」



 遠く離れた誠人の背中に、そう小さく呟く。

あたしは、臆病だ。だから、もう少しだけ見極めさせて。


きっとアンタなら、大丈夫だと思うから。











《SIDE:OUT》





















2011/2/22

第一章キャラクター紹介にミナのイラストを追加しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ