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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
リオグラス編:異世界の少年と創造の少女
20/196

18:第一の結末

一度目の会話は、少年とは関係の無い場所で。












《SIDE:JEY》











 チッ、思ったよりてこずったな。

ヴィーヴルとその他の龍共を倒した俺は、回収もそこそこに山道を駆け下りていた。

と言うより、取ったのはヴィーヴルの第三の瞳だけだ。

他の素材は取ってくる余裕が無かった。



「戦闘音や破壊音はしないが、どうなってやがる?」



 先ほどまで、あの小僧の武器の音のようなものが聞こえてきていた。

が、それも今では止んでいる。

あの小僧が勝利したか、それとも―――


 かぶり振って考えを捨てる。

村が破壊しつくされるにしても早すぎる。

そう考えながら、俺は村の前に到着し―――その光景に絶句した。


 まず目に入ったのは、地面に突き刺さった巨大な剣。

あんな巨大な物体が武器の形をしていると言うだけでも十分おかしいが、それ以上にその材質が不可解だった。

あれはオリハルコンと呼ばれる、この世界で最高の硬度と強度を持つ金属だ。

純度の高いオリハルコンは魔力を拒絶する性質があり、加工が非常に難しい。

オリハルコンがあんな量採れる事も、あんな巨大な剣の形に加工する事もあり得ないのだ。


 そして、その剣に貫かれているケイオスドラゴンの姿。

足は傷だらけで、片方の翼は折れ、もう片方には穴が開いている。

極めつけは顎を貫く巨大な杭だ。どうやったらあんな状況になるのか理解に苦しむ。


 そして、その周りで酒を持ち寄りながら戦勝ムードで騒ぐ村人達……頭痛がしてくる光景だ。

何より、その中心にいるのがあの小僧共だと言う事も―――いや、それ以外にありえない事は分かっているが。



「……ったく、何で急いで来たんだか」



 嘆息交じりに小僧たちの方へと歩み寄ってゆく。

最初に俺に気付いたのは、やはりと言うかリルだった。



「わふ、おかえり」

「ああ……ったく、この状況は何だ」



 まあ、見れば分かるが。

しかしまさか、こいつらだけでケイオスドラゴンを倒すとはな。

個体としては比較的小さめの奴だが、それでも非常に危険で凶暴な竜だ。

魔物のランクとしてはS-に達する、一流の傭兵でも逃げるのが基本となる存在。

それを、こんな子供だけで倒すとは。


 頭を抱えていると、俺に気付いた小僧がミナを伴って近付いてきた。



「あ、兄貴! どうだよこれ!」

「ああ、驚いたが……おい小僧、これがミナの仕業だって事は言ってないだろうな」

「え、あ、ああ。創造魔術式クリエイトメモリーの事が知れ渡るのは拙いって、散々言われたし」



 どうやら、ここに来る前に創造魔術式の希少性について何度も説明しておいたのが功を奏したようだ。

公爵の娘と言う立場にいつでも甘えられる状況ならともかく、何かと不安定な状態でミナの能力が大きく知れ渡るのは避けたいからな。


 まあ、とりあえずやれる事はやっておくか。



「ゴホン……聞け、村人達よ!」



 辺りにいた人間たちに聞こえるように、大きな声を周囲に向け発する。

槍を握って若干の威圧感を発する事で、周囲はすぐさま静まり返り、こちらに視線が集中した。



「この龍を率いていた邪悪な龍は、この俺が狩った! その瞳はここにある!」



 言いつつ、ヴィーヴルの第三の瞳を示す。

分かる奴は少ないだろうが、まあ大丈夫だろう。



「山のあの辺りに龍の死骸が落ちている。あそこに居たものは穢れた龍ではなく純粋なものだった。

故に、諸君らが触れても問題は無い。その鱗や牙を村の再興に役立てると良いだろう!」



 俺のその言葉に、村人達が沸き立つ。早速そちらへ駆けて行く若者もいた。

龍の素材って言うのは非常に高額で取引される物だ。

あそこは幼生龍ドラゴンパピーなどの小物が多かったが、それでも成体の龍も二匹ほどいた。

ヴィーヴルに関しては念入りに破壊したから何も残っていないだろうが。



「そして邪悪なる龍を討ったこの剣は、我らが神フェンリルが、加護を受けしこの娘を救う為に放った物!」



 そう言って俺が示したのはリルだ。

この国の宗教の主神であるフェンリルは、白銀の毛並みに蒼い瞳を持つ狼の姿をしていると言う。

そして、その銀髪蒼眼の特徴を持つ者は、神の強い加護を受けた者として扱われるのだ。

事実、この特徴を持つ者は、市井の出であったとしても王位継承権を持つ事が許される。

また、人狼族ヴェーア・ウルフの場合は神の使いとして崇められる事もあるのだ。


 とにかく、リルの見た目はその特徴に見事に合致している。

神の使いならば神の恩恵があってもおかしくない―――と、俺は周囲に行って聞かせた。



「危機は去った! とは言え、また同じ事が起こらぬとも限らぬ!

皆の者、今回の事を忘れずに精進するのだ!」



 まあ、要するに龍の素材を売った金できちんと戦えるだけの準備をしておけよ、という事だ。

こんな都合のいい状況は二度とない。

だから、次は己の力で何とかしてもらわねば困る。


 俺の言葉が通じたのかどうかは知らないが、フェンリルの加護を間近で見る事が出来た村人たちは大盛り上がりだ。

とりあえずは誤魔化す事が出来たようなので、安心して小さく嘆息する。



「……ミナが一番頑張ったのに、こうしなきゃいけないのか」

「仕方ねぇだろ。ミナを護る為だ」



 希少な金属を容易に、大量に作り出す事が出来るミナの能力。

利用したいと思う者は掃いて捨てるほどいるだろう。

ミナの為にも、そういったリスクは避けなければならない。



「……別に、大丈夫」

「ミナ、でもいいのか?」

「ん……お母様が護ってた人たちを護れた。だから、満足」



 やれやれ、こいつは……本当に、参ったな。

ミナが持っている杖を見て、地面から突き出た杭に視線を向け、最後に巨大な剣を見上げる。

マザー”の心臓なんて物を受け取るとは思わなかったから、ここまで能力を使いこなす事は予想外だった。

本当に……どうしたもんかね。


まあ、何はともあれ。



「俺はしっかりと分かってるさ……よくやったな、三人とも」



 言いつつ、俺は小僧とミナの頭を撫でる。

こいつらがしっかりと戦った事は分かっている。

俺がこれを覚えておけば、いつかミナの功績の一つとして報告する事も可能だろう。

だが、まだまだだ―――



「……やれやれ」

「兄貴、どうかしたか?」

「いや、何でも無い」



 思わず、苦笑する。

前まで否定していたくせに、いつの間にか俺の中でも決定事項になっちまってたと言う訳か。

全く、本当に―――



「度し難いな」



 空を見上げ、俺はそう呟いていた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 壊れた宿の一階に新たな部屋を取って一泊した俺達は、朝から帰る為の準備をしていた。

兄貴は昨日から何やら考えていたみたいだったけど、何だったんだろうか。


 しかし、それにしても。



「……なあ、ミナ」

「なに?」

「こういう時ぐらいは手放してもいいんじゃないか?」



 俺の視線の先にあるのは、ミナが腋に挟んでいる杖。

荷物をまとめる時はおろか、食事の時も手放そうとしない辺り徹底しているが。

まあ、大事だって言うのは分かるんだ。

けど、どの道ミナ以外には使えない物であるし、そこまでしなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。


 しかし、ミナの返答は相変わらず首を横に振るだけだ。



「うーん……背中に背負えるベルトみたいなのがあるといいんだけどなぁ。

それとも磁石みたいな物でくっ付けとくとか」

「?」



 と言うか、ミスリルって磁石にくっ付くのか?

そもそも磁石そのものが無いって事は……まあ大丈夫だとは思うけど、あんなでっかい物をくっつけておけるほど強い磁石があるかどうか。

とりあえずその不便な様子は見ていて気になるので何とかしたい所だ。



「とりあえず、後で道具屋とか覗いてみようか」

「……ん」



 出来るだけ素早く取り外しできるものじゃないと意味は無いから難しい所だけど。

……と言うか。



創造魔術式クリエイトメモリーで何とかできないかな、これ」

「?」

「ほら、チェーンみたいなのを身体にかけて、そこに固定するとか」



 試にと言う事で、少し長めのチェーンを創って、その内の一つからリングを作り出し杖と繋げてみる。

が、当然ながら杖の重さでチェーンが動いてしまい、杖が下に落ちてしまった。



「身体に固定できるものじゃないとダメか」

「ん」



 二人で試行錯誤を続けた結果、一枚の薄いミスリルの板を胸元から背中に掛けてくっ付ける、という結論に達した。

この板は首を通して胸元から肩、背中を覆う形をしており、これだけでも防御力がある。しかも軽い。

巨大な50円玉をひん曲げて頭を通しているみたいなものだ。

ミナはローブの上にケープを羽織ると言うような格好をしているので、ケープの下にこの板を仕込んでみる。

するとケープの下から覗くミスリル板は円盤のように見えており、ミナによって装飾が施されたミスリル板は殊の外良く似合っていた。


 杖はケープの下を通してミスリル板に触れさせ、そこから創造魔術式で作ったミスリルのリングで固着させる。

取り外す時は固着したリングを消滅させると言う、ミナならではの方法だ。

これなら無理矢理奪おうとしても奪えないだろう。



「うん、いいんじゃないか? 中々似合ってる」

「……ん」



 ミナは、コクリと頷く。

注意して見ればその目元が緩んでいるのが分かった。

俺も、ミナの表情が多少は分かってきたかな。


 杖がケープを持ち上げてしまうかと思ったが、ケープ自身それほど長いものでは無いので、あまり気にはならなかった。

これでミナの装備は完成かな。

身軽な俺に比べると若干ごてごてした感じを受けるが、魔術式使いメモリーマスターらしい厚着具合とも言える。


 と、そんな事をしている内に、兄貴が部屋に戻ってきた。



「おう、準備終わったか」

「あ、兄貴。どこ行ってたんだ?」

「ああ、ちょっとな……まあ、それはそれとしてだ」



 兄貴は何やらブツブツと呟いていたが、嘆息すると俺たちと向かい合うようにベッドに座り込んだ。

そして、もう一度深々と溜め息を吐く。



「ミナ、お前を連れて行く事に決めた」

「え……わた、し?」

「兄貴、それって!」



 兄貴の言葉に、俺は思わず耳を疑った。

公爵の前であれだけ渋ってた兄貴の事だ、ドラゴンを倒したからって拝み倒さなきゃ首を縦には振ってくれないと思ってたのに。

まさか、こんな簡単に許してくれるなんて!



「……これほどまでにお前の力が強くなっていたのは予想外だった。

おまけにその杖だ。ここまで来ると、逆に手元に置いておいた方が安心できる。

とにかく、そういう事だ」



 兄貴は、そう言い放つとそっぽを向く。

兄貴らしくない仕草に、俺は思わず苦笑した。

そんな姿に、ミナはおずおずと声を上げる。



「ジェイ……ありがとう」

「礼を言われる筋合いは無い。むしろ、帰してくれって言ったってしばらく帰すつもりは無いからな。覚悟しとけよ、ミナ」

「ん、がんばる」



 何はともあれ、これでミナを連れて行けるかどうかという問題はクリアできた。

これで、またミナと一緒に旅が出来る。そう思うと、嬉しさで自然と顔が綻んだ。



「ミナ!」

「レン?」



 ミナに向かって、右手を差し出す。

ミナは一瞬首を傾げていたが、おずおずと、それでいて少しだけ微笑みながら俺の手を握ってくれた。



「これから、よろしくな」

「ん……よろしく」



 俺達の後ろで飛び跳ねるリルと、その様子を見ながら嘆息する兄貴。

この世界に来てから、俺が手に入れた仲間。


 ―――俺はこの世界に来て初めて、心の底から喜びを噛み締めていた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:???》











 さてさて、中々いい感じに纏まったようだ。

それなりに頑張った甲斐があるってものだね。


 『女神の洞窟』と呼ばれている場所の入り口。

僕は、その前に立ちながら今回の事に思いを馳せていた。



「また、随分と回りくどい事をしてくれたじゃねぇか」



 と―――誰もいないはずの場所に声が響く。

けれど、良く知るその声に僕は振り向いた。



「やあ、こんにちは」

「……やはりお前が関わっていたか、エルロード」



 彼は僕の名前を呼ぶ。

さすが、彼女が見込んだだけの事はある。僕の存在にも気付いていたか。

ふふ、これだから面白い。



「いいように利用されたな……何処からがテメェの策だ」

「酷い言われようだ。僕がそんな事をする存在に見えるかい?」

「それ以外の何に見えるってんだよ」



 遠慮など知らずに言い放つ彼に、僕は思わず噴き出していた。

ああそうだ。全くもってその通りだ。



「15年前、俺がここに訪れた―――あれすらも、お前の仕業だった訳か」

「そこまで言うかな? 君は僕の能力を知っているだろう?

僕は誰かを導く事は出来る。けれど、導きにどう対応するかは君達の自由だよ」

「異世界から人間を拉致しまくってるくせに、よく言う」



 まあ、それはその通りなんだけどね。



「ともあれ、導きに応じたのは君だし、あの少女を連れて行く事を選択したのも君だ。

その結果が今のこの状況に繋がった訳だが、異論はあるかな?」

「……何を企んでいる、エルロード」

「同じだよ。昔と同じだ」



 変わらない。変わるはずも無い。

二千の時を経た今でも、僕は変わろうとも思わない。

幾千幾万の―――を越えても、変わるはずが無い。



「知りたいのなら彼等を導く事だよ、フェンリルの騎士。君がかつて辿り着いた様に。それが、世界の答えに繋がる」

「……貴様は」

「それでは、また会おう。今度は、別の少年少女たちの様子を見てこなきゃいけないんだ」



 言いつつ、踵を返した。

背後にいる気配は、何も口に出さない。

無駄だと分かっているからだ。僕を知っているからだ。


だから、僕は嗤う。下らなく、愛しいこの世界を。

だから、この足は地に着いている。



 ―――そして僕は歩き出す。世界を、感じながら。











《SIDE:OUT》





















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