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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
プロローグ:二つの世界
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00-2:もう一つのプロローグ

そう、いつだって世界は優しくない。











《SIDE:JEY》











「・・・・・・ったく、本当にここにいるんだろうな?」



 俺は、思わずそう悪態を吐いていた。

そうでもしなきゃやってられん。何が悲しくて効率の悪い依頼でこんな遺跡まで来なきゃならんのだ。


・・・・・・いや、他の依頼もあったって言えばあったんだが。



「がんばる」

「あー、まあお前はそうだろうよ」



 銀髪犬耳のチビに溜め息を吐きつつ、俺は再びこの遺跡の奥へと視線を向けた。

古代人の居住区型の遺跡だろう。だが、ここは迷宮要塞都市ゲートに近い。

魔物、魔獣の類も十分と言っていいほど存在していた。


 この遺跡がほとんど手付かずだったのもそんな理由だろう。

通路が狭く、武器を振り回すのにも大人数で動くのにも向かない造りをしている癖、魔物は強力だ。

つまり、少人数で腕の立つ奴しか、ここに来る事はできない―――つまり俺のような存在だ。


 まあ、俺の武器も振り回しづらいってのは確かなんだが。

俺の槍は結構長いもんだ。こんな廊下では引っ掛かって振り回せない。

まあ、それを何とかできるのが俺の腕って訳だが。



「・・・・・・ジェイ」

「あ、何だ? 何か金目の物でも見つけたか?」

「ううん、あっち」



 そう言って、このチビッ子は斜め下の方向を指差す。

そちらに集中してみれば、確かにその方向に魔力素が集まって来ているのが分かる。

・・・・・・どうやら、聞いてた話は確かだったようだ。



「ったく、面倒臭ぇな・・・・・・」

「はやくいかないと」

「わーってるよ。さっさと迎えに行かねぇと死ぬからな」



 本当に厄介な仕事を押し付けられたもんだ。

本当に、これが俺の望みを達する為の役に立つんだろうな・・・・・・?


 まあいい。とにかく、これで死なせちまったらどの道おじゃんだ。

精々、見極めさせてもらおうじゃねぇか。











《SIDE:OUT》






















《SIDE:MINA》











 屋敷の窓から、月を見上げる。

わたしは、このテラスから見上げる月が大好きだった。

何故か、とても懐かしい気持ちになる。



「・・・・・・懐かしい?」



 どうして、そう思うのだろう。

分からない。わたしはそれを覚えていない。


 でも・・・・・・何故か、大切な事に思えた。



「あ」



 ふと見上げたら、空を流れ星が駆けていた。

お父様から、流れ星は王や英雄が生まれるときに見えるのだ、と聞いた事がある。

もしかしたら、どこかでそんな人が生まれたのかもしれない。


 だからわたしは祈ってみる。

祈る相手は良く知らない。この国で信仰されてる神様の事を、わたしは良く知らない。

でも、わたしは祈ってみる。


 どうか、その人が優しい人でありますように―――



「ミナ」

「お母様?」



 声をかけられて振り返ってみると、そこには扉を開けたお母様が立っていた。

使用人に任せず、いつもわたしを呼びに来てくれる、優しいお母様。



「お食事の準備が出来てますよ、いらっしゃい」

「はい」



 頷いてお母様の方に歩き出し、わたしはもう一度だけ夜空を振り返った。

―――もう一つ、流れ星が流れる所だった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











「ふぃ~・・・・・・今日も疲れたなぁ」



 みんなの洗濯物を一箇所に纏めてから、あたしはぐるぐると肩を回した。

ここは、あたしとお母さんが住んでる騎士団の支部。

つっても、あたしもお母さんも騎士って訳じゃないけど。


 まあ、住ませて貰ってるんだから、今日もお手伝いみたいな事をしながら暮らしてる。

楽しいからいいんだけどね。



「さって、今日の晩御飯何かな~?」



 言いつつ、あたしは食堂へ向けて歩き出す。

途中、擦れ違う騎士の皆があたしの頭を撫でてくれた。


 うんうん、暮らし始めた頃はどうなるかと思ったけど、皆優しくていい人だ。

女性騎士なんかは特に親身になって話をしてくれるし、文句は無し!



「さて、お母さ~ん、おっちゃ~ん、今日の晩御飯何さ~?」

「おっちゃん言うなつってんだろバカ娘」

「いいんです~。おっちゃんはおっちゃんでしょ」



 扉の近くの席に座りながらこちらに向かって文句を飛ばしてきたのは、この支部の支部長であるアルバートのおっちゃんだ。

ここに駐在する部隊の隊長でもあるため、皆からは隊長と呼ばれてる。



「今日はカルステッド地鶏のソテーよ、フリズちゃん」

「おー、今日のは豪勢! 何かいい事あったの?」



 厨房の方から顔を見せたのは、カレナお母さんだ。

あたしの好物の料理に、うきうきとしながらカウンターの方へお盆を持って行く。

そんなあたしの背中に、疑問に答えるべくおっちゃんの言葉が届いた。



「流れ星が見えたからだろ?」

「あー、もしかしてあたしが生まれた日に見えたから、って奴?

そんだったらもっと来い流れ星。毎日うはうはだぜ~」

「有り難味のねぇ事言ってんじゃねぇ」



 おっちゃんの言葉を軽くスルーし、あたしは料理を貰っておっちゃんの近くまで戻ってくる。

そこで、何やら近くの騎士、フォルスター君が話しかけてきた。



「英雄の生まれた日には流れ星が落ちるって言いますからねぇ。案外、フリズちゃんも将来大物になったりして」

「バカ言うな、思いっきり俗物じゃねぇか」

「俗物言うな強面」

「まあまあ、ほら、かの英雄ジェクト・クワイヤードが生まれた日だって―――」



 何やら薀蓄を披露するフォルスター君をスルーしながら、あたしは料理を味わって行く。

よーするに、あたしはこんな日常を送っていたのだ。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











「ハァッ、ハァッ・・・・・・畜生!」



 何処とも知れない森の中。

俺は、ただ必死で走っていた。


 何でだよ・・・・・・一体ここはどこなんだ!?

学校の帰り道だった筈だ。なのに、何でいきなり森の中にいる!?


 しかも―――



『グァガアアアアアアアアアアアッ!!』



 何で、何であんな化け物に追っかけられなきゃならないんだ!

見た目は熊っぽいが、あんなモンは断じて熊じゃない。

鬣があるし、尻尾は何故か蛇だ。

あんな化け物、見た事も聞いた事も無い!



「畜生・・・・・・何で俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだよっ!?」



 何でこんな訳のわからねぇ目に遭うんだよ!

俺は普通に暮らしてただけだろ・・・・・・平凡に生きてただけだろうが!

なのに、なのに何で!?



「クソッ!」



 悪態を吐き、とにかく木々の間を駆け抜ける。

浮き出てる木の根に躓かないように、必死に足元を確かめながら。

けど、何処に逃げればいいんだこんなの・・・・・・!


・・・・・・ん? あれは―――



「明かり・・・・・・もしかして家か!?」



 もしかしたら、あそこなら助けてくれるかもしれない!

一縷の望みを胸に、俺はそっちに向かって駆け抜けた。


 生きたい、生きたい、生きたい!

昔はこんな事を考えた事なんて無かった。

でも今は、ただ必死で―――



「死にたくない・・・・・・ッ!」



 心の底から、そう思う。

だから俺は、必死で足を動かした。

明かりの方に向かって全力で走る。


 そして、見た事の無い文字で書かれた看板が見えた時―――



「が・・・・・・ッ!?」



 俺の身体は、吹っ飛んでいた。

ぐるぐると、縦に回転しながら視界が入れ替わる。

何か、赤い紐のようなものが見えた気がした。


 そして、衝撃。

何かに叩きつけられたように視界が揺れ、俺はずるりと地面に落ちた。

でも、痛みは感じない。ただ、寒かった。


 最期に、見えたものは。

見覚えのある制服のズボンを貪ってる化け物と―――



「・・・・・・騒がしいな」



 ―――白衣を着た、背の高い女だった。












《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 いつも通りの朝。

俺は、普段使わない裏道やら抜け道を駆け抜けていた。

と言うのも―――



「やっべぇ、遅刻する・・・・・・!」



 趣味のエアガンの整備をやってたら、いつの間にか夜更かししていたのだ。

だからこうやって、普段使わない近道を使ってる。

まあ、人なんてほとんど通らない場所だ。全力で走っても―――



「おわッ!?」

「きゃ!?」



 ―――なんて、思ってる傍から人にぶつかりそうになってしまった。

バランスを崩して壁にぶつかりそうになるが、何とか耐えてそのまま走り出す。

ぶつかりそうになった人には悪いが、遅刻する訳にはいかんのだ。



「悪い、急いでたんだ!」



 これでぶつかってたら、世が世ならフラグだったんだろうなぁ、何て意味もない事を考えてみる。

いつの時代の少女マンガだよ。

とにかく、次の角を左に曲がる―――



「・・・・・・ふぅん、面白いねぇ」



 ふと、そんな声が耳に届いた。

角を曲がって先程の道が見えなくなるまでの一瞬、俺はさっきぶつかりそうになった女の子の方へ振り向いた。


 本当に、それは一瞬だった・・・・・・だから、きっとそれは見間違いだろう。


 彼女の髪は―――雪のように真っ白だったんだ。











《SIDE:OUT》












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