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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
189/196

182:勝利すべき未来を

「手の届かぬ己自身の弱さが嫌だった」

『故に、勝利の未来だけを欲したのだ』













《SIDE:REN》











 水晶が砕け散る音が、俺の耳にだけ響く。

それは、幻だったと言えるだろうか?

少なくとも―――まるで、白昼夢のように一瞬の出来事であったのは確かなようだ。

俺の目の前には、大口を開けて俺の体を噛み砕こうとしている化け物が一体。


 小さく、笑む。



「俺なんぞ食ったら、腹壊すぜ?」



 横から噛みつこうとして来ていたその両顎を、俺は両手で掴み取る。

その強大な力を膂力で抑え込み―――俺は、その顎を思い切り蹴り飛ばした。



『■■■■■■■ッ!?』



 後方へと吹き飛んだ奴を尻目に、体を完全に再生させて立ち上がる。

再生速度も今まで以上……むしろ、復元と言うべきレベルだな、こりゃ。

まあ、何はともあれ、さっさと傷が塞がるに越した事は無い。

ぐるぐると肩を回し―――俺は、奴の方へと視線を向けた。



『■■■■■■■――――!!』

「―――《拒絶アブレーヌング》」



 奴は、蹴り砕かれた顎をすぐさま再生させ、こちらへと向かってくる。

振り上げた前足の一つが唐突に巨大化し、その刃のように尖った先端を、俺へと向かって振り下ろす―――



「―――俺の体が傷つく事を、拒絶する」



 仮展開―――そう、胸中で小さく呟く。

刹那、振り下ろされて俺の体を二つに裂く筈だった刃は、俺の頭上で砕け散った。

その様を見つめ、俺は嗤う。



『■■■■ッ!?』



 攻撃したつもりがその武器を破壊された為だろう。

困惑したような唸り声を上げるが、奴はすぐさま気を取り直すと、跳躍してその巨大な尻尾を俺へと向けて叩き付けた。

しかし、その一撃もまた、俺の体に触れる前に砕け散る。

虚空に消えて行く負のエネルギーの向こうにある巨体―――俺は、そこへと手を触れさせた。



「もういい―――」

『■■■ォッ!』



 俺の手を振り払おうとするかのように、体を翻しながら噛みつこうとして来る。

その哀れな姿に、しかし憐憫は抱かない。

道を誤ったのはお前の責任だ。お前はただ、俺の世界に必要なものを傷つけた。

だから―――



「―――お前はもう、必要ない」



 ―――この化け物の起点となる、『天道遼』という存在そのものを拒絶する。

刹那、立ち上った銀の炎は、容赦なくその黒い体を焼き尽くしていた。



『―――』



 燃え盛る銀の炎の向こう、僅かに見える黒い人型のシルエット。

怨嗟と共に俺へと向けて手を伸ばすその姿は、しかしすぐさま塵と化して消滅していた。

火の粉と言う僅かな残滓を残して焼き尽くされた天道―――俺は、その場から踵を返す。



「バカな奴だよ、テメェは」



 ただ、愚かだった。

アルシェールさんへと抱いた想いを否定するつもりは無いが、それを良いように利用されたのを同情するつもりも無い。

だからこそ、奴に繋がっていたラインも、奴の存在も、宿った邪神の力も全て拒絶し尽くした。



「ま、魂は残したんだ。次は上手くやれ」



 このまま行けば次の機会なんて失われるだろう。だが、俺はそれを許しはしない。

ベルヴェルクは、この手で必ず倒す。

だから、ここで立ち止まっている暇はない。


 さて、行くか―――奴の所へ。

後は、俺の戦いだ。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











 ―――自覚した瞬間、オレの左腕はすぐさま再生していた。

これで、力負けする事は無い。

両手で持った影禎で、オレはベルヴェルクの振るう刃をしっかりと受け止めていた。

その結果に、奴は目を見開く。



「何……!?」



 すぐさま肯定創出エルツォイグングの力を使われなかったのは僥倖だろう。

剣を受け止めたこの体勢では、あの攻撃を躱すのは至難の業だ。

だが、油断は出来ない。すぐさま後方へと跳躍し、更に横へと走り出す。



「―――時間が無い。行くぞ、椿」

『ああ、分かっているさ、誠人』



 どうやら、椿もあの空間での体験をしっかりと覚えていたようだ。

ならば、問題は無い。オレ達二人が至らなくてはこの世界を築き上げる事は出来ないが、条件はこれで揃ったのだ。


 理解はしている。オレ達の力では、この男に届きはしないと。

無限と言えるほどに積み上がった記憶の中で、それは揺るぎない答えとして存在している。

そう……オレ達・・・では、勝てないのだ。

だが、あいつならば―――



「―――赤月よ、うろを黒く染めてオレ達を見下ろせ」

『―――黒陽よ、天を朱く染めてワタシ達を包め』



 ―――オレ達が届かぬ場所へと、手を届かせる事が出来る。

故に、オレ達がお膳立てをしてやらねばならない。

舞台は、この男とあいつだけ……それだけで、十分なのだ。



「―――宵の明星は東へ廻り、狂い咲きの花は薄紅に染まる」

『―――愛されぬ真夏の雪は、破滅への予言を告げるだろう』

「……!」



 ベルヴェルクが、オレ達の方へと掌を向ける。

けれど、奴の動きなどとうの昔に見えている。

オレ達を塵と化そうとしている奴の攻撃を躱し、オレ達は駆け抜けた。



「―――その終焉おわりを、オレ達は認めない」

『―――その未来を、ワタシ達は赦さない』



 仮展開、とオレは小さく胸中で呟く。

刹那、オレの視界に見えていた未来は、たった一本に絞られた。

周囲が次々と消滅してゆく中、全ての攻撃を悉く躱す未来を……オレ達の超越ユーヴァーメンシュの仮展開は、望む未来を自動で検索する能力だ。

だが、それでは足りない。



「求めるものは、ただ―――」

『―――勝利すべき、本当の未来だけを!』



 力を願え―――求めたものへ、手を届かせる力を。

無限の可能性の彼方より、たった一つの勝利を引き寄せる力を!



超越ユーヴァーメンシュ―――』



 視界に広がるのは、回避不能な範囲で奴が力を解き放つ光景。

けれど、もう遅い―――!



「―――《未来選別ツークンフト万象の観測所オブサヴァシオン・アル・ショーファング》!」



 光が世界を塗り替える。

それと共に、オレの視界を覆っていた滅びの光景は消え去った。

現れるのは、天高く上る太陽。

遠く続く景色は、ここが山頂である事を物語っていた。

そして、目に付くのはそこに建てられた天文台―――これこそが、オレ達の創り上げた世界だ。



「……よもや、この領域まで達していようとはな。やはり……面白い」

「この期に及んで余裕だな、ベルヴェルク」



 言って、オレは腕の中にアルシェールを抱え込んだ。

突如として現れたその姿に、ベルヴェルクが目を見開くのが見える。


 これが、オレ達の超越ユーヴァーメンシュの力。

無限の可能性の彼方より、望んだ未来の結果のみを引き寄せる能力。

たった一つでも勝利する可能性が存在しているのならば、この世界を創り上げた時点で勝利が確定する。

家族を護れる力が、その未来が欲しいと願った―――オレ達の、望む世界。


 ―――刹那、空間に走った斬撃がベルヴェルクの首へと襲い掛かっていた。

甲高い音を立ててその一閃は弾かれたが、ベルヴェルクは反応し切れなかったそれに大きく目を見開く。



『誠人、お前は攻撃の未来に専念しろ。ワタシが回避を請け負う!』

「ああ、任せた」



 無数の未来から、オレはオレが放つ攻撃の未来を引き寄せる。

届かぬ一閃も、弾かれる一閃も、全ての未来をここに具現化させる。

その剣戟の嵐の中で―――神威を纏う男は、口元にただ愉快そうな笑みを浮かべていた。



「それが貴様の力か……!」



 たった一太刀、掠り傷であろうと届きさえすれば致命へと至る無数の斬撃。

それを全て受け止めながら、ベルヴェルクはただただ愉快そうに笑う。


 分かっている。オレの攻撃は奴に届かないという事が。

だから、これは時間稼ぎだ。アルシェールを無事にここから連れ出す為の……奴が無視できない力が、ここにたどり着くまでの。


 強く覚悟を決める俺の視線を受け、ベルヴェルクはこちらの方へと切っ先を向けた。

刹那、オレ達の周囲へと奴の力が収束する。



『当たるか……!』



 椿が未来を選別する。

瞬間、オレが塵と化す未来が破却され、奴の背後へと回り込む未来の結果のみが引き寄せられるのだ。

奴に近付く未来が無数にあれば、その数だけオレの攻撃の未来が増える。

例えオレの勝利する結末が無かったとしても……オレの敗北する未来を、許しはしない!



「おおおおおッ!」



 アルシェールを抱えたまま、オレは剣を振るう。

一手でも多く、奴へと攻撃を届かせねばならない。

敗北は許されないのだ……オレ達には、最早勝利しか残されていない。



「だが、その力では余に届かん―――」

「……!」



 ベルヴェルクから、力が放たれる。

この男、このオレの世界ごと喰らい尽くそうというのか。

だが―――時間は、十分に稼いだ。



「後は、お前の役目だ」



 オレの世界の領域内に、一つの気配を感じる。

強大な力を滾らせ、こちらへと向かってくるその気配―――あいつは、獰猛に笑っている事だろう。



回帰リグレッシオン―――」



 そう―――



「―――《拒絶アブレーヌング因果反転カウザーラ・インヴァティオン》!」



 ―――こんな風に!



「ぬ……ッ!?」



 飛来した銀の弾丸は、ベルヴェルクの纏う力の鎧を食い破り、咄嗟に差し込まれた黒い剣へとぶつかり―――互いの回帰リグレッシオンを、相殺した。

放たれた方向へと視線を向ければ、そこには奴へと銃口を向ける男が一人。



「グーテンモルゲンクソ野郎。借りを返しに来てやったぜ、ベルヴェルク!」

「……! そうか、貴様が……フッ、ハハハハ!」



 オレの世界だというのに、二人の男が放つ力は留まる事を知らない。

世界を揺らす力の奔流から退避し、オレは煉の方へと視線を向けた。



「……手助けは、必要無いな?」

「ああ、後は任せろ。お前は護衛に専念すればいいさ。アルシェールさんは兄貴の大切な人なんだ、傷つけたら承知しねぇぞ?」

「ふ……分かっている」



 小さく笑い、オレは頷く。

知覚系の《欠片》の出力では、決して辿り着けぬ境地。

奴らのいる次元を僅かながらでも垣間見て、その差にいっそ馬鹿馬鹿しさすらも感じてしまう。

だが……オレ達の役目はここまでだ。

後は全て、あいつに懸ける。



「―――任せたぞ、煉」

「―――ああ、任されたぜ、誠人」



 そう僅かに言葉を交わし―――オレは、この領域から抜け出す未来を引き寄せた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 誠人の超越ユーヴァーメンシュが消滅する。

後に残るのは大きな広間だけ。そこに穿たれた無数の破壊痕も、ここまで来たら最早意味の無いものだ。

ここで戦いはしない―――



「お前も至ってるんだろ、ベルヴェルク」

「貴様こそ、な」



 主語の無い会話は、分かりきっている問答の証。

馬鹿馬鹿しさすらも感じるかもしれないが、それはある意味必要な事であった。

ここまで来たんだ……一瞬で終わっちまったら、面白くない。



「なら、気をつけろよ」

「ほう?」



 銀色の長い髪を揺らし、ベルヴェルクは面白そうに首を傾げる。

分かりきった問答だ……何故なら、俺は。俺の、世界は―――



「生憎と、誠人の世界みたいに優しくは無いぜ」



 武器は破壊したが、奴はそんなモノなど無くとも十分に強い。

けれど―――



「―――焦熱、怒りに焼き尽くされた生命と大地」



 ベルヴェルクは、その力を俺に向かって放つ。

あらゆる物を塵に変える、この世界に存在する万物に干渉する《創世ゲネズィス》の能力。

けれど―――滅びる事を拒絶した俺の身体に、その力は届かない。



「―――炎を宿すその目には、己の知らぬ嫉妬があっただろう」



 昔の俺ならば、奴の力に嫉妬しただろうか。

正しく全能と呼べる、その力に対して。



「―――俺はその道を捨てる。肉體を侮蔑する者達よ」



 けれど、そんなものに意味は無い。

腕を消し飛ばそうとしても、頭を消し飛ばそうとしても、領域全体を消し飛ばそうとしても―――回帰リグレッシオンでは、俺には届かない。



「―――己の生き方も知らぬ憐れな者達よ」



 俺は強欲だ。

俺の欲しいモノしか、俺の世界には必要ない。

だから、お前は必要ない。



「架橋にも至らぬと言うのなら―――この炎に焼かれて消えろ!」



 お前の世界を全て―――焼き尽くしてくれる!



超越ユーヴァーメンシュ―――」



 魂の奥底から吹き上がる銀の炎。

俺の力の形、俺の望んだ世界……俺が望んだモノだけが存在する、その他を全て拒絶し尽くす、絶対者の世界!



「―――《拒絶アブレーヌング絶対の選別アブソリューテン・アウスヴァル》!!」



 天には黒陽を。

地には焦熱にひび割れた大地を。

その合間には、吹き上がる銀の炎を。

俺が不要と断じたモノ、万象一切を拒絶する煉獄の楽園。


 ―――領域内に取り込んだ敵全てを即座に消滅させるこの世界で、未だに変わらぬ姿で立ち続けるベルヴェルクに、俺はただただ歓喜の笑みを浮かべていた。



「さぁ……どちらの世界が勝っているか―――勝負だ、ベルヴェルク」

「―――」



 そして奴もまた、俺の言葉に口元を歓喜で歪める。

奴もまた、口を開いた―――











《SIDE:OUT》





















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