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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
185/196

178:邪龍強襲

少女達の戦いは正念場を迎える。












《SIDE:IZUNA》











 超越ユーヴァーメンシュの世界は消え去り、うちは小さく安堵の息を吐きだす。

普段の回帰リグレッシオンとかはそれほど力を消費しないんやけど、超越ユーヴァーメンシュともなると流石に桁が違うみたいやった。

まあ、それでもガス欠になるほど力を使い切ったって訳でもないんやけど。



「お、終わったん……ですか?」

「本体を倒したんやし、大丈夫やと思うで。これで、あの女は撃破や」



 さんざん苦労させられたけど、うちの力は相性が良かったみたいやね。

他の皆やったら倒すまでにどれだけかかっとった事か……まあ、結果オーライやけど。

さくらんもミナっちも、とりあえず元の世界に戻ってきてほっと息を吐いとるみたいや。



『―――いづなっ!』

「うひゃっ!? ……って、マリエル様?」



 唐突に頭ん中で響いた声に、うちは思わずびくりと体を竦ませる。

緊張といた所にいきなりはびっくりするて……どうやら、ミナっち越しにマリエル様が語りかけてきたみたいやけど、何かあったんやろか?



「どないしんたんです?」

『どうした、はこちらのセリフだ。全く、落下したかと思えば突然姿を消して……』

「あー……そりゃ、ご心配おかけしました」



 超越ユーヴァーメンシュを展開すると、そこに巻き込まれんかった人には、うちらは消えたように見えるんやね。

うちの力はどうやら中に取り込める人を指定できるみたいやし、姿を隠すんには便利かもしれへんな。

……まあ、そんな事の為だけに、力を無駄使いするんもどうかとは思うんやけど。



「まあ、それはともかく」

『……一応、お前たちは私達の隊の者には信頼されているんだ、どうでもいいと言うような感じでモノを語るな。

突然消えられれば、兵たちが動揺してしまう』

「……すんません、忘れとりました」



 そ―いや、アルメイヤの防衛に加わっとった人達は、うちらの力を目の当たりにしとるんやったね。

隊一つ分の士気となると結構重要やし、今後は気をつけんとあかんね。

まあ、それは気をつける事として。



『それで、一体どうしたのだ?』

「《人形遣いドールマスター》の襲撃です。結構苦戦しましたけど、撃退に成功したんで、安心してくださいな。

もう、あの女の事は気にせんでも大丈夫です」

『む……? という事はまさか、奴の本体を倒したのか?』

「ええ、そんなトコです」



 本体がやって来たんと勘違いしとるかもしれへんけど、ここはスルーしとこかな。

超越ユーヴァーメンシュも連発して展開できる訳やあらへんし、戦力に数える事は出来んのやから、説明するんは後でも構わへん。



『そうか……ならば憂いは無い。我々も戦いに集中できる。感謝するぞ、いづな』

「どういたしましてー……っちゅーてもまぁ、成り行きなんですけどね。とりあえず、うちらはまたうちらの仕事に専念します」

『ああ、頼んだぞ。では、また後で』

「はいなー」



 マリエル様との話を終え、小さく息を吐きだす。

うん、これで味方も強大な敵の事を心配せんで済む訳や。

ここまで星崎和馬が出てこん事を考えると、彼はまーくんたちの方に行っとると考えた方がええやろうし。

敵がおったら真っ先に向かってきそうやからなぁ。



「ふー……さてさくらん、とりあえず周囲の様子はどうなん?」

「ぇ……あ、はい。ちょっと待ってください」



 一度世界を隔てられてまったせいで、精霊との繋がりが切れてもうたみたいやね。

まあ、見える限りの範囲でも、きっちり作戦を守って戦っとるみたいやし……とりあえずは問題あらへんやろ。

後は細かい所の士気の維持さえすりゃ―――



「……?」

「おん? ミナっち?」



 と―――ふと、ボーっとしとったミナっちが、突如としてその顔を上げて上空を見上げた。

釣られてそちらへと視線を向けるんやけど、何かが見える訳でもあらへん。

何や、何かあるんかな―――



「っ……! いづなさん!」

「んー? どないしたん?」

「何か、巨大な飛行物体が高速で接近中です! 凄く大きくて、しかも速―――」



 ―――さくらんの言葉は、最後まで聞こえへんかった。

何故なら……その言葉を言い切る直前、巨大な轟音と共にウルエントの街が吹き飛んだからや。



「な……!?」



 声にならぬ声が、響き渡る轟音の中にかき消される。

衝撃に対して咄嗟に顔を腕でガードし……そしてその後見えてきた光景に、うちは絶句していた。

こちらに向けて吹き飛んでくる無数の瓦礫―――そして、その隙間から見える謎の黒い巨体。



「―――精霊さん!」



 さくらんの鋭い叫びと共に、強烈な風が周囲に巻き起こる。

その勢いで瓦礫は正面へと弾き返されていったけど、その奥にあるモンは小揺るぎさえせんかった。

そこにおったんは、黒い巨体を持つ龍。

ただの龍……? いや、違う。そんな筈はあらへん。

ただの龍やったら……ここまで濃密な邪神の気配なんぞ漂わせてる筈があらへん!


 龍の着陸したウルエントは跡形も無く吹き飛び、巨大なクレーターが残るだけや。

直接うちらの近くに着陸されとったら……どうなったかなんて、考えたくもあらへん。

拙い……ホンマに、何なんや。



『―――見つけたぞ。忌まわしき臭い……あの、忌まわしき銀の獣の臭いだ』

「……ッ!」

「しゃ、喋った……?」



 巨龍が声を発した事に、さくらんが茫然とした呻き声を上げる。

せやけど、うちが驚いたんはそないな事やなかった。

ただ、単純に……この龍の正体に、気付いてまったっちゅーだけや。



「―――マリエル様ッ!」

『っ……いづな!?』

「うちが囮に! その間に退却を!」

『何!? だが……ッ、いや、了解した!』



 うちの考えを汲んでくれたんやろう、苦い口調ながらも、マリエル様はうちの言葉に同意してくれる。

頷き、うちはジェイさんの槍を取り出して前へと向けて走り出した。



「いづな……!」

「ミナっちは皆と一緒に退却や! あれは、うちが何とかする!」



 何か言いたげな様子やったけど、反論は許さぬままうちは走って距離を開けて行く。

あの龍は、うちの予想が正しいんなら狙いはうち―――と言うより、うちの持つジェイさんの槍の筈や。

そして、もしも仮にこの槍を差し出したとしても、決して止まるような事はありえんやろう。

あいつは、邪神……ジェイさんの倒した邪神龍ファフニールや。

それが何故今になって姿を現しとるんかは分からんけど、このまま放っておいたら大変な事になってまう。

せめて、軍の退却の時間ぐらいは稼がんと……!



「いづなさん!」

「さくらん!? そっちもミナっちと一緒に―――」

「一人で何をやろうとしてるんですか! 私が協力した方が、まだ生存確率は高いでしょう!?」

「それは……」



 そうやけど……それでも、うちがこの槍を持ちこんだせいで起こってまったトラブルなら、うちが何とかすべきやと思ったんやけど。

せやけど、さくらんの意思は固そうで、素直に退却してくれそうには思えんかった。

思わず、小さく嘆息する。



「……分かった。せやけど、無茶すんやないで?」

「こっちの台詞です」



 互いに言葉を交わし、うちらは駆ける。

そんなうちらの方へと―――その強大な力が籠った視線が向けられた。



『そこか……!』

「来るッ!」



 あのデカブツの口ん中に、強大な魔力が収束してゆくのを感じる。

あかん、問答無用かいな!

回帰リグレッシオンは一応使っとるけど、うちの力であれを直接受け止めるんは―――



「―――影よ!」



 刹那、さくらんの足元から湧き上った巨大な影が、うちらの前に盾となって形成された。

これは、超越ユーヴァーメンシュの仮展開……強力な力やけど、これで防げるんか?

分からんけど、避ける方法が無い以上はこうするしかあらへん。

幸い、リオグラス軍は車線から外れるような方向に走っとったし、マリエル様たちに被害が及ぶような事はあらへんやろうけど―――



「しゃあない……! 最高位魔術式ファイナルメモリー、《女神盾イージス》」



 防ぎ切るヴィジョンを得られなかったうちは、自分の命を喰われる事を覚悟で槍の魔術式メモリーを展開した。

ごっそりと、魔力と共に生命力が奪い取られるんを感じる。

幸い、超越ユーヴァーメンシュに至ったおかげで不死者イモータル・ブラッドになっとるから、それだけで死ぬような事はあらへんけど……あかん、動き回るだけの体力まで、まとめて奪われてもうた。

せやけど、この攻撃を防ぎ切れな意味が無い。うちの魔力と命を食らい、ジェイさんの槍は巨大な盾を発生させる。


 そして―――



『カァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』



 巨大な叫び声と共に、漆黒のブレスが放たれた。

刹那の内に迫ったその一撃は、さくらんとうちの盾に衝突し、それを大きく軋ませる。



「くっ!?」

「うぅ……ッ!」



 重い、押し潰されそうや……!

うちらに用意できる最強の防御力やで!?

それを、こんな―――



「あかん、押し切られ―――」

「―――《創造クリエイト神鉄の女神盾オリハルコンシールド・イージス》」



 刹那、うちらの頭上から、凛とした声が響いた。

それと共に現れたんは、魔力を拒絶する性質を持つ巨大なオリハルコンの盾。

うち、さくらん、そして―――ミナっち。

三重となった盾は見事に邪神龍のブレスを受け止め、弾き返す。


 その強大な奔流が収まり、うちはほっと息を吐いとった。

そんなうちらの横に、ふわふわと浮いたミナっちが下りてくる。



「……ミナっち、逃げろっちゅーたのに」

「ダメ。二人を残して、行けない」



 硬い表情で、ミナっちはそう声を上げる。

確かに、ミナっちならそう言うやろう。せやけど、これはもう詰みや。

さくらんやミナっちはまだしも、うちは力を使い尽くしてすぐには動けん……この巨大な龍相手に、逃げる事は叶わん。



『―――ほう。このような小娘共に我が一撃を防がれるとはな』



 邪神龍は、興味深そうな様子でうちらの事を見下ろしとる。

幸い、まだ攻撃の姿勢は見せとらん……うちは無理でも、二人なら何とか逃げ切れるかもしれん。

何とか、二人だけでも逃がす方法を考えなあかん。



「いづな、ダメ」

「自分が犠牲になろうなんて、考えないでください」

「……どないせいっちゅーねん」



 思わず、そう呟いてまう。

分かっとるよ。うちらは、誰一人として欠けたらあかんって。

せやけど、この状況を全員で生き残る方法なんて、考えつかん。



『ならば……次こそ、確実に仕留めてくれよう』

「ッ……二人とも!」

「ダメです!」

「……また、防ぐ」



 ああもう、この強情っ張りは!

何とかして防ごうにも、先程よりもさらに強大な力を溜め込んだあのブレスは、防ぎ切れるとは思えへん。

例え防ぎ切れたとしても、その次は?

もう、これは詰みの状況なんや。



「ッ、ここまでか―――」



 ―――そう、呟こうとした、刹那。



『ガッ……グガァッ!?』



 戦闘機が空を切るような音と共に―――邪神龍の巨体は横倒しに吹き飛んどった。

状況が分からず、目を見開く。

けれど―――うちは、確かに見た。



「フー、ちゃん……?」



 白い翼竜と共に空を駆けていた、うちの親友の姿を。

フーちゃんは、その左の拳で邪神龍の横っ面を殴りつけ、ふわりとシルクの上に着地した。

尤も、うちに見えたんは、その殴った後の姿……殴るまでは、全く見る事も出来ひんかった。

っちゅーか、今の……もしかして、シルクごと加速してたんか?



「フリズさん……?」

「……!」



 二人も気付いたんか、驚いた表情で上空を見つめとる。

そしてフーちゃんも、そんなうちらの視線に気付いたんか、シルクと共にこちらへと降下してきた。

―――その服の胸元に、大穴を開けた状態で。



「フーちゃん!? その傷―――」

「あー、これ? もう塞がってるから大丈夫よ」



 服が赤と黒なんで分かり難いんやけど、全身血まみれな感じやで?

それが塞がっとるって……まさか。


 うちが一つの答えに行き当たったその時、吹き飛ばされていた邪神龍が、唐突にその体を起き上がらせた。

その全身に魔力と負の力を滾らせ、燃えるような紅い瞳をフーちゃんへと向けとる。



『貴様……何故ここにいる。貴様は確かに、我が手で殺した筈だ』

「死亡確認はしっかりしなさいっての。爪で刺されただけで死ぬほど、柔な体はしてないわよ」



 や、あの馬鹿でかい爪でやられたら普通は死ぬと思うで、それ。

しかし、それだけのダメージを受けても無事って事は、やっぱりフーちゃんも至っとる・・・・っちゅー事か?

フーちゃんは小さく肩を竦めると、シルクの上から飛び降りて邪神龍と対峙する。



「しぶとさって言うんならアンタだって似たようなモンでしょ。まあ、今回は耐えられると思わない方がいいけど」

『ほう……ほざいたな、小娘がァッ!!』



 巨龍が吼える。

その強大な覇気に、思わず一歩下がってしまうほどや。

せやけど―――それを真っ向から受けて、フーちゃんは不敵に笑う。



「自信があるなら掛かって来なさいよ。悪いけど、反応すら許さないわ。あたしより速いものは存在しない……誰も、あたしに追いつけない。それを、証明してやる」



 あの覇気を押し返すのは、魂を震わせる強力な《欠片》の力や。

分かる、フーちゃんは―――



「折角思い出したのよ……また負ける訳になんて、行かないでしょうがッ!」



 アレ・・を、思い出したんや。











《SIDE:OUT》





















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