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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
184/196

177:アカシック・レコード

「ただ、知りたかった。あの日、どうしていれば良かったんかを」












《SIDE:IZUNA》











 ―――刹那、意識が戻る。

脳裏に再生された無数の記憶は、全てが一瞬の内に過ぎ去り……それらが全て事実であった事を、一瞬の内に把握する。

さっきは、比喩表現でも何でもなく、実際に頭が潰れてたみたいやね……ホンマに最悪な気分や。

せやけど―――



「今は気にしとる場合やないか―――!」



 さっきまでのが一瞬の出来事とは云え、うちらの身体は落下を続けとる。

地上まではもう遠くない。なら―――



回帰リグレッシオン―――《記憶ゲデヒトニス肯定創出エルツォイグング英霊装填ラーデ・リーメンブランケ》!」



 うちは咄嗟にその名を呼び、そして今手の中に無い、アルシェールさんの眼鏡から研鑽を呼び出した。

湧き上がる無数の知識。うちは、即座に《浮遊レビテーション》の魔術式メモリーを発動させた。

急速に地面に近付いていたうちらの身体は、魔力に包まれてその落下速度を下げる。

体勢を立て直しながら着地し―――うちは、深々と息を吐き出した。



「うはー、危なかったで、こりゃ」

「いづな……!」

「っと、ミナっち」



 さくらんを地面に降ろそうとしていたうちへと、血相を変えたミナっちが駆け寄ってくる。

ああ、流石に見てて心臓に悪かったかもしれへんな、こりゃ。

とりあえず小さく笑いつつ、うちはミナっちの頭を撫でる。


 ……思い出した今となっちゃ、この子が頑張ってきてくれた事も十分理解しとるしな。



「あんがとな、ミナっち」

「……! いづな、も?」

「そーゆー訳や。まあ、出来ればあんな滅茶苦茶痛い方法やない方が良かったんやけど」



 小さく肩を竦めて、嘆息する。

まあ方法は妙な事になってもうたけど……今となりゃ、この世界で一体何が起こっとったんかも十分理解できる。

うちらの持つ力……《神の欠片》の謎。

もう、全ての疑問を解く事は出来た。遅すぎる気はしないでもないけど、そこは向こうに行った皆も思い出してくれる事を信じる他ないやろう。

せやから、今はただ―――



「あれを倒すのに集中せなあかんね」



 視線を上げる。

そこにいる複数の人形と、それを従える《人形遣いドールマスター》。

こっちが上手く着地した事にちっと驚いとった見たいやけど……成程、うちらの事をしっかりと調査して来とったみたいやね。

力を使えなければ、うちにこないな芸当は出来んと思っとったんやろう。

まあ、予想できんのは当たり前や。実物を持たずに研鑽を装填する方法は、今出来るようになったばっかりなんやし。



「こっちの力を把握してないんやったら好都合……ここで、完全に仕留めたる」



 目から流れ出ていた血涙を拭い、うちは小さく笑みを浮かべた。

痛い思いしたんや、それだけの効果がないと困るで。

さぁ、始めよか。

奴さんも、こっちに向かって来ようとしとるみたいやしね―――!



「―――過去よ、現在よ、未来よ。女神の従えし深遠なる時の流れよ」



 意識を広げる。

うちが観るのは、世界に……そして万象に刻まれ続けてきた無数の記憶。

それらが、たった一つの場所に集約された、記憶の奥底。



「―――秘されし教義に標されし、連綿たる記憶の奔流よ」



 そこには、全てが刻まれとる。

過去に起こった事、今起こっている事、そしてこれから起こる事。

決して人には知る事の出来ない、深遠なる知識の源泉。



「―――お前が隠し続けるものを、うちは全て暴き立てよう」



 けれど、うちはそれを許さない。

うちには、知りたい事があるからや。

この疑問がある限り、うちは決して進む事ができないからや。



「―――疑問の存在を許さない。答えが無い事を許さない」



 うちが望むのはたった一つ―――疑問に対する回答が、存在しない事を許さない世界!



「―――黒き鏡の底、万象の先にある根源たる原初へ」



 その全てを知る場所を、今この世界に顕現させる。

それが、うちの怒りを元に創り上げられる世界―――



「―――今、全ての答えは記憶の中に」



 ―――うちの、超越ユーヴァーメンシュの世界。

詠唱を終えると共に、うちの足元から八方へと光の帯が広がった。

それと共に、世界は捲り挙げられるように変質してゆく。



超越ユーヴァーメンシュ―――」



 うちの足元から吹き上がるのは、無数の紙の束。

それによって塗り替えられる世界は、無限に広がり続ける八角形の大図書館。

その中に取り込まれた人形たちは、紙の束に遮られて動きを止めとった。


 小さく、笑う。



「―――《記憶ゲデヒトニス千の疑問に解答する者アントヴォルテン・オーフ・フラーグン》」



 ―――そして、うちの従える世界が完成した。

無数の本棚に囲まれた、天井の見えない巨大な図書館。

うちの望む世界……全ての疑問に対する答えが用意された場所や。


 上手く展開できた事に満足しつつ頷き―――ふと、うちは足元でもぞもぞと動く気配に気がついた。



「これは……」

「お、さくらん、気がついたん?」

「ぇ……ぁ、はい……って、いづなさん、これって!」



 寝ぼけ眼だったさくらんは、周囲の状況を把握した途端にがばっと跳ね起きる。

その様子に小さく苦笑しつつ、さくらんへと手を貸して起き上がらせた。

隣のミナっちも、キョロキョロと周囲の状況を観察しとる。



「にひひ、これがうちの超越ユーヴァーメンシュって訳や。中々壮観やろ? なぁ……《人形遣いドールマスター》?」



 笑みを浮かべ、うちは上空へと視線を向ける。

そこには、完全にこの世界に取り込まれたアリシア・ベルベットの姿があった。

あんまり広く展開したつもりは無いんやけど、周囲にいた兵士の人たちも巻き込まれてもうたみたいやね……ま、問題はあらへん。

そしてうちの言葉を受けた女はと言えば、多少うろたえた様子ながらも、笑みを消す事無くうちへと言葉を返してきた。



「予想外と言えば予想外、だったけど……中々いい世界ね。読みたい本が沢山あるわ」

「お褒めの言葉、ありがたく受け取っとくで。けど、生憎とそれは許さん……ここの記憶は、全てうちの所有物や」



 過去、現在、未来。全てに刻まれた記憶。

そこには、全ての答えがあるとされる場所―――即ち、アカシック・レコード。

うちの持つ《神の欠片》、《記憶ゲデヒトニス》はまさにそれを制御する為に作り出された力やった。

尤も、普段のちからやとそこまで深くアクセスできる訳でもないモンやから、大した格やないんやけど。

……ま、うちはそんな程度の力をこの世界に望んだ訳やないけどな。



「全く……あなた達の力は本当に不可思議だわ。けれど、貴方の力で私を仕留められるのかしら?

サクラ・ヒナオリの力だって、この私を完全に仕留める事は叶わないのに」

「ッ……!」

「……ま、確かにうちの力はさくらんの《欠片》の格には劣る訳やけど。でもま、やってみな分からんやろ?」



 指先で挑発し、うちは笑う。

そしてそれに応えるかのように、《人形遣いドールマスター》もまたその顔に不敵な笑みを浮かべた。



「あら、それなら―――」



 その表情のまま腕を広げれば、周囲に現れるのは無数の人形。

世界を隔てとるんと似たような状況やっちゅーのに、人形を呼び出せるんは大したモンやね。

そんなうちの感心をよそに、人形からは無数の魔術式が放たれる―――



「―――来よ」



 《人形遣いドールマスター》の攻撃に対し、うちはただそう命ずる。

それと共に現れるんはジェイさんの槍……それを掲げ、うちは高らかに宣言した。



最高位魔術式ファイナルメモリー、《女神盾イージス》!」



 展開されたのは、銀の魔力で構成される巨大な盾。

ジェイさんの槍、《白銀狼の牙》に刻まれた防御系魔術式の最高位。

その盾によって、《人形遣いドールマスター》の放った魔術式は余す事無く受け止められとった。

うちが強大な魔術式を使ったためか、《人形遣いドールマスター》は大きく目を見開く。

笑み、盾を収束させたうちは、勢い良く槍を振りかぶった。



終極魔術式レクイエムメモリー―――《生命の樹セフィロト》」



 銀の閃光が、薄暗い図書館を照らし出す。

うちが槍を振り上げると共に、そこから放たれた莫大な魔力は、樹の形となってその枝を広げ始めた。

ジェイさんがファフニールとダゴンを仕留める時に使った、この槍最大の魔術式。

その枝によって、無数の人形達が一斉に貫かれてゆく。



「い、いづなさん!? いくら不死者イモータル・ブラッドになったからって、そんな魔術式を使うのは―――」

「あー、大丈夫大丈夫。これ、うちの魔力使っとらんから」

「……え?」

「いくらアルシェールさんの知識があっても、終極魔術式を詠唱無しっちゅーのは無理や。せやけど―――」



 パチン、と指を鳴らす。

刹那―――上空から放たれた強大な雷が、銀の巨木とぶつかり合って互いの魔力を放出した。

それと共に、突き刺さっていた人形達は完全に消滅する。

その光景に、さくらんは大きく目を見開く……ミナっちは心を読んだおかげか、既に種も分かっとるみたいやね。



「嘘、今のって……」

「《収束・打ち砕け神の槌ミョルニール》。これも、終極魔術式やね」



 燃え落ちる四肢が周囲へと降り注いでゆく。

けれど、そんなモンでうちの世界が燃え上がる筈もない。

二つの終極魔術式が姿を消してゆく中、辛うじて無傷だった《人形遣いドールマスター》の姿が浮かび上がる。

……まあ、狙って外したんやけどね。



「……何よ、今のは。アルシェールだって、あんな連発は出来やしないのに……!」

「そらまあ、うちが唱えた訳やないからね。連発できるんは当然や」

「唱えた訳じゃないって、なら誰が唱えたって言うのよ!?」



 流石に、冷静な面の皮もすっかり剥がれてもうたみたいやね。

頭の回転が速い分、うちがやった事がありえんって事はよく分かるんやろう。

魔術式じゃなく、いっそ完全に独自の攻撃方法やったらそういうことを考えんで済んだのかもしれへんのやけどねぇ。



「誰が唱えたかなんて知らへん。これより前、これから先、誰かが唱えていればそれでええ。

うちの超越ユーヴァーメンシュの力は、あらゆる記憶の検索……せやけど、魔術式っちゅー法則は、うちの力とえらく相性が良くてな。

魔術式は、かつて世界で起こり、世界の記憶に刻まれた出来事を再生する法則……うちの超越ユーヴァーメンシュは、それをコスト無しに再生する事が出来るって訳や」

「な……ッ!?」



 この世界でこれまでに使われてきた魔術式、そしてこれから使われる魔術式。

うちの超越ユーヴァーメンシュの中には、それらが全て記録されとる。

そしてそれを呼び出す事で、同じ現象をここに再現する事が出来る……さくらんの能力と見比べりゃ、流石に見劣りするんやけど、それでもこの女相手には相性のええ能力や。



「ッ……私の人形を潰せても―――」

「本体は潰されんから意味無いて? 甘いなぁ、《人形遣いドールマスター》。うちの世界は、全ての答えが存在する世界言うたやろ」



 肩を竦め、うちは掌を広げる。

そこに現れるのは、茶色いハードカバーの本。

結構な大きさやけど、うちはこの本に重さを感じとらんかった。



「うちには、お前さんの本体が何処におるんかも、その本体にどうやったら攻撃が届くんかも丸分かりなんやで?」

「な―――!?」



 その言葉に反応し、《人形遣いドールマスター》は強力な光熱波をうちへと向けて放つ。

けれど、どれだけ強力な魔術式を用いた所で、それよりも強大な魔術式を呼び出せるうちには届きはせん。

うちは本―――アリシア・ベルベットという女について記録された書物を開き、その内容を検索する。



「……ほー、予想通りっちゃ予想通り。アルシェールさんに嫉妬してたっちゅー訳か」

「黙れッ!」

「長年魔術式の研究してたんに、こうもあっさり抜かれちゃ、そりゃあ悔しかったやろうねぇ。若く美しい姿を保った、最強の魔術式使いっちゅーのは」

「口を閉じなさいって、言ってるでしょ!?」



 降り注ぐ魔術式を余す事無く受け止めつつ、うちは小さく肩を竦める。

さくらんは若干落ち着かん様子で、ミナっちはもう何も心配する必要は無いと言わんばかりに堂々と。

まあ、いつものペースって事やね。



「しかしまぁ、ホンモノはええ年したおばさんやっちゅーのに、そないな姿の人形に意識を宿すんって虚しくないん?

不死化するんが遅かったんは自分の所為なんやし、自業自得やろうけど」

「このッ、黙れえええええええッ!!」



 炎の雨、雷光の剣、あらゆる魔術式を受け止めつつ、うちはパタンと本を閉じる。

多少は溜飲も下ったし、そろそろ終わりにするとしよか。



「ま、そういう訳で―――」



 パチン、と指を鳴らす。

それと共に目の前の空間が裂け、その先に、椅子に座り髪を振り乱した一人の老女の姿が現れる。

その表情が驚愕で染まるのを見つめつつ―――



「―――お別れや、《人形遣いドールマスター》」



 ―――虚空より現れた銀の牙が、その年老いた身体を完全に噛み砕いた。

アリシア・ベルベットに関する本の記述、その最期の項目を確認し、うちは小さく息を吐き出す。

人形遣いドールマスター》……いや、その人形が地に落ち、砕け散るんはそれとほぼ同時やった。



「うちの予言する未来を覆せるんは、まーくんだけや。お前さんじゃ、到底届かん」



 最後に、そう呟き―――うちの世界は、姿を消した。











《SIDE:OUT》





















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