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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
183/196

176:記憶の彼方

今、真実の片鱗へと。












《SIDE:IZUNA》











「……」



 何をするでもなく、うちはじっと戦場を見つめる。

さくらんの屍人兵が外壁の上へ押しかけ、あそこは乱戦状態……完全に抑えられるとは思っとらんけど、それでも弓が飛んでこんだけで十分や。

そんでもって、時折都市の方から飛んでくる岩石―――恐らく投石機による攻撃やろうけど、それはミナっちの力で迎撃する。

巨大な金属球と岩石やし、どっちが丈夫なんかは言うまでもない。



「……あの、いづなさん」

「おん? どないしたん?」



 隣からかかったさくらんの言葉に、うちは首を傾げる。

今の所は特に何も問題は無いと思うんやけど……どないしたんやろ?

うちが顔を向ければ、どこか申し訳なさそうな、それでいて落ち着きのない様子のさくらんが、そわそわと体を揺らしつつ声を上げた。



「その……手伝わなくて、いいんでしょうか?」

「あー……そらまぁ、今回は国の人に任せな軋轢を生んでまうからね」



 まあ、善悪の概念の無いさくらんの事やし、単に何もしとらんのが落ち着かんだけやろう。

一応、あの屍人たちを操っとるんやし、仕事はしとるんやけどね。

うちは肩を竦めつつ視線を外し、周囲を観察する。



「一応、この国の人達との関係は良好にしときたいトコやからね。適度に仕事して、適度に仕事を渡す……そんぐらいがちょうどええんや」



 戦争ってのは―――こういう言い方はなんやけど―――容易く武功を上げる事の出来る、貴族たちにとっちゃ願っても無い活躍の場や。

せやから、その出番を根こそぎ取ってまえば、周囲から反感を買いかねん。

確かにこの戦いは有利とは言い難い状況や……せやから、その戦局を有利にする程度に仕事をすればええ。



「それに、うちらがすべき仕事はまだあるんや。せやから、そこまで力を温存しとくんも仕事やで」

「仕事……アリシア・ベルベット、ですか?」

「あれの操る人形は、下手すりゃ魔人以上に厄介やからね。たった一人の人間に制御されとる分、動きの無駄が一つとしてあらへん」



 うちもさくらんも、戦闘を行う事での消耗が激しいタイプや。

相手は仮にも最上位の魔術式使いメモリーマスター、この国の英傑たちでも相手するんは難しいやろう。

ゼノン王子やリンディーナさんなら何とか相手できそうな感じではあるんやけど、それでも無尽蔵の魔力と潰しても潰しても無くならん人形たちは、相手が悪いとしか言いようがない。



「正面から戦って勝てる人間は少ないやろうし、本体はどうせ安全な所でほくそ笑んどるだけや。

まともに取り合って軍を消耗させる訳にはいかんし、あれの相手をうちらが引き受ける。

せやから、今は動く必要はないんや」



 まあ、別に何も仕事しとらんっちゅー訳でもないんやけど。

今でも、常に戦場にはきっちり目を通しとる訳やし。

遠い所はさくらんが俯瞰視点で伝えてくれとるんやけど。



「ぁ……いづなさん、左側の方が……」

「押されとる、か。ミナっち、頼める?」

「ん……回帰リグレッシオン―――《読心ゲミュート肯定創出エルツォイグング聖母再臨マドナ・タルファーツ》」



 ミナっちの回帰リグレッシオンが、対象を指定して発動する。

どうやらミナっちの能力は、超越ユーヴァーメンシュの届く範囲やったら自由に対象指定できるみたいやった。

これも仮展開の一種って事なんやろうか。


 簡単に言や、ミナっちの肯定創出エルツォイグングの力は、指定した対象の鼓舞。

精神コンディションを一気に最高の状態まで押し上げる、いかなる不利な戦場でも最高の士気を保つ事が出来るっちゅー、こういう局面で見ればホンマに反則的な能力や。

少なくとも、気力負けする事だけは絶対にありえん。


 ミナっちの力を受けた左陣の前衛は、押されていた心を即座に持ち直し、気力で魔人の迎撃部隊を押し返し始める。

指揮官もかなり気合入っとるみたいやし、他の部隊の救援も間に合っとる。

とりあえずは、これで問題なさそうやね。


 戦場指揮は、今の所非常に理想的な形や。

矢を射掛ける事で相手の進行ルートを制限し、こちらへとぶつかる面を小さくしとる。

相手は魔人やから、一対一で戦闘するんは避けるのが上策。せやけど、数の上なら相手の方が勝っとる。

せやから、相手がこちらにぶつかってくる数を少なくする事で、少なくとも二対一の状況を作り上げるんや。

これなら十分対処できるんやし、戦いも有利に進められる筈やね。


 状況はほぼ互角ながらも、こちらが僅かながら有利に進めとる。

普通の戦なら、このまま流れを掴みさえすりゃ、そのまま勝利やって見えてくるような状況。

……このまま何も無かったら、の話やけど。



「……ッ、いづなさん!」

「来たみたいやね」



 さくらんがはっと顔を上げつつ発した声に、うちは小さく笑みを浮かべる。

視線を上げれば、その先に見えるんは奇妙な人型の影。

そこに湧き上がる魔力の気配に、うちはすぐさま槍を取り出した。



回帰リグレッシオン―――《記憶ゲデヒトニス肯定創出エルツォイグング英霊装填ラーデ・リーメンブランケ》! ミナっち、頼んだで!」

「ん……!」



 うちの思考を読んだんやろう。ミナっちが力強く頷くと共に、うちの身体は勢いよく上空へと投げ出されとった。

足元にあるんは、鉄で出来たと思われる柱……これで、うちの事を打ち上げたんや。



第三位魔術式サードメモリー、《死神鎌デスサイズ》」



 高々と打ち上げられつつ、うちは槍へと魔力を注ぎながらそう命ずる。

形成されるのは弧を描く魔力の刃。その振り上げにより、宙に浮いとった翼を持つ人形は、真っ二つに両断されて地面へと落下していった。

そのまま元の足場へと着地し、うちは周囲を見渡す。



「……成程、厄介やね」



 航空戦力と言うべきか……飛行機もない時代に何ちゅー事しとるんやと思わんでもないけど、十数体の人形の姿を見つめつつ、うちは思わず苦笑気味の表情を浮かべとった。

流石に、この状況で戦うんは難しい―――せやけど。



「……ミナっち」

『ん……分かった』



 うちが小さく囁いた言葉を、ミナっちはしっかりと聞き届けてくれた。

うちの周囲に、いくつもの鉄の柱が立ち並ぶ……結構広い範囲に出来たし、足場とするには十分や。

さぁて……ほんなら―――



「行くで!」



 叫び、うちは跳躍する。

身体能力は強化し、そしてジェイさんの研鑽を上乗せしたこの身体……そうそう、届くモンやないで。

まず一閃、近場にいた人形の首を刈り、その身体を後方へと蹴り飛ばす。

その吹っ飛んだ、着地の隙を狙おうと突進してきた人形を迎撃し、更に勢いで身体を大きく翻す。



「よっとぉ!」



 身体を捻った勢いで背後から貫こうと迫ってきていた攻撃を躱し、その翼を掴み取る。

そのまま翻るように背中の上に飛び乗り、下向きに持っていた鎌でその首を刈った。

更にその手の中で、大鎌を勢いよく回転させる。

魔力刃はそれと共に広がり、一枚の円形の盾を構成して飛来した魔術式メモリーを受け止める。

そのまま柱の上へと着地し、うちは更に地を蹴った。


 放たれるのは無数の光弾。

それらを大鎌で斬り払い、それを放ってきとった人形を両断する。

着地―――そして、回転しながらの払い。

切っ先に突き刺さった人形は、範囲内にいたもう一体と衝突して大破する。



「せぇぃ、やあッ!」



 そしてそのまま、うちは鎌の刃を回転する円刃として撃ち出した。

使いづらそうに見えて、この《死神鎌デスサイズ》は攻守に優れた万能の変化形態。

まあ、こうやって撃ち出してまったら、もう一度展開し直さなあかんのやけど。

けれど、この一撃を放った甲斐はあったみたいやね。

放たれた一閃は突き刺さっとった二体の人形を両断し、更にその進行上におった人形二体を真っ二つにする。



「―――ッ!」



 悪寒を感じ、跳躍。

その刹那、うちが一瞬前まで立っとった場所を、一条の熱線が貫いた。



「ッ……レーザーとは、やってくれるやないか! ちゃんと目から撃ったんやろうな!?」

『そ、そんな事言ってる場合じゃないと思うんですけど……』

「っと、さくらん」



 宙返りをしつつ身軽に柱の上に降り立ってみれば、いつの間にかうちの近くに来とった半透明の影に気が付いた。

精霊変成ジン・メタモローフェン》……パチパチと弾けとる雷光から見るに、雷の精霊ってトコやろう。

けど―――



「大丈夫なん、二つも同時に回帰リグレッシオンを使って」

『ぁ、はい……大丈夫です。前は超越ユーヴァーメンシュと同時に発動してた訳ですし』



 ……そういや、そうやったね。

せやけど、燃費の悪い能力なんやし、長々と使ってられるっちゅー訳でもないやろ。

ほんなら、さっさと終わらせてまうかね。



第三位魔術式サードメモリー……《斬馬剣アウトレイジ》」



 形成されるんは、三メートルを越す巨大な剣。

大きさだけを見りゃ、ホンマに人間に扱えるんか疑問になるような代物やけど、重さは槍の分しかない。



「遠くにおるんは任せた。近くはうちがやるで」

『はい、分かりました……!』



 敵は半分ぐらいはうちが倒したし、もうそれほど多くは無い。

あんまり時間を掛けても、地上の方を攻められてまうかもしれへんし……時間は掛けられん。

せやから、一撃で終わらせる。二人で構え、うちらは同時に飛び出す―――


 そう思った、瞬間やった。



『ぇ……ぁ、ぅああああッ!?』

「さくらん!?」



 唐突に走ったバチンという音、そして悲鳴を上げたさくらんに、うちは思わず目を見開く。

さくらんはその精霊と化していた体をよじり……次の瞬間、回帰リグレッシオンの力たる精霊の体が解除されてもうた。

柱から離れて宙に浮いとったさくらんは、浮遊の力を失って地上へと落下して行く―――



「あかん!」



 咄嗟に手を伸ばし、さくらんの腕を掴み取る。

気を失ってるさくらんの体は重く、そして向こうからしがみつこうともしてこんから、その身体を支えるのも一苦労や。

あかん、この状況やと―――!



「ふふ……いくら精霊でも、見えていれば対処のしようはあるわよねぇ……自然魔力とは言え、魔力の塊に変わりはないんだから」

「ッ……!」



 アリシア・ベルベット……!

この女、さくらんを引きずり出すんが目的やったんか!

厭らしい笑みを浮かべた《人形遣いドールマスター》は、うちらの事を見下しながら掌を向ける。



「予想外のも釣れたけど……まあ、運が良かったって所ね。それじゃ―――死になさい」



 その掌に、強大な魔力が収束する。

この状況やと迎撃は無理。となれば―――ああもう、やけっぱちや!



「ッ……!」



 その魔術式が放たれる刹那、うちは横向きに回転し、自ら空中へと身体を投げ出しとった。

こっちも十分ヤバイ状況やけど、あのまま回避できずに死ぬよりマシや!

こっちなら、いくらでも対処のしようが……っ、待った、この状況―――



「ふふ……躱される事、予想していないとでも思った?」



 《人形遣いドールマスター》が腕を振るう……こちらに向けとらんかった左手を。

そこには、小さいながらも人を殺すには十分な魔力弾。

うちは咄嗟に槍を掲げて防御し―――その一撃で、ジェイさんの槍を弾き飛ばされてもうた。


 あかん、これやと着地の方法が……!

どうする、今のうちに回帰リグレッシオンに活用できるようなアイテムはあらへん。

長い時間を経たもの、うち以上の研鑽を積んだものは―――



「―――!」



 咄嗟に、一つだけ思いつく。

正直確実さも何もなく、悪足掻きの思いつきに過ぎん考えや。

せやけど、今ある可能性はたった一つ……これしかあらへん。

ほんなら―――やるっきゃ、ないやろ!



回帰リグレッシオン―――《記憶ゲデヒトニス肯定創出エルツォイグング英霊装填ラーデ・リーメンブランケ》!」



 うち以上に永い時を積んだモノ……即ち、うちの魂に刻まれた《神の欠片》それ自体へと能力を発動させる。

うち以外にも持ち主はいたんや、この力をある程度自覚しとった人間なら、何かしらの知識を積んどるかも―――



「―――がっ!?」



 刹那、唐突に走った頭の割れるような痛みに、うちは思わず呻き声を上げとった。

何や、これ……おかしい、いくら永い時を積んだっつっても、二千年でこの量はどう考えてもおかしいやろ……!?



「頭、割れ……!」



 ぐるぐると、走馬灯のように巡る無数の記憶。

いくつもの、いくつもの人生……それら全ての研鑽を直接頭に叩き込まれる苦痛に、うちは意識を保つ事すら精一杯やった。

何や、何なんや!? 止めようにも力が止まらん……これ以上やったら、頭が潰れてまう!

せやから、もうやめて―――!



「ぇ―――」



 刹那、一瞬だけ見えた光景―――見覚えのある蒼い背中に、うちは思わず目を見開き。

そして―――



「―――」



 そのあまりの量に、ぐしゃりと頭の中身を潰され―――うちの意識は、耐える事も叶わず闇の中に沈んだ。


 ―――なのに、何で考えられるんや……?











《SIDE:OUT》





















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