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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
180/196

173:障害

それは、災厄に辿り着くまでの最後の壁。












《SIDE:REN》











 七つの魔弾が、俺の命に従い宙を駆ける。

他のメンバーに言わせると、肯定創出リグレッシオンの力は発動している間は常に力を消費しているらしい。

ただ、その消費量は力の強度による―――知覚系の場合は、特に消費が少ないようだった。

だが、俺の《魔王降臨ザミュエル・アブシュタイクト》は少々特殊なタイプらしく、通常使用での力の消費は存在しない。

まあ、この弾丸は空気中の魔力を元に構成されているから、ある意味当然と言えば当然だ。

俺の力である《拒絶アブレーヌング》が及んでいる範囲は、弾丸の付加効果のみ。

つまり、効果を望まなければ、俺の力は消費されないのだ。

そして―――



「邪魔だ邪魔だ邪魔だッ!」



 ただの人造魔人程度、付加効果を使うまでも無く殲滅する事が出来る。

乱舞する七つの魔弾は、こちらへと押し寄せてこようとしている魔人たちを容赦なく撃ち抜き、決して近寄らせようとはしなかった。


 俺の担当は横から寄せてこようとしている連中。

そして、誠人の役目は―――



「―――イザナギ」



 正面を塞ごうと動いている奴らを、その光の刃で斬り刻む事だった。

放たれる攻撃は、その性質上元より光速。決して視認してから避けられるものではない。

そして味方がほぼ存在しないと言うこの現状、直進する上に途中で止める事が難しい光の刃は、使い所を悩まずに済む便利な攻撃へと変化していた。


 閃光が翻ると共に、前方で動いていた魔人たちの身体が両断されて地に落ちる。

ライブとかで見るレーザー光のような見た目だったが、その威力は決して生易しいものでは無い。

攻撃には『当たったら死ぬ』っていう無茶苦茶な効果が付加されてるんだ、掠り傷すらも致命傷になる。

しかし、まあ―――



「随分と面倒なタイミングになっちまったな」

「全くだ……奴は、タイミングすらも読んでいたという事か?」

「あいつの能力は底が知れないし、その辺りはよく分からん。偶然って言う可能性の方が高いとは思うが」



 と言うより、ただの偶然だと思いたい。

ただでさえ厄介だって言うのに、予知能力じみた物まで持たれたら、対処のしようが無いのだ。

けれども、ここまで来た以上は退く事も出来ない。

それに少々予想外な状況ではあるけれども、一応想定の範囲内と言うレベルだ。

敵は若干多いが、戦闘は最初から想定していたからな。

フリズが星崎の奴を抑える所まではきっちり予定の通り―――次は、アルシェールさんの救出に専念しよう。


 言葉を躱しつつも敵を蹴散らし、俺達は先へと進む。

フリズが直線でふっ飛ばしてくれたおかげで、最短距離のコースが手薄になっている。

このチャンスを逃す手は無いだろう。

まずさしあたっての問題は、俺達の行く手を阻む為に閉じようとしている巨大な門だが―――



「どうする、誠人?」

「飛び越えるか、ぶち破るかの二択だな」

「普通じゃねぇ方法だよなぁ」



 思わず、苦笑を漏らす。

とてもじゃないが、人間一個人が行うような内容ではない。

けれど―――俺達にとって見れば、至極容易い方法だった。



「なら、ぶち破るほうで行くか……どっちがやる?」

「お前の攻撃は消費型だろう、オレが行く」

「ま、妥当な所か」



 《欠片》の力にしても銃の弾丸にしても、俺の力には限りがある。

無尽蔵にエネルギーを発する事が出来る誠人の精霊の方が、大出力を発揮するのに向いているだろう。

まあ、エネルギーの消費を気にするのならば飛び越えればいいだろう、と言われるかもしれないが、一応理由はある。

扉をぶち破っちまえば、その奥にいる相手も同時に吹き飛ばせるからだ。

潜入だったら飛び越えた方が良かったんだろうけど、この状況じゃあな。



「じゃあ、任せたぜ、誠人」

「ああ……来い、カグツチ」



 誠人の呼びかけと共に、景禎に刀身に膨大な熱量が宿る。

しかし正確に制御されているそれは、俺の身体を焦がす事無く周囲だけを焼き尽くしてゆく。

放射熱だけでこれってのも凄まじいがな……精霊って、一体どうやって力を使ってるんだか。

とにかく、俺は燃えても尚襲い掛かってこようとしていた魔人どもを弾丸で押し退けつつ、誠人の攻撃の援護をする。

大技の後には流石に隙があるみたいだからな、誠人は。


 門までは後数十メートル……俺達ならば、数秒とかからずに踏破出来る距離だ。

そしてその距離は、誠人にとっては既に射程圏内。



「ふ……ッ!」



 鋭い呼気と共に、誠人は跳躍する。

俺は誠人の周囲に四つの弾丸を配置し、飛んで来る攻撃を弾き返す事に専念した。

あの威力が変な方向に飛んだら、大惨事じゃ済まないからな。

魔人どもの必死の妨害は通じず、誠人はその刃を大きく振りかぶる。



「焼き尽くせ!」



 そして、景禎は力強く振り下ろされた。

それと共に放たれた、衝撃を伴う炎の波は、まるで空中に導火線を描いているかのごとく直進し―――黒い巨大な門へと、遮られる事なく突き刺さった。

刹那に走った衝撃に、俺は腕で顔を庇いつつも小さく笑みを浮かべる。

放たれた閃光と、耳を潰さんとする轟音、そして足を取ろうとしてくる鳴動―――その全てが収まった先の光景に、俺は思わず口笛を鳴らしていた。



「ひゅー、流石」

「茶化すな」



 俺の言葉に返答しつつ、近くへと着地した誠人は肩を竦めて視線を前方へと向ける。

その光景は、まさに地獄絵図とでも言うべきか。

赤熱した大地に、炭化して転がる無数の死体。尤も、そんな燃え残りが存在しているのは、門からかなり離れた場所だ。

爆心地には何も残っておらず、黒く巨大な門は跡形も無く蒸発していた。

俺や誠人には熱が及ばないように、しっかりと制御されていたみたいだが……喰らったらひとたまりもないな、こりゃ。

しかし、まあ―――



「……で、どうやって進むんだ、これ」



 俺が半眼を向けつつ言い放った言葉に、誠人はついと視線を逸らした。

爆心地から放射状に広がるその惨状……地面はマグマのように赤熱しており、一度足を踏み出せば即座に火達磨になる事は分かりきっている。

そんな俺の抗議に嘆息し、誠人は再び景禎を掲げた。



「イナギ、出番だ」



 その言葉と共に、刃は白い霧に包まれる。

こちらも制御されているのか、刺すような冷気は感じない……が、それでも冷たい空気がこちらに流れてきているような感覚があった。

冷蔵庫の蓋を開けている時のような感覚が、少しだけ懐かしく感じる。


 そんな俺の感想を知る由も無い誠人は、頭上に掲げた景禎を真っ直ぐに振り下ろした。

いつものように、敵を切り裂くために力を込めたものではなく、ただ無造作に振るっただけだが……それでも、放たれた冷気の帯は、赤熱していた地面の上に黒く固まった通路を作り出す。



「……行くぞ、足を滑らせないように注意しろ」

「了解」



 まあ、氷の精霊の力を使った訳だしな……滑り易い場所が無いとも限らない。

足を踏み出す際に気をつけながらも、俺達は帝都への道を進んでゆく。

この溶岩地帯全体を凍らせなかったのは、魔人たちが近寄ってくるのを抑えるためだろう。

とにかく、そのおかげで、俺達は何の抵抗も無く帝都へと足を踏み入れる事に成功した。



「……?」



 刹那、違和感を感じる。

いや、違和感なんてものじゃない……これは、どう考えたっておかしい。

この街に住む人々―――道を行き交うのは、様々な種族の混じった人々。

彼らは……盛大に門が吹き飛ばされたと言うのに、普段と何ら変わらない生活風景を見せ付けていた。



「ッ、なあ、誠人……」

「……とりあえず、マトモじゃない状況なのは確かなようだ」



 俺の硬い声音に、誠人も顔を顰めながら同意する。

俺の予想が正しいならば、恐らく彼らも同じ・・なのだろう。

思わず、舌打ちする。戦には何の関係も無い人々すら、実験台にしたって事かよ……!



「煉」

「ああ、分かってる……行くぞ」



 どっちにしろ、そのまま障害とならないでいてくれるのならば助かるってモンだ。

頷き、俺達は走り出す。

周囲の人々は―――ッ!?



「これはこれで不気味だな、オイ……」

「……気が抜けないな、これは」



 俺達が走り始めると、街を行き交っていた人々は唐突にその動きを止め、俺達の方へと感情を見せない視線を一斉に向けてきたのだ。

決して動こうとする気配は無い。けれど、ただ棒立ちになった人々がこちらの事を見つめ続けているこの光景は、非常に不快というか違和感しか覚える事はできない。

って言うか、ホラー以外の何物でもないだろう、これは。



「……っ」



 頭を振り、意識を冷たく研ぎ澄ませる。

あまり感情的にばかりなっても仕方ない。ここは、やるべき事に意識を集中せねばならないだろう。

今は襲ってきていないとは言え、いつまでも攻撃してこないとは限らな―――



「―――ッ!? 誠人!」

「どうした?」

「お前の目でも見えるだろ、前だ前!」

「む? ……ッ!?」



 視界に入ってきた姿に、俺は思わず目を疑っていた。

けれども……そいつ・・・が俺達の行く手を阻むように立たなければ、俺達が足を止める事はなかっただろう。


 ―――否。


 本来ならば、例え何が前に立とうが、俺達が足を止める事はなかった筈だ。

俺達の目的はアルシェールさんの救出と、ベルヴェルクの打倒。

それ以外の事には、何ら興味は無い―――その筈だったと言うのに。

俺達は、確かに一瞬……たった、一瞬とは言えども、そいつが放つ気配に押されてしまっていたのだ。



「ッ……何故、お前がここにいる。お仲間が探していた筈だぞ……なあ、天道」

「……」



 俺の言葉に、その男―――天道遼は何も答えない。

俯き、前髪に隠れたその表情を窺う事はできないが……確かな予感が、そこにあった。

コイツは―――俺達の前に、立ちはだかるつもりだと。


 ―――天道は、そんな様子のまま、右手を持ち上げる。



「―――ッ!」

「オオオッ!」



 刹那、神速で抜き放った銃より放たれた弾丸が天道の胸を貫き、翻った刃がその首を容赦なく刎ね飛ばした。

底には、容赦も慈悲も欠片として存在しない。

俺達が戦うべき相手は、本当に強大な相手なのだ。立ちはだかるものが誰であれ、容赦するつもりは無い。

故に、俺達が放った攻撃は必殺の一撃。

二つの強力無比な不死殺しイモータル・ベインによって放たれた一撃は、天道の命を容赦なく刈り取る。


 ―――その、筈だった。



「―――どうして」

「ッ!?」



 宙を跳ねた天道の首は、吹き飛ばされて地面に沈む己の身体へと落下し―――そのまま、首のみで口を開いていた。

その異様さに、俺達は思わず息を飲む。

不死者イモータル・ブラッドになったと……ただそれだけだというのならば、納得できない訳ではない。方法などいくらでもあるからだ。

けれど……邪神にすら致命傷を与え得る俺達の武器をまともに受けて、まるで効いた様子が無いってのはどういう事だ!?



「どうして、こうなってしまったんだ」

「何……ッ?」



 首だけで喋っていた天道……その頭と身体が、黒い泥となって溶け落ちる。

総毛立つ感覚に、俺は七つの魔弾と銃を殆ど反射的に構えていた。

黒い泥は不恰好な人の形を作り―――そのまま、急速に元の姿を取り戻す。

だが……違う。最早、存在が明らかに違ってしまっている。

コレ・・は……人間では、ありえない!



「俺はただ、あの人に憧れただけだった……あの人を好きになった、ただそれだけだった……なのに、何でこんな……!」

「お前……!」

「あの男の所為だ……あの男がいなければ、あの男が……ァァアアアアアッ!!」



 深い怒り、絶え間なく湧き上がってくる負の力……感情の方向性を定められているようにも感じるが、この激情の渦は道理では止める事は出来ないだろう。

危険過ぎる……何処までも、何処までも―――まるで源泉に繋がっているかのように湧き上がってくるこの負の力。

禍々しいとしか形容できないその様は……酷く、歪んで見えた。



「……成程、ようやく納得が行った」

「誠人? 何か分かったのか?」

「奴がアルシェールを攫った理由だ……どうやら、蛇口・・代わりにするつもりだったようだな」



 誠人の言葉の意味を一瞬掴み損ね―――そして、理解した俺は、思わず目を見開いていた。

アルシェールさんは、世界の根幹である力の一方、負の力と直接繋がっている。

そして、その力はエルロードがいる限り、一定の量が保たれ続ける。


 ―――もしも、アルシェールさんから負の力を取り出す方法があったとしたら?



「そういう事かよ……」



 ぎり、と歯を食いしばる。

成程、あの男はそこまでの外道だった訳だ……二千年前も今も、自分の娘を道具として扱っている訳だ。



「……誠人、先に行け」

「いいのか?」

「ああ……こいつは、兄貴が遺した負の遺産の一つだろ。だから、俺が片付ける」



 俺の考えが正しければ、コイツは俺の能力ですら殺し切る事はできないだろう。

いや、それどころか、殺せば殺すほど状況は悪化してゆく。

こいつの力を破壊するたびに、力の源泉から負の力が供給され、世界のバランスが崩れてゆくのだ。

故に、コイツを何とかする方法は一つしかない。



「俺がコイツをひきつけている間に、お前はアルシェールさんを救出しろ。そうしなけりゃ、コイツは殺せない」

「……確かにな。だが、大丈夫なのか?」

「やるしかないだろ……お前の方こそ、頼んだぞ」



 俺の言葉を受け、誠人は覚悟を決めた表情で頷き―――強く跳躍して、屋根の上から前方の城の方へと駆け抜けてゆく。

しかし天道はそちらへ視線を向ける事も無い。ただ、俺の方へと強い憎悪の感情を向けてきていた。

成程、俺が何だか分かっているって言う事か。



「……いいぜ、相手してやるよ。来な、敗残者が」

「――――――!!!」



 声にならぬ、言葉にならぬ叫び。

その音と共に、天道は人のカタチを失った。

後に残るのは、黒い汚泥で形成された、見上げるほどに巨大な獣。


 その末路を見つめ―――俺は、強く地を蹴った。











《SIDE:OUT》





















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