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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
175/196

168:山間の陣

超越者の戦いが始まる―――











《SIDE:SAKURA》











 黄昏の光で黄金に輝く世界が消え去ってゆく。

ミナちゃんの超越ユーヴァーメンシュによって創り上げられていた世界は、役目を終えてその姿を消した。

それと共に現れるのは、既に見慣れた外壁の上から眺めるアルメイヤの街。

外壁の上、世界を収束させたミナちゃんは、小さく息を吐きだしつつ瞳を開ける。



「……それで、どうやった?」

「少なくとも……今は、いない」



 ミナちゃんの言葉を受けて、いづなさんは満足そうに頷く。

今調べていたのは、この街の中に帝国の間諜がいるかどうか。

正直、そんな事だけに超越ユーヴァーメンシュの力を使うのはどうかと思ったけれど……確かに、一番手っ取り早いかな。

とにかく、帝国にリオグラスの情報が洩れていない事は分かったし……作戦は、問題なさそう。



「うし……第一段階はクリアやね。ほんなら、次に移ろか」

「もう、ですか……?」

「ん、グレイスレイドとの合流は出来るだけ急ぎたい所やからね。向こうはもう、奪われた都市の奪還に動いとる。

苦戦はするやろうけど、聖女様とテオドールさんが動いとる以上は奪還も不可能やない筈や」



 魔人以上に強力な幻獣を複数生み出す事が出来る聖女様と、邪神とも対等に渡り合えるテオドールさん。

あの二人がいるのならば、相手が魔人の軍勢でもそうそう破れる事は無いだろう。

それに、他の七徳七罪の人達もいる訳だし……行ける、かな。



「あちらの都市奪還に合わせて、うちらはあの山間に設営されとる陣を奪う。

結構な規模やし、丸ごと潰してまうのも惜しいからね。長距離移動による士気の低下を抑える為にも、あの陣はなるたけ無傷で貰いたい所や」



 無傷で陣を奪うって……それは流石に難しいんじゃないかなぁ。

自分達にとって不利益になりかねないのだったら、放棄する時は必ず破壊してから行くだろうし。

結局は追い出す必要があるのだし、そう簡単には行かないんじゃ―――ん?



「えーと……ミナちゃん? 私、何か変な事言った?」

「……気づいて、ないの?」



 ミナちゃんの視線と言葉に、私は思わず首を傾げる。

私の心を読んだんだろうけど……気付いてないって、一体何の事を言ってるんだろう?

いづなさんは分かってるんだし、そちらへと説明を求めようとして視線を向け―――ポンと、肩を叩かれた。

私の肩を叩いたいづなさんは、そのままにっこりとした笑顔で声を上げる。



「別の世界で倒してまえば、どれだけ暴れた所で何も関係ないやろ?」

「ぁ……ま、まさか……」

「陣の規模は結構大きいとはいえ、この都市よりは遥かに小さい。さくらんの超越ユーヴァーメンシュなら、楽に包み込める筈やね」

「……は、はい」



 嗚呼、そういう事か……陣を丸ごと一つ飲み込んで、壊される前にすべて倒してしまおうという事なんだろう。

確かにそれなら効率的だし、陣を傷つける事なく手に入れる事が出来るだろうけど……何と言うか、荒業過ぎる気がする。

いや、凄く納得できるのは確かなんだけどね。



「一応、周囲の山の中には伏兵として少しだけ待機して貰っとる。超越ユーヴァーメンシュの世界が収束したら突入して制圧する手筈になっとるんで、漏れが無いようにお願いな」

「りょ、了解です……」



 ちょっと不安はあったけれど、出来ない事は無いと思う。

これが反撃の足掛かりとなるのであれば、頑張ってその陣を落とさなければ。

ただ、懸念としてあるのは―――



「気を付けるべきは《人形遣いドールマスター》やね。魂を持たん存在は、いくらさくらんの能力でも意味があらへん。

普通に戦わなあかんのやけど……超越ユーヴァーメンシュを展開したまま、回帰リグレッシオンって使えるん?」

「……出来る事は出来ます、けど……かなり、消耗が激しいので。多分、影で戦った方が……」

「そか……安全面や効率を考えると、明らかに精霊体の方がええんやけど……賭けになってまうからなぁ」



 確かに《精霊変成ジン・メタモローフェン》を使えば、物理攻撃も魔術式メモリーによる攻撃も無効化できる。

だけど、いくら超越ユーヴァーメンシュに至って力の総量が上がっているとはいえ、私の能力の燃費は悪いままだ。

二つの力を同時に発動していれば、恐らく五分と持たずに力を使い果たしてしまうだろう。

流石にそれだけの時間では自信が無いので、出来ればここは超越ユーヴァーメンシュの力だけで戦いたい所だ。

……怖い事は、怖いけど。



「気を付けてな、さくらん。フーちゃんの報告で聞いとったけど、かなり高速で移動出来る人形を造り上げとるみたいや。

あれと戦うんはかなり危ない……防御は常に固めるようにお願いな」

「はい、分かってます……」



 フリズさんが今できる全力に近い速度を出して、ようやく超える事が出来た相手……その存在は聞いているし、私もちゃんと警戒している。

私の意識速度では決して対応する事の出来ない相手……なら、最初から絶対防御の型で影を展開しておかないと。

通常の攻撃ならば再生する事は可能だと思うけど、強力な不死殺しイモータル・べインが付加されている可能性も否めないのだし。



「……それで、いつごろ出る事になるんですか?」

「もうそろそろやね」

「って、ええ!?」



 も、もうそろそろって……まだ、心の準備決めたばっかりなのに!?

いや、やっぱり心の準備もまだ―――



「……連絡、来た」

「お、何やって?」

「ちょ、ちょっとちょっと待ってくだ……!」



 そういえば、街から出てゆく兵士の人にミナちゃんの能力を使っていたと思ってたけど……こういう事だったなんて!

あの人はきっと、その山の中に隠れる役目を負った人たちの隊長さんか何かなのだろう。

そしてそこから連絡が来たと言う事は―――



「配置は、完了。突入の準備は整った、だって」

「りょーかいや。ほな、覚悟はええかな、さくらん?」

「うう……ほ、ほんのちょっとだけ待ってください」



 言いつつ、私は深く深呼吸する。

じっと見つめるのは、その陣が有るといわれている山の中。

煉さんじゃないから、私ではその位置を掴む事は出来ないけれど……そこを落とす事は、私達にとって大きなプラスとなる。

そう、私達にとって……誠人さんにとっても。

だから―――



「……分かりました、行ってきます」

「ん……ほな、頼んだで」



 いづなさんの言葉を受け、私は力強く頷く。

そして身体に風の精霊さんの力を纏い、勢いよく上空へと飛び出した。

強烈な気圧変化もその力で抑えつつ、山間の陣の方へと飛行してゆく―――



「……誠人さん達は、ここをまっすぐ行ったんだよね」



 小さく、呟く。

その先に飛んで行ったシルクの姿を見る事は、どうした所で不可能だ。

それでも、私はその先を見つめずにはいられない……きっと、ミナちゃんも同じだろう。



「……誠人さん、お姉ちゃん……私、頑張るから」



 頷き、私は再び空を飛ぶ。

その内に見えてくるのは、山の間に挟まれたなだらかな丘、そこに建設された仮設テントの数々。

そして、その中で動き回る無数の人間の姿だった。

この間は風の精霊さんを使役して見ていたけれど……撤退した時よりも、数は増えている。

やっぱり、兵力の補充は行っていたみたいだ。

これが襲い掛かってくれば、私達は再び苦戦を強いられる事になるかもしれない。

……なら。



「……ちゃんと、仕事をこなさないと」



 己に言い聞かせるようにしながら飛行し、私は敵陣の真上へと到着する。

陣は確かに広いけれど、私の能力の領域で包み込めないほどでは無い。

……行ける。そう確信して、私は瞳を閉じつつ精神を集中させた。

意識するのは、私の魂に繋がれた扉―――魂の原初たる闇へと繋がる、『月蝕の門』。



「―――天より堕ちるは孤独の扉」



 私の中に眠るそれを、外の世界へと押し出してゆく。

同時に、世界に取り込むものを指定―――あの陣のテントや柵などを除き、そこにいる人間達を中へと引きずり込んでゆく。

そして世界は、満月の夜に包まれた。



「―――人は誰もが私と違い、私を恐れてゆくだろう」



 同時に、私の体を漆黒の影で包み込む。

黒い球体は私の感覚を全て奪う―――けれど、影は私の手足に等しい。

それ故に、影が触れるもの全てを把握する事が出来る。



「―――人の理、違いを恐れる世界の運命さだめ



 空に浮かぶ月が、欠けて行く。

私の目には、月の裏側から伸びる無数の手が、月を外そうと必死で押しているように見えていた。



「―――誰もが同じであった時を、貴方達は忘れてしまったから」



 それは、おぞましい光景だろうか。

けれど、あの先は決して恐ろしい場所ではない。

誰もが同じで、誰もが互いを知る場所―――故に、誰も傷つく事は無い。



「―――遍く影は貴方と同じ。遍く闇は私と同じ」



 そう、全ては同じ。

同じであるが故に、誰も拒絶される事は無い。

私が願ってしまった世界。私が間違えてしまった世界。

けれど、それはこうやって形を成していた。



「―――だから私は恐れない。同じであった時を知っているから」



 月はどんどん欠けて行く。

残るのは、赤茶けた輪郭のみを残す月の影……それを感じ取りつつ、私は地面へ向けて落下を始めた。



「―――それは御七夜の果て、天に浮かぶ異界への門」



 蓋は外され、世界には影が満ち始める。

私はその影の海へと落下し、波飛沫のように影の水面を揺らした。

纏わり付いた影は、黒いローブとなってわたしの全身を包み込む。

フードと化した影を目深に被り、私は最後の祝詞を紡いだ。



「―――さあ、還りましょう」



 創り上げられた、異界の蓋が外された世界。

魂を喰らい尽くす歪んだ世界。



超越ユーヴァーメンシュ―――《魂魄ゼーレ魂喰らいの月蝕門トー・デ・モーントフィンスターニス》」



 そして、世界は創り上げられた。

以前よりも正確に創り上げられたその場所は、モノクロの石畳が敷き詰められた月蝕の夜。

これが、私の望んだ世界の、本来の形。

そして私の影は―――石畳の隙間から、世界へと滲み出し始めていた。



「な、何だ……何だ、これは!?」

「何処だよここは!? さっきまで陣にいたはずなのに……っ、うわぁッ!?」



 恐慌状態へと陥る人々……それは、私にとって好都合な事だった。

慌てている人ほど、捕まえるのは容易い。

石畳から滲み出た影は手となり、慌てふためいている人々を捕らえてゆく。


 手の形を作り上げているのは、出来るだけその身体を傷つけたくないからだ。

傷つけなければ、魂を奪い取った時に兵士として使い易くなる。

死霊を憑けたアンデッドは、肉体の損傷が限界に達すると動けなくなってしまう……それを出来るだけ避けるために、肉体は傷つけないようにするのだ。


 影で触れ、包み込み、魂を奪い取りながら『月蝕の門』に取り込んでゆく。

けれど―――そんな中、触れているにもかかわらず、魂を奪い取る事が出来ないモノが存在していた。



「っ……これは、人形……!」



 どうやら、やはり《人形遣いドールマスター》はこの陣に存在していたみたいだ。

人形は力も強く、影で捕らえた程度では抜け出しかねない……なら!



「貫け……!」



 細い針のように変化した影が地面から無数に生え、人形の全身を貫き、拘束する。

流石にここまでやれば動けないのか、穴だらけになった人形はそのまま動きを停止した。

……けど、ここまでやらないといけないなんて。これは、やっぱり厄介―――



「驚いたわね……まさか、突然襲撃を受けるなんて」



 そんな声が響いた、刹那。

巨大な轟音と共に、石畳の一部が弾け飛んでいた。

巨大なクレーターのようになった場所、その中心に立っているのは、一体の黒い人形。

その姿は、フリズさんに聞いていたものと全く同じだった。

アレが、超高速戦闘型の人形……姿は殆どマネキンみたいな感じだけれど、その速度から生まれる破壊力は半端ではないみたい。



「さぁて、何処にいるのかしら……」



 その言葉と共に、周囲は再び轟音に包まれ始める。

この人、こんな方法で私を捕まえようとしているの……?



「っ……」



 けれど、私の力では、超高速型の敵を捕まえる事はできない。

相手が人間ならば、触れた時点で魂を奪う事が出来るけれど、この人形は魂を持たないただのモノ。

私の能力は、あまり通用しないと言ってもいい。

そして、影で攻撃するにしても、速すぎて動きを捉える事が難しい。

……なら、どうするべきか。



「なら―――」



 一か八かだけれど、やるしかない。

私にとっては、非常にリスクの高い選択肢。

どうなってしまうかは、さっぱり想像する事が出来ない。

けれど―――このまま時間切れになってしまえば、私は確実に敗北してしまうだろう。

……ここは、賭けに出る!



「―――こんにちは、《人形遣いドールマスター》さん」

「あら……そちらから姿を見せてくれるなんて、好都合だわ」



 影の中から身体を浮かび上がらせ、黒いローブを纏った姿で黒い影の上に姿を現す。

私の姿を見た彼女は、その美しい顔に楽しげな笑みを浮かべていた。

……彼女は、空中に浮いている。

あの反応速度があるのは分かっているし、そもそも彼女の身体自体、またも自分の造った人形なのかもかもしれない。

判別は付けられないけど……何とかして倒さなくては。



「ここからは、私が直接お相手をします……」

「それは嬉しいわね。それじゃあ……思う存分、踊りましょうか!」



 周囲に張り巡らされた影に、いくつもの衝撃が走る。

そんな音が響き渡る中、私はじっと敵の姿を見つめ続けていた。











《SIDE:OUT》





















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