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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
173/196

166:共同作戦へ

そして、戦いは二つの局面で進み始める。












《SIDE:IZUNA》











「ふぃー、疲れた疲れた」

「そう言う割には、随分と余裕に見えるがな」



 パタパタと手で顔を仰ぐうちに、マリエル様は小さく苦笑じみた笑みを浮かべる。

あの大量の聴衆の前で話した後、うちらはこの街の作戦本部……一応、騎士団の詰め所として使われとる所へと足を運んどった。

周りは何処も将軍さんばっかなんやけど……正直、さっきのの後やと緊張も何もあらへんな。

まあ、さくらんはまだ緊張しとるみたいやけど―――と、そんな事を考えとる内に、陛下が部屋の中へと入ってきた。



「揃っているな。それでは、会議を始める」



 その言葉に、将軍さんたちは皆佇まいを正す。

うちは国に仕えとる訳やないけど、まあここは倣っとこか。

陛下はそんなうちへと視線を向け、小さく笑みを浮かべた。



「ご苦労だったな、いづな。お前達には苦労を掛ける」

「いえいえ、この国が滅んでまったら、うちらの目的の一つを達せられなくなってまいますから」

「そうか……ならば、今後も頼んだぞ」



 今後っちゅーか、まあ今回の話が最も重要になってくる訳なんやけど……まあ、ええ関係は続けて行きたいし、それは問題ないか。

さて、会議っちゅー事やけど……うちらはずっと前線にいたから、戦線以外の状況はあんま把握しとらんのや。

果たして、現状がどのようになっとるんか……政治的な取引が行われるほど、話が通じる相手とも思えんけどな。

どちらかと言えば、グレイスレイドとの関係の方がメインになってきとる事やろう。



「さて、現状だが……ディンバーツ帝国は、我々リオグラスと、隣国グレイスレイドの二国と同時に戦っている。

それでも尚有利に戦いを進めているのは、あの人造魔人の存在が大きい」



 陛下の言葉に、うちは小さく頷く。

アレは厄介な事この上ない存在や。

確かに人間以上のスペックを持っとる事も面倒やけど、アレの運用による利点はそういう事やない。



「ゼノン、マリエル。奴らと戦って、どう思った?」

「ふむ……俺が戦ったのは足止めを喰らっている連中だけだから何とも言えぬ。だが、普通に戦えば精兵二人以上の力を持っていると思われる」

「今回はフレイシュッツ卿やマサト殿の助けがあったからこそ有利に戦いを運ぶ事が出来ましたが、普通に戦えば苦戦は免れないと思われます」

「ふむ……いづな、お前はどう感じた?」

「うちですか?」



 話を振られ、うちは顎に手を当てる。

今回さくらんは動いとらんかったし、ミナっちも直接戦った訳やないから、正確な事を把握しとるんはうちだけか。

ふむ。なら、うちが感じた事はといえば―――



「アレの厄介な点は、力が強いとか、やたら頑丈だとかそういう点やないと思います」

「ほう、と言うと?」



 陛下の言葉に、うちは小さく肩を竦める。

うちが思うに、アレの厄介な点はいくつかある。



「まず、あの状態になる事で、単純に身体能力やら何やらが強化される事です」

「ふむ……それは分かりきった事ではないのか?」

「兄上……いづなが言わんとしているのはそういう事ではない」

「む? では何だと?」



 ゼノン王子の様子に、うちは小さく苦笑を漏らす。

対し、マリエル様や陛下は、うちが何を考えとるか分かったみたいやね。



「煉君やノーちんを見てもらえば分かると思いますけど、あの二人は武術に関しちゃずぶの素人です。

せやけど、あの二人は一般人じゃ話にならんような戦いをする事が出来る……それは、フェンリルの加護と吸血鬼ヴァンパイアの身体能力のおかげですね」

「あ……!」



 ここまで言や、さくらんも分かったみたいやね。

まあ、ゼノン王子は分かっとらんみたいやったし、ちゃんと説明はしとくけど。



「つまり、あいつらは例え元が素人やったとしても、精兵以上の性能で戦う事が出来る……それが、元々何の力もない一般市民だったとしても、や」

「ぬ……!」



 ただでさえ多い兵力を、更に上乗せするようなこの要素……うちがさくらんをこっちに残したんは、こういう理由もあるんや。

大量の兵力差を覆せるような能力を持っとるんは、さくらん以外には存在せんからね。



「更に言いますと、単純ながらも精神支配の効果を受けとるみたいでした。アレのおかげで、相手は例え不利な状況であろうとも、こちらへと臆せず向かってくる。

ただの人間相手やったら、あの時まーくん一人でも帝国軍を押し返す事が出来た筈です」

「ふむ……成程、一般市民を精兵以上の駒とする力、か。確かに厄介この上ないな」



 普通に考えれば、有り得ん程厄介な要素や。

何せ、戦争後の事を考えんのならば、国民全てを兵士として扱う事が出来るんやからね。

まず前提条件としておかしくなっとるとは思うけど、向こうが仕掛けて来とるんは、最早戦争ですらない。

あの男は、己の事しか考えとらん筈や。

己の目的の為には、ディンバーツ帝国そのものすらも駒でしかない……ホンマに、恐ろしい男や。


 せやけど、決して抵抗出来んほど厄介な相手って訳やない。

懸念もあるっちゃあるんやけど―――



「……さくらん、一応聞いとくけど―――」

「邪神の力を、私の『門』の中に取り込む事ですよね?」

「せや。さくらんの力が無いと、うちらでもこの差を覆す事は難しいからなぁ」



 さくらんの超越ユーヴァーメンシュは、領域内に取り込んだ相手の魂を抜き取る事が出来る。

その力を使った後に残るんは、大量の魂を奪われた肉体だけ……これこそ、うちらにとって武器となるモンや。



「相手が普通に戦争仕掛けて来とるんならまだしも、そないな方法を取ってくる連中相手に、手段を選ぶつもりはあらへん。

せやけど、さくらんに悪影響が出るんやったらこれを実行する訳には行かんし……」

「……一応、大丈夫です。邪神の力とは言っても、元々世界に存在している負のエネルギーというだけですし」



 ふむ……魔人はその性質上、宿主の魂に寄生しとる筈や。

本物の魔人やったら、そこにあるのはエネルギーだけで魂は存在せんから、恐らくさくらんの能力は通用せんやろう。

せやけど、相手は人間に力を寄生させとるだけの存在……魂を奪い取れば、そのエネルギーも纏めてさくらんの中へ取り込まれる事になる筈やけど―――



「せやけど、邪神というシステムが存在し続けとる以上、その取り込んでまった力は邪神の一部の筈やで?」

「分かってます……ですけど、私の『門』中には、数十億と言う数の魂が存在しています。

蓮花さんみたいな邪神そのものの力ならともかく、今更数万程度取り込んだ所で、問題は無いと思いますし……」



 それは初耳やけど、凄まじい能力やね、ホンマに。

一番格下のうちの能力やと、回帰リグレッシオンの時点で色々と性能が劣っとったしなぁ。



「それに……」

「ん? それに?」

「……誠人さん達が、すぐに邪神のシステムそのものを破壊してくれますから。取り込んでしまった力も、必ず元に戻ります」

「……成程」



 さくらんの言葉に、うちは思わず苦笑する。

確実に安全と言える要素や無いけど、ここで勝たなうちらに未来はないんやから、勝つ事を前提とした構想で行っとこか。

さて、とりあえずこれで兵力差を覆す方法は出来たと考えてもええかも―――



「……いづなよ。我々には付いて行けぬ話だったのだが、説明して貰っても構わんか?」

「あ……すんません、今説明します」



 すっかりさくらんとの話に集中してまった事に苦笑し、うちは頭を下げる。

いくらそれなりの情報を公開している王様とは言え、そこまで正確にうちらの能力を把握しとる訳やないからなぁ。

とりあえず、これは混乱を避ける為にも話しておいた方がええ事やろう。



「相手の厄介さは、十分理解して貰えたかと思います。今度は、具体的にそれと戦う為の方法を考えよう、っちゅー所です」

「ふむ……強大な相手だが、戦術や戦略次第で何とか出来る相手ではあると思ったが?」

「それはそうなんですけど……生憎、変に器用な芸を持った種類のもおるみたいなんで、出来るだけ安全策を取りたい所なんです」



 まあ、さくらん自身が安全かどうかっちゅーのは微妙なトコではあるんやけど……それでも、全体の被害を考えれば、この方法がベストの筈や。

うちの言葉に興味を示したようで、陛下は口元に小さく笑みを浮かべる。



「ほう。お前達の力は強力だからな、それには少々興味がある。具体的には、どんな策だ?」

「大量の兵力差を覆すんに、最も手っ取り早いんは、相手の兵をこちら側に引き込んでまう事です」



 内応……本来ならば敵将に絞り、その人物が引き連れる軍勢を味方に引き込んでまう戦法や。

無論の事、かなり難易度の高い戦術なのは言うまでもないんやけどね。

国から離反しそうな将を見出し、更に敵軍に悟られぬように交渉し、綿密な計画を極秘裏に行わなあかん。

それだけの手間暇に見合うだけの効果が得られるかどうかは、実行する者の腕次第ってトコやからね……ホンマに、扱いの難しい策謀や。

せやけど、うちらの扱うんはそれよりも遥かに強力で、そして御しやすいモノ……尤も、これが出来るんはこの世で一人だけやろうけどね。



「ふむ。ミーナリアがいるのならば確かにやり易いかもしれないが、それをするには時間も足りないのではないか?」

「あー、確かに時間があったらそれでもええかもしれませんけど、今回の相手はそもそも話が通じる相手とも限りませんので。

っちゅー訳で、今回はさくらんの能力を使わせて貰います」

「彼女の?」



 周囲の将軍さんたちの視線が、一斉にさくらんの方へと集中する。

そのおかげで、さくらんがまた恥ずかしがって縮こまってまったけど、まあ説明するのはうちやし別にええやろ。

……しかしまぁ、ミナっちは動じんなぁ。

ともあれ、気を取り直して、と。



「ええと……うちらに特殊な力がある事は、陛下もご存知でしょう。一応、皆さんにも軽く話を通してあると思いますけど」

「ああ。今回の事もあって、本当に軽くだがな。それで?」



 どうやら、うちらの事は将軍クラスの人たちには軽く話を通しとったみたいやね。

ここまで来たら隠すのも無理やろうしって事で、うちが許可を出したんやけど。

グレイスレイドとの会議へと向かう道中で、うちらの力を出し惜しみせんかったんも、もう開き直ってたからやし。



「まあ、ほんなら話は早いです。うちらの持つ力は、それぞれが固有の力……中でも、さくらんは魂に干渉する非常に強力な力を持っとります」



 これは、周囲の将軍さん達に対して。

一応、この事に関しては、陛下に伝えとった筈やしね。

ただし、超越ユーヴァーメンシュの事はまだやったけど。



「さくらんは強力な結界を作り出し、その中に取り込んだ敵の魂を奪う事が出来るんです。

で、魂を奪って抜け殻となった肉体には、それとは別に呼び出した魂を宿らせる事で、傀儡のように操る事が可能なんです」

「な……!?」

「……まさか」



 信じられん、と言いたげな様子で周囲がざわめき始める。

まあ、そりゃあうちかて、こないな話をいきなり聞かされてもそうそう信じられんけどな。

せやけど、ここで嘘を言う理由も無い事は、周囲の人達やって分かっとる筈やろう。



「死霊によって操られた人間は、痛みも感じず恐怖も感じない……動けなくなるほど肉体が破壊されるまで、敵を倒し続けます。

これなら、兵力差を覆して戦う事が出来る筈です」

「しかし、それは人道的に―――」

「確かに、相手が人の道踏み外しとるからって、こちらがそうしてええっちゅー理由にはならへんでしょう」



 こちらへと向けて声を上げた将軍さんの一人に向かって、うちは小さく肩をすくめる。

言おうとしとる事は尤もや。普通に考えりゃ、こないな戦法は取るべきやない。

国の関係にも禍根を残すし、評判も悪くなりかねんからね。

せやけど―――



「けど残念ながら、綺麗事ばかりで勝てる相手やない……幸い、相手の軍勢は世界共通の敵たる『邪神』の力を使っとる訳です。

多少無理矢理ですけど、正義を謳う事は無理やない筈」

「……手段を選ぶつもりは無いと、そういう事か?」

「ジェイさんが護ろうとした国を護る事、それもうちらの目的ですから」



 煉君の掲げた願いは、煉君にとっての大切な人々が、満足できる結末を迎えられる事。

全員分の願いを背負う、とんでもなく欲張りで重い覚悟や。

一人だけで背負いきれる覚悟や無い……彼がうちらに、共に目指して欲しいと願うほどのモノや。

せやから、うちらはそれを全力で後押しする。


 覚悟を込めて、うちは陛下の瞳を見据える。

その視線をしばし受け止め―――陛下は、小さく嘆息を漏らした。



「……分かった。お前の好きなようにやるといい」

「陛下!」

「トレス将軍。貴公の言いたい事も分かるが、生憎と我らには他に方法が無いのも事実だ。

こちらから攻め込む必要がある以上、この兵力差を覆す方法は考えねばならなかったからな」

「こちらから攻め込む?」



 それは初耳や。

うちはてっきり、この街を防衛し続け、まーくん達がベルヴェルクを討つのをじっと待つ事になると思っとったんやけど。

何やら、状況が変わって来とるみたいやね。



「……何か、あったんですか?」

「ああ。グレイスレイドの方から、共同作戦の申し入れがあった。同時にディンバーツへと攻め込み、二面作戦で相手の兵力を分散させる事が狙いのようだ」

「ふむ……」



 確かにこの圧倒的な兵力差を考えたら、かなり有効な方法やろう。

単純計算で二分の一……有しとる対邪神クラスの力で言えば、グレイスレイドの方が上になるやろうし、リオグラス側はもうちっと少ない量の相手で済むかも知れへん。

無論、相手があの人造魔人を使ってくる以上は安心できへんけど……ただ、問題が一つ。



「……うちらに、あんまメリット無いですよね」

「ああ。元より、我々はディンバーツ帝国の領土を狙っている訳ではないからな。

交通の便も悪いし、このアルメイヤから北……ウルエントという都市だが、そこを狙うのには少々慎重にならざるを得ない」



 まあ、貰える物は貰うがな、と陛下は肩を竦めつつ付け加える。

しかし、こっちから攻めるかぁ……相手の都市の規模が分からんけど、こちらへと向かわせて来た兵力を鑑みるに、近場にも結構大きな都市がありそうやなぁ。

となると、援軍とかもかなり来そうやし―――まあ、その為の二面作戦なんやけど。

一応、グレイスレイドの事は信用してもええ筈や。トップに座っとるんが、ミナっちと特別仲のいい聖女様やしね。

しかし、攻める……ぅあー。



「……とりあえず、力を使うことは確定で。それでも、かなりキツイ戦いになる筈や……これは、ちっと考えなあかんと思いますけど?」

「ああ、分かっている。今回はその作戦を決定する事も目的だからな。文官たちはここへ残れ。そして、その他は都市攻めの編成をして来い。

どの道、山間に建てられていると思われる、奴らの陣は崩さねばならないからな」

『はっ!』



 陛下の言葉に、将軍さんたちは敬礼しながら応える。

……せやね。同盟を結んどる以上は無視する訳にも行かんし、うちらも動かなあかんか。

残ったうちらは楽な選択肢を選んでまったかとも思ったけど……こら、結構なハードワークになりそうやね。



「ま、やるしかないかー」



 己の頬を両手で叩き、気合を入れる。

うちらにはうちらの戦いや。全身全霊でお相手するで。

せやから……頑張るんやで、四人とも。











《SIDE:OUT》





















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