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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
172/196

165:出立

そして、戦いの舞台へと―――












《SIDE:REN》











 降り注ぐ朝日に、目を細める。

俺とフリズと誠人がディンバーツへと発つ日……そんな日であろうとも、太陽はいつも通り変わらぬ光を発していた。

俺達が決死の覚悟で動こうとしていたとしても―――結局、世界は何ら変化はない。

そんな事を考えて、俺は思わず苦笑していた。



「これが最後の戦い、か」



 今までディンバーツの進軍を抑えられていたのは、俺達と言う力があったから。

けれど、ここからは俺達は協力する事は出来ない。

まあ、桜は残る訳だが、他のいづなやミナはそこまで戦闘に向いているって訳じゃないからな。

数の上では互角程度になったとはいえ、完全に防ぎ切るのは難しいはずだ。

けれど……例えそうだとしても、俺達は行かなくてはならない。



「何ボーっと突っ立ってんのよ?」

「ん……ああ、悪い」



 後からやってきたフリズの言葉に、俺は苦笑しつつ振り返る。

振り返れば、そこにいたのは完全武装したフリズの姿。

出発の前にリオグラスの軍の前で顔出しする事になったので、この武装状態で陛下の元へと向かうのだ。

普通ならそういう場所では武器なんて装備できないが、すっかり英雄扱いだからなぁ。


 ともあれ、俺達三人は、陛下からの命ではなく己の意思でディンバーツへと発つ事となる。

それの有する意味は良く分からなかったが、やっぱりいづなの指示であったようだ。

しかし、まあ―――



「よくできた話だよなぁ、これは」

「え?」



 俺が呟いた言葉に、フリズは首を傾げる。

そのきょとんとした表情に小さく笑いつつ、俺は右の人差し指を立てて声を上げた。



「俺は、兄貴に拾われて兄貴から願いを受け継いだ、ジェクト・クワイヤードの後継者。

お前は、カレナさんから力と武器を託された、カレナ・フェレスの娘。そして―――」

「―――オレはあの女によって造り上げられた、シルフェリア・エルティスの人造人間ホムンクルス……か。

成程、確かに皮肉にも聞こえるほどだな」

「誠人、意外と早かったな」



 いつもの鎧と蒼いマントを羽織った誠人が、新たな景禎を背負って姿を現した。

ただしその鎧は、いづなが造り上げたホーリーミスリルの鎧に、ミナがオリハルコンのコーティングをした新たな物である。

相変わらず装備にかかっている金は凄まじい……と言いたい所だが、元手はゼロだ。

ともあれ、誠人の言葉に、俺は苦笑しながら頷く。

と―――その時、誠人の背後から人影が現れた。



『ならばワタシは、神から授けられた伝説の武器か? 生憎と、造ったのは人間だがな』

「神の力を持った、だろ?」



 誠人の肩に肘を突くようにしながら現れた椿に、俺は思わず笑みを浮かべる。

桜に力を与えられたおかげか、最近は姿を見せる事もできるようになったみたいだな。

まあ、この状況だと刀の柄から上半身が生えているように見えるので、非常に不気味だが。



「生憎とアルシェールさんやテオドールさんに関連するような奴はいないけど……分かり易くていいんじゃないか?」

「……ま、そうね。ちょっと出来過ぎな感じはするけど、ある意味面白いっちゃ面白いかしら」



 腕に沿うように伸びた銀の杭を気にするようにしながら、フリズは小さく苦笑を浮かべる。

それを構成するのはホーリーミスリル、そして無数に刻まれた不死殺しイモータル・べイン魔術式メモリー

確か……右拳・銀杭と左拳・氷砕と言う名だっただろうか。

英雄カレナ・フェレスの持っていた武器だが、その有名さでは流石に兄貴の槍には劣るだろう。



「おー、揃っとるなぁ」



 と、ふと聞こえた声に俺達は視線を向ける。

姿を現したのは、いつも通りの格好をしたいづな、そしてそれに続くミナと桜だった、

その手には兄貴の槍が携えられているが、あの回帰リグレッシオンを使わない限りは眠ったままのようだな。



「さて、全員揃った訳やけど……こうなると、改めて言う事も思いつかんね」

「まあ、なぁ」



 いづなの苦笑に、こちらも肩を竦める。

互いに伝えたい事は伝えたし……それに、ミナさえ起きていればいつでも話をする事は可能だ。

だからこう、改めて伝えるような事も思いつかない。

まあ、あえて何かするって言うなら―――



「ミナ」

「ん」



 手招きをし、ミナの事を呼び寄せる。

向こうもすぐに俺が何をしようとしているか気づいたんだろう。ミナは少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべ、俺の方へと歩み寄り―――そっと、俺の胸の中へと顔を摺り寄せた。



「……アンタたち、良くそーゆー事を人前で出来るわよね」

「フリズも来るか?」

「誰が行くか!」



 半ばお約束となったやり取りに苦笑しつつも、そっとミナの後頭部を撫でる。

かすかに甘く感じる香り、柔らかな感触、そして陽だまりのような体温……離れ離れでは感じられないモノを堪能する。


 ―――嗚呼、失いたくない。


 俺の戦う理由など、たったそれだけで十分なのだ。

ミナは俺のモノだ、決して誰にも渡しはしない。そして、俺も必ずミナの元へと戻ってくる。

この温もりを、この感触を、俺は決して失いたくないのだ。



「さくらんも行く?」

「ぇう!? い、いや! それならいづなさんだって!」

「いやいやいや、そこでうちに返されても」



 いづなたちの様子と、それに嘆息する誠人の姿に苦笑しつつ、俺はそっとミナを離す。

ミナの方は少しだけ名残惜しそうにしていたけれど、それでも口元は嬉しそうにほころんでいる。

よし……これなら、頑張れそうだ。



「さてと、そろそろ……お、来たな」



 通りの向こうへと視線を向ければ、そこにはこちらへとやってくる馬車の姿が。

迎えに来るって話は聞いてたし、あれがそうなんだろう。

後は軍の皆に顔見せして……それから、出発だ。



「さて、行こうぜ」

「ああ」

「腕が鳴るわね」



 出立の時は近い。

挑むのは絶対的な力の差が存在する敵……けれども、悲壮感など一つも無い。

俺達は戦う。戦って、勝ち抜く。ただそれだけだ。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:SAKURA》











 馬車から降りると、目の前にはもう大勢の人々が集まって来ていた。

緊張に身を硬くする私とは違い、誠人さんは嘆息交じりに周囲を睥睨している……やっぱり、凄いなぁ。

まあ、その隣に立っている煉さんも、楽しそうに笑みを浮かべながら手を振っていたりするけれど。



「こちらへどうぞ」

「おおきになー」



 いづなさんは……いつも通り、かな。

こんな場面だとしても、緊張している姿なんて思い浮かばないけれど。

ともあれ、私達は案内の兵士さんに先導され、演説台のような場所へと案内されて行く。

そこに立っているのは王様とリンディーナさん、そしてマリエル様、ゼノン王子、クライド王子だった。

正直、クライド王子とは少し顔を合わせ辛いんだけど……まあ、仕方ない、かな。


 周囲に並んでいるのは兵士たちだけではなく、見物にやってきた街の住人の人達もいるみたい。

一応周囲の警戒はしているけれど……今や、私達の大半は、普通の人間の力では殺せない存在へと変化している。

暗殺まがいの事をやろうとしても、まず無意味だろう。

そもそも、害意の類はミナちゃんがすぐに気付いてしまうだろうし。



「はは、中々派手でいいな」

「気楽よねぇ、アンタは」



 演説台に上りながら、煉さんとフリズさんがそんな言葉を交わす。

本当に落ち着いているけど……怖く、ないのかな?

私は、様々な光景を覚えているから、どうしても恐くなってしまう。でも、ミナちゃんは―――



「……信じて、いるから」

「ミナちゃん……?」

「信じる事を、諦めないの」



 私の心を読んだんだろう……ミナちゃんが、そう囁きかけてくる。

強いな、本当に……ずっと、辛い思いをしてきたはずなのに。


 私達は演説台の上に登り、そして王様の横に並ぶようにしながら沢山の人たちの前に立つ。

正直、私やいづなさんはここに来る必要があったのかどうか分からないけど……そんな私の葛藤はお構い無しに、王様は小さく頷くと、彼らへと向けて大きく声を上げた。



「親愛なる我がリオグラスの諸君、良くぞ集まってくれた!

諸君らの中には既に、この者達を知っている者も多く存在している事だろう」



 王様は、覇気のある声で言い放ちながら私達の事を示す。

それと共に、ざわついていた周囲の声が一気に静まる。

その分だけ注目が集まってきている気がして、余計に恥ずかしかったけど……うう。



「彼らは、過去の英雄達の後継者。英雄の意志を継ぐ者達だ。

我らがディンバーツ帝国からの奇襲を免れる事が出来たのも、全ては彼らがこの街を防衛してくれたからこそだ。

この街を護る為に戦った全ての者達は、我が国を救った英雄だ。貴公らには、感謝してもし尽くせぬだろう」



 私達だけの力ではなく、あの時共に戦った二つの隊、その皆の力……私達だけを特別扱いしないのは、むしろ感謝できる事だった。

私達は、英雄なんて呼ばれるほど立派な存在じゃない。

私達はただ……自分達が、幸せになりたいだけなんだから。



「だが、防いでいるだけでは勝利は有り得ぬ。狂ったディンバーツは、王を討たなければ決して止まる事は無いだろう。

しかし、彼の者は邪神に等しき力を持つ存在……我らの力では、決して及ばぬだろう。

過信してはならぬ。諸君らの命を無為に散らすような戦いは、我は望まないのだ」



 周囲のざわめきが増えてゆく……邪神はこの世界で最も恐れられている存在だから、それも当然だろう。

本当は、それ以上に強力な存在なのだけど―――



「故に我等は、この者達を送り出さねばならぬ事を恥じなければならない。

特別だからではない、義務だからでもない。彼らは、彼らの意志で彼の狂王と戦う事を決めてくれた。

だが、彼らに頼る他無い事もまた事実なのだ……故に、我等は我等の無力を恥じよ。そして、己に出来る限りの事を成すのだ」



 私達だって、特別な力を持たない人々に、あんな存在と戦えなんていうつもりは無い。

出来る限りの事でいいのだ。そう―――誠人さん達があの男を倒すまで、この国を護っていてくれればいい。

それだけで、私達の願いは一つ叶えられるのだから。



「―――我は貴公に問おう、レン・ディア・フレイシュッツ……いや、レン・クジョウ。貴公らの願いは何だ。貴公等は、我等に何を望む?」

「……! なら……ただ、護っていて欲しい。俺達が、そしてあの人が帰ってくるべき場所を、失わないようにして欲しい」

「成程……ならば、我は貴公らに問おう、我がリオグラスの勇猛なる騎士諸君! 諸君等は一体何が出来る?

死地へと赴く彼らの為に、何をする事が出来る!?」



 その口調は、詰問するかのように強いもの。

けれど―――その言葉の中には、一つの確信のようなものが含まれていた。

そして、その問いに対する質問は―――私達の隣にいた人物から、大きく発せられる。



「無論、我等の国を、我等の故郷を護る事!」

「そして、私達と共にこの国を護ってくれた、彼らの帰る場所を死守する事だ」



 ゼノン王子と、マリエル様……二人の言葉が、周囲へと力強く伝播する。

揺らぐ事の無い強い意思。二人は私達の方へと視線を向け、小さく微笑を浮かべてくれた。



「……護るんだ、リオグラスを」

「そうだ……俺達の国を!」

「そうすれば彼らが帰ってくる場所も護れる!」



 二人の力強い意思は、周囲の騎士へと、そしてその周りで見物していた住人達へと広がってゆく。

小さな呟きは、強い決意へと。強い決意は、力強い誓いの叫びへと。

その強い感情に当てられた人々は、どんどんとその勢いに呑まれて行く。



「―――シルク」



 騎士さん達の叫びに掻き消されそうなほど小さなミナちゃんの声。

けれど、その声に、確かに応える存在があった。

その巨大な翼を羽ばたかせ、純白のワイバーンが私達の背後へと舞い降りる。

一瞬その姿に周囲が騒然となりかけるけど、ミナちゃんへと嬉しそうに顔を摺り寄せるその姿に、周囲から感嘆の息が零れた。


 出立の時は、近い。

ここを逃せば、もう―――



「―――桜」

「ぇ……誠人さん?」



 頭の上に何かが乗った感覚に、私は俯かせていた視線を上げる。

そこに、淡く微笑む誠人さんの笑顔があった。

誠人さんはそっと私の頭を撫でて、私に届く程度に声を上げる。



「お前の好意は、確かに受け取らせて貰っている……案じているのはお前だけではないさ」

「あ、え……そ、それって……!?」

「そのままの意味だ」

「にっひひ、大胆やねぇ、まーくん。うちには何か言う事無いん?」

「ふ……」



 小さく笑みながら、誠人さんはそっとその手を伸ばし、いづなさんの髪を梳くように撫でる。

いづなさんは一瞬だけ身を硬直させて―――でも、同じように微笑みながら目を閉じて、その手に自分の手を重ね合わせた。



「……せやね。うちらの間に、今更言葉なんぞ必要なかったか」

「同じだろう、いづな?」

「うん。同じやね、誠人」



 少しだけ、嫉妬。

凄く通じ合っている二人が、どうしても羨ましかった。

けど……大丈夫。誠人さんは、私のことも好いていてくれるから。


 だから……私も、信じよう。



「おい誠人、お前も来いよ」

「あんまり長引かせる訳にも行かないでしょ」

「そうだな……じゃあ二人とも、頼んだぞ」



 名残惜しそうにしながらも、誠人さんは私達から身を離し、シルクの上へと跳躍する。

周囲に響く大歓声の中、シルクはその大きな翼を羽ばたかせる。

と―――その時、王様が勢いよく手を挙げた。

そしてそれと同時に、周囲の声が一瞬で静まり返る。



「勇気ある彼の者達へ―――敬礼!」



 その言葉と共に王様が腕を横に振るうと、整列していた騎士達が、一斉にその拳を口へと当てる。

マリエル様やゼノン王子もそれに倣い―――その光景に、煉さんたちは思わず目を丸くしていたみたいだった。

けれど、三人は目を見合わせて小さく微笑むと、返答するように同じ敬礼を返す。


 そして―――三人の姿は、勢いよく上空へと駆け昇って行った。



「……どうか、ご無事で」



 私は、祈る。

絶対者たる神様なんていないけれど……どうか、大切なあの人達が無事に帰ってきますように、と―――











《SIDE:OUT》





















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