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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
169/196

162:撃退、そして

人形遣いドールマスター》、再びの邂逅。












《SIDE:REN》











 敵へと向けて突撃してゆくリオグラスの騎士たちと、雨のように空から攻撃を繰り返す誠人。

普通に戦えば、恐らく敵側に軍配が上がるだろうが……誠人の援護があるおかげで、互角以上に戦えているようだ。

リオグラス側の兵の練度が高いって言うのもあるけど、これはなかなかいい感じみたいだな。



「―――マリエル。それと、フレイシュッツ卿」

「はっ、何でしょう」

「陛下?」



 混戦状態になっている戦場をどう狙撃したものか悩んでいた俺は、ふと背後からかけられた声に振り返った。

そこにいるのは、口元に笑みを浮かべた陛下の姿。

彼はそんな表情のまま、俺へと向けて声を上げた。



「感謝するぞ。お前たちのおかげで、我らは重要な拠点を護り切る事が出来た」

「勿体無きお言葉です」

「俺達だけじゃなくて、ここを防衛していたリオグラスの騎士たち全員ですよ。皆がいたからこそ、ここを護り切れたんです」

「ふ……そうか。ならば、お前とゼノンの隊全てに褒美を取らせねばなるまい!」

『おおおおおおおおっ!?』



 楽しそうな笑みと共に大きく発せられた声は周囲に伝わり、それと同時に周囲の騎士達から歓声が上がった。

まあ、その直後に注意を逸らすな、とマリエル様によって叱られてた訳だが。

しかし、この人はメリハリがあるって言うか……しめる時はしめるけど、それ以外の時は結構フレンドリーだよなぁ。

だからこそ、一般の騎士達からも人気があるんだろうけど。



「ミーナリア、お前もな……ルリアやギルベルトが心配していたぞ?」

「……ごめん、なさい」

「叱っている訳ではないさ。お前の働きがあったからこそ、我々は迅速に動く事が出来た。

あの事・・・を今まで黙っていたのはマイナスだが……それを帳消しにして余りある働きはしているだろう?」



 あの事ってのはベルヴェルクの事か、二千年前の事か……まあ、俺達の事を思って黙ってた訳だし、追求はされないだろう。

戦場から注意を離さないようにしながらも、俺は陛下の声を聴く。

陛下も緊張している感じではないし、戦場は問題ないんだろうけどな。



「お前たちがここを防衛している間にも、様々な動きがあった。グレイスレイドの聖女からも連絡があったが、あちらもディンバーツからの侵略を受けているそうだ」

「……!」

「安心しろ、テオドール・ラインの尽力によって撃退に成功したそうだ」



 ミナが表情を変えたが、それを見た陛下は苦笑しつつ声を上げる。

やっぱり、あっちも攻撃を受けてた訳か……まあでも、あっちには聖女様もいる訳だし、とりあえずは問題ないだろう。

あの量産型魔人との戦いも経験したのだろうか……分からないが、無事だとは思いたい。

しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、陛下は小さく肩を竦めて見せる。



「とは言え、国としては無傷では済まなかったようだがな……我らはお前たちの機転によってここの防衛に成功したが、グレイスレイドはそうも行かなかったようだ。

万全の態勢で迎撃するまでに、都市を一つ落とされたらしい」

「都市を……」

「状況が状況だ、むしろ無傷で済んでいる我々が異常だとも言える」



 一応、いきなり敵が来るかもしれない事はミナの能力で伝えていたんだがな……流石に、間に合わなかったらしい。

リオグラスは国土の関係上、相手の侵攻ルートが限られていたって言うのもある訳だし。

それでも、千人足らずの人数でこの街を防衛できたのは大したもんだとは思うが。

……って、これじゃあ自画自賛みたいだな。



「あちらとの共同作戦などの話も出ているが……それは、後々話すべき事だろう。さて、ともあれこの戦の終わりも近いか……」



 言って、陛下は戦場の方へと視線を向ける。

誠人の水の剣、そして次々と吹き飛んでゆく魔人たちの姿……アレは、フリズが暴れ回ってるのか。

一応喋ってたからそれなりに理性は残ってるのかと思ってたけど、それでも退却の意思は感じられない。

あの魔人どもは、やっぱりベルヴェルクによって操られているみたいだな。



「……けど、これは終わりだな」



 魔人たちでも、フリズの動きには対応できない。

あいつの能力はかなり燃費が良いし、どれだけ数を相手にしても問題は無いだろう。

―――そう思っていた、瞬間。



「え……?」



 魔人たちを次々と吹き飛ばしていた嵐のような攻撃―――それが、唐突に止んでしまった。

何だ、一体どうして止まった?



「フリズ……?」



 じっと目を凝らす。

けれど、人の波に埋もれたその姿は、俺の目でも発見する事はできなかった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











 腕から流れる血を拭い、簡単な治癒の魔術式を使いつつ、あたしは小さく舌打ちする。

あたしの周囲に張り巡らされているのは、僅かに銀に輝いている糸。

僅かにあたしの血で濡れたそれは、以前にも見た覚えのある物だ。



「……またアンタって訳ね」

「ふふ、そう邪険にしなくてもいいじゃない」



 甘ったるい声が響く。

魔人どもの間から進み出てきたのは、以前にも見た金髪の女。

見た目は子供だけど、纏う気配はそんな生易しいもんじゃないわね……ドレスの赤と黒は、血の色って感じかしら。

口元に歪んだ笑みを浮かべる女―――アリシア・ベルベット。

こいつは、あたしの姿を見て嬉しそうに声を上げた。



「こーんにちは、フリズ・シェールバイト。人間を殴るなんて、心変わりしたものねぇ」

「人間じゃないわよ、魔人でしょ」



 吐き捨てつつ、あたしは構える。

周囲には、またあの糸が張り巡らされてるみたいだけど……ホント、厄介だわ。

また霧を使う……いや、相手は魔術式使いメモリーマスターだし、対策をとってないとは思えないわ。

変に頭の回る連中ってのはこれだから嫌なのよ。


 そんなあたしへと、アリシアは嘲笑するような表情を浮かべた。



「人間に決まってるじゃない。手があって足があって二本の足で立っていて、それで一応は魂も精神もあるのよ?

まあ、思考の方向性を絞られちゃってるせいで、あなた達を殺す事しか考えてないけど」

「だから、人間じゃないって言ってるんでしょ」

「……よく分からないわねぇ。貴方にとって、人間って何なのよ?」



 肩を竦めるアリシアを、あたしは鋭く睨みつける。

あたしの神経を逆なでしようとしているんだろう。それで襲い掛かったら、あの糸の餌食って訳か。

舐めるんじゃないわよ、全く。



「あたしにとっての人間……さあね、考えた事もなかったわ」

「じゃあ今決めてみたら? 私を殺せなくてこいつらを殺せる理由……何なのかしら?」



 そうね……強いて言うなら。



「人の形をしていて、心があるって事じゃないの。そんなモン、気にした事も無かったわよ」

「―――」



 あたしの言葉に、アリシアはきょとんと目を見開く。

この芝居がかった女の素の表情を見れたのは、どう反応しておくべき事なのかしらね。

けど、そんな事を考えている内に―――アリシアは、その表情を嘲笑へと変えた。



「はっ、はははっ! あははははははははははっははは―――!

何、何よそれ!? 何て傲慢、何て自分勝手! そんなので人は殺せないなんて言ってた訳!?」

「ええそうよ、悪い?」

「いいえ、最高よ! 最高に狂ってる偽善者だわ、貴方!」



 その言葉に含まれているのは、どうやら本物の賞賛のようだった。

まあ、どう聞いたって皮肉にしかならない訳だけど……でも、言われなくたって分かってる。



「そうよ、あたしは偽善者。自分の為に、元々人間だった奴らも殺してるんだからね。自分が幸せになる為だけに」

「あはははははっ! いいじゃない、とっても人間らしいわよ、貴方!」

「フン……」



 あたしの願いは、かつての幸せな日々を取り戻す事。

そしてあたしにとっての価値は、その幸せな日々を享受する資格の無い人間にならない事。

全て、自分の為……あたしは、そういう人間だ。

自分の為に、人を助ける。人じゃなかったら、容赦なく排除する。



「だから、あたしはあたしの信条の通り……アンタを、本気で殺さないであげる」



 そして、あたしは―――能力を、回帰リグレッシオンではなく普通の形で発動した。

分子振動の制御……あたしが、こういう物だと思って操っていた力。

本当は、もっと単純でもっと危険な力だった訳だけど、今はこれで十分よ。



「―――爆ぜろ」



 周囲を取り囲んでいた魔人たちが、内側からボコボコと膨れ上がり、一斉に破裂する。

熱された血の雨が周囲に降り注ぐ―――あたしはそれを触れる前に凍て付かせ、アリシアは避ける素振りも見せず浴び続けていた。

かなりの熱の筈だけど……こいつ、どうなってるのかしら。



「へぇ。ここまで残酷に殺せるのね……ねぇフリズ、こいつらがちゃんと自分の心を失っていなかったって言ったら、貴方はどう思うの?」

「信じない。ミナがあたしに、こいつらはもう自分の心を失っているって言ったんだから。どうして仲間じゃなくてあんたの言葉を信じなきゃいけない訳?」

「あら、ミナクリールはあなた達を利用していたじゃない。今回も騙して利用しているんじゃないの?」

「そこまで含めて信じるって言ってるのよ、あたしは」



 言い放ち、あたしは駆ける。

周囲の糸は血によって姿を見せた……どうやら水分をすぐに吸収する仕様になってるみたいだけど、それでも位置さえ分かってしまえば―――



「溶けろ」



 張り巡らされた糸を、全て熔かしてしまえばいいだけだ。

燃え落ちる糸の合間を潜り、握り締めた拳をこのいけ好かない女の顔面に叩きつけようとして―――あたしは感じた悪寒に従い、回帰リグレッシオンを発動させていた。

加速した視界の中、割り込んでくるのは一体の黒い人形―――それが、加速したあたしの感覚の中で尚、速いと言えるような速度で突っ込んでくる!



「ッ……!?」



 力の出力を高め、後方へと跳躍。

しかし、それでも尚追って来る人形に、あたしは身体強度の強化を更に高めつつ迎撃の蹴りを放った。

足同士がぶつかり合い、その神速の一撃のぶつかり合いで、周囲に巨大な衝撃が走る。



「ッ、何よこれ!?」

「ふふ、驚いたぁ?」



 思わず、耳を疑う。

あたしは確かに力を発動している……なのに、何でこいつはあたしに付いて来れるの!?



「そりゃ勿論、相手が速いと分かってたらそれなりの対策はしてくるわ。まあ、結局貴方に付いて来れそうなのはこれしか造れなかったけど」

「ち……っ!」



 いづなの言ってた通り、か。

相手は、あたし達の力を測るような事をやってきていた。

それは、あたし達の力の対策を練る為であると―――どうやら、本当に嫌な予感が当たってたみたいね。



「これに付いて来れてるアンタも、人形の身体って訳……!?」

「さあ、どうかしら?」



 嫌な言い方だ。

あたしに確信を抱かせないって訳か……確かに、それだと攻撃できないわ。

―――っと!



「ほらほら、余所見してていいのかしら?」

「くッ!」



 舌打ちしつつ、あたしはさらに能力の強度を高める。

実際に計測できる訳ではないから分からないけれど、打ち合わされた拳の音はあたしの耳には届かず、そして迸る衝撃も周囲に広がる前にあたし達は既にその場から離れている。


 能力の発動を高め、相手の右後ろに潜り込む。

そこから大きく捻りを加えて放たれた拳は―――しかし、人形の差し込んできた肘によって防がれた。

振り払うように横から振るわれる拳を体を沈めるようにしながら躱し、あたしは更に加速する。



「コイツ……!」



 まだ付いて来る。

まさか、あたしに合わせて速くなってる?

最初からこれぐらい加速していれば、不意打ちであたしを倒せた筈なのに―――



「また、人を試してるって訳か……」



 あたしが何処まで速くなれるか、それを確かめてるって訳か……ふざけんな。



「そんなチンケな人形で……」



 加速、加速、加速。

全てを置き去りにするほどの速さを、あたしは更に上乗せしてゆく。

見えない、聞こえない、感じない。そこに居た事すら気付かせない、最速。



「あたしを、測れると思うな!」



 踏み込む足も、地面の衝突する速度は凄まじい。

衝撃を抑えなければ、あたしが一歩踏み出すだけでもこの周囲は壊滅してしまうだろう。

けれど―――あたしが望むのは、この人の事を舐め腐った女のガラクタをぶっ壊してやる事だけ!

衝撃が僅かながら漏れ出してしまう程の速さ。故に―――



「ッ―――あああ!!」



 反応なんて、許さない。

あたしの突き出した拳は黒い人形の胸に命中し―――あたしは、すぐさま後方へと跳躍した。

能力を発動、ある一点で衝撃の速度を緩和するように設定する。

そして―――



「ブッ壊れろ」



 あたしは、能力を解除した。

瞬間、周囲に解き放たれるのは無数の打撃と、踏み込みによる衝撃の数々。

それが味方に影響を及ぼす前に減速させ、霧散させる―――ちゃんと、衝撃は抑えられたみたいね。

けれどまあ、その衝撃の中心地は無事じゃ済まない。

残っているのは、防御の魔術式メモリーで己を覆ったあの女だけだ。


 アリシアは、あたしの姿を認めてにやりとした笑みを浮かべる。



「さっすが、速いわねぇ、フリズ」

「……余裕じゃない、アンタ」

「勿論、予定通りだし」



 やっぱり、あたしの力を測るのが目的だった訳か。

ホント、腹立つわ。

そんなあたしの内心でも読んでいるのか、その不愉快な笑みを浮かべたまま、アリシアは声を上げる。



「そうそう。さっきの答え、教えてあげましょう」

「答え?」

「そう。私のこの身体―――正解は、人形でした」



 コイツ―――!

咄嗟に手を伸ばしたけれど、あたしには魔術式によって意識を繋げただけの存在を捕まえる方法など無い。

それが分かっているのだろう。アリシアはただただこちらを馬鹿にするような笑みを浮かべ―――その場に、崩れ落ちた。

どうやら、繋げていた意識をカットしたようだ。



「ちっ、最初から自分が負ける事まで織り込み済みだったって訳ね」



 ほんっとうに、気に入らない。

嘆息しながら地面を蹴る―――と、それと同時に、戦場全体に陛下の声が響き渡った。



「我らの勝利だ! 全軍、勝ち鬨を上げよ!」

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』



 大地を震わせるような咆哮に、あたしは視線を周囲へと向ける。

どうやら、暴れ回ったおかげでかなりの数の魔人を吹っ飛ばしちゃったみたいね。

とりあえず勝ちは拾えたし……全体としては、良かったんだろうけど。



「嫌な感じよね、これ……」



 不吉な予感だけは拭えず、あたしはじっと北の方角を睨み続けていた。











《SIDE:OUT》





















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