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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
167/196

160:魔の軍勢

人に在らざるその姿は、彼らの危惧していたもの。












《SIDE:MASATO》











 振るう刃が敵を斬り裂く。

一閃がオレに接近してきていた五人の騎士たちの首を刎ね、それに追従するように振るわれた水の刃が、その奥にいる数十人を喰らい尽くす。

ミヅハの刃はオレの思うとおり、変幻自在のままに操る事が出来る。

裂き、穿ち、喰らう―――けれど、その澄んだ色が失われる事は無い。

さて、出来ればここであの女……《人形遣いドールマスター》を討っておきたい所ではあるが、生憎とその姿を見つけ出すのは容易ではない。

シナツに探させても見つからないし、どうしたものか。



「……っと」



 オレに向かって無数の矢が降り注ぐ光景を視て、その未来を打ち払う為にミヅハの刃を振るう。

全ての矢がオレから外れる未来でもいいが―――まあ、通用しない所を見せた方が後々楽だからな。

宙を駆ける水の刃は降り注ぐ矢を余す事無く砕き、撃ち落す。

その光景に周囲からざわめくような声が聞こえたが、とりあえずは無視。



「さて……どうする?」

『十分な戦果ではあるが、防衛線は徐々に寄せられてきているな』



 椿の言葉に、オレは周囲へと視線を向ける。

そこには既に、足の踏み場も無いほどに詰み重なった無数の屍が並んでいた。

消し飛ばしてしまった数も多いので、実際に倒した数はこれの三倍以上だろうが。


 しかしそれでも、数に押されて徐々に下がってきてはいる。

オレの波状攻撃を防ぎきれるだけの魔術式メモリーを持つあの女がいる為、大技を狙えばその隙に近寄られてしまうのだ。

これだけやっても魔力が切れる様子が無いと言う事は、アルシェールと同じように不死者イモータル・ブラッドの生命力から無尽蔵に魔力を生み出していると考えた方がいいだろう。

厄介だが、隙を作らぬように戦う他無い。


 だが、それにしてもこいつらは不気味だ。

普通、これだけの力を見れば多少は萎縮する物だと思うのだが……奴らは、こちらの力に驚いてはいるが、恐れているような様子は見られない。

少々異常にも感じるが―――む?



「貴様が魔剣使いか!」

「……誰だ」



 どう攻めた物か考えあぐねていたオレの前方、軍の中から一人の男が姿を現す。

立派な髭の目立つ精悍な顔立ち、その身は鎧を纏っていながらも、鈍重な様子は見られない。

体格と言う点ではこちらも負けていないが、かなり恵まれた体形のようだ。

その男は、こちらの姿を見てにやりと笑みを浮かべる。



「我が名はグラセト、この軍を纏める将の一人よ! 貴様の戦い、見せてもらったぞ魔剣使い。真、恐ろしい力よ」

「……そう思うのならば、何故前に出てきた? 正気とは思えんぞ?」



 こちらとしては好都合だがな。

敵将を潰す事が出来れば、こちらとしてもかなりのプラスだ。

景禎を脇構えにし、重心を落として構える。そのオレの姿を見て―――グラセトは、口元に笑みを浮かべた。



「思い上がるな、小僧……我らが陛下より与えられた力、とくと見るがいい!

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「……!?」



 刹那、グラセトの体から覚えのある気配が膨れ上がる。

いや……グラセトだけではない。周囲に立つ兵士達からも、同じような気配が現れていた。

あの時、リオグラスはフェルゲイトの宮殿の中で感じたあの気配。


 グラセトの身体は、湧き上がった黒い物体によって覆いつくされ、全体が黒い甲冑のような姿へと変化する。

そしてその両腕から先は、巨大な漆黒の刃へと変化していた。

周囲にいるのも、漆黒の物体……負の力によって構成された鎧を纏っている。



『……誠人、これは』

「危惧はしていた……だが、実際に目の当たりにする事になろうとはな」



 魔人の量産……邪神によって生み出された訳ではないだろう。

恐らくは、ベルヴェルクが何らかの実験の末に編み出した力だと考えられる。

人の負の側の力を与え、その力によって戦力を増大させると同時に、思考をある程度支配する。

奴らは、この力に対する疑問すらも抱いていないようだった。


 ……知らない人間がどうなろうと、知った事ではないと思うのは確かだ。

だが……これは、あまりにも胸糞悪い。



『普通の兵でも落とす事は容易いと思って追ったが、ここまで抵抗してくるとはな。

しかし、その力に敬意を表し―――全力で潰してくれよう!』



 グラセトは、爆発するかのようにこちらへと駆ける。

その刃と化した巨大な腕は、神速のままにオレの頭上へと振り下ろされる―――それを景禎の刃で受け止め、オレはその黒く染まった姿へと鋭い視線を向けた。



「……憐れだな」

『何……!?』



 自分から望んでこの力を得たのか、或いは気付かぬ内にこの力を植えつけられて操られているのか……どちらなのかは知らないが、どうにした所でもう戻れまい。

もう人には戻れず、そして邪神の力である以上はその存在を許す訳には行かない。

斬る―――ただ、それだけだ。



「精霊装填、イザナギ」

『貴方の言葉に応えよう、我が主よ』



 現れるのは、白いローブを纏った黒髪の男性。

その掌がオレの手と共に刃に添えられ―――それと同時、刃が眩い光を放った。

そして、それと同時に跳ね上げた刃が、グラセトの刃を土くれか何かのように斬り落とす。



『が……ぐ、ああああああああッ!?』

「光よ、斬り裂け」



 そして、オレは跳ね上げると共に振りあがっていた刃を、袈裟に振り下ろした。

普段の剣速の比較にならぬほど―――それこそ、光の軌跡のみを残して振るわれた刃は、黒き鎧と化した邪神の力を容易く斬り裂く。

刃に伝わる光は、オレの腕を伝い肩口までを覆っている。

光の精霊を纏う事によって生まれる力は、刃から光熱派を放つ事だけではない。

景禎の鋭さ、そしてオレの刃を振るう速度そのものを強化しているのだ。

それは正に光―――いかなる物でも、容易く斬り裂く。



「……それでも、動じないか」



 グラセトを下して油断無く構えれば、前方に展開していた魔人たちは、うろたえる様子すらなくこちらへと突撃してきている所だった。

普通ならば、将が倒されれば動揺するだろうに……どうやら、精神制御されているのは間違いないようだな。

話も、戦略すらも通じるような相手ではない―――ならば、マトモに考えるだけ無駄な事だ。



『誠人、行くぞ』

「ああ」



 先ほどまで抑えていた能力の出力を高める。

広がる未来は、無数の魔人たちがこちらへと殺到してくる光景―――しかし、それでも決して一部の隙も無いと言う訳ではない。


 オレの胸へと突き出される刃の光景から身を躱し、景禎を真横に走らせる。

放たれた一閃は鎧後とその魔人の首を刎ね、それと共に放たれた光の刃が、その延長線上にいた魔人達の身体を両断した。

そして刃を振るった勢いのまま、身体を沈めつつ回転。頭の上を刃がすり抜けてゆく気配を感じながら、オレは再び刃を振るった。

放たれる光刃は質量を持たぬまま放たれる刃―――光そのものである為、その速度は決して躱せるモノではない。



『誠人、左から迂回して抜けようとしている連中がいるぞ』

「了解した」



 椿の指示に従い、正面の敵から視線を外す事無く、返す刃で一閃を放つ。

一応気をつけなければならないのは、この刃を街の方へ向けないようにする事だ。

この一閃は容易く城壁を斬り崩してしまう。

……まあ、煉の弾丸ならば迎撃できるのかもしれないが。



『左は倒した……が、今度は右だ』

「忙しい連中だな……!」



 後方へ跳躍、距離を開けつつ光の刃を放つ。

あまり広範囲に刃を広げると、あまり飛距離が無くなってしまうのも弱点と言えば弱点か。

その辺りの制御は、椿がやってくれているようだが。


 と―――能力の目に映った、黒い弾丸が襲い掛かってくる光景に、オレは舌打ちしながら横に身を躱した。

どうやら、あの宮殿で見た魔人と同じく、力を弾丸と化して飛ばしてくる奴もいるようだ。

飛び道具の厄介さは身に染みている。だがまずは、右を抜けようとしている連中からだ。



「イザナギ!」

『はっ!』



 オレの命に従い、刃が更なる光を纏う。

正面に撃っても防御魔術式に防がれるだけだが、あちらの連中ならば―――!



「光よ!」



 振り下ろした刃から放たれるのは、目を灼かんばかりの輝き。

飲み込んだ者を塵と化す極光の一閃。

突き抜けた閃光は奥にあった森の一部までもを消滅させていたが、今はそれを気にしている余裕は無いだろう。

気をつけていようと、大技の後の隙は存在する。敵は、オレが右側を攻撃している最中にもこちらへと接近してきていた。

漆黒に染まった数万の軍勢……攻撃を防がれさえしなければ何とかなるとは思うのだが、流石にきつくなってきたな。


 と―――



『―――誠人!』

「む……煉か?」



 突然頭の中に響いた声に、オレは顔を上げる。

どうやら煉がミナの力を使ってオレに声を飛ばしてきたようだが……何かあったのか?



『横を逸れてくる連中は俺に任せろ。お前は、正面の連中を門に近づけさせない事だけを意識してくれ』

「……確かに、それなら行けるとは思うが、それなりの数が抜けてくる筈だぞ?」



 刃の精霊をシナツに変更、近寄ってきていた魔人たちを押し返しつつ、オレは煉へと返答する。

そんなオレの言葉に、煉は小さく笑みを浮かべたような気配を発しつつ声を上げた。



『数がいたって問題じゃないさ。それに、門の前さえ確保されていたらどうにだってなる』

「何……?」

『とにかく、少しの間だけでいいから耐えてくれ。そうすりゃ、状況が変わる筈だぜ?』



 よく分からんが、とにかく状況は好転しつつあるようだな。

いづなはいないようだが、恐らくはマリエル様の指示だろう。従っていても、問題は無い。

ならば、今しばし耐える事とするか。



「……行くぞ、椿」

『ああ。さて、何が起こる事やらな』



 どこか面白がるような椿の声音を聞きつつ―――オレは、黒き軍勢の中へと駆け入ったのだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:IZUNA》











「いづなよ、これは予想していたのか?」

「一応、多少は……せやけど、ここまで派手に来るとは思わんかったなぁ」



 《斬馬剣アウトレイジ》を風車のようにぶん回して躍りかかってきた魔人を両断しつつ、うちは小さく嘆息を漏らす。

うちが向いとる方向と反対側では、同じぐらい巨大な剣を振り回して魔人を叩き潰すゼノン王子の姿。

リコリスさんの《光糸ストリングス》によって動きを妨害した所を一気に叩いとったんやけど、突如としてこういう姿になる連中が現れてもうた。

流石に、ガープとかああいったオリジナルの魔人みたいな強力さは無いみたいやけど……それでも、足元の妨害無しにこの数を相手にするんは無理やったろうね。



「おおおおおッ!」



 ゼノン王子が横薙ぎに振るった刃が、魔人の胴をへし折り、叩き斬る。

流石にあの重量は、魔人にとっても致命的な破壊力になるみたいやね。

まあ、刃の鋭さと言う点では、ジェイさんの槍の方が遥かに上やけど。



「ふっ!」



 裂帛の呼気と共に、踏み込む。

うち自身は大剣の使い方なんぞ全く心得とらん。

せやけど、うちの能力である《記憶ゲデヒトニス》、その回帰リグレッシオンならば、ジェイさんが操っとった通りにこの武器を使いこなせる。


 重さはこの槍のモンだけ。せやから、振り回すんにそれほど苦労はせぇへん。

横薙ぎに振るわれた刃は足を絡め捕られながらも近寄ってくる魔人たちの胴を薙ぎ、半ばまで突き刺さったままだった魔人はそのまま持ち上げ、振り下ろすと同時に別の奴も叩き潰す。


 ……うん、ちっとは慣れてきた。

これなら―――



「行ける、かな」



 小さく呟きつつ、後方へと跳躍。

そしてうちは、大剣を普段の刀と同じ構え―――脇構えの型に構える。



「はッ!」



 そして、放たれた一閃は、うちが普段刀で放つんと同じ剣閃。

無拍剣と同じ、予備動作を一閃の中に含めたその攻撃は、魔人たちの首を容赦なく刎ねた。

そして一閃を振り切ったその重心移動のまま体をずらし、撃鉄を起こすように刃を再び振るえる体勢へと。

構えは上段、振るう刃は袈裟の軌跡。

振り下ろされた大剣によって両断される魔人、そしてうちは地面に突き刺さった刃を利用し、棒高跳びの要領で跳び上がった。

こちらへと向けて放たれとった黒い飛礫を身を捩りながら躱し―――その勢いのまま、着地と同時に刃をぶん回す。

さらに―――



「オーバーエッジ!」



 更なる魔力を注ぎ込み、肥大化した刃を利用して周囲を一気に薙ぎ払う。

飛び散る黒い肉片と赤い血……さて、いくら有利に戦える言うても、数が違い過ぎては限界がある。

うちとゼノン王子以外は二対一で対応しとるんやけど、流石に消耗も激しいし、もう戦死者も出とる。

これ以上は限界や。せやけど、もう少しで―――



「いづな、どうするつもりだ! このままでは―――」

「分かっとります! もうすぐ……!」



 近寄ってきた魔人を斬り払いつつも振り返り―――うちはふと、ある物を発見した。

それは、ここから見えるアルメイヤの街の西門……そこに立つ、銀の狼を象った旗!

あれは……!



「うし! 時間稼ぎは終わりや! 王子、退却です!」

「む……? あれは、そうか!」



 王子はうちの視線を追って、何があったんか気付いたんやろう。

疲労を浮かべ始めとった王子もその顔に歓喜の表情を浮かべ、周囲へと声を発する。



「味方の援軍が到着した! 我らの仕事はここまでだ! 総員、アルメイヤへと帰還せよ! これ以上の犠牲は一人たりとも許さんぞ!」



 ゼノン王子の声を聴き、周囲の騎士達は一斉に退却を始める。

戦果に執着せん、ちゃんと訓練された人達やね。

とりあえず、リコリスさんの戒めがある以上はうちらの方が移動速度は速い。



「リルリル!」

「ガウ!」



 うちの声に反応し、魔人たちの群れの中から銀色の毛並みの狼がその姿を現す。

腕のブレードもその牙も真っ赤に染まっとったけど、その体には傷一つ無いようやった。

リルリルはうちの方へと駆け寄りざま、魔人一体の首をブレードで裂き、その隣にいた魔人の首を喰い千切る。

流石にちっと頬が引き攣ったけど……まあ、フェンリルの子やからなぁ。

とりあえず、気を取り直して、と。



「リルリル、うちらで殿を務めるで。皆頑張ってくれたんやし、護ってあげんとな」

「ガウ!」



 リルリルはうちの言葉に頷き、再び牙を剥きながら魔人たちの方へと向き直る。

うちらの後ろには、門へと後退してゆく部隊の皆。

四分の一ぐらいは減ってもうたね……魔人の事さえ無ければ、十分戦えたっちゅーのに。



「―――いづな、早く来い!」

「分かっとります! リルリル、ちっとずつ後退するで」

「ワウ」



 もたつきながら歩いてくる魔人達へと牽制の攻撃を放ちつつ、うちらはアルメイヤへと後退してゆく。

さて、ともあれこれで条件は満たした……後は、反撃開始や。











《SIDE:OUT》





















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