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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
166/196

159:時間稼ぎ

向かうのは、深き知謀を持つ少女。











《SIDE:IZUNA》











 ふむふむ、流石に敵さんも泡喰っとるようやね。

戦場の前線では、まーくんが景禎の力を操って大暴れ中。

振るう刃から放たれる炎、氷、雷―――そのあまりの激しさに、近寄る事もままならんような状況や。

時々その嵐を掻い潜って吶喊してくる連中もおるけど、まーくんは剣士としての技量もかなり高い。

そして掠り傷一つ与えれば相手を絶命させられる景禎と、人間では反応する事の難しい無拍剣……一人で軍に相当する武器を造り上げるつもりではあったんやけど、ここまで上手く行くと笑えて来るわ。



「さてと……煉君、仕事は分かっとるね?」

「ああ、誠人の横を迂回してきた連中を狙えばいいんだろ?」



 落ち着きを取り戻した様子の煉君に、うちは頷く。

状況が切羽詰って無きゃ、冷静な判断も下せるやろ。

煉君の仕事は、あの飛び交う七つの魔弾の内半数をこちらに飛んで来た攻撃の迎撃に、残りを近寄ってきた敵の殲滅に充てとればええ。

これだけ数が減っとれば、十分対応出来る筈や。

これでここは問題なし、残る懸念を何とかすりゃ、十分間に合う。

恐らく、マリエル様も―――



「いづな、少しいいか?」

「待ってました、ってトコやね。迂回して西側に来るであろう軍への対応ですね?」

「む……流石だな。私の考えている事などお見通しか」



 うちの言葉に、マリエル様は苦笑しつつも頷く。

まあ、当然懸念しとくべき事やしね。相手はアレだけ数がおるんやし、正面にまーくんがいる以上は迂回して攻撃しようと考える連中が出て来るんは当然の事や。

当然、そんな連中を放っておくつもりはあらへん。迎撃せなあかん。

いくらこっちに強力な手札があるっちゅーても、所詮は人間や。分裂できる訳やあらへん。



「向こうの対応には、兄上が動いている……自分で思いついた事自体が予想外なのだがな。

正直行かせるのは不安だが、他に手もない。連れて行ける兵の数は百人が限度だ……どうする?」

「ふむ……」



 実を言うと、ゼノン王子に入れ知恵したんはうちなんやけどね。

刀は間に合いそうやったから、ゼノン王子にはそっちに対応して貰おうと思って声を掛けたんやけど、読み通りやったってトコや。


 ともあれ、まーくんは戦闘中、煉君はここの護り、フーちゃんは対人戦には出せん。

さくらんはつばきんに力を分け与えた事でダウン中やし、ミナっちは煉君の魔力チャージの仕事がある。

となると……しゃあないか。



「ミナっち、リコリスさんとリルリル貸して貰えへん?」

「ん、分かった」



 うちの言葉に、ミナっちはあっさりと首を縦に振る。

そしてそれと同時に、ミナっちに控えるように現れるリコリスさんと、うちの声が聞こえてたんか、階段からひょっこりと顔を出すリルリル。

ちなみにリルリルは、フェンリルを信奉するこの国の兵士達によってアイドル同然の扱いを受けとったりする。

まあ、その辺りは何でもええんやけど。戦力としてはこれで十分やし、頷きながらマリエル様に向き直る。



「うちらが付いて行きます」

「何……? いづな、お前がか?」

「他に動けるのはおりませんし」



 まあ、さくらんも普通に精霊を使役する程度は出来るやろうけど、既に動きが鈍っとるからなぁ。

精々、風の精霊を使役して、奇襲を受けん程度に見張っといて貰っとる程度や。

何かあれば、ミナっち越しに報告してくれる筈やから、問題は無い。

しかし、マリエル様はどこか困惑した表情や。



「あの前線ほどではないだろうが、それでもかなりの数が行く筈だぞ? 大丈夫なのか?」

「心配せんといてくださいな。うちも、力を使えるんで」



 小さく苦笑しつつ、うちは肩に担いだジェイさんの槍を見つめる。

まあ、普通の人にはジェイさんのモンやとは分からんやろう。

伝承やと、蒼い炎を纏う銀の槍って事になっとる訳やし。



「とにかく、任せといてくださいな。敵は通しませんて」

「……分かった」

「それからフーちゃん、状況見て防衛手伝ってな」

「りょーかい。まあ、敵の武器を熔かすぐらいはやっとくわ」



 うんうん、まあ十分すぎる仕事やろ。

相手が混乱して動けなくなるやろうし、足止めだけなら十分や。

うし、ほんなら行きますか。



「じゃあ、マリエル様、指揮は任せましたんで」

「ああ……頼んだぞ、いづな」

「了解でっす」



 リオグラス式の敬礼をしつつ、うちは駆け出す。

その後ろに、二人分の気配が並んどるのが分かった。

西門まで全速力で走って、出撃しようとしとるゼノン王子に追いつかんとあかんからね。



「……いづな様、どうなさるおつもりですか?」

「んっと……まあ、やる事は単純やて。敵さんは手柄求めてやってきとる。ほんなら、相手はゼノン王子に集中する筈やね?

リコリスさんは、ゼノン王子が捌き切れん感じの敵に対応して欲しいんや。その間、うちとリルリルが遊撃に当たるんで」

「ガウ」



 いつの間にか獣化しとったリルリルが、うちの言葉に頷く。

しかしリコリスさんは、そんなうちらの言葉に対して眉根にしわを寄せる。



「いえ、あの……戦闘に向いた能力ではないいづな様が、大丈夫なのでしょうか?」

「……これでも、ギルマン百匹相手に一人で勝ったんやけどなぁ。まあ、心配してくれるんはありがたいんやけど」



 まあ、最近の皆の力を考えると、その程度の戦績はあって無いようなもんやろうし。

うちもたまには、自慢できそうな戦績を残しとかんとね。

うちの力は他の皆の《欠片》には遠く及ばん性能や。

知覚系という時点で出力の点じゃ放出系の三人には届かんし、格の高いまーくんやミナっちにも及ばん。

せやから、うちは後方支援や指揮の方に傾倒しとった訳やけど……回帰リグレッシオンの力は使いよう、ってトコや。



「ま、実際に見りゃ分かるよ。心配の必要は無い、とだけ言うとこうかね。皆やって、止めはせんかったやろ?」

「……はい」



 頷くリコリスさんに、うちは小さく笑みを浮かべる。

皆は、うちが出ると言うた事に対して大きな反応はせんかった。

皆、分かっとるんや。うちが勝算無しに動くような真似はせんっちゅーのがな。



「と、ゆー訳でっと……おー、おるおる」



 西側の門へと近づいてきた所で、うちはその門の内側の方へと視線を下ろす。

そこには、馬に跨った百名ほどの騎士達が整列し、出陣を今か今かと待ち構えとる所やった。

騎士隊の人が七十、魔術隊の人が三十ってトコやね。

後方支援を含めてそれだけの数……どう考えても、数の上やと負けてまう。

無論、少数精鋭を集めたんやろうけど、それでも不利なモンは不利や。

特殊な工作をする暇もあらへんし……そもそも、西側は平原やからねぇ。



「……ま、とりあえずは合流して話してからやな」



 そう呟いて小さく頷いた頃には、うちは西門の真上まで到達しとった。

とりあえず強化の魔術式メモリーを唱え―――趣味やなかったんやけど、この際文句も言ってられん―――騎士達の正面へと跳び降りる。

やはりと言うか何と言うか、真っ先に気付いたんはゼノン王子やった。



「おお、お前か。応援に来たのか?」

「そんなトコです。北門の方は何とかなりそうやったんで」

「お前の読み通りと言う訳か……ならば、この出陣も間違いではあるまい」

「それは王子の腕次第ってトコですけどねー」



 小さく笑みつつ、うちは王子の乗る馬の方へと近付いてゆく。

そしてそのまま、うちは王子の後ろへひょいと飛び乗った。



「む?」

「今更新しく馬を用意する時間も無いやろうし、このまま行かせて貰います。サポートは任せといて下さいな」

「ふ……成程、期待するとしよう」



 背中に向かって『何だあいつは』みたいな視線が突き刺さっとる気がするけど、気にせんようにする。

リコリスさんやリルリルも適当な人の後ろに乗ったみたいやし、出発準備は完了や。

さて―――



「……さくらん、聞こえとる?」

『……はい、いづなさん』

「軍の様子、どうや? もう動き始めとる?」

『はい……枝分かれするような感じに、動いています。この間蓮花さんが戦っていた場所から回ってくるような感じで……ちょっと遠回りですけど、正面から来るのかも……』

「了解や。何か変化があったらまた教えてな」

『はい、お気をつけて』



 とりあえずは予想通り……普通に突っ込めば玉砕、引き撃ちしても時間稼ぎにしかならん。

罠を張る時間は無し、そして広大な丘には姿を隠して奇襲できるような場所も無い。

無い無い尽くしやけど……やってやれない訳やない。



「とりあえず、出発して下さい。敵からこっちの姿が見えるような位置で待機です」

「む……? それでは、こちらから出遅れてしまうのではないか?」

「大丈夫大丈夫。先ずは、相手の出鼻を挫く事から行きましょか」

「……ならば、信じるとしようか」



 ゼノン王子は小さく笑み、その手に持った騎馬用の槍を掲げる。

確かに、状況は途方もなく悪い……せやけど士気の差、勢いがあれば、大きな差でも覆ってまう事もあるんやで?

せやから、この号令は非常に重要や。



「門を開けよ! 最早我らを阻むものは何も無い!」



 その声量に、空気が震えるのを肌で感じる。

将として、人の上に立つ者としての資質は十分やね……この闘気に中てられ、周囲のボルテージがどんどん高まってゆくのが分かるわ。



「リオグラスの勇者達よ、我らはこれより死地に入る! この戦の勝利無くば、リオグラスとお前達が愛する者達の未来は無いと思え!

だが、恐れるな! 我らには、邪神をも退ける猛き力を持つ者達がついている!」



 門が軋む音を上げながら開いてゆく―――せやけど、その音の中でも、ゼノン王子の声は軍全体に響き渡っとった。

生憎うちはそこまで大層な力を持っとる訳やないけど……それでも、何とかできん訳やない。



「進め! 天は我らに味方している! 我らの勝利は、この道の先に必ず存在しているだろう! いざ―――進軍!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』



 門は完全に開ききり―――それと共に、ゼノン王子から前進の命令が響き渡った。

そしてそれと共に、百騎の騎士達は勢いよくアルメイヤの外へと飛び出してゆく。

うちも王子の腰に捕まりながらも、しっかりとその手にあるジェイさんの槍を握り締めとった。

さて、接触する前にやっとかんとね―――



回帰リグレッシオン―――《記憶ゲデヒトニス肯定創出エルツォイグング英霊装填ラーデ・リーメンブランケ》」



 回帰リグレッシオンの力を発動、この槍、《白銀狼の牙》に刻まれた無数の記憶と研鑽が、うちの中へと入り込んでくる。

……流石に、こりゃあかなりの量やね。うちの力やと真似出来んような物も多々あるけど……それでも、十分利用可能や。

さてと、もうすぐ丘の上やね……っと。



「全軍、止まれ!」



 ゼノン王子の号令と共に、騎士達がその動きを止める。

丘の上からは、回り込んでここの門へと攻めてきたディンバーツ軍の姿が十分と言うほどに見て取れとった。

こりゃまた、桁が一つぐらいは違う数やね。



「さて、向こうもこちらの姿には気付いたようだぞ? どうするつもりだ?」

「まあ、そこは見てのお楽しみ……王子は、突入の好期を見誤らんようにして下さいな。うちらの力は、味方には害を及ぼす事は無いって事を覚えといてください」

「ふむ……?」



 よう分かっとらんみたいやったけど、実際に見ればすぐに気付いてくれるはずや。

さて、リルリルとリコリスさんも馬から降りたし、奴さんもこっちの姿に気付いとるし……急がんとね。



「リコリスさん、敵軍の前衛の辺りを中心に、捕縛用の《光糸ストリングス》を円形に展開、待機」

「―――畏まりました。《光糸ストリングス蜘蛛の捕らえ糸スパイダー・ウェブ》」



 リコリスさんが地面に手を着くと同時、可視化してはいない魔力の糸が敵軍の足元に広がってゆく。

この辺りは平原―――そう長くないとは言え、足首の辺りまでは雑草の生え揃った場所や。

足元に細い魔力の糸が展開されたとして、気付ける人間はそう多くは無い。

うし―――ほんなら、行こか。



「リルリル、突撃すんで!」

「ガウ!」



 リルリルに合図を送り、うちは駆ける。

槍に積まれた研鑽と、強化の魔術式―――決して、いつもよりも遥かに軽い身体に、うちは小さく笑みを浮かべる。

そして……うちは、槍へと小さく語りかけた。



「さぁ、お目覚めの時間やで、《白銀狼の牙》。主に使われとった、幸せな記憶を思い出し!」



 そして、うちは能力を使い、槍に刻まれた記憶を槍の中へと向かって強く走らせる。

主、ジェクト・クワイヤードによって使われていた頃の記憶……そうやって、錯覚・・させるんや。

今自分を振るっとるんは、あのジェクト・クワイヤード本人なんや、と言うように!



「―――第一位魔術式ファーストメモリー、《不死殺しの牙クルースニク》」



 刹那、黒かった槍が皮を剥かれたように銀色の輝きを取り戻す。

そしてそれと共に、穂先が蒼い炎を吹き上げ始めた。

ええ子や……さて、この武器はジェイさんの類稀な魔力によりぶん回されてた代物。

生憎と、うちにはそんな魔力容量は無いんで、形態をポンポン変えながら戦うような真似は出来ん。

せやから、最初に選んだ形態だけで戦うんがベストやね。

この場合、一対多に向いた戦闘系体―――



「なら……第三位魔術式サードメモリー、《斬馬剣アウトレイジ》!」



 そう宣言した瞬間、槍がうちの魔力を吸い取り、そこに巨大な魔力刃を形成する。

結構な量を吸われてもうたけど……この一回程度やったら、戦闘に支障が出るような事はあらへん。

さて、敵の姿はもう目前。そしてうちは、手に持った大剣を勢いよく天へと振り上げた。

瞬間―――足元に張り巡らされた《光糸ストリングス》が、その姿を明確化させる。



「ぬおッ!?」

「う、わあああああああっ!?」



 そしてそれと同時、足を絡め取られた馬達は次々と転倒し、見渡す範囲の騎士達が一斉に落馬して行った。

全速力で駆けとる馬から鎧を着たまま落ちた衝撃……打ち所が悪けりゃ、それだけで死ねる威力や。

そして例え死ななかったとしても、すぐに動くことはままならん。

そういう連中には―――



「せいやぁッ!」

「ワォオオオオオオッ!!」



 うちの振り回す大剣と、両腕からブレードを生やしたリルリルが襲い掛かる。

どちらも、名剣に引けを取らん斬れ味を誇る刃や。鎧を纏ってた所で、防ぎようもあらへん。

足を絡め取られて動きを止めた馬、そして地面に落ちて糸に絡めとられる騎士達……もがけばもがくほど、糸は余計に絡まってまう。

まさに、蜘蛛の糸って訳やね。さぁて、動けん間に殲滅させて貰おうか……皆と一緒に、な!



「いづなよ、感謝する! 進め、敵の首はごまんとあるぞ!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』



 雄たけびと共に、うちらの横を騎士達が駆け抜けてゆく。

一応踏み潰されんように注意はしとったけど……流石、近衛騎士隊は馬の扱いも一級品やったみたいやね。

そして彼らが駆け抜けていった場所には、生きた人間はうちらしか残らず……うん、まずは成功や。



「さて、あんまり深入りさせんように気をつけんと……リルリル、適当に馬捕まえて追いかけるで」

「ガウ!」



 リコリスさんは……丘の上には残っとらん。

うちが言った通り、ゼノン王子に付いてってくれたみたいやね。

ほんなら、さっさと追いかけるとしますか。



「リオグラス軍が到着するまであと少し……さてさて、時間稼ぎだけに終わらせる気はあらへんで?」



 そう呟き、うちは足を怪我しとらん馬を探し出し、ゼノン王子たちを追いかけたのやった。











《SIDE:OUT》





















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