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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
164/196

157:斬滅

そして、最後の仕上げへ。











《SIDE:REN》











「よう、兄さん。今日も精が出るな」

「おう、そっちもな」



 アルメイヤ北側の外壁の上、監視の拠点となっているこの場所で、俺は配属されている兵士達の歓迎を受けていた。

ぽっと出で貴族になった俺は、実際の所、今まで多くの騎士達から距離を置かれていた。

まあ、兄貴の後継者だっていうのも胡散臭い話だろうし、実際に邪神と戦った所を見た人物がいる訳じゃないからな。

難癖を付けられるのも仕方ないし、実力で黙らせればいい話だと思ってた訳だ。


 幸い、この街に着てからは実力を見せる機会も度々あったし、しかもフェンリルの加護を受けたおかげか周囲の人々からの猜疑的な視線はなくなった。

いや、むしろ好意的な視線が増えている……これは、この間マリエル様を庇ったののおかげではあるが。

しかし、その割には尊敬って言うよりフレンドリーな感じで接してくる連中が多い訳だけど……それは、俺が接しやすいって事だろうか?


 そんな事をボーっと考えていた俺の耳に、先ほどの騎士の言葉が届く。



「敵さんもまだ来るか分からないんだ、監視は俺達の仕事なんだし、休んでいてもいいんだぜ?」

「何もやらずにボーっとしてるのは性に合わないモンでな。それに、俺の方が早く見つけられるだろうし」

「それを言われちゃあお終いだな!」



 俺の視力の事は分かっているのか、先に話しかけてきていたのとは別の騎士が笑い声を上げる。

俺の場合、感覚強化の魔術式メモリーを使えばかなり遠くの距離まで見れるようになったからな。

フェンリルの加護は本当に凄まじい……が、やっぱり日常生活では使いづらかったりする。

落としかけたコップを途中で掴んだはいいが、力加減を誤って握り潰しちまったりしたしな。



「しかしよ、あの剣士の兄さんは来ないのか?」

「ああ、刀……武器がまだ完成してないからな。もうすぐ完成するとは言ってたけど、どうなるんだかな」

「あの細い剣か……アレって、そんなに凄い剣なのか?」

「いづなの前で言うなよ? 散々語られるから」



 左隣にいる中年の騎士の言葉に、俺は小さく肩を竦めながら嘆息する。

刀の事となると、いづなの話は本当に長くなるからな。ちなみに、胸の話は逃げる。流石に。

あいつは相変わらず色々と変わってるからなぁ。


 と……そこで俺に最初に話しかけてきた金髪の青年騎士が、ふとある方向へ視線を向け、突如として硬直した。

その様子に思わず首を傾げ、俺もそちらの方向へと視線を向ける。

そこにいたのは、見目麗しい二人の女性……まあ、ミナとマリエル様だ。

ミナほどでは無いが、マリエル様も美人だし、二人並んでいると目の保養だな。

彼女は俺の姿に気付くと、小さく笑みを浮かべる。



「た、隊長! お疲れ様です!」

「ああ、お前達もな……それにフレイシュッツ卿、貴方も」

「まあ、他にやる事もありませんでしたから。マリエル様も、この間はお怪我はありませんでしたか?」

「君のおかげでな。本当に感謝しているよ」



 マリエル様の俺への態度は、少しだけど変わったような気がする。

今までの、少し他人行儀な感覚は無くなり、視線から感謝と友情のような感情を感じる。

まあ、俺はミナじゃないから正確には分からないんだけど。

命を助けたんだし、感謝されるのは当然といえば当然だ。アレだけ痛い思いをした価値があったってもんだな。



「……怪我は、すっかり治っているようだな」

「え? あ、ええ。そりゃあ、その場で再生しますから」

「安心したよ。君にとって、腕は命とも呼べるものだろう?」



 まあ、引き金を引くには腕がないといけない訳だしな。

意識がある状態で再生したのは初めてだったけど、くすぐったいと言うか痒いというか、何とも言えない感覚だった。

不快ではないが、何度も味わいたいと思うようなものではない。

と―――そんな俺の腕に、ミナがそっと手を添える。



「ミナ?」

「……この体、後悔はしてない?」



 上目遣いのミナの言葉の中に、俺は僅かな不安を感じ取る。

俺がこの身体になったのは、確かにミナの行動が原因だ。

けれど―――



「むしろ、満足してるさ。俺はもう、向こうの世界に帰るつもりは無いんだからな」



 そう言って、小さく苦笑を漏らす。

そもそも、ミナは俺を助ける為にリルの力を借りたのだ。

そしてこの力は、俺が今後戦って行く為にも必要となる……満足はあっても、不満などあるはずがない。



「だから、気にするなって。元々人間なんてその内辞めるつもりだった訳だし、それが少し早まっただけだろ」

「……ん、そうだね」



 まあ、ミナの場合は既に超越ユーヴァーメンシュまで至ってる訳だから、既に人間じゃなくなってるんだけどな。

何はともあれ、俺の内心も理解したんだろう。少しだけ安心した表情で、ミナは頷く。

と―――そこで、小さく笑う声が響いた。



「マリエル様?」

「ふふ……ああ、済まない。微笑ましくてな」



 はっきり言うなぁ、この人。そんな物言いに、俺は思わず苦笑してしまう。

まあ、ミナの様子は見ていて和むのは確かだけどさ。



「……君に借りを返せる時が、来るといいのだがね」

「え?」

「何でもない。それでは、私は行くよ。ミーナリアは―――」

「わたしは、ここに」

「そうか。それでは、またな」



 軽く手を振り、マリエル様は踵を返す。

ミナを案内しただけか、それともここにくる用事があってきたのか……よくは分からなかったけど、とりあえず目的は達したのだろうか。

と、そんなマリエル様の背中の向こうに、こちらへと歩いてくる一人の人影を見つけた。



「いたいた、煉!」

「フリズ?」



 見間違える筈もない。アレは、フリズだ。

けど、どうしてこんな所にいるんだ?

駆け寄ってきたフリズへと、俺は思わず首を傾げる。



「何かあったのか? いつもいづなの所に行ってる時間帯だろ?」

「ああ、あれ? 刀鍛冶なら、もうあたしの仕事は終わっちゃったわよ。最後の焼き入れもやっちゃったし、今日はいづなが刀を研ぐだけ。

結構前に始めてたし、そっちももう終わったんじゃないかしら?」

「へぇ……それじゃあ、もうすぐ誠人も戦線復帰って訳か」



 あいつの刀が無い間の戦闘は、結局この間の自爆兵士の時しかなかったが……それでも、やっぱり安心出来るもんだ。

普通の奴らが相手だったら俺一人でも防衛できない訳じゃないが、妙な力を持った連中に出てこられると困るからな。



「とりあえず、精霊に魔術式を刻み終わったらでしょうけどね。一応それなりに作業は終わってるみたいだし……まあ、もうすぐ完成するでしょ」

「へぇ……楽しみだな、ミナ」

「ん、わたしも」

「……おい、兄さんや」

「ん?」



 ぽんと肩を叩かれ、そちらを振り向くと―――何故か、そこに号泣する青年騎士の姿があった。

不気味な顔のどアップに、思わず引く。

しかしこの男は俺の肩を離さぬまま、何やら妙な調子でまくし立て始めた。



「何でお前、そんなに綺麗ドコロ集めてるんだよ!?」

「いや、何でって……」

「認めろって坊主、コイツは勝ち組なんだよ。お前と違って」

「畜生、格差社会なんて大嫌いだ!」



 何だろうか、こいつのテンション。

いや、言いたい事は分かるけどな。ミナもフリズも掛け値なしの美少女だし。

まあ―――



「この二人は俺のだからな、一緒にいて当然だろ?」

「だから、そういう事を言うなって言ってるでしょ!?」

「「何を今更」」



 中年騎士のオッサンと俺の声が何故かハモる。

その言葉にフリズが地団太を踏み始めるが、それはともかく。



「大体だな、公爵令嬢を『俺の』とか! 公爵閣下にご挨拶したのかよ!?」

「……そういや、面と向かっては言ってなかったな」

「お父様、レンの事認めてるよ」

「ふーむ。まあ、それでもちゃんと言うべきだよなぁ」



 まあ、その辺は戦いを終わらせてからゆっくりやるべき事だろうけど。

仮に反対されたとしても、押し切るぐらいのつもりである。

最悪駆け落ちするぐらいの覚悟は決めてある。まあ、全員連れてだけど。

しかしそんな俺達の様子が気に入らないのか、血涙流しそうな勢いで騒がしいバカが声を上げる。



「しかもマリ―――隊長とも親しそうに話しやがって! 羨ましいし妬ましいんだよ畜生!」

「正直だなぁ、アンタ……って言うか、マリエル様の事好きなのか?」

「ば……ッ、な、何言ってやぎゃる!?」

「うわぁ」



 激しく動揺して盛大に噛んだ騎士に、流石に呆れた表情でフリズがそう呟く。

そして、全員からそんな感じの生暖かい視線を一斉に受け、居た堪れなくなったのか、青年騎士は踵を返すと泣きながら向こうの方へと走って行ってしまった。



「……おーい、持ち場離れたら怒られるんじゃないのかー?」

「怒られる時の僅かな接触から話を発展させて仲を深めてゆくのがプロのやり方だが……あの小僧にゃ無理だな」

「何のプロだよ、オイ」



 オッサン騎士にツッコミを入れつつ、視線を再び外の方へと戻す。

いつも通りゴーグルを掛け、感覚強化の魔術式を発動し―――俺は、思わず目を疑っていた。



「な……!?」

「? 煉、どうかしたの?」

「……いづなと、マリエル様に伝言だ、ミナ」



 俺の心を読んで、今の状況を把握したのだろう。

ミナは、若干硬い表情で俺の言葉に頷く。

俺の目に小さいながらも映っているのは、山の間から現れる黒い鎧の騎士達。



「……奴らが、現れた。今度は、本気みたいだぞ……!」



 ―――それも、数万に達しようかと言う大軍と、攻城兵器の群れだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:IZUNA》











「……成程、このタイミングかぁ」



 ミナっちの報告を受け、うちは思わずそう呟く。

現れたディンバーツ帝国軍。今度は万単位の数で攻めてきた、との事やった。

こちらは千に満たん兵、対し向こうは多くの攻城兵器と訓練された兵士。下手すりゃ、この間の爆発するような連中まで居るかもしれへん。

城攻めでは防御する側の方が有利とは言え、これはあまりにも不利な状況や。



「……大体の作業は完了しとるけど、こら急がなあかんね」



 先ほど、精霊たちへの魔術式メモリー刻印は完了した。

本人達の申告どおり、痛みは感じとらんかったみたいやね……精霊の生態はよう分からんけど、まあいい意味で予想外やったんやし、よしとしとこか。

カグツチには、使い手の身体能力を上げる魔術式を。

ミヅハには、使い手の刃を清浄に保つ為の魔術式を。

シナツには、使い手の速力を高め空を駆ける魔術式を。

カヤヒメには、使い手の身体強度を高める魔術式を。

イナギには、使い手の意識を冷静にさせる魔術式を。

ミカヅチには、使い手の感覚を強化する魔術式を。

そして光と闇、イザナギとイザナミには、まーくんの持つあの邪神殺しの剣を魔術式と化したものを刻んだ。

とりあえず、あんな長々とした詠唱は要らなくなった筈やけど……上手く行ってるとええな。



『それで、いづな……ワタシには、一体どのような魔術式を刻むつもりだ?』

「……これ、うちのオリジナルの魔術式なんや」



 ベッドに腰掛けるようなポーズでうちへと視線を向けとった幽霊、つばきんが声を上げる。

そしてそれに返したうちの言葉に、つばきんは少しだけ瞳を見開いとった。



『魔術式を自作したというのか?』

「や、と言うより、複数の魔術式を組み合わせて狙った効果を出したって所やね」



 これは、アルシェールさん独自の技術や。

関連する魔術式同士を繋げ、本来ではありえなかったような効果を発揮させる。

煉君の背信者アポステイトに刻まれとるような魔術式も、元を辿ればこれや。

しかし、うちの作ったこの組み合わせは、アルシェールさんには決して思いつけへんと自負しとる。



「名を、《斬滅》や」

『《斬滅》、か。名だけを聞けば大層な物だが……一体、どのような効果なのだ?』

「まあ、ある意味単純っちゃ単純やね」



 小さく、苦笑。

魔術式の組み合わせっちゅーのは、所謂言葉遊び。

少し音韻が合っとるってだけでも、アルシェールさんの技術ならば繋げる事が可能や。

うちが繋げたんはたった二つ……せやけど、それ故に単純明快。



「その名の通り、斬ったモノを殺す魔術式。例えかすり傷であろうとも対象を死に至らしめる猛毒か、破滅の呪いみたいなモンや」

『……!』

「まあ一応、つばきんが望まん限りは発動せんようになっとる筈やから、そこまで恐がる事はあらへんよ」



 刀の手入れの時に間違って指を斬って、そのままぽっくり、なんて洒落にならんからなぁ。

取り扱いには気をつけんとあかん魔術式や。



『……なあ、いづな』

「おん? どないしたん?」

『まさかそれは、『斬る』と『KILL』を組み合わせた、とは言わないだろうな』

「ぎくっ」



 うちのそんな反応に、部屋の中に沈黙が降りる。

つい、と視線を逸らし、誤魔化すように口元に笑みを浮かべ―――



『言葉遊び、というより駄洒落だろうそれは』



 誤魔化されてはくれへんよねぇ、やっぱり。

小さく苦笑しつつ、うちは声を上げる。



「駄洒落でええんや。言葉の繋がり、言霊の力。魔術式も、イメージさえあればどんな風でも繋いで行けるんやで」



 アルシェールさんに思いつけへんのは当たり前。こっちの人、英語なんて知らんしね。

まあ、その割に魔術式の名前とか英語だったりするんやけど……その辺りは気にせんようにしとこ。

どうせ、エルロード辺りが何かやったんやろ。



「とまあ、とにかく……つばきんの魔術式は、この刀の不死殺しイモータル・ベインを担う重要な役割や。

今更外すって訳には行かん……覚悟はええやろね、つばきん?」

『……ああ、覚悟など当の昔に決めている。ワタシは、桜の為にこの身を……いや、このちっぽけな魂を捧げると決めたのだ』



 たった一人の妹を純粋に想い続ける姉の姿……それに、少しだけ羨望を覚えてまう。

幸せ者やね、さくらん……大事にせなあかんよ。

これから傷付けようとしとるうちが言うべき事やあらへんけど、な。



「うし……なら、行くで」



 ベッドに寝転がるつばきんの霊体へと向けて手を伸ばす。

特別な器具は要らん。ただ、己が魔力で霊体を削り、魔術式を刻んでゆくだけ。

そんな単純作業であるが故に、その痛みは計り知れんものになる筈や。

……せやけど、もう謝りはせん。これ以上は、覚悟を決めた椿に対して失礼や。

ならばうちも敬意を払い―――仲間を傷つけなあかんこの痛みを、甘んじて受け入れながら戦おう。


 さあ―――これが、うちの戦いや。











《SIDE:OUT》





















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