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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
162/196

155:精霊の名

いずれ来る戦い―――そこに、全員の姿は存在できないのか。












《SIDE:IZUNA》











「……そないな事になってたん?」

「結構爆発音が響いていたと思うが……聞こえなかったのか?」

「鍛冶場じゃそんなんは聞こえんて」



 うちらが刀造りに集中してる間に、そんな厄介な連中が攻めて来とったとは……まあ、フーちゃんは鍛冶場の方におって良かったかもしれへんけど。

人が爆発するなんぞ、フーちゃんが直に見たらどんな反応するか分かったもんやない。

しっかし、厄介な事になってもうたなぁ。

一応全員が揃っとる所で話しとるし、内容は全員に行き渡っとるんやけど……聞いてて気分のええ話やないね。



「うちとしては、まーくんの思ったとおりやと思う。マトモな倫理観の人間にできる事やあらへん。

実験として人間を使った……せやけど、どうやって邪神の力を人間に憑けたんかはさっぱりや」

「だろうな……」



 身体は完全に再生している煉君が、小さく肩を竦めながら同意する。

話に聞いた感じ、かなりのダメージやったと思うんやけど……それだけの傷を受けてもジャケット自体はほぼ無傷だった辺り、流石はアルシェールと言った所なんやろうかね。

そう言えば―――



「ベルヴェルク……あの男は、アルシェールさんを倒した時点で『目標を達した』と言っとったね。

あの時の奴の狙いは、アルシェールを連れ去る事だったという事なんか?」

「ん……そうだった。ベルヴェルクも、そう考えていた」



 試しに言ってみただけではあったんやけど、どうやらあの時ミナっちが心を読んでくれとったらしい。

まあ、それ以外にあの男が出没する理由が考えられなかったっちゅーのもあるんやけど。

あの男の力なら、不意討ちでこの街を壊滅させる事も容易かった筈やし……それ以外の理由があるのは道理やね。



「うーむ」



 何か、引っかかるような感じがする。

アルシェールさん、ベルヴェルク、邪神の力……何やろう。何か、大切な事を見逃しとる気が―――



「おい」

「あいた」



 うちが小さく唸りながらなやんどったその時、頭がこつんとまーくんによって小突かれた。

叩かれた所を軽く抑えながら視線を向けてみりゃ、呆れを交えた表情で嘆息するまーくんの姿が目に入る。



「ただでさえ疲れているんだろうが。お前は十分働いているし、刀を打って疲れてるんだろう。

休むべき時にまで頭を使い過ぎるような真似をするな」

「むー……もうちっとで何か思いつきそうやっんのに」



 小さく、嘆息する。

まあ、今現在の情報でこれ以上の事を考察した所で、確証のある情報は得られへんやろうけど。

しかしまぁ、ホンマに厄介な状況やね。

どうも、敵さんは邪神の力や魔人を量産できる体勢に入ってもうたみたいやし、そんなんで埋め尽くされた軍なんぞ、普通の人間に相手できるはずもあらへん。



「やっぱ邪神のシステムを破壊するんは急務や。それさえ壊せば、地上に顕現した邪神の力も、ただの負の力に戻るはずやし」

「それはそうだけどよ……具体的にどうするつもりだ?」

「そこら辺はほら、煉君の能力や。『邪神というシステムが存在する事を拒絶する』とか出来んの?」

「無茶言うな。今の俺の能力だと、弾丸に性質を付加するのが精一杯だ。指定できるのは、弾丸に可能な事だけなんだよ」



 絶対に当たるとか絶対に殺すとか、その辺りは弾丸に可能って判断なんか……簡単には行かんもんやね。

せやけど、うちらの中でそれが可能となるとしたら、煉君以外に存在せんやろう。

回帰リグレッシオンで無理でも、超越ユーヴァーメンシュなら行けるかもしれへん。



「とりあえず、今出来る事は警戒する事と、この街を護り抜く事だけだろう?」

「そうね……ここが落とされたら、もっと酷い事になってしまうし」



 まーくんの言葉に、フーちゃんが溜め息交じりに同意する。

簡単に言うけど、かなり難しいやろうなぁ、コレ。

少なくとも、普通の人間だけやとまず不可能な内容や。

となると……やっぱ、方針を変えなあかんか。



「……以前、刀が完成したらうちらだけでディンバーツに潜入する言うたね」

「ん、ああ。それがどうかしたのか?」



 うちが唐突に発した言葉に、煉君が首を傾げる。

状況はどんどん悪化して、うちらはどんどん悪い方向へと押し流されて行っとる。

正直な所、今回思いついた作戦かて、作戦を変えざるを得ないカタチに追い込まれた結果や。



「作戦を変える。ディンバーツへと潜入するんは、煉君、まーくん、つばきん、フーちゃんの四人だけや」

「な……!?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私はどうして―――」

「ちっと落ち着き……正直、苦肉の策なんやから」



 力の回復を待って安静にしとるさくらんが、うちの言葉に対して大きく反応する。

まあ、この子の気持ちやって分からん訳やない。まーくんを助ける為に一緒に戦いたいと思っとるんやろう。

せやけど、事態が複雑化してきたおかげで、そうそう安易に戦力を一極化させる訳にもいかんようになってもうたんや。



「この国を落とされんようにしながらベルヴェルクを倒す……その為には、少なくともあの邪神の力を使う連中を何とか出来る人間がこの街に居らん事には始まらん。

最高位の《欠片》を持つ煉君、ベルヴェルクに攻撃を届かせる事が可能なまーくんとつばきん、そんで人間を相手にする事が苦手なフーちゃんは潜入組に入れなあかん……必然的に、こっちはさくらんになってまうんや」

「で、でも……」

「ゴメンな。うちも、心配なんや。せやけど、これは絶対に必要になってまう……超越ユーヴァーメンシュ使える二人を残すんは考え物やけど、さくらんの力ならあの男の障壁を抜けられるん?」

「……無理、です。世界を隔てられてしまったら、私の影を届かせる事は出来ない」



 悔しげな様子で俯くさくらんに、うちは小さく息を吐き出す。

近くで見とったから分かるんやけど……アレは、ホンマに規格外や。

通用する気配があったんは煉君とまーくんの二人だけ……恐らく、他の人間やと手も足も出ん事やろう。

せやから、うちが行った所で無駄な話や。



「ゴメンな、ミナっち。勝手にこっちに含めてもうて」

「ううん……わたしじゃ、ベルヴェルクは倒せないから」

「そか。ところで一つ質問なんやけど……あの男、ミナっちの超越ユーヴァーメンシュの中でもあの障壁を作り出しとったよね?

あの男、まさか超越ユーヴァーメンシュに飲み込まれた後でも能力を使えるん?」



 コレはちょっとした―――いや、場合によってはかなり深刻な要素となる疑問や。

あらかじめ隔てられとったっちゅーんならまだしも、後出しで創り上げた世界を押し返せるんやったら、反則通り越して最早どうしようもない。

そんなうちの疑問の声に対し、ミナっちは首を横に振った。



「あの時ベルヴェルクが使ったのは、最初に使った球状の結界じゃなくて、単なる壁……あれは、完全に世界を隔てられた訳では無い証。

超越ユーヴァーメンシュを押し返す事ができるのは、超越ユーヴァーメンシュだけ」

「……そか。そんなら、まだマシやね」



 攻撃能力のある超越ユーヴァーメンシュに取り込む事さえ出来れば可能性は……いや、あっちもその力を使える事を考えといた方がええかもしれへんなぁ。

最悪な予想やけど、あらかじめ対策しとくんは無駄やない。



「……まあとにかく、うちとミナっちだけやと、この街を防衛するんは難しい。さくらんにも残って貰いたいんや」

「っ……分かり、ました」



 納得し切れてはおらんようやったけど、とりあえずは頷いてくれた。

さくらん、ミナっちの事も大事にしとるからなぁ……うちとミナっちだけに任せるんは不安やったんやろう。

まあ、うちやミナっちは、うちらの中じゃ戦闘能力は低めやからね。


 更に言うと、数がモノを言う戦争という場面では、さくらんの超越ユーヴァーメンシュはかなり重宝するモンや。

敵の魂を奪い、抜け殻となった肉体を操る事で、数の上での有利を容易く作り出す事が可能となる。

数で不利、その上訳の分からん力を持った連中がわんさか来る……それ位の事はせんと、とてもやないけど追いつかん。



「とりあえずは刀を造るんが先決やけどね……忙しいなぁ、ホント」

「進歩の状況はどんな所なんだ?」

「ぼちぼちやね……力を慎重に使っとるおかげか、結構消耗が激しいんやけど」



 煉君の言葉に対し、うちはそう机に突っ伏しながら答える。

うちの《欠片》、《記憶ゲデヒトニス》は知覚系の能力やから、本来消耗はそう激しくはない。

せやから、うちが疲れとるんは消耗っちゅーのとはちょいと違う。

本来ありえない情報を受け取るうちの能力……回帰リグレッシオンに目覚めてその力が強化されたおかげか、一度に入ってくる情報がかなり多くなってもうたんや。

おかげで、《欠片》の制御にも気をつけなあかんようになってもうた。

まあ、これのおかげでかなり精密に分かるようにはなったんやけどね。



「流石に、向こうの世界で言うような工程は色々飛ばしとるから、そこまで時間がかかる訳やないけど……それでも、まだちょいとかかりそうや。

まーくん、悪いけどもうちょっと待ってぇな」

「構わんさ。どの道、リオグラスの軍がここに着かなければ行動を始められないんだ」



 軍が着くまで、後残りどれぐらいか……まあ、それまでに完成させなあかんっちゅー訳やないけど。

せやけど、あんまり悠長にやっててええって訳でもないやろな。

ミスらない程度には慎重に、それで出来る限り急いでやろうってトコか。


 今までうちは、自分が愉しむ為だけに刀を打って来た。

せやから、コレは初めてや。誰かを護る為に、誰かの無事を祈りながら刀を打つんは。

不安やし、どうしても恐い考えが浮かぶ……せやけどそれに負けんほど、強くなる事を願って打つ事ができた。

うちが全身全霊を以って打つ刀―――霞之宮景禎。

時間が差し迫っとって、やり直す暇すら無いと言うんに、これはうちの生涯で最高の作品となるような気がしとった。


 だから、頼むで景禎……必ず、誠人を護ったってな。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:SAKURA》











「あ、あの……誠人さん、ちょっといいですか?」

「む、どうした?」



 皆との話し合い、というかミーティングを終えて、それぞれの割り当てられた部屋に戻る直前。

私は、咄嗟に廊下を歩く誠人さんを呼び止めていた。

……って言うか。



「お姉ちゃん、何で誠人さんに憑いて行こうとしてたの?」

『む? ……ああ、そういえばそうだった。最近刀に憑きっ放しだったからな、すっかり忘れていた』

「四六時中取り憑かれていたのか、オレは」



 相変わらず姿は見えていないようだけど、声はしっかりと聞き取れているようだった。

最近のお姉ちゃんは、大体刀の中に入っているか、誠人さんの肩に頬杖をついているような格好をしている。

回帰リグレッシオンの事もあるんだろうけど、ちょっと一緒にいる時間帯が長すぎるような気がしてならない。

羨まし……じゃなくて、戻ってきてくれないと寂しい。



「それで、話はそれだけか?」

「あ、いえ。こっちは本題じゃなくてですね……私が言おうとしてたのは、こっちの方です」



 言って、私が取り出したのは小さな金属球。

ミナちゃんに作り出してもらったホーリーミスリル―――そして、その中に眠る私が力を分け与えた精霊さんだ。

私が今作り終わったのは、火、水、風、土の四属性。



「私が力を分け与えた精霊さん達です……この子達が、名前を欲しがっているので、主となる誠人さんに名前を付けて欲しいんです」

「オレが、名前を?」

「はい、お願いできませんか?」

「……オレは構わないが、その精霊達とやらはそれで構わないのか」

『―――構わぬ』



 と―――そこで、声が響いた。

そしてそれと同時、精霊さんたちが宿る四つの球体が、それぞれ赤、青、緑、茶色の光を放つ。

眩い光は一瞬で消え、それが収まった時には、私の周囲に四つの姿が浮かび上がっていた。

代表してなのか、火の精霊さんが声を上げる。



『貴殿は、我らが主となる御仁。母より、その勇猛さは窺っている』

「桜から?」

『ええ、何でも―――』

「い、言わなくていいから!」



 蒼い髪の女性―――ゆったりと波打つローブに、薄いヴェールを幾重にも纏った水の精霊さんの言葉を、咄嗟に遮る。

あんまり変な事は言わなかったと思うけど、やっぱり聞かれると恥ずかしいし。

私の剣幕に誠人さんはちょっと驚いたようだったけど、気を取り直したのか、その視線を精霊さん達の方へと向ける。



「……それで、名をつければいいのか?」

『ああ、母は貴殿に付けて貰えと仰ったからな』

「ふむ。ならば……」



 ……一応、私も誠人さんが付けそうな名前は見当が付いていた。

けれど、私はそこまで詳しい訳じゃないし、イメージと違ってしまったら嫌だったから。

精霊さんの力は使い手のイメージの力によって左右される。やっぱり、使い手である誠人さん自身が考えるべきだろう。


 誠人さんはしばし考え―――そして思いついたのか、先ずはその視線を火の精霊さんの方へと向けた。



「……お前の名は、カグツチ。オレの知る、古き炎の神の名だ」

『了解した。我が名はカグツチ……これより、貴殿の敵を焼き尽くす刃となろう』



 火の精霊さん……いや、カグツチは、己の胸に手を当てながら頷いて誠人さんへと忠誠の言葉を口にする。

誠人さんもそれに頷き返し、その隣へと視線を向けた。



「水の精霊だな? お前の名は、ミヅハだ」

『分かりましたわ、ご主人様。我が名はミヅハ……以後、よろしくお願いいたします』



 優雅な年上の女性という姿をしたミヅハ……精霊さんの年齢なんて、さっぱり分からないけれど。

とにかく、その次は隣にいる、緑色の髪をした少年姿の精霊さん。



「お前は……風の精霊か。なら、お前の名前はシナツだ」

『ふふっ、りょーかい! 僕の名前は、今からシナツだ。よろしく頼むよ、ご主人』



 茶色い縁取りのされた身軽そうな服装……燕尾のようになっている上着が印象的なシナツ君。

彼は悪戯好きそうな表情で微笑むと、気取ったポーズで一礼して見せた。

そして、今いる精霊さん達の最後……腕に巻きつかせたツタが印象的な、茶髪の少女姿の精霊さん。



「お前は……地の精霊か?」

『そんなに分かり辛いかしら? 見りゃ分かるでしょ』

「ふむ……女の姿だったとは。なら……そうだな、カヤヒメと言った所か」

『カヤヒメ……姫か。うん、中々いい名前じゃない。これからよろしく頼むわよ、マスター』



 ……何か、日本神話にちなんだ名前を付けられてるのに、突然マスターとか言い出すとちょっと違和感が。

まあ、別に神様とは何も関係ないんだけどね。



「さて……今はこれだけか?」

「あ、はい……次の子は、明後日になると思います」

『また、我らの兄弟が生まれる筈だ。その時は、また主殿に頼みたい』

「……了解した、考えておこう」



 お世話になっちゃうけれど、誠人さんに操ってもらうのだから、やっぱりそうでないと。

とにかく、私も頑張らないと……一緒に付いて行く事が出来ないのならば、この子達に誠人さんを護って貰おう。

そうすれば、少しでも一緒に戦う事が出来るかもしれないから。



『いづなの話では、ワタシも彼らと並ぶのだったかな』

「お姉ちゃん……ううん、むしろ、お姉ちゃんがリーダーかも」

『む?』

「お姉ちゃんの指示に従うように、ちゃんと言ってあるから……精霊装填がしたい時は、お姉ちゃんに頼んでください」

「成程……まあ、距離も近いしな。了解した」



 とりあえず、私に出来るのはこのくらい。

後は、誠人さん達の無事を祈るだけ……そんな事しか出来ないのは悔しいけれど、私たち皆で頑張らないといけないから。

だから……お願いね、皆。



『母よ……貴方の願い、しかと受け取った』



 私にしか聞こえない声で、カグツチがそう囁く。

その言葉に、私は小さく微笑んだのだった。











《SIDE:OUT》





















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