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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
160/196

153:帰還、製作開始

再び、争いの足音が響き始める。












《SIDE:FLIZ》











「……ただいま」

「今戻ったぞ」

「おー、お帰り二人ともー」



 部屋の中で桜が精霊を込めたと言うホーリーミスリルの玉を観察していたあたしは、その声に顔を上げた。

そこにあったのは、お遣い……と言うのとはちょっと違うかもしれないけど、とにかくここを離れていたミナと誠人の姿。

……って、事は―――



「フリズぅぅうう!」

「やっぱり来たぁっ!?」



 突然背後から飛び掛ってきた気配に、あたしは咄嗟に身体を沈みこませた。

何も無い所……いや、あたしの影から現れたノーラから、すぐさま距離を取る。

しかしそんなあたしの様子など気にも留めず、ノーラは手をわきわきとさせながらこちらへとにじり寄ってきた。



「うふふふ……久しぶりのフリズだわぁ」

「いや、ノーラ……アンタちょっとキャラ変わってない!?」

「いいえ、私は昔からフリズへの愛に溢れていたわ!」

「より変態になったとも言うんとちゃうかな?」



 いづなの言葉が的を射てるわね、ホント……って言うか、ホント何とかしないと、いきなり暴走を始めたりしたら―――



「―――何やってんだ変態」

「ふぐぉう!?」



 と、あたしがどうしたもんかと悩んでいたちょうどその時、横から繰り出された煉の跳び蹴りがノーラの脇腹に直撃した。

くぐもった悲鳴を上げながら、ノーラは弾き飛ばされて壁に激突する……煉瓦の壁に半分めり込んでるんだけど、大丈夫なのかしら、あれ。

いやまあ、吸血鬼なんだし、あれぐらいではまるで問題は無さそうだけど―――



「ふ、ふふふ……不意討ちとはやってくれますね、レンさん」

「こっちの台詞だこの暴走女。しばらく会わないうちに変態が全身に回ったみたいだな」



 めり込んでいた身体を引っこ抜き、潰れかけてた半身をあっさり再生させたノーラは、真っ黒な笑みを浮かべている。

引っこ抜いた場所の煉瓦がガラガラと崩れ落ち、外に向かって零れ落ちて行ってしまったおかげで、部屋に大穴が開いてしまった。

って言うか、痛覚の制御まで出来るようになったのね、あの子……どんどん別次元の生き物になってきてるような気が。

衣服まで再生させてるのは、一体どうやってるのかしら?



「あら、そちらこそ随分と様変わりしてますね……ようやく道具の力を使わなくても私と対等と言う訳ですか」

「人の事は言えねぇけど、貰いモンの力だろうが……まあいいけど。とにかく、俺のフリズにちょっかいかけるなと言っただろうが」

「私のフリズです、お間違え無いように」

「だから、アンタ達は……!」



 回帰リグレッシオン使って殴り倒してやろうかしら……こいつらは一瞬で再生するでしょうけど。

とりあえず、こいつらは黙らせないとまた面倒な事になってしまう。

大声で叫びながら外で喧嘩でもされた日には……ああもう!



「ガッハッハ、やっぱりお嬢の所はいつもいつも賑やかでいいじゃねぇか!」

「おー、ガラムのおっちゃん、来てくれたんやね」

「当たり前だ、お前さんの技術が盗めるって言うんなら、世界の果てまででも追いかけてやるさ!

それで、今回は一体どんな物を造るつもりなんだ?」



 あの人は……いづなが刀造りを教えてるニヴァーフの人か。

いづなはここで刀を打つって言ってたし、その為に呼んだって訳ね。

けど、今回造ろうとしてる奴って、確か―――



「えーとな、まず刀身の表面がオリハルコンで、峰の部分にはホーリーミスリル、芯の部分にヒヒイロカネを使って……」

「何……!? そんな事が可能なのか!?」

「うちならなぁ。まあ、これを真似せいっちゅーのは流石に無理やろうけど。で、柄には―――」



 刀談義で盛り上がってる刀鍛冶二人……何て言うか、話の上だけだと確実に伝説の剣って言うレベルよね、これ。

もしも椿単体で回帰リグレッシオンとか超越ユーヴァーメンシュとか使えるようになったら……ヤバそうだわ、こりゃ。

いづなが一体何処までの物を造れるのかは分からないけど、今回の気の入れようは、確実に全力を尽くすつもりなんだと思う。

ベルヴェルク……あの男に届くような剣を造り出さなくてはならないのだから。



「……って、あれ?」



 さっきまで五月蝿かったって言うのに、何かいきなり部屋の中が静かになったわね。

そう思いつつ、首を傾げながら振り返ると―――そこに、先ほどまでは確かにあった筈の煉とノーラの姿は見当たらなかった。

あれ……あの二人、さっきまで確かにそこにいた筈なのに。



「って、まさか―――」



 嫌な予感を覚えて、咄嗟に壁に開いた穴へと駆け寄る。

そこから見える外の景色……通りとなっているそこで、高速で駆け回りながら殴り合っている二人の姿をあっさりと発見する事が出来た。

って言うか、マジで何やってんのよあの二人!?



「片や神の獣の加護を受けた人間、片や吸血鬼ヴァンパイアでも特に高い力を持つヴァンパイア・ロードの力を受け継いだ吸血鬼……血統だけで言や、どっちも凄まじい所やね」

「いや、止めなさいよアレ! 流石に問題でしょ!?」

「大丈夫やって。一応、騒ぎが起こるであろう事は伝えとったし」

「身内の恥を晒すなッ! っていうかどんな風に説明したのよ!?」

「そりゃ、『一人の女を求めて争う一組の男女が―――』」

「いやあああああああああ!?」



 まんま説明してるし!?

どうすんのよ、変な噂が広がっちゃうじゃない!

煉一人だけでも時々変な扱い受けてるって言うのに、ノーラの事まで広まっちゃったら……ダメだ、泥沼しか見えないわ。

とりあえずいづなの頭を両手で掴んで握り潰そうと力を込めながら、どうした物かと思案する。



「何? 何か恨みでもあんのかコノヤロウ」

「よし、ちっと落ち着こうかフーちゃん。魔術式メモリーまで使われたらうちの頭が潰れてまう」

「いっそ潰れてしまえ」



 とにかく、あの二人を殴り倒してでも止めてこないとダメか……一応力は抑えてるみたいだし、煉も回帰リグレッシオンは使わないだろうから、今の内に何とか―――



「ん……」

「ミナ? どうかしたの?」



 ふと、疲れた様子で机に突っ伏していたミナが、顔を上げる。

その表情には、どこか怪訝そうな色が含まれていた。



「……強い感情が、近付いてくる。慌ててるような感じ」

「慌ててる……まーくん、帰ってきたばっかのトコ悪いんやけど、ちょっと見てきてくれへん?」

「ああ、了解した。どうせ、この程度では疲労など無いしな」



 いづなの言葉を受け、刀を持ち上げた誠人が壁に開いた穴から外へと出てゆく。

いや……普通に出入り口から出て行きなさいよ、アンタ達。

けど、何だろう。何か、異変が起きてるって事?



「いづな、あたしも行った方が……」

「いんや、フーちゃんまで動く必要はあらへんよ。大体の所は予想ついとるし……うちらは、出来るだけ顔を見られるべきやない。

それに、フーちゃんにはやって貰いたい事もあるしな」

「やって貰いたい事って……まさか、もう造り始めるつもり!?」

「せや。ただでさえ時間は惜しい所やからね。もう荷物は準備終えとるんやし、さっさと始めなあかんよ」



 刀造り、もうやり始めるのね……まあ、ガラムさんが来るのを待っていたんだから、やろうと思えばすぐにでも始められるんだろうけど。

でも長旅だったんだし、多少は休ませてあげた方が―――と思いつつ彼の方を見たのだけれど、どうやらガラムさんもすっかり乗り気だったようだ。



「ははは! いいな、早速って訳か! 俺もうずうずしてた所だ、さっさと案内してくれ」

「あいよー。てな訳で、うちらは鍛冶場の方に行ってくるで。ミナっちはさくらんを見といてな」

「ん……分かった。リコリスは?」

「出来れば、手伝ってあげた方がええと思うよ」

「ん」



 ミナが頷いたのに満足したのか、いづなは部屋から出てゆく。

一応、扉の方から……何て言うか、あっちの方が鍛冶場に近いから扉の方を使った、って言う感じよね。

意気揚々とそれに続くガラムさんの背中を見つめ―――小さく、嘆息する。



「えっと……ミナ、一応そこの壁を塞いどいてね」

「ん。フリズ、頑張って」

「あはは……うん、了解」



 ミナの言葉に苦笑しつつも頷き、そして一度壁の穴から外を見つめてから、あたしは扉の方へと向かうのだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











「せいッ!」

「ちっ!」



 放たれた蹴りを半身をずらす事で躱しつつ、拳でノーラの頭を狙う。

しかしノーラは蹴りの勢いのまま身体を回転させつつ沈み込ませ、下から抉るようにこちらの顎を狙ってきた。

咄嗟に左手でその一撃をガードするが、強烈な威力に空中へと弾き飛ばされる。



「ぐ……ッ」

「落ち、なさい!」



 そして同じ高さまで跳躍して来たノーラの蹴りが、再び俺へと襲い掛かる。

しばらく見ない間に、随分と足癖が悪くなってやがるな、この女……!

しかし、素直に喰らってやるつもりも無い……俺はそのまま、放たれた蹴り足を掴み取った。



「な……!?」

「お前が、落ちろ!」



 空中で力が入る訳でもないが、ただ振り回された威力と体重だけで身体を強く回転させ、使える腕力を総動員してノーラの身体を地面へと投げつける。

しかし相手も流石と言うべきか、投げ飛ばされつつもノーラは空中で身体を捻り、地面に手を着きながら鋭い爪を地面へと突き立て、その威力を殺してしまった。

戦闘要員でもないくせに、何なんだこの戦闘慣れした動きは。

小さく苦笑しつつも、俺は地面へと着地する―――そこへ向かって、ノーラはすぐさま拳を構えて疾走してきた。



「ははっ!」



 大した度胸だ。

こちらも笑みを浮かべつつ拳を構え、それを迎撃するようにしながら応戦する。

互いに硬く握った拳がぶつかり合い、巨大な衝撃が足を突き抜け、広がる石畳の地面にヒビを走らせた。

右の拳をぶつけ合った至近距離―――互いの顔をじっくりと見れるようなその距離で、俺達は獣のような笑みを浮かべ合う。



「これだけやっても諦めないとは……本当に、諦めの悪い人ですね」

「そりゃこっちの台詞だな。いい加減、諦めたらどうだよ?」

「お断り……です!」



 そう叫んだ瞬間、ノーラの手が蛇のように動き、俺の手首を掴み取る。

俺を投げ飛ばそうと言う訳か……それに素直に応じてやるつもりは無いと、踏ん張るように腕を引っ張り―――ノーラは、すぐさまその手を離した。



「な……!?」



 勢い余って、体が後ろへと仰け反る。

そんな俺の胸へと向かって、ノーラは凶悪な笑みを浮かべながら手刀を繰り出してきた。

貫こうって訳か、容赦ねぇえな本当に!

それに対し、俺はあえて更に身体を仰け反らせ、ブリッジをするように地面へと手を付く。

そしてそのまま足を跳ね上げ、放たれた足でノーラの顎を狙った。

咄嗟にノーラも状態を仰け反らせ、俺の放った蹴りは胸元にあるリボンの端を千切るだけに終わる―――が、これで仕切りなおしだ。

そのまま腕の力で跳躍するようにバク転しつつ、重心を落とした状態で構える。



「もう、公爵様に用意して頂いた服なんですから……あんまり傷つけないでくださいよ」

「とか言いつつ、普通に再生出来るんじゃねぇか」



 衣服再生ってどうやるんだかな……兄貴も普通にやってたけど。

まあ、俺の着てるジャケットは、蓮花の弾丸を喰らっても破れはしなかった訳だし……これ、ちゃんと前を閉めといた方がいいのか?

これの調整が出来るアルシェールさんは連れ去られちまった訳だし、あんまり傷つける訳にも行かないがな。

まあいい、とりあえず続きを―――



「……全く、その辺りにしておけ」

「お、誠人?」



 声をかけられ振り返れば、そこに呆れたような表情を浮かべた誠人の姿があった。

そんな表情のままこちらへと歩み寄りつつ、顎をしゃくって前方―――いや、ノーラの更に後ろの方を示す。

そこには、引き攣った表情を浮かべるリオグラスの兵士の姿があった。

あ……アレって、もしかして伝令兵か?



「え、ええと……フレイシュッツ卿、お伝えしてよろしいでしょうか?」

「あ、ああ、悪い……それで、何だ?」

「はい。北側の門からの連絡で、北の遠方にディンバーツ軍と思われる影を確認したとの事です」

「成程……意外と、早かったな」



 この間の戦いからそれほど時間は経っていない。

けれど、今度はあいつらも万全の準備を整えてくるだろう。

となれば、流石に油断する事はできない。



「分かった、すぐさま向かう。誠人も来るんだろ?」

「ああ。それと―――」

「私もご一緒いたします、レン様」

「リコリスか、心強いな」



 これはミナの手助けって所かな。

まあ、ミナには俺の術式銃メモリーキャリバーの魔力チャージっていう仕事もある訳だから、あんまり無理してもらう訳にもいかないし。

となると―――



「ノーラ、お前はどうする?」

「そうですね……正直、戦場でお手伝いできる事があるとは思えませんけど」



 何の冗談だ、と言うような表情で伝令兵がノーラの事を見ていたが、まあ気にしない事にしておく。

まあ一応は戦闘要員じゃない訳だし、そういう仕事をさせるつもりも無いが。



「一応力仕事もあるだろうから、そっちの方を手伝ってくれればいいと思うぞ?」

「ああ、成程。怪我人の搬送とか物資の運搬とかもありますからね。それでは、ご一緒します」



 頷いたノーラにこちらも頷き返し、俺達は歩き出す。



「……あのお二人、一体何なんですか?」

「まあ、ああいう連中なんだ。気にしないようにしておけ」



 背後から、そんな言葉が聞こえてきたけど、気にしないようにしつつ。











《SIDE:OUT》





















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