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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
158/196

151:精霊の剣

目指すのは、幾万の敵を相手に退く事の無い最強の一振り。












《SIDE:SAKURA》











 私達の滞在している建物は、この街の中でも結構高級な物。

王族の方々二人が一番高級な宿で、私達はその一段下と言う感じだったりする。

マリエル様達の宿を優先して選んで、私達はその一番近くにある高級宿、という感じになったみたい。

傭兵相手にしては破格の対応だと思うけれど、煉さんが貴族なのと、あとはマリエル様達からの推薦のような物があったからだと思う。


 王宮ほど目に毒というほど豪華では無いけど……それでも、女の子四人で泊まってもまだ余るほどの広さの部屋を、二人で使うのは落ち着かない。

キングサイズのベッドが二つと、ふかふかとした絨毯、そして高級そうな調度品。

正直、高級すぎて触るのが恐い。

まあとにかく、そういう風に豪華な部屋に泊まっていた訳だけど―――



「と、ゆー訳で……これをさくらんにやって貰いたいんや」

「これ……ですか?」



 私の目の前には、ビー玉ほどの大きさの金属球が九つ。

それ自体が光を放っているのだと錯覚するほどに、綺麗に磨き抜かれた銀色の金属。

……恐ろしいのは、この九つだけで、この部屋すべての調度品以上の価値がある事だと思う。



「ぇと……このホーリーミスリルを、どうしろと?」



 ミスリルの中でも、最も貴重とされるホーリーミスリル。

それをこんな風に全く同じ大きさで複数所持できるのは、流石ミナちゃんと言った所なのだろうけど。

と、それはともかく……これをどうしろと言うのだろう?

私が疑問符を浮かべつつ首を傾げると、いづなさんは口元に小さく笑みを浮かべながら声を上げる。



「さくらんって、確か霊を使役する時に、自分の力を分け与えとるんやったよね?」

「あ、はい」



 まあ、《死霊操術ガイスターベッシュヴェーラー》の時だけだけれど。

力を分け与えればそれだけ霊達は力を増すし、私に協力してくれるようになる。

強く力を与えれば、普通の人にすらその姿が見えるようになるみたいだったけど。

でも、それがどうかしたのかな?



「この玉はな、新しい景禎の柄につける装飾なんや」

「装飾……いづなさんが、ですか?」

「あー、うん。まあ、うちとしては珍しいんやけど」



 いづなさんは刀の機能美に対して魅力を感じ取っていたみたいだから、刀に装飾とかは殆どしていなかったんだけど……今回は、違うのかな。

いづなさんは少し照れたように頬を掻きながら視線を逸らし―――それから、苦笑交じりに声を上げた。



「これな、精霊の入れ物なんや」

「精霊さんの?」

「せや。さくらんも前線に出る事が多くなってもうたし、まーくんの補佐にも回り辛いやろ?

せやから、刀の鍔の装飾に予め精霊を封じておいて、そこから精霊を装填できるようにしたいんや」



 あ、そっか……《精霊変成ジン・メタモローフェン》のおかげで、私も前に出て戦えるようになったから、誠人さんへのサポートが遅れがちだったんだ。

私が直接出来ないのは残念だけど……でも、誠人さんがいざと言う時に力を使えないのは、やっぱり困るし。

そういう事なら、頑張ろうかな……ん、あれ?



「いづなさん、精霊さんって属性は八つだと思うんですけど……」

「あ、それ? 残り一つはつばきんに入って貰おうかと思っとったんやけど」

「成程……分かりました」



 お姉ちゃんは、今は刀の柄に憑いてるみたいだったけど……多分、ホーリーミスリルのほうが居心地はいいだろう。

精霊さん達には、お姉ちゃんの言う事を聞くように言っておけば何とかなるだろうし。



「それで、なんやけどね」

「はい?」

「その玉に精霊を憑かせる時……一つ一つ、さくらんの力を限界まで分け与えて欲しいんや」

「え……!?」



 私の力を、限界まで分け与えるって……ええと。



「それって……大丈夫なんですか?」

「いや、霊に大きさなんぞ関係無いっちゅーたんはさくらんやろ?」

「まあ、確かにそうですけど……軽めに考えても、凄まじい事になりますよ?」



 普通の精霊さんだけでも、数十人程度の人間を一撃で消し飛ばすほどの威力があるのだ。

その力を、私が限界まで強化するって……一体どんな物が出来上がってしまうのか、さっぱり予想も出来ない。

いや、でも……これからの敵の事を考えると、それぐらいしないとダメなのかも。



「まーくんの能力は、0%に限りなく近い確率を100%に持ってくる力やからね。

出来る限り手札を増やしといた方がええ筈や」

「それは、確かに……でも、刀の方が耐えられますか? 普通の精霊装填ならともかく、この間の……」

「せやね。まあアレは、ホーリーミスリルの強度が足らなかったんと、失敗作の一振りやったのも原因やと思うけど。

その辺りは、製作過程で手を加えたれば何とかなる……ちゅー訳で、お願いできん?」



 いづなさんは私に向かって手を合わせ、そう声を上げる。

正直な所、その刀に関する不安は消えなかったけれど……でも、誠人さんとお姉ちゃんが戦って行く為には、やっぱりもっと力が必要だ。

それだったら……私も、協力しなきゃ。



「分かりました……頑張ります」

「おおきにな、助かるで」

「でも、一度全力で力を使ってしまうと、完全に回復するのには二日ぐらいかかりますけど……」

「となると、全部やったら大体二十日ってトコか……まあ、軍がこの街に到着するんはそれぐらい後になりそうやし、ちょうどええかもしれへん」



 成程、お姉ちゃんにも私の力を分け与えるんだ……皆に見えるようになるのは、ちょっと嬉しいかも。

まあ、混乱が起きない様に刀の中に隠れていて貰う事になるかもしれないけど。

とりあえずの問題は、力を使ってしまった後は戦えなくなってしまう事だけど。



「私が戦えない間は、どうするんですか?」

「その間は煉君にお任せやね。正直、あの性能で燃費がええんは反則的な性能や。

命令の付け替えを行わんなら、殆ど力を消費せんみたいやし」



 やっぱり、街の防衛は煉さんがやる事になるんだ……まあ、あの人の力は私よりも格上。

その上燃費がいいから、むしろ私よりも向いていると考えていいのかもしれない。

あの肯定創出エルツォイグングも強力だけど、もう一つの方は反則的に強いし……あっちは私以上に燃費が悪いけど。


 まあでも、それなら一応安心できる。

煉さんの能力の場合、一人で街全体をカバーできる可能性もあるし……それなら、私はこっちを優先しよう。



「よし……こっちにおいで」



 近くにいた精霊さん……紅く揺らめく姿は、炎の属性を持っていると言う事だろう。

両手で包み込めるほどに小さい姿だけど、それでも十分な力を発揮する事が出来る、れっきとした精霊だ。

私はホーリーミスリルの玉を一つ拾い上げ、その上に精霊さんを立たせるようにしながら、静かに目を閉じて集中した。



「……《魂魄ゼーレ》」



 魂に刻まれた力を呼び覚ます。

超越ユーヴァーメンシュに至った私の《欠片》は、ほぼ限界まで成長し切っている。

今現在の私が操れる力の総量はかなりの物だ。

死霊操術ガイスターベッシュヴェーラー》を使えば、恐らく三桁単位のデュラハンを生み出す事が出来るだろう。

その、霊にとってエネルギーとなる私の力の全て……この子に、分け与える。



「ッ……!」



 急激に力が抜けてゆくような感覚に、私は思わず歯を食いしばっていた。

分かってはいたけれど、これはかなり強烈だ。

以前、ダゴンと戦った時に初めて使った回帰リグレッシオン……あの時も、限界ギリギリまで力を放出していたからかなりきつかったけれど、今のこれもそれと似たような感覚。

正直、かなり嫌な感じはする。でも、手を抜くような真似はしない!



「ぅ、く……よ、し!」



 流石に、以前フリズさんがやったように限界を超えた放出はせず、力が空になったちょうどその瞬間に力の放出をカットする。

深く息を吐き出し、ふらつく意識を整え、私は目を開いた。



「……え?」



 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。

私が元々見ていた場所は、掌の上に乗っていた小さなホーリーミスリルの玉。

小さな精霊さんがいたはずの場所……そこに見えていたのは、紅く輝く一本の足。

視線を上げてみれば、そこにいたのは―――



『母なる霊王よ、我に力を与えて下さった事、心から感謝する』

「え、え……」

「えーと……もしかせんでも、炎の精霊やよね?」

『うむ、我は炎の精霊……しかし、未だ我は名を持たぬ。母よ、出来れば我に名をつけては頂けぬだろうか』



 え、えーと……もしかしなくても、私の事だよね?

見た目は、二十代半ばほどの男性……結構しっかりとした体つきで、武道家のような動きやすい服装で固めている。

一応、見た目は普通の男性。けれど、放っている紅い輝きと、炎のように揺らめく髪が、人間ではない事を告げていた。

いづなさんにも見えてる辺り、ちゃんと力は分け与えられていたんだろうけど―――



『母よ、どうかなさったのか?』

「あ……え、えっと、ごめんなさい。ちょっと、驚いちゃって」



 まさか、限界まで力を与えた精霊がこんな姿になるとは思いもしなかった。

《欠片》に刻まれていた記憶にもこんなものは無かったし……本当に、びっくりした。

って言うか、母って……まあ確かに、この精霊さんに力を与えたのは、間違いなく私なんだけど。



「ふーむ……カタチを得たモノに名前を与えるっちゅーのはよくあるパターンやね。さくらん、どうするん?

一応、イメージに合った名前を与えたった方が、力も使い易くなるかもしれへんよ?」

「はぅ……私、そういうの苦手なんですけど……」



 一応、誠人さんに合わせて日本神話にちなんだ名前を付ければいいのかもしれないけど……私はそんなに詳しくないし、それに誠人さんが使ってない属性の名前はさっぱり分からない。

どうせなら、誠人さんに纏めてつけて貰った方が分かりやすいかもしれないかな。



「えっと……今は、貴方に名前を与える事はできません」

『む……母よ、我では力不足だと?』

「いいえ。もうしばらくしたら、貴方の主となる人がこの街に戻ってきます。とても凄い剣士で、私をいつも護ってくれる人。

その人が、貴方に名前を与えてくれます……だから、今はこの玉の中で眠っていて」

『ふむ、母がそこまで仰るような御仁か……では、その時が来るまで我は眠りに就くとしよう。

しかし、力が必要となる時はいつでも呼んでくだされ。それでは―――』



 そう言い放つと、彼は目を瞑り、そのまま光となってホーリーミスリルの球体へと吸い込まれていった。

彼が宿ったこの球体は、じんわりと熱を持っていて、触れていると少し暖かい。

それをテーブルの上に置き、私は深々と息を吐き出した。



「はぁ、びっくりした……」

「あはは……せやね、アレはうちも予想外やったわ」



 小さく笑みを零すいづなさんに、私も思わず苦笑する。

まさか、精霊さんが私達と同じように喋れるようになるなんて……人間に近い自意識も手に入れていたみたいだったし、かなり予想外だった。

でも、感じていた力は凄まじいもの……あれだけの力を誠人さんが操れるようになるなら、この苦労もやった甲斐があるというものかな。



「しっかし我ながら、目指す剣が凄まじい事になって来た気がするなぁ」

「そうですね……あれだけの力を持った精霊さんが八体、そして《未来選別ツークンフト》を使えるお姉ちゃんもいるし……刀自体も、凄いんですよね?」

「せやね。刃は鋭く、折れず曲がらず。オリハルコンの刃は魔術式メモリーすら斬れる……自分で言うんもなんやけど、伝説の剣とちゃうん、これ?」

「ですね……」



 この世界で伝承に出てくるような武器はあんまり知らないけれど、有名な所はジェクトさんの槍だろう。

そして、いづなさんが造ろうとしている刀は、きっとその槍に勝るとも劣らない一振りとなる筈だ。

人に狙われたりしないかな……まあ、宿っている精霊たちが認めないような人では刀を使いこなせるとは思えないけど。



「ま、頑張らなあかんね……まーくんの足を引っ張ってまうような刀は、もう造れん」

「……誠人さんは、むしろ刀を折ってしまった事に負い目を感じてたような気がしますけど……」

「せやね……けど、あれはしゃあないやろ。まーくんの腕やなくて、相手の問題や。せやから、今度は相手が誰であろうと負けんような刀を造る……それなら、まーくんは絶対に刀を折られるような真似はせんよ」



 そう言って、いづなさんは笑う。

信頼してるんだなぁ、と……そう思ってしまう。誠人さんは、いづなさんの事を相棒だって言ってたけど、いづなさんもただそれだけなのかな?

分からないけど……気軽に冗談を言い合えるような信頼関係には、少しだけ憧れてしまう。



「安心し、さくらん」

「え?」



 少しだけ俯かせていた顔を上げると、そこには笑みを浮かべているいづなさんの姿があった。

彼女はその明るい笑みのまま、私に向かって声を上げる。



「まーくんも煉君に影響されてきとるみたいやし、結構懐は深いと思うで?」

「え、え? ちょ、ちょっと、それってどういう……!?」

「さて、な」



 や、やっぱりいづなさんも誠人さんの事……?

いや、でもあんまりそういう風に捉えている素振りはなかったし……なんか、フリズさんに対する時と同じような表情だけど―――って、あ。



「い、いづなさん! からかわないで下さい!」

「にゃははははは。ゴメンゴメン」



 軽い冗談のように、いづなさんは手を振る。

けど……否定は、しなかった。やっぱり、どういう意味で言ってるのかは分かりづらい。

言ってる事は、二人まとめてとかそんな感じの事だったけど……どうなんだろう?



「さてさて、うちら五人で仕上げる刀……一体どんな風になるんやろな。

ミナっちが素材を、さくらんが精霊を、フーちゃんが補佐して、うちが刀を打ち、そしてつばきんが宿る。

全身全霊で仕上げてあげな、あかんよな?」

「……!」



 そういえば、フリズさんが言っていた。

いづなさんにとって、刀を打つのは神聖な行為だって。

技術を持っている人ならばともかく、何も理解できないような人間には触れさせる事もさせたくないらしいけれど……でも今回は、そんな行為に私を関わらせてくれている。

いづなさんにとっての、想いのカタチの筈なのに。



「……一緒に頑張ろうな、さくらん」

「ぁ……はい!」



 一緒に……それが、答えなのかな。

ミナちゃんのように心が読めるわけでは無いから、分からないけれど、でも何となく嬉しかった。


 ……うん、頑張ろう。

私達で、誠人さんの為に。











《SIDE:OUT》





















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