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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ディンバーツ編:幸せな結末を求めて
157/196

150:拒絶と加速

それは、戦の前の小さな一幕。












《SIDE:FLIZ》











 靴越しに、足が地面を擦る感覚が伝わってくる。

煉瓦の街並みの中、あたしたちが最近の住居にしている建物の前。

目の前にいるのは、周囲に七つの弾丸を旋回させている煉の姿が。

随分と余裕を持った表情をしてるのが、地味にムカつくけど。



「ふ……ッ!」



 鋭い呼気と共に、あたしは駆けた。

周りの弾丸が邪魔で回り込む事は難しいから、あいつの顔面に正面から拳を叩き込もうとする―――けれど、あたしの拳は割り込んできた弾丸によって受け止められてしまった。



「ちっ!」



 自動防御って一体何なのかしら、こいつの力は……完全に無意識でも防御できるんじゃないの?

ここの所、煉の能力の練習と言う事でちょくちょく相手してるんだけど……弾丸ごとに別の命令をこなさせる事が出来るようになってきてから、ますます手がつけられなくなってしまった。

いやホント、《拒絶アブレーヌング》って一体どんな能力なのよ?



「フリズ、手加減する必要は無いって。実験なんだから、回帰リグレッシオンを使えよ」

「アンタね……普通言える事じゃないわよ、それ」



 いくらフェンリルの加護によって死ななくなったとは言っても、普通なら死ぬようなダメージを喰らいたいとは思わないでしょ。

まあ、こいつには通用するかどうか分からないけどさ。

ちなみに、あたしの普段の能力である分子振動干渉をかけてみるという実験もあった訳だけど……実は、これも効かなかった。

直接干渉する類の能力は、相手の意思を拒絶してしまうから通用しないらしい。

外部からの攻撃は弾丸に弾き返されるし……最上位クラスの格を持つって言うのも、バカにできたモンじゃないわ。

それに関しちゃ、あのベルヴェルクとか言う奴の事でも十分分かってるけど。



「はぁ……」



 深々と溜め息を吐き出す。

まあ、そうね……あの男の事を考えれば、煉の能力の事だって頷けるか。

あいつには、あたしの能力は全くと言っていいほど通用しなかった……なら、煉の場合はどうなんだろう。



「……自分で言ったんだから、後悔するんじゃないわよ。回帰リグレッシオン―――」



 あたしとしても、全く能力が通用しないのは納得しづらい所だし……何処まで食いついていけるか、試してやる。



「―――《加速ベシュレウニグング肯定創出エルツォイグング神獣舞踏フェンリスヴァルツァ》!」



 圧倒的なまでの加速が、あたしの力。

最低ラインとして設定している力だけでも、常人には知覚出来ない速さとなる。

そのままあたしは駆けようとして―――思わず、目を疑った。



「は……?」



 煉の周りを旋回する弾丸……そいつらは、あたしが普段の感覚で見た時と同じ速さで旋回していたのだ。

何……あの弾丸も、あたしの速さに合わせて加速したって事!?

あたしは一旦能力を抑え、煉に向かって声を上げる。



「ちょ、ちょっと! 何でアンタの弾丸まで加速してるのよ!?」

「いや、今のは俺にとっても予想外だったんだが……まあそりゃ、相手の攻撃を防ぐにも相手に命中するにも、相手よりも速くないと意味が無いしな。

相手の攻撃を防ぐ事とか、相手に確実に命中するようにしてる時は、相手よりも必ず速く動くようになるんじゃないのか?」

「……アンタの感覚なら一瞬だろうけど、ちょっと待って」



 半ば引き攣った声でそう呟き、あたしは再び能力を発動させる。

いつもの速さから、どんどんと力の強度を上げて行き―――普段ならば衝撃波を抑えられなくなるから使わないような速さを超えて加速してゆく。

具体的な速度を測った事があるわけじゃないから、どの程度加速してるのか良く分からないけど……今動いて転んだら、世界が消し飛んだりしないかしら。

しかし……そんな速度の中で尚、煉の弾丸は先ほどの速さを失っていなかった。

確定と言うか、こいつ……あたしの加速に合わせて速くなってるわ。

嘆息しつつ、あたしは能力を抑える。



「……アンタの力が反則だって言うのは良く分かったわ」

「まあ、過程を無視して命中する弾丸もある訳だし、今更って言えば今更だけどな」



 そういえば、煉にはもう一つ回帰リグレッシオンがあるんだったわね……燃費は悪いらしいけど。

あたしの力があいつに勝ってる点は燃費の一点だけか……こいつの場合、肯定創出エルツォイグングは、命令を変えない限りは力を消費しないらしいけど。



「あーもう本当に強いわね……先に超越ユーヴァーメンシュに至ってぎゃふんと言わせてやる」

「ハッハッハ、頑張れよ」

「他人事じゃないでしょうが」



 まあ、軽い冗談を言い合える程度の事ではあるんだけどね。

でも、最終的には皆があの力を使えるようにならないといけないんだし……頑張らないと。

具体的に何を頑張ったらいいのかはさっぱり分からないけどね。

回帰リグレッシオンだけでもかなり紆余曲折あったし、そうそう簡単に手が届くとは思ってないけどさ。



「ったく……で、まだやるの? 正直、今のアンタには指一本触れられる気がしないんだけど」



 あたしに勝つ可能性があるとしたら、こいつがこの回帰リグレッシオンを使う前に気絶させてしまう事だけだ。

あたしの力にはこの防御を抜く手段は無いし、不死者イモータル・ブラッドとなった煉を倒す術も無い。

まあ別に、こいつと本気で戦う事があるって訳じゃないけどさ。


 あたしの視線を受けて、煉は小さく肩を竦める。

そして首を横に振ると、周囲に旋回させていた銀の弾丸を消滅させた。



「とりあえず、三つと四つに分けて二つの命令をこなさせる事は出来るようになったからな……とりあえずは、これで十分だ」

「防衛と攻撃に分けて、って事?」

「ああ。能力を考えれば、防ぐのは別に一発でも構わないんだがな……まあ、念の為ってトコだ」



 攻防一体の力か……便利そうね、そういうの。

まあ、極限加速の能力を持つあたしが言うのもなんだけどさ。

しかし、そろそろ能力の応用も必要になってくる頃かしらね……あたしが自分を加速させてるみたいに、相手を減速させるとか出来ないかしら?

どうせ、煉の弾丸には能力は効かないんでしょうけど。



「まあとりあえず、やる事無いんだったら戻る?」

「そうだな……デートでも行くか?」

「んな……何アホな事言ってんのよ!?」

「いや、落ち着けって……単に、ちょっと出かけないかって言ってるだけだろ」

「む……」



 そ、そうね……今みたいに大げさな反応するからからかわれるんだったわね。

んー……出かける、か。まあ、ここの所戦ってばっかりだったし、観光する暇もなかったものね。

折角遠くまできてるんだし、ちょっとは出かけてみてもいいかも。



「……ま、いいわ。あたしも、ちょっと気になってた所だったし」

「お、珍しくノリがいいな。それじゃ……おーい、そこの!」



 機嫌良さそうに煉は頷き、近くにいた兵士に声を掛ける。

龍人族ドラゴニアンの屈強な兵士は、煉の言葉を受けて即座に駆け寄ってきた。



「は、何でありましょうか魔弾卿!」

「……とりあえず、その呼び方は何だ?」

「あ……す、済みません! 兵士達の間ではそう呼ばれておりましたので、貴方もご存知なものかと」

「何でそんな妙なあだ名が増えてるんだ、俺……?」

「この間の戦いの所為じゃないの? 誠人と二人で門を護ってたんでしょ?」

「正直、目立ってたのは誠人の方だと思ってたんだが」



 まあ、それは確かにそうなんだけどね。

炎を纏う刀を振り翳して、敵を門へと近づけさせなかった誠人……正直、そっちの方が派手でしょうけど。

そんな煉の呟きに、背筋を伸ばした兵士ははきはきと声を上げる。



「無論、あの剣士殿も兵士の間では話題になっておりますよ。魔弾と魔剣の二人、と」

「ああ、誠人の道連れか……ならいいか」

「いや、そういう問題じゃないでしょうよ」



 半分やけっぱちになってるような感じだったけど、でも誠人までまた仰々しいあだ名をつけられちゃって。

あっちは兵士が沢山いたし、煉は弓兵に混じって敵を狙撃してた訳だから、見える人には見えてたわけね。

銃声も大きいし、目立ってないって事は無かったでしょうから。

桜の方は……まあ、何やってるのか良く分からなかったんでしょうけど。



「まあ、ツッコミ入れんのも面倒だしそのままでいいか……とりあえず、ちょっと出かけてくるから、何かあったらいづなの方に連絡してくれ」

「了解いたしました。それでは、ごゆっくりどうぞ」

「ごゆっくりって何!?」

「だから、そーゆー所で変にツッコむなっての……それじゃ、頼んだぜ」



 ぅ……あたしって何でこう、分かりやすく反応しちゃうのかしら。

深々と溜め息を吐きながらも、あたしは煉の背中を追いかけて行った。





















 アルメイヤの街は、赤茶けた煉瓦で出来た建物が多く立ち並ぶ街だ。

煉瓦って粘土を焼いたんだったかしら……うろ覚えだったけど、そんな感じだったわよね。

街角の一角に建ってるぐらいだったらそう珍しい物でもないんだけど、街全体が煉瓦の家って言うのは中々壮観よね。

高台から見たらかなりいい景色になりそうだけど……まあ、高さ的には街の外壁が限界かな。



「ほら、フリズ」

「お、ありがと」



 煉が差し出してきたポップテーク……向こうの世界で言うとポップコーンみたいなお菓子のバスケットに手を伸ばす。

結構でっかいので買って来たみたいだけど、まあ二人なら何とかなるわね。



「で、どうだよ、この街の感想は?」

「そうねー……」



 街の中を流れる水路にかかった橋の上、その手すりに体重を預けながら、あたしはじっと水面を見つめていた。

煉は手すりに背中を預けているけど、別に視線を合わせられない訳じゃない。



「フェルゲイトやニアクロウみたいに大きくないけど……ここの方が、落ち着いてる感じがあるわよね。

まあ、流石に戦争中だからちょっとピリピリしてるけど」

「それに関しちゃ仕方ないだろ」

「そうね……さっさと終わらせて、安心させてあげたい」



 呟き、またバスケットの方へと手を伸ばそうとした時―――ふと、目を見開いた煉と視線が合った。

何故か驚いたような表情を浮かべている煉に、あたしは首を傾げる。

あたし、変な事でも言ったかしら?



「何よ、変な顔して」

「いや……お前らしいと思っただけだよ」

「何よそれ?」



 くつくつと笑う煉に、あたしは眉をひそめ……でも、それ以上追求するような真似はしなかった。

何となく、分かっているんだ。そして、あたしらしさと言うものを理解してくれていた事が、少しだけ嬉しかったんだと思う。

こいつからすれば、あたしらしい部分なんて、ただ甘いだけだって言うような事なんでしょうに。

相容れないはずのこいつが、そういう部分を認めてくれる。うん……それが、何となく嬉しかった。



「で、アンタとしてはどんな感じなのよ?」

「俺か?」

「そ、あたしだけ言うんじゃ不公平でしょ?」

「それも良く分からんが……まあ、そうだな」



 煉は背中を手すりに預けたまま、視線を上へ―――虚空を見上げる。

まるで、その先にあるものを睨むように。



「……惜しい、かな」

「惜しい?」

「もう少しで思い出せそうだったのが……届かなかった、そんな感じだ」

「よく、分かんない」

「いいじゃねぇか、よく分からん同士で」



 何か、誤魔化すように煉は笑う。

でも……その内容が、蓮花に関する事だっていうのはすぐに分かった。

その空を睨むような瞳が、あの時天空にあった満月を見ているのも。



「羨ましい、かなぁ」

「は?」

「え? ……あ、い、いや! 何でもない!」



 自分でも無意識に呟いていた事に、あたしは目を白黒させる。

いやいや、何言おうとしてたのよ、あたし。羨ましがるような事なんて何も無かったでしょうに。

何も―――



「……ねえ、煉」

「何だよ?」

「何でアンタは、あたしにそんなに執着してるの?」



 視線を前に向け、あたしは煉にそう問いかけていた。

緩やかな流れを見せる水面には、あたしの少し暗い表情が映っている。


 煉が執着している二人……ミナと蓮花は、少しだけ似ている所がある。

あの二人は、煉の事を深く理解していたんだ。

ミナは煉の性質を理解した上でそれを受け入れて、蓮花は同じ性質を持つが故に争っていた。

共に、煉の思想を理解できる変わった人間……あたしとは、似ても似つかないはずなのに。

なのに、どうして?



「安心できるから、だな」

「え……?」



 煉の言葉に、あたしは思わず顔を上げていた。

煉の方へ視線を向ければ、そこに、小さく笑みを浮かべた顔がある。



「俺は、自分一人だと正しい道を選べない。すぐに暴走して、間違った道に進みそうになる。

けど、お前は俺を殴り倒してでも正しい道に押し込んでくれるだろ?」

「え……そ、そりゃそうだけど……」

「俺は人を……それこそ、敵でも味方でも傷つけやすい人間だ。だからこそ、フリズが傍にいてくれると安心できる。まあ、そんな感じだな」



 自覚があった事も驚きだけど……あたしが、必要って。

ああもう……何でそういう事を臆面無く言えるのかしらね、コイツは―――


 ―――思考に、―――だから、ずっと傍に―――ノイズが走る―――



「……え?」

「ん? どうかしたのか?」

「あ、いや……何でもない」



 何か、引っかかったような気がしたけど……何だろう、今の?

分からない……スッキリしないわ。



「はぁ……ま、いいわ。そろそろ行きましょ」



 煉の手からお菓子のバスケットをひったくり、残っていたのを口の中に流し込む。

空になったバスケットを能力で焼き尽くしつつ、あたしは歩き出した。

分からないことは気にしない……とは行かないけど、さっぱり分からないしね。

とりあえず、あんまり空けとくといづなに何言われるか分からないし、そろそろ戻りましょうかね。



「フリズ!」

「ん? ……って、わっ!?」



 煉が投げつけてきた物を反射的に受け取り、あたしはその固い感触に首を傾げた。

掌を開けてみれば……そこにあったのは、紅く透き通った石の嵌った指輪。

訳が分からず視線を上げれば、何やら得意げな笑みを浮かべる煉の姿がそこにあった。



「さっき、買ってくる途中で見つけた奴だ。サイズは適当だから、ドッグタグの鎖にでも通しとけよ」

「アンタ、そういう大雑把な所をさらっと言わないでよ……って言うか、いきなり何で?」

「何となくだよ、理由は無い。強いて言うなら、女の前ならカッコつけたくなるのが男ってモンだ」

「何よそれ」



 煉の言葉に、あたしは思わず笑みを零す。

カッコつけたく、ね……あたしの前でも、そう思う訳か。

うん。それなら、ちゃんと受け取っておきますかね。



「……ありがと、大事にするわ」

「安物だし、あんまり気にするなよ」

「カッコつけたかったんでしょ? どうせ、中途半端に高い物でも買って来たんでしょうに」



 見栄っ張りね……ま、そういうのは嫌いじゃないけど。

あたしの言葉に苦笑する煉に、こちらも小さく笑みを浮かべる。

とりあえず、言われた通りにドッグタグの鎖には通すけど……いづなに見られたら何言われるか分からないし、プレートの裏に隠れるようにしときましょうか。



「……ふふっ」



 ちょっとだけ、気分がいい。

さて、この気分を消してしまいたくないし……いづなに何か言われない内に、帰るとしましょうか。











《SIDE:OUT》





















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