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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
153/196

147:災いを引き起こす者

二千年前の真実の欠片、そして彼らにとっての最後の敵。












《SIDE:REN》











「いきなり起こされた時は何かと思ったが……成程、そんな事になっていたのか」

「あのリンディオ将軍が、か……」



 先ほどの戦いの後、俺達はまだ起きていた副官の人達に頼み、マリエル様とゼノン王子を起こして貰った。

明日でも良かったのかもしれないが、生憎とこれは緊急性のあるものだし、一刻も早く耳に通しておきたかったのだ。


 この二人は、流石にリンディオさんとの付き合いも長いからか、この話を聞いてショックを隠せないようだった。

実質、あの人が敵に回ったような物だからな。しかも、アルシェールさんまで連れ去られてしまった。

というか……あいつの目的って、一体なんだったんだ?



「状況がさっぱり分からねぇ……ミナ、説明して貰えないか?」

「……ん、分かった」



 今、最も現状を把握しているのは、間違いなくミナだろう。

俺は途中から入って来た為にあまり話を聞いてはいないのだが、あの男はミナの事を知っている様子だったし、それはミナの方も同様だった。

貫かない事を拒絶した俺の弾丸を受け止め、長々とした詠唱によって完成させた誠人の剣を砕いた……あいつは一体何者なんだ?

ミナは俺の言葉に一瞬だけ逡巡するような様子を見せたが、すぐに頷いてくれた。



「……あの男は、ベルヴェルク……二千年前の、研究者」

「二千年前……やはり、その時代が絡んでくる訳か」



 誠人が、小さくそう呟く。

俺としても同感だ。何だかんだで、結局はそこに繋がってしまうのだろう。

神が死んだ、そして俺達の力である《神の欠片》が生まれた時代。

ミナは、そんな誠人の言葉に小さく頷きながらも続ける。



「神の存在を突き止めた人間で、世界の仕組みに気付いたのもあの男……他の研究者達を騙して、神の力を手に入れようとした。

そしてその為に、自分の娘達を犠牲にした、狂気の男……」

「……ちっと待ち。確か、この世界のバランスが崩れた原因っちゅーのは、アルシェールさんが邪神になってもうたからやった筈や。となると、まさかあの男―――」

「そう……あの男は、アルシェとエルの父親。そして―――」



 いつも通りの無表情で、ミナは言葉を続けている。

けれど、俺には……普段とは違い、感情を抑えるために表情を消しているように映っていた。

そんな表情で、己の胸へと手を当てながら、ミナは続ける。



「わたしの前の、《読心ゲミュート》の《欠片》の持ち主……ミナクリール・ミューレの夫」

「……!」



 あんな奴が、ミナの……!?

……いや、だが納得は行った。奴は、それでミナに執着していたのか。

けど、気に入らないな。



「あの男は、アルシェとエルの性質を利用して、天秤のバランスを崩してしまった……アルシェの身体も心も魂も、全てを犯し尽くして負の性質へと近付けさせ、そしてその反動でエルを神の座へと上り詰めさせた。

そして、あの男は……《創世ゲネズィス》の力を手に入れた」

「自分の欲求の為に、肉親どころか世界まで犠牲にしようって言う訳? ふざけんじゃないわよ!」

「落ち着き、フーちゃん。今言うてもしゃあないて」



 憤るフリズを、いづなが諌める。

とは言うものの、俺や他の面子だって、怒りを隠しきれてはいなかった。

ミナが言っていることは即ち、俺達がこうして戦わなくてはならなくなったのは、そいつが原因という事だからだ。

あの時、もっと力を込めて撃っておくべきだったな……クソ!



「ミナクリールは、まだ力を操れていなかったベルヴェルクと戦いながら、拘束されたままだったアルシェを解放して……そこで息絶えた。

全てを失ったアルシェは、怒りのままに暴走して……その当時の文明を、破壊してしまった。

『邪神』というシステムは、その時にベルヴェルクが生み出した物……本当に、全ての原因」

「……全く、本当に厄介な相手やね。マリエル様、詳しい事は後で説明しますんで」

「ああ……私達の知らない話まで混じっているようだからな。そうしてくれ」



 そう言えば、この国の人にはかつての神の事は教えて無いんだっけか。

ここまで来ると、流石に話さない訳には行かないんだろうけどな。

まあ、この人達にはショックな話になるだろうし、後に回した方がいいのは確かか。



「で……ミナっち。何で、今までそれを隠してたん?」

「それは……」

「い、いづなさん!」

「落ち着き、さくらん……心を読めば分かっとると思うけど、別に怒ってる訳や無いんや。

ミナっちはうちらに不利な事はせんっちゅーのは分かっとる。

せやけど、ただ純粋に疑問なだけなんや……知ってたんなら、教えてくれてもよかったんやないの?」



 いづなの口調に、詰問するような様子は無い。

確かに、ただ純粋に疑問に思っているだけのようだ。

それだけならば、俺も確かに気になる所だし。



「……二千年前の事は、エルに口止めされていた。予め知っていると、逆に相手に警戒されてしまうから、って」

「成程……了解や、そういう事ならしゃあない。まあ、うちぐらいには伝えといて欲しかった所やけど」

「顔に出しそうな奴が他にいるからなぁ」

「……何であたしを見るのよ、煉」



 一番反応しそうな奴から視線を逸らし、俺は小さく肩をすくめる。

まあそれはともかく、今はあの男の話の方が重要だ。



「それで、神になるとか言うのは、具体的にどうするつもりなんだ?」

「分からない……ベルヴェルクがどうするつもりなのかなんて、想像も出来ないから……でも、あの男はディンバーツを支配していると言っていた」

「つまり、今リオグラスを攻めとるんは、あの男の意思って事やね」



 私利私欲で国を動かして戦争をするなんて、普通は出来る事じゃないと思うが……経歴を聞いてると、やりかねないと思えてくるな。

しかし、目的に関しては相変わらず分からない。

あの力ならば、一人でも十分に国と戦える筈だしな……いや、案外燃費悪いのか?



「……一つだけ言えるのは、ベルヴェルクはわたし達にとっての最大にして最後の敵……あの男を倒さなくては、邪神と言うシステムを破壊しても意味は無い」

「成程、目標が分かり易いんは助かるんやけど……アレが相手かぁ」



 げんなりと、いづなが呟く。

まあ、あんな無茶苦茶な力を使えるような奴が相手なんて、考えたくは無いだろうな。

だが、話を聞く限りならば、ディンバーツに邪神の力をもたらしたのはあの男の筈だ。

つまり、蓮花を支配していたのはあのベルヴェルクと言う男……だとしたら、決して許す訳にはいかない。

……ん? と言うか―――



「あの男の意識って、一体いつからリンディオさんを支配してたんだ?」

「え? あ……せやね。ディンバーツが邪神の力を使い出したんは、リンディオさんが姿を消すよりも前や」

「となると、水淵が襲撃してきたのは、リンディオの姿をくらませる為か」



 確かに、襲撃されて行方不明なら、あの男も動きやすくなるだろうからな……その間に、ディンバーツ国内に入り込んでいたのか。

しかし、本当に一体いつからなんだ……?



「……今後の活動方針を決めなあかん。しかも、今度はちっと別行動をする必要がありそうや」

「え?」

「別行動って……今まで一緒に活動してきたのにか?」



 フリズと俺が浮かべた疑問符に、いづなは小さく頷きながらも続ける。



「まず、ミナっちとまーくん。二人は、シルクを呼んで王都まで飛んで貰うで」

「オレもか?」

「太刀はあらへんし、うちの刀を貸しとく……んで、今は王都で軍を集結させとる最中。

今なら多くの人が集まっとるし、あの男が魔人を忍ばせとったなら、ここが暴くチャンスや。

ミナっちの超越ユーヴァーメンシュなら、広範囲かつ安全に調べられる筈やね?」

「ん……分かった」



 成程……王様とかを暗殺される訳にも行かないからな。

一応、予め《以心伝心テレパティエ》とかで危険を知らせてはおくんだろうけど。



「んで、帰ってくる時にはノーちんとガラムのおっちゃん、ついでにジェイさんの槍とアルシェールさんの持ち物を何か持ってきといて欲しいんや。多分やけど、ヴァントスさんに言えば何か貰える筈やし」

「……いづな、回帰リグレッシオンを?」

「ま、そんなトコや」



 苦笑しつつも、いづなは頷く。

回帰リグレッシオンって……いつの間に使えるようになってたんだ、いづなは?

ともあれ、これで全員が回帰リグレッシオンの段階までは至った訳か。

二人は超越ユーヴァーメンシュまで使える訳だけど……もっと急ぐべきなのかどうか。



「んで、こっちの居残り組……まあ、やる事はここの防衛や。せやけど、さくらんには別の仕事をして貰わなあかん」

「え……?」

「うちはここで、最高の刀を仕上げてまうつもりや。つばきんが宿る事ができ、さくらんの力無しでも精霊付加を行えて、尚且つあの力を使っても決して壊れないような最強の景禎を。

その為に、さくらんには別の仕事をしてもらわなあかん。つまり―――」

「防衛に関しちゃ、主に働くのは俺って訳か」



 刀を貸したいづなは戦えないし、フリズは対人戦闘には向かない。

必然的に、戦うのは俺の仕事となる訳だ……まあ、回帰リグレッシオンを使えるし、リルもいるんだからなんとかなるとは思うけど。



「目標としちゃ、ここに援軍が到着するまでや……それが済み次第、うちらは帝国に侵入する」

「何……待て、まさかお前達だけで行くつもりか!?」

「……相手の目的が分からん以上、事態は刻一刻と悪化しとると見るべきやと思います」



 確かに、そうだな。

この世界の最期とか言ってやがったし……奴の言う『神』とやらになる為の条件が何なのかは分からないが、奴がやろうとしている事はまず間違いなくロクでもない事だ。

出来る限り早くすべきだろう。超越ユーヴァーメンシュを使えるようになっときたい所ではあるが。



「幸い、うちらの顔は広く知れ渡っとるっちゅー程やない。スニーキングミッションが出来ない訳や無さそうやしね」

「まあ、近くまで行かなきゃ力を探知される事も無いとは思うが……とりあえずは、誠人の刀の事が先決だろ?」

「せやね。素材に関しちゃ、まあいつも通りやけど」



 ミナに素材を創りだして貰って、そこから刀を打ち始める。

刀を打つにはフリズの手助けがいる訳だから、当然打ってる間はいづなとフリズは動けない。

そして、桜にもやらなきゃならない仕事があるんだったよな……成程、本当に俺が防衛しないといけない訳か。



「まあ今後の事も考えて、煉君は顔を見せんように戦ってな?」

「……無茶な注文だよな、それ。いや、出来なくは無いけど」



 《肯定創出エルツォイグング魔王降臨ザミュエル・アブシュタイクト》なら、隠れながらでも敵の攻撃を防いだり、攻撃したりする事は可能だろう。

力の使い方を練習するにはちょうどいいか……弾丸一つ一つに別の命令を発せられれば、相当有利に戦えるようになるだろうし。



「まあ、どうなるかは分からん所ですけど……とりあえず、状況に合わせて柔軟に動くつもりなんで」

「やれやれ……まあ、兵を集結させれば、我らだけでも防げない訳ではないからな。

それに、お前達の行動に関して命令出来るのは父上とフォールハウト公だけだ……許可を取れるのならば、文句は無い」



 半ば苦笑混じりに、マリエル様はそう言い放つ。

流石に、今回は刻々と状況が変化していくのだから、これからの指針を完全に決める事は出来ない。

けれど、大きな目標はできたと言ってもいいだろう。



「……なら、決定だな」

「そうね……やってやろうじゃない」



 相手の事が相当気に入らないのだろう。

いきり立った様子で拳を鳴らすフリズに、俺は小さく笑みを浮かべていた。

今まで、俺達は曖昧な目標のままに進んでいたようなものだ。

俺の掲げた未来も目標ではあるが、少々具体的なイメージに欠けるものではあったし、そう分かり易く指針を決められるものではなかった筈だ。

だが、今回は違う。



「うちらの目標は、ディンバーツ帝国の支配者たる、古代文明の研究者ベルヴェルクの打倒。

そして、その男の創り上げた『邪神』というシステムそのものの破壊や。

これらを完遂して、うちらはようやく勝利を掴む事が出来る……言っとくけど、相等分の悪い勝負やで?」



 纏めながらも、いづなは俺達に警告するかのようにそう口にする。

けれど……俺達の答えなど、とうの昔に決定していた。



「何を今更言ってんだよ、いづな」

「奴を倒さねば、オレ達に未来は無い……ならば、最初から決まっている」



 俺と誠人の言葉が重なる。

奴は、俺達の目指すハッピーエンドを妨害する敵だ。

なら、最初から容赦するような理由なんてどこにも無い。

神を目指すなんぞ勝手にしろと言いたい所だが、その所為で世界を壊されたら意味が無いのだ。

だから……必ず、倒してやる。

例えどれほど力の差があろうとも、引くつもりなど一切無い。


 そんな俺達の言葉を受け取り、いづなは口元を笑みの形に歪めていた。



「決定やね……ほんなら、活動開始や」



 そして―――俺達の最後の戦いが、幕を上げたのだった。











《SIDE:OUT》





















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