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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
149/196

143:拒絶

それは、因果すらも捻じ曲げる神の力。












《SIDE:REN》











 暗闇の中に意識が漂う。

ふと気が付いた時、俺はこんな状態で意識のみが浮遊していた。

最期の記憶は、蓮花の弾丸によって胸を貫かれた事―――油断さえしなければ、あの弾丸を受ける事は無かっただろうに。

まあ、流石にアレは予想外にも程があったとは思うが。


 しかし……あの後だ、俺は死んだんだろう。

そう思うと、無性に悔しくなってくる。まだやるべき事はいくらでもあったと言うのに、志半ばで倒れる事になるとは。

出来る事なら、幽霊にでもなって戻りたい。

そうすりゃ、桜には見つけて貰えるんだろうし―――



「―――いや、その認識は間違いだよ」



 ッ……この声は!

何でお前がこんな所にいる。こっちは声が出なくて不便だってのに。



「それは勿論、君を助ける為……いや、それでは少し語弊があるかな。君はもう、とっくに助かっている」



 何……?

一応、声に出さずとも考えは通じてるみたいだし、俺はその声の主―――エルロードへと向けて問いかける。

生憎と周囲は暗闇のままだったが、相手がどの辺りにいるかぐらいは見当がついていた。

いや、それより……俺が助かっているってのは、どういう事だ?



「現実世界での君の傷は、既に癒されている。聖母……ミーナリアの尽力によってね」



 ミナの……?

俺の身体には回復系の魔術式メモリーも効かない筈だが、一体どうやったんだろうか。

分からないが、それでも助かったって言うんなら好都合だ。

まだ、戦う事ができる。



「ふむ。しかし、どうするつもりかな? 今のままで、水淵蓮花に勝てるのかどうか」



 もう同じ過ちはしない―――けど、確かに油断しなかったからと言って勝てるかどうかは分からない相手だな。

俺には能力が効き辛いと言っても、直接あの水に捕らえられればどうしようもない。

それに、あいつの体……アレは、一体どうなっていたんだ?



「あれは、人形遣いドールマスターアリシア・ベルベットの造り上げた体だよ。その人形に宿った魂こそが、水淵蓮花の本体だ」



 ……それは、お前がやった事だろ。

けど、魂だけって事は……向こうの世界の蓮花は、もう死んでるのか。

椿やフリズの例もあるし、無い事じゃないってのは分かってるが―――



「いや、彼女の本来の体は、まだ死んではいないよ」



 何……?

それは一体、どういう事なんだ?



「君達に分かる言葉で言えば、幽体離脱という状態さ。彼女の肉体はある事故以来、昏睡に陥ったまま目覚めていない。

抜け出して、消滅しかかっていた魂を、僕が見つけて導いたという訳さ」



 ……なら、あの蓮花の体を破壊したら、どうなるんだ?

胸に大穴が相手も問題なく活動してたみたいだし、そうそう魂が離れるものでも無さそうだけど。

俺の疑問の思考に、エルロードの声は少しだけ笑ったような吐息を漏らした。



「僕なら、彼女を元の肉体に戻す事は出来るだろうね。けれど、そのままと言うのは難しい。

彼女の魂は邪神の力に冒されている……それを浄化しなければ、向こうの世界に連れて行く事はできないよ」



 逆に言えば、それさえ何とかすれば戻せるって事だな?

って言うか、お前が導いた人間を元の世界に戻せるとか言い出すなんて、妙な事もあったもんだな。

正直な話、こっちの希望なんて無視してさっさと進めると思ってたんだが。


 俺のその言葉に、エルロードは……再び、小さく笑ったようだった。



「僕としてはねぇ……彼女よりも君の方が重要なんだよ、九条煉」



 俺が、重要?

俺の力の事を言っているのか?



「そう……君の力は、この世界を正す為に必要不可欠だ。故に、君のモチベーションを上げる事は、僕にとっても有益なのさ。

君は僅かでも希望があれば手を伸ばす、その覚悟を決めている……元の世界に戻った水淵蓮花を探し出すぐらい、君ならやってのけるだろう?」



 ……成程、最初からそこまでやらせるつもりだったって訳か。

確かに、俺は蓮花を失うつもりは無い……けど、あいつを殺さなきゃならないのも事実だ。

だから、決着をつけた後であいつの事を取り戻す。

それが出来るって言うんなら、躊躇うような理由は無い。



「……一つ、教えておこう」



 うん?

エルロードの声の中に、酷く真剣な色が混ざる。

一体、何を教えようって言うんだ?



「いずれ、君達の前に『敵』が現れる……恐らく、君達にとって最大にして最後の敵だ。

君の力ですら届くかどうか分からない……僕ですら、その全容を掴めていない相手だ」



 そいつを、倒せって言う訳か。

今更といえば、今更な忠告だな。



「確かにね。けれど、君はここまで辿り着く事が出来た。仲間を信じる心と、未来を掴もうとする意志を持ちながら。

故に……今の君なら、信じてもいいと。僕の願いを託すに足る人物に成長してくれると、そう思っている」



 買い被って貰ってるのはありがたいが……まだ、その願いとやらには足りないって訳か。

相変わらず、随分と勝手な事を言う奴だな。



「僕も必死でね……けれど、君が超越ユーヴァーメンシュに辿り着く事が出来たなら、全てを話そう」



 超越ユーヴァーメンシュ、か。

まあ、俺の力じゃ、まだ先は長そうだが―――



「九条煉。僕が、何故君を選んだか……その理由が分かるかい?」



 何だよ、藪から棒に。

俺を選んだ理由って……俺が、この力を持っていたからじゃないのか?

この力は、《神の欠片》の中でもかなり上位の力なんだろ?



「ああ、それは確かに君の言う通りだ。けれど、君より上位の力が存在しない訳じゃない。

それでも尚、僕が君を選んだのには……もう一つ理由があるんだよ」



 もう一つの理由?

俺よりも強力な力があるって言うんなら、そいつを連れて来た方が確実だと思うが……どうして?

相変わらず、声を上げる事は出来ないが……まるで、会話をしているようにエルロードは答えた。



「……僕が持つ《欠片》は三つ。その内の一つが、君と同じ力だからだよ」



 え……お前が、俺と同じ《欠片》を?

っていうか、三つも《欠片》を持ってるって、お前―――



「まあ、そんなものは僕だけだがね。とにかく、僕が君を選んだのはそれが理由だ。

君が信頼に足る人物に成長した時に、僕の力の一部を分け与える事が出来るように」



 分け与えるって、まさかフリズと同じように?

それなら、俺の力も回帰リグレッシオンに足りるって事か!?



「ふふ……これは、僕にとって非常にリスクの高い行為だ。下手をすれば、取り返しのつかない事になってしまう。

けれど今なら……君と言う可能性に賭けられる」



 刹那、闇しか存在しなかったこの空間に、淡い光を放つ球体が発生した。

魂の底で力が震える感覚……分かる。アレは、俺の力と同じ物だ。

この力さえあれば、俺は願いに近付ける……!



「受け取れ、九条煉。そして君の願いを果たせ。それこそが、君の戦いだ」



 淡い光は徐々にその強さを増し、闇だけの空間を蹂躙して行く。

思わず目を閉じ―――今更ながら、肉体の存在を自覚した。

しかし、その意識すらも光に塗り潰されてゆく。



「ッ、エルロード……!」



 光の合間、僅かに見える影。

そこに見える白い姿は―――僅かに、笑っているように見えた。





















「―――ッ!」



 手を伸ばし―――視界に映ったのは、薄闇に包まれた部屋だった。

天井へと向けられた手は何も掴まず……俺はただ、呆然と目を見開く。



「ここは……?」



 俺はどうやら、ベッドに寝かされていたらしい。

身体を起こし、周囲を見てみれば―――ベッドへと上体を預けて眠っているミナの姿があった。

傍らに置いてある杖はいつもの通りに……しかし、まさかずっと俺の事を見ていたのか?

窓の外へと視線を向けてみれば、紫色に染まった夕暮れ過ぎの空。

そして―――そこに映る、銀髪の男の姿だった。



「え……? これ、俺か……?」



 思わず目を見開き、呆然と呟く。

咄嗟に部屋にあった鏡の方へと視線を向けてみれば、そこには銀の髪と蒼い瞳を持った俺の姿が映っていた。

これは、まさか兄貴と同じフェンリルの加護?

でも、どうしてそんなモノが俺に―――



「……いや、これはむしろ好都合か」



 ベッドから降りた所で、すぐさま俺はこの異変に気付く。

視力が、以前よりも強化されているのだ。薄暗い中だというのに、まるで明かりが点いているかのように周囲の様子がはっきりと見える。

そして身体の方も、寝起きだというのに全くと言っていいほど動きが鈍っていなかった。

明らかに、体のスペックが上がっている。

兄貴も、こんな風な感覚の中で生きていたんだろうか。



「それに、力の事も分かる……感謝しなくちゃならないな、エルロード」



 俺の魂に宿った《神の欠片》……力の名は、《拒絶アブレーヌング》。

意志の力で因果すら歪める、正しく神の力とでも呼ぶべきもの。

今まで望み続けてきたものが手に入り―――けれど、何故か俺は何処までも冷静だった。

力に対する陶酔も、高揚もない。ただただ、自分自身に宿った力を自覚するだけ。

それは、この力を刻まれた魂自体が、この力の危険性を囁いてくるからだろうか。



「エルロードが、ここまで俺に力を渡さなかったのもこの為か……ミスらないようにしないとな」



 たった一つの選択肢のミスが、致命的な結果を招きかねない。

これからは、慎重に立ち回っていかなければならないだろう。

さて……どうやら、結構眠りっぱなしだったみたいだな。

どうやら、今夜が満月の夜のようだ。



「……行かないと、な」



 あいつは、必ず来るだろう。

俺もまた、この夜にはあの場所に行かなければならないと思っていたのだから。

近くの椅子にかけてあったジャケットを羽織り、ホルスターを装着する。

そして、人目が気になったので窓から飛び降りようとした所で―――ふと、後ろから声がかかった。



「―――レン」

「ミナ……起きたのか」



 振り返れば、そこには身体を起こしてこちらを見つめるミナの姿があった。

その澄んだ瞳に安堵の色を浮かべると、ミナは俺に向かって小さく微笑む。



「……勝手に行くと、皆に怒られるよ?」

「もう怒られる事は決定してるだろ。だったら、怒られるのは一回に纏めておくさ」



 仲間達から文句を言われるような事をやっている自覚はある。

けれど……これだけは、あいつとの決着だけは譲れなかった。

これが無ければ、俺は前に進めないだろう。

ミナは、そんな俺の心も分かっていたんだろう。小さく息を吐き出すと、立ち上がって俺の方へと歩み寄ってくる。



「……レン」

「何だよ、ミナ?」



 俺の目の前まで歩いてきたミナは、その手をそっと俺の胸へ―――あの時、蓮花に撃ち抜かれた場所へと添える。

そしてそのまま、表情を隠すように、額を俺の胸へと押し付けた。

ふわりと、柔らかく甘い香りが鼻腔をくすぐる。



「レンは、レンの望むようにして」

「……ミナは、俺を止めないんだな」

「レンを引っ張っていくのは、フリズの役目……わたしは、レンの背中を押す事しかできないから」



 そんなミナの言葉に、俺はどれだけ助けられてきただろうか。

そして同じように、俺はどれだけフリズに助けられてきたのだろう。

一人では辿り着けなかった場所まで、俺は歩いてきてしまったのだ。



「……でも」



 小さく、ミナの体が揺れる。

俺がそっとその頭を抱き寄せると、ミナもまた俺の背中へと腕を回す。

そして、彼女はそのまま声を上げた。



「本当は、恐いんだよ。レンがいなくなったら、わたしは生きていけないから。

レンがいない世界では、例え幸せを掴む事が出来たとしても、意味は無いから」



 どこか懐かしさすら感じる、ミナの言葉。

包み込むような愛情ではなく、ただ俺という存在を必要としてくれる事。

俺にだけしか向けられないこの愛情が、俺にとっては何よりの糧だ。


 ―――以前にも、こんな風に……誰かに、愛されたような気がした。



「レン」



 ミナが、顔を上げる。

その顔にあるのは、出会った頃の人形のような無表情ではなく―――どこか寂しそうに笑う、一人の少女の顔。

それが、俺にしか見せてくれない表情である事が、何よりも嬉しかった。

ミナの手は、そっと俺の頬へと触れる。そして―――



「ミナ」



 どちらからとも無く―――いや、どちらからもだったのだろう。

俺達は、そっと……その唇を触れ合わせた。

深い物ではない、子供の触れ合いのようにすら見えるものだっただろう。

けれど……そこに込められた想いは、この世界よりも重かった。



「……レン、わたしは貴方を愛している。誰よりも、何よりも……そんな言葉が陳腐に思えてしまうぐらい。

わたしは、貴方の望む世界で、貴方に必要とされたい。これは……わたし自身の想い。

『彼女』ではなく……ミーナリア・フォン・フォールハウトの想い」



 やはり、ミナの言葉には所々分からない所がある。

けれど、それを問いかけようとは思えないほど、ミナの言葉は重かった。

そして、その重さこそが……何よりも、俺の求めていたモノなのだ。

小さく、苦笑し……俺は、ミナへと返答した。



「そう言えば、しっかりと言葉にした事は無かったな。

ミナ、俺はお前を愛している。俺の欲望を満たしてくれる存在としてじゃない。

ただお前の存在が……お前の想いが、優しさが……俺にとって、どうしても必要なんだ」



 出会った当初の頃は、俺達の思いは軽い物だったかもしれない。

ミナにとっての俺は、自分を傷つけず優しく接してくれる相手で。

俺にとってのミナは、この耐え難い独占欲と支配欲を満たしてくれる存在だった。

けれど、今は違う。比翼の鳥、連理の枝のように―――互いに、無くてはならない存在なのだ。



「レン……負けないで。そして、必ず貴方の望む結末を手に入れて」

「ああ……必ずだ。約束する」



 目指す場所は見えた。後は、そこへ向けて進むだけだ。

俺達は互いに微笑み合い、ゆっくりと身体を離す。

そして、俺は静かに踵を返した。



「行ってらっしゃい、レン」

「行ってきます、だ。ミナ」



 ミナへとそう告げ―――俺は、窓から外へと飛び出していった。











《SIDE:OUT》





















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[一言] 因果を歪めるは流石に強スギィ… これよりも上位があるとかいう情報に戦慄…
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