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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
145/196

139:暗い夜に

それは、満月を硝煙で覆い隠すかのように。












《SIDE:FLIZ》











「ゆ……超越ユーヴァーメンシュに至ったぁ!?」

「は、はい……」



 帝国軍を撃退して、とりあえず戻ってきたその日の夜。

あたし達は、桜に告げられた言葉に対して一様に驚愕していた。

いや、だって……流石に突然過ぎるというか―――



「まだ全員が回帰リグレッシオンに至った訳じゃないのに、まさかその上まで行っちゃうとはね……」

「え、えっと……ごめんなさい?」

「いや、謝らなくてもいいけどさ」



 小さく、苦笑する。

強い力を使えるようになったとは言っても、やっぱり桜は桜のようだ。

まあ、とりあえずは詳しい所を聞いておいた方がいいかしらね。



「それで、さくらんの超越ユーヴァーメンシュってどんな力なん?」

「あ、はい……私の力は、月蝕の夜を作り出して、その中で影を自在に操る力です」

「……という事は、あの現象は桜の仕業だった訳か」

「やっぱり、そちら側まで届いてましたか……結構、広いですね」



 あの、突然夜になって、しかもまだ満月じゃないはずなのに月が上って……それが、欠けていった。

どう考えても普通の状況じゃなかったけど、まさかアレが超越ユーヴァーメンシュだったなんて。

もうちょっと、色々と見ておくべきだったかもしれないわね。

でも、桜が言うだけだと、派手な割に大した事ないような―――



「でも、影を操るって……それだけなの?」

「あ、いえ……副次的と言うか、こっちがメインになってるような気はしますけど……影に触れた人の、魂を抜き取る事もできます。あの影、私の手足の延長のような物なので……」

「うおう……暗闇の中で影を避けるなんて難しいやろうに。しかも、触れたら一発でアウトとは……流石は、うちらの力の最終段階ってトコか」



 ……前言撤回、ヤバ過ぎるわ。

魂を奪われたらどんな不死者イモータル・ブラッドだって活動できないし、あの空間内で自在に操れるって言うんなら、防御する事も難しそうね。

話に聞いて凄まじい力だとは思ってたけど、まさかそこまで行くとは思わなかったわ……超越ユーヴァーメンシュ

あたしたちが生き残る為にはこの力が必要になるって言ってたけど、本当にそこまで強力な力がいるのかしら?



「ぇ、と……説明、続けますね。超越ユーヴァーメンシュは、理不尽な世界に対する怒りを原動力に、自分自身の根本の願いを反映した世界を創り上げる力です」

「ふむ……世界に対する怒りっちゅーんは分かるんやけど、根本の願いて?」

「それは勿論、人それぞれのものですけど……私の場合は、『全ての人が同じになればいいのに』という感じです」



 まあ、その願いとやらには突っ込まないようにして……まさか本当にエルロードが言っていた通り、自分の思うがままの世界を創り上げてしまうとは思わなかった。

あたしの場合は何になるんだろうか、これって。

あたしが、一番最初に抱いた願い―――



「それで、そこに至る為の条件とかは分かったん?」

「は、はい……分かった事は、分かったんですけど……」

「ん? 何か、歯切れが悪いわね?」



 何か不都合な事でもあるんだろうか。

そうする為に何かやらなきゃならない事があるとか?



「何か犠牲にしなければならないとか、そういう事でもあるのか?」

「い、いえ……そういう訳では、ないんですけど……フェゼニアちゃんを巻き込んでしまったのは、私の責任ですし……」

「おん? フェゼりんがどないしたん?」



 そのいづなの質問に、桜は悲痛な表情で顔を伏せた。

何……まさか、フェゼニアに何かあったの?

でも、あの子は幽霊だし……普通じゃどうこうなる訳じゃないと思うんだけど。



「……あの時、私は蓮花さんの能力に閉じ込められてて……抜け出すために、超越ユーヴァーメンシュを使ったんですけど……フェゼニアちゃんは、その所為で私の能力に取り込まれてしまって……」

「……どうなってもうたん?」

「私の力……月蝕門の向こう側にいるはずです……回帰リグレッシオンなら呼び出せる可能性はありますけど、まだ人を指定して呼び出す事は……」

「会える可能性があるだけでも、まだマシだろう。いずれ再会出来た時に、礼でも言えばいい」

「……ありがとうございます、誠人さん」



 あの子が、か……流石にショックだけど、また会えるかもしれないのならば、諦める必要なんて無い。

あたしたちは決めたんだから。例え奪われてしまったとしても、必ず奪い返すって。



「……私が強くなれば、きっとまた会える。だから、今はただ前に進む事だけを考えます。

お姉ちゃんまで巻き込まれなくて良かった、とは思いましたけど……」

「……まあ、確かにな」



 桜の言葉に、誠人が小さく苦笑を漏らす。

そういえば、誠人も椿がくっついていれば回帰リグレッシオンを使えるようになったのよね。

その事が分かってなかったら、椿まで桜の能力に取り込まれてたかもしれないのか……危なかったわね。

って、何か話が盛大に逸れてたけど……とにかく、条件よ条件。

それさえ分かれば、あたしもすぐさま使えるようになるかもしれないんだし―――



「ぇと、あの……条件、なんですけど」

「おん? どしたん、何か厄介な条件なんか?」

「え、えと……確かに、ある意味厄介なんですけど……その、喋っちゃいけないんです」

「……は?」



 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。

話しちゃいけないって、一体どんな条件だって言うのよ。まあ、それを言っちゃいけないんだろうけど。

いづなも理解できなかったのか、目を点にしつつ首を傾げている。



「……それって、何なん?」

「そ、その……条件の一つなんですけど、それに関しては自分自身で気付かないといけないんです。

他の人に教えられてしまったら、分かった時の衝撃が無くなってしまう……その時の衝撃が、私達を超越ユーヴァーメンシュへと押し上げるので」

「……そらまた、厄介やね」



 いづなが、疲れたような表情で深々と嘆息する。

ホント、何でそんな面倒な仕様なのよ……考えた奴は誰だ、一体。

まあ、それはともかく―――



「他の条件は話しても大丈夫なの?」

「ぁ、はい……そうですね。一応、大丈夫そうな所は説明します」

「助かるな。頼む」



 何もかも話せないって訳じゃないのね。

それに関しては本当に助かるわ……何も分からなかったら、どうしたらいいか見当も付かないじゃない。

桜は誠人の言葉に小さく俯きつつも、少しだけ考え込んでから声を上げた。



「ぇ、と……まず、力の大きさに関してですが……これは、回帰リグレッシオンとあまり変わりません。

回帰リグレッシオンが使えるようになると、力が一気に成長しますから……そのまま少しすれば、事足りると思います」

「ふむふむ……そりゃ助かるで。まーくんとか、これ以上力を育てるのも大変そうやし」



 あたしとしても、正直お母さんの力を受け取ってようやくだったからね。

流石に、これ以上力を強くする必要があると言われても困る所だった。

回帰リグレッシオンに辿り着いてないいづなとしては、ちょっと遠い話かもしれないけど。

……って言うか。



「煉は?」

「先程トイレに行くと言って出て行ったが?」

「ミナっちも一緒に?」

「……そういえば、いつの間にかいなくなってるな」



 まあ、ミナなら一応大丈夫だと思うけど……何やってんのかしらね。

話は後で纏めてあげればいいとは思うけど。

いや、ミナに限っては、思い浮かべるだけで勝手に理解しちゃうかもしれないわね。



「とりあえず、その他には何かあるん?」

「はい……超越ユーヴァーメンシュには、二つの段階があります……」

「二つの段階って?」

「まず、力を完全に発動した状態では無い、仮展開状態……それと、詠唱をして力を完全に使えるようにした展開状態です……仮展開状態は、思い浮かべただけで広げる事が出来ますけど……そこから詠唱をしないと、超越ユーヴァーメンシュは完成しません」



 へぇ……思い浮かべただけって事は、タイムラグ無しでその仮展開とやらは使えるのね。

聞いた感じだと、完全には力を使えないみたいだけど。



「私の場合だと……仮展開でも影を操る事は出来ますが、魂を抜き取る事は出来ません。そこまでするには、詠唱しないと」

「って言うか、詠唱って? もしかして自分で考えるん?」

「あ、いえ……使おうとすれば、勝手に思い浮かぶと思います。私も、そうでしたので……」



 詠唱かぁ……あたしたちにとっては、そういうのが必要になる魔術式メモリーって言うのは身近じゃないし、詠唱するって何かちょっと変な気分ね。

あたしの場合、どんなのになるのかしら。



「詠唱中の使い手を護る為の機能ってトコなんかな……ま、それに関しちゃ了解や」

「はい……後は、先程説明した通りです。世界に対する怒りを元に、世界を変えたいと願う事。

そして、自分の望んだ世界がどんな物なのかを理解する事……そして、話せない最後の要素。

これがあれば、超越ユーヴァーメンシュに辿り着く事が出来る筈です」



 そう言って、桜は言葉を締めくくる。

超越ユーヴァーメンシュ……あたしたちが、辿り着くべき場所。

使えば人としての枠を外れ、その超人的な力を操るようになれる。

けれど……やっぱり、桜はいつも通りの桜だった。

人ではなくなってしまうって言うのは若干不安だったけど……これなら、大丈夫そうね。



「早く、使えるようにならないとね……」



 あたしは、小さくそう呟く。

視界の端で誠人が肩を竦めていた辺り、彼には聞こえていたのかもしれないけど。

でも、とにかく覚悟は決まった。桜一人に、そんな力を背負わせる訳には行かない。

あたしも、必ず辿り着こう。力の加減は、やっぱり難しいかもしれないけれど。


 ……それにしても、遅いわね。

あの二人、一体何やってるのかしら。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 夜の丘を歩き、俺は小さく息を吐き出す。

空に見えるのは満天の星空。けれど、もう少しで満ちようとしている月の光が、星達を少しだけ掻き消していた。

そんな場所で、俺は一人、小さく苦笑する。



「全く……」



 口から漏れる言葉には呆れが含まれつつも、やっぱりその口の端は笑みの形に釣りあがっているようだった。

さっきまで不機嫌だったってのに……我ながら、現金なものだ。

けど、待ち焦がれていたものが手に入ろうとしているんだ。やっぱり、楽しみなものは仕方ないだろう。



「楽しみだよなぁ……お前も、そう思うだろ?」

「貴方がそう思ってるんなら……そうなんでしょうね」



 見上げた先、丘の上にいる一人の少女―――蓮花の姿に、俺は再び口の端を愉悦に歪めた。

手に持っていた紙切れをぱらりと放り捨てつつ、蓮花へ向かって声を上げる。



「まさか、こんな所でラブレターなんて貰うとはな。中々いい内容だったぜ?

端的で、言いたい事が率直に伝わってくる……やっぱ、こうでないとな」



 まあ、ラブレターと言うにはあまりにも血生臭過ぎる内容だったが。

今夜、西の丘にて殺し合いを……あの時の戦いの続きを。

蓮花との戦いを思い浮かべただけで血が滾る……息の根を止めてやった時の事を考えると、震えが走るほどに興奮する。

あの時、戦う事もなく撤退しちまったのを見た時はかなり失望してたが……やっぱり、蓮花は分かってるな。



「まあ、アタシだって貴方とは戦いたかった訳だし……ここなら、邪魔も入らなそうだからね」



 月光を浴びて、その薄紅の髪を揺らしながら、蓮花は腰のホルスターへと手を伸ばす。

そしてこちらもまた、口元に笑みを浮かべ、黒いジャケットを揺らしながら太腿のホルスターのボタンを外した。

共に、一動作で相手の息の根を止められる状態―――けれど、互いにそれを阻む能力を持っていた。

人ならざる力を持つ者同士の戦い……俺達にはお似合いだろう。

神とか邪神とか、そんなものも関係ない。ただ、本能のままに相手と求めコロシ合う。



「……ねえ、煉」

「何だよ、蓮花?」

「この場所……貴方は、何か感じる?」

「お前も、そうなのか」



 フラッシュバックする記憶の謎。

けれど、それの正体も今はどうでも良かった。

今はただ、蓮花との繋がりがあった事が嬉しい……ますます相手を求める気持ちが強くなる、ただそれだけだ。


 けれど……分かっている。



「俺は、お前の事を理解しているが故に―――」

「アタシは、貴方の事が分かるからこそ―――」



 相手が、決して自分の物にならない事は、分かっているのだ。



『―――その在り方が、認められない』



 あいつは、俺のモノになろうとはしないだろう。

俺があいつのモノになろうと思わないのだから、当然の事だ。

けれど、俺達は互いに、互いが自分の支配下に無い事が赦せない。



「だから」

「貴方を」



 ―――だからこそ、俺達の願いは一つ。

何よりも単純で、何よりも分かりやすく……何よりも、業深い結論。


 手に、入らないのならば―――



『殺して、壊して、この世界から消してやる―――!』



 意識は灼熱し、沸騰した頭の中の冷静な部分が、いかに蓮花の心臓を撃ち抜こうかと策を巡らせる。

誰にも邪魔はさせない。ここから先は、俺と蓮花だけの世界。

どちらか一方の息の根が止まるまで―――とことんまで、殺し合うだけだ!











《SIDE:OUT》





















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