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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
142/196

136:神と邪神の力

その先にあるのは希望か、絶望か。











《SIDE:MASATO》











 視界に映る幻から身を躱す。

それらは全て、オレが回避した後に現実の光景と化し、オレの横を貫いてゆく。

飛び交う矢も、殺到する魔術式メモリーも、オレに触れる事は無い。


 脳裏に思い浮かべようとすれば、簡単に回帰の名は浮かんできたが、今はそれを使うつもりはない。

そもそも、どのような効果なのかはいまいち分からないからな。

まあ、力の名だけは分かるが。



「―――《未来選別ツークンフト》」



 これから先の未来を知ると言う、不可能とされてきた力。

けれどオレ達の能力は、その人が知り得ぬ筈の結果を容易く知覚する。

オレ達の目に見えるものは、本来の人間にはあり得ない光景―――それこそが、オレ達の世界。



『ふふ……この世界を共有できるのは、中々に気分がいいものだな』

「今まではただ羨ましいばかりだったが……実際に使えるようになると、色々と見えてくるものがあるな」



 射撃攻撃では無理だと判断したのか、ディンバーツの兵士たちはオレを包囲するように接近してくる。

流石に視覚を使って判断している以上は、死角に入られるのは面倒だ。

オレはすぐさま後方へと跳躍し、刀に宿る炎の精霊へとイメージを伝える。



「―――焼き尽くせ」



 イメージを伝えるのは、非常に容易い。

何故なら、オレ達の能力によって未来に広がった光景を直接伝えればいいからだ。

そして虚像と実像は直結し、オレ達の目の前に巨大な炎の波が形成される。

炎に呑まれた敵兵たちは、なすすべなく塵と化す―――しかし、オレの視界はそこから飛び出してくる一人の男を捉えていた。



「神代ォォォォオォオオオオッ!」

「……貴様も、人の話を聞かん奴だな」



 名字で呼ばれるのは好かないと言っているのだが……わざとやっているのかもしれないがな。

まあ、正直な所そんなものはどちらでもいい。

こいつが敵で、そして気に入らない相手である以上、排除する事に変わりは無いからだ。


 星崎のスピードはかなりのもの。オレの身体能力でも、反応するのがやっとと言うほどだ。

しかし、あらかじめその動きが見えているのであれば、対処は非常に容易い。

以前とは違い危なげなく躱しながら、オレは周囲の状況を観察しようとする。が―――



『誠人、お前が相手から目を離す必要はない』

「む……?」

『ワタシが状況を見る。お前は目の前の相手に集中しろ』

「成程、それはありがたい」



 随分と高速で振り回しているのだが、椿には周囲の状況が見えているのだろうか。

と言うより、酔ったりしないのかどうかが疑問だ―――まあ、霊体なのだから三半規管など存在しないだろうが。

とにかく、オレは星崎の攻撃をいなしながら椿の声に耳を傾けている。



『まだ門の方へと抜けた相手はいない。お前を迂回していこうとする連中はいるが、外壁からの攻撃はその連中へと集中しているからな』



 オレは今、門から直進した場所―――つまり中央に陣取っている。

門を攻撃する為には、オレを退かすか迂回して行かなければならないのだ。

奴らは正面突破は困難と見て、オレを迂回する方向で動こうとしたのだろう。

けれど、外壁から飛んでくる魔術式メモリーや、上部から降り注ぐ無数の矢、そして的確に一人一人敵を貫いてゆく煉の弾丸が、連中の進行を阻む。


 成程、確かにあの外壁は有効な防御手段だ。

矢を防ぐために盾を上に構えれば、正面から飛んできた魔術式によって撃ち抜かれる。

魔術式の防壁があれば防ぐ事は可能だろうが、それを放っているのはリオグラスの精鋭部隊と、名将と言っても差し支えない優秀な指揮官だ。

どの攻撃も、的確に脆くなった場所を狙っているのだろう。



『それだけではないぞ? 時折抜けて行くような奴もいるが、そういう連中は障壁突破の力を持った煉によって撃ち抜かれている』

「……また、随分と反則じみた組み合わせだな」



 矢と魔術式の雨を潜り抜けるには強力な魔術式による防御が必要だが、その防御は容易く魔弾の射手によって撃ち抜かれてしまう。

あいつの事だ、この距離ならば、一発たりとて外す事は無いだろう、

有効な防御手段などそうそう思い浮かびはしないが、コレに突撃するのは下策としか思えない―――生憎と、この軍の指揮官は頭に血が上って突撃してきているが。

後ろの方で副官らしき人物が叫んでいるのが、何とも哀愁を誘う。



「チッ、避けるのが上手くなっただけじゃ勝てないぜ!?」

「……お前の目が節穴だという事は良く分かった」

「何……!?」



 門を破れるだけの能力を持った者が二人以上いたら厄介だったが、生憎とそれはコイツだけらしい。

それならば、対処のしようなどいくらでもあるというものだ。

オレがこいつを抑えているだけでも、敵はどんどん消耗し、状況はオレ達の方へと好転してゆく。

星崎には、この状況が見えていないようだったがな。



「……まあいい。状況が変わるまではこのままでも十分だ」



 籠城戦である以上、味方の増援が来るまで耐えなければならない。

ならば、あまり消耗する訳にもいかないだろう。

せいぜい、時間を稼がせて貰うとするか。



「さあ、来い星崎……貴様程度で、オレの首を取れると思い上がっているのなら。そんな実力では、退屈過ぎて欠伸が出るぞ?」

「ッ……舐めるなよ、テメェッ!」



 簡単に挑発できるものだな……まあいい、しばらくはこうしてゆっくりと敵を減らさせてもらうとするか。












《SIDE:OUT》





















《SIDE:SAKURA》











「っ……結構、多い」



 広がった黒い水たまりから現れた兵士たちは、巨大な壁を前に布陣し始める。

こちら側の兵士は少なく、見張り程度に配置されていた人々は、突然の状況に動揺してしまっている。

とりあえず、北側への伝令は出したみたいだったけど。



「……いづなさん、聞こえますか」

『聞こえとるよ……そっち、来たんやったね』

「はい、私の力で迎撃します……それで、向こう側の人達には―――」

『とりあえずは、マリエル様にしか伝えとらん。煉君には伝えんように言っといたし。

伝令の人は、うちらの所で止めとるから、向こう側を動揺させるような事はあらへん。

ただ、あんまり派手な攻撃はせんようにな?』

「は、はい……」



 精霊化しての強大な攻撃は、向こうの人達を動揺させてしまうかもしれないから、か。

それは、気をつけないといけない……それにそもそも、今はあんまり力を使い過ぎていい場面ではないし。

とにかく、出来るだけ力を節約して戦わないと。


 なら―――



回帰リグレッシオン―――《魂魄ゼーレ死霊操術ガイスターベッシュヴェーラー》!」



 比較的力の消費の少ない、こっちの力で!


 私の宣言と共に、無数の幽霊たちがわたしの中から呼び出される。

力が強まってきたおかげか、多くの幽霊を操っても、それほど消耗は感じなくなってきたし……今回は、出来るだけこれで戦おう。



来たれコール首なし騎士の伝説デュラハン!」



 その号令に従い、無数の幽霊たちが集合して、五体のデュラハンを作り出す。

今回はそれほど力を分け与えた訳じゃないから前回ほどじゃないけれど、それでも巨大な姿を見せつける強力な魔物。



「行って……!」



 私の命令に従い、唸り声を上げてデュラハンたちが動き出す。

若干力不足かもと思わなくはないけれど、デュラハンは不死殺しイモータル・ベインが無ければ倒す事ができない魔物。

あの武器は結構高級品だから、一般の兵士に配れるような物ではない筈。

実際、彼らは突撃してきたデュラハンを迎撃しているけれど、傷を付けられたような様子は無かった。

これなら何とかなるかもしれないけれど、気は抜けない。

だから念のため、私は近くにいた兵士の人達に断って、門の前まで飛び降りた。



「……あの水溜り、吹き飛ばしたほうがいいのかな」



 分からないけれど、向こうに聞こえないようにやるのは少し難しい。

爆発の起こる炎や光はダメ……となると、ここは―――



「―――風の精霊さん」



 イメージするのは、地面を削り取りながら横向きに突き進む、削岩機のような竜巻。

無数の風の刃が渦巻くそれは、飲み込まれればひとたまりも無いほどに強力なもの。

命中の前にデュラハンの体を分離させて、無防備になった所を一気に―――



「―――え?」



 そして、次の瞬間広がった光景に……私は、思わず目を見開いていた。

地面を塵のように抉り取っていた風が、唐突にその動きを止めてしまったからだ。

元々空気の塊であったそれは、動きを止められた事でただの空気となり、その場に霧散してしまう。



「う、そ……」



 その先にいたのは、薄紅色の髪を持つ女の子―――水淵さん。

彼女はこちらへと掌を向けて、私の放った一撃を受け止めてしまったのだ。

私の様子を見て、彼女は小さく笑う。



「あら、どうしたの桜? アタシの力は、話に聞いていたでしょう?」

「ッ……聞いては、いました。でも、貴方の力……《静止アンシュラーグ》は、私の力よりも格は下の筈なのに……」



 自分で言うのもなんだけれど、私の力である《魂魄ゼーレ》は、かなり格の高い《欠片》だ。

そして基本的に、高位の格を持つ《欠片》の力は、下位の《欠片》で防ぐ事は出来ない。

仮に防ぐ事が出来たとしても、簡単に受け止められる物じゃなくなってしまう。

それなのに、彼女はいとも簡単に、私の攻撃を受け止めてしまった……回帰リグレッシオンを操る事の出来る、強化された私の攻撃を!



「……貴方、まさか……!」

「あはは。流石に、至ってる・・・・人間なら気付いちゃうか」



 クスクスと、彼女は笑う。

間違いない。彼女は―――



回帰リグレッシオンを、使えるんですか……!」

「ふふ……貴方が見せてくれたんだもの。アタシも見せないと、ね」

「ッ……!」



 悠長に見届けるなんていう事はしていられない。

私はすぐさま精霊さんを呼び出すと、周囲に無数の氷の刃を生み出した。

水淵さんはそんな私の動きを気にする事も無く、大きく両腕を広げる。



回帰リグレッシオン―――」

「貫けッ!」



 氷の刃が、無数の棘が、布陣する帝国軍へ向けて一斉に射出される。

―――けれど、それよりも一瞬早く。



「―――《静止アンシュラーグ肯定創出エルツォイグング邪神顕現ダゴン・アブシュタイクト》」



 ―――彼女の周囲にあった水が、その言葉と同時に大きくうねりを上げた。

そしてその吹き上がった飛沫が触れると同時に、殺到していっていた氷の刃達が動きを止めてしまう。

物の動きを止めてしまう能力、それは知っていたけれど―――まさか、回帰リグレッシオンまで使えていたなんて!



「ッ……」

「ふふっ」



 水淵さんは、不敵に笑う。

今の攻撃も受け止められてしまった……そして、黒い水に触れていたデュラハンたちも動けなくなってしまっている。

どうやら、彼女の回帰リグレッシオンの力は、あの黒い水に触れたものの動きを止めてしまう力のようだ。

人でも、物でも、魔術式メモリーすらも……彼女に、触れる事はできない。



「……貴方は、煉さんが倒すべきだと思って、撃退ぐらいにしておこうと思ってました」

「あら、それは嬉しい心遣いね。でも、貴方を突破すればいいだけの話よ?」

「でも……貴方は、危険すぎる」



 《神の欠片》と、邪神の力……そのどちらをも持っているどころか、回帰リグレッシオンまで使えていたなんて。

彼女は間違いなく脅威……それも、帝国軍の中で最も危険な存在だ。

ここで、見逃す訳にはいかない。

倒してしまえば、煉さんには色々と言われてしまいそうだけれど……皆を、危険に晒す事なんて、私には出来ない。


 だから―――



「本気で、行きます……回帰リグレッシオン!」

「……!」



 私の言葉と共に、水淵さんは身構える。

流石に、私の力は警戒しているみたいだった……でも、発動を止めさせはしない。

動けるデュラハンで彼女の足止めをしつつ、私は高らかに声を上げた。



「《魂魄ゼーレ肯定創出エルツォイグング精霊変成ジン・メタモローフェン》!」



 瞬間、私の身体は青白い光を放ち、鋭い放電を始める。

雷精化……弾けた雷が地面で弾け、草花を焦がしてゆく。

もう、北側の人達に見られないように、なんていう事は言っていられない。

彼女の力を……本気で、貫く!



『雷よ!』



 私が腕を振り上げると同時に、水淵さんは地面にその両手をつける。

そして、天空より青天の霹靂が放たれるのと、彼女の黒い水が周囲を包み込むのはほぼ同時だった。

放たれた無数の雷が土塊を跳ね上げ、周囲は土煙に包まれる。

劈くような轟音が耳を貫くけれど、手を休めてはいけない。



『炎よ!』



 私がそう声を上げた瞬間、地面に落ちた力がそのまま天空へと帰っていくかのように、巨大な火柱が発生した。

鉄すらも融解させるような極大の熱量に、放射熱だけで周囲の木々が燃え上がる。

そして、その焦熱の地獄は―――



『氷よ!』



 すぐさま、極冷のコキュートスへと姿を変えた。

空気が弾けるような音と共に炎を上げていた周囲が一瞬で白く凍りつき、粉々に砕け散る。

触れただけで凍りつくような白い靄に覆われた一帯へと―――私は、更なる力を解放した。



『これで、終わり……潰れてしまえッ!』



 その声と共に空中に発生したのは、黒く揺らめく球体。

そして、次の瞬間―――周囲は、発生した通常の何十倍もの重力によって、一気に陥没した。

凍て付いていた周囲はそれと共に砕け散り、己の重さだけで崩壊して地中へと陥没してゆく。

強大なドラゴンですら耐え切れないような無数の攻撃……これだけの力を食らったら―――



「うふふ……!」

『え―――!?』



 刹那、私の両足が、何かによって絡め取られていた。

見れば、私の足元には黒い水溜りが広がっていて―――そこから伸びた帯のような水が、私の身体を捕らえていたのだ。

そして、見下したその場所から、盛り上がるように水淵さんが姿を現す。



『そんな、あれだけの攻撃を食らって……!?』

「そうね……正直、《神の欠片》の力だけだったら無理だったでしょうね」



 ゆっくりと浮かび上がってきた水淵さんは、その口元に釣りあがった笑みを浮かべる。

楽しそうに、愉しそうに……ただ、嗤っている。



「でもねぇ、桜。アタシは、邪神の力も持っているのよ?

例え片方だけでは届かなくとも……二つ合わせれば、貴方の力に届くと思わない?」

『そんな……それは、相反する力のはずじゃ……!』

「誰も同時に持っていた人なんていないんだから、やってみなきゃ分からないでしょ?

事実、こうやって上手く行ってる訳だし」



 信じがたいけど、彼女が言う以外に方法は考えつかない。

上位の《欠片》の力でしか触れられないはずの精霊体の私を、こうやって捕まえているのだから。

でも、この距離なら―――



『避けられ―――え?』

「……アタシがそんなに迂闊だと思う?」



 動けない……指一本動けないし、力の発動も出来ない!?

嘘……この力、精霊の体すら完全に動けなくしてしまうの……!?



「ふふ……アタシの回帰リグレッシオンの水底は、動きの無い澱みの世界。

触れたら最後、二度と出られない水底で押し潰される……例えその身体でも、いつまで耐えられるかしら」

『ぅ、あ……!?』



 体が、沈む……!

水面から伸びた水の帯が私の体を絡め取り、徐々に徐々に水の中へと沈めてゆく!

動けない……こんなの、嫌……!



『誠人、さ―――』

「ふふ……じゃあね、桜」



 最期に、見えたのは―――



『サクラ……ッ!』



 ―――私に向かって飛び込んでくる、フェゼニアちゃんの姿だった。











《SIDE:OUT》





















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