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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
リオグラス編:異世界の少年と創造の少女
14/196

12:弱いからこそ

躊躇えば、護れるものさえ護れない。












《SIDE:MINA》











 ずっと、嫌な感じがしていた。

昔から住んでいた屋敷なのに、何故か感じていた不快感。

そう思っていたら、部屋に知らない人が入ってきて、あっという間に連れ去られていた。


 おぞましい目線と悪意に晒されて、吐きそうになるぐらい気持ち悪かった。

けれど―――レンが、助けてくれた。

他人はいつもわたしに何かを求めてくる。けれど、レンはそんな事をしなかった。

それどころか、わたしにいろいろな事を教えてくれた。


 だから、知られたくなかった。わたしが、ミーナリア・フォン・フォールハウトだと言う事を。

知られたら拒絶されてしまうかと思って、怖かった。


 けど、レンは変わらなかった。

それだけじゃない。レンは、ジェイの知り合いだった。

ジェイと一緒にいる人……それなら、きっと大丈夫。

きっと彼は優しい人だ、そう思っていた。


 でも―――



「レン……?」



 彼は、わたしの目の前で倒れていた。

レンの後ろにいつの間にか立っていたのは、見た事もない男。

その悪意に満ちた視線が、わたしを射抜く。


 ……怖い、嫌、気持ち悪い……!



「チッ、邪魔をしやがって……どうやってあんな場所まで入って来たんだ、このガキ」

「……っ!」



 シェルトが言っている事が、信じられない。

けど、同時に納得もしていた。

家にいる時に感じていた嫌な視線は、シェルトのものだったんだ。

あの知らない人達が屋敷まで入ってこれたのは、シェルトの所為だったんだ。



「どう、して……」

「ああ?」

「シェルトは、昔から……」



 彼は、昔からわたしの家に仕えてきた執事だった。

それが、どうして。


 けど、そんなわたしの問いかけを、シェルトは鼻で嗤って返した。



「決まってるだろう、俺は金で雇われてるんだ。より良い条件があったんなら、そっちに付くのは当然の事だ」

「そんな……!」



 ……知ってた、筈だった。

人は、皆みんな、いつだって汚い。

だから、誰も信じない。わたしは、そうしてきたのに。なのに―――



「これ以上ここに居る理由は無い。そのガキは始末しろ」

「ッ! だ、だめ―――」



 わたしの声なんて聞かない。

男が剣を振り上げ―――そして、紅い色が舞う。


 ―――パン、という乾いた音と共に。



「チッ……お前が近付いてきてくれればよかったんだがな」

「あ……!」



 思わず、小さな声が漏れていた。


 レンが、ゆっくりと立ち上がる。

その手に、銀色に輝く何かを携えて。



「で、覚悟は出来てんだろうな、クソ野郎」



 そう言って、レンは不敵に笑った。


 笑って、くれた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











「ったく、口の中に砂が入っちまったじゃねぇか」



 ざらざらする口の中の物を吐き出し、悪態を吐く。

どうやら、外れて欲しい方の予想が当たっちまったみたいだな、これは。

あの執事がミナに惚れてて、それで俺を眼の敵にしてたって言うんならまだ良かったんだが……全くもって、最低だ。



「貴様、何故……!」



 忌々しげに俺を睨む執事。

俺がさっき意識を失わなかったのは、言うまでもなくこの防御魔術式メモリーのかかったジャケットのおかげだ。

が―――態々教えてやる義理は無い。



「何でテメェにそんな事を教えなきゃならねぇんだよ?」

「貴様ッ!」

「FREEZE!」



 激昂しそうになった男に対し、俺は背信者アポステイトを向ける。

つい英語で言っちまったが、こいつの威力は十分分かっただろう……俺の足元で事切れている、この男のおかげで。



「抵抗するなら容赦しない。死にたくなければ武器を捨てろ。魔術式を唱えようとしても同様だ」

「……」



 こいつはここで捕まえる。

放っておけば、またいつミナに手を出すか分かったもんじゃない。


 銃を突きつけられた執事は、手に持ったレイピアを地面に置き―――口元に笑みを浮かべた。

悪寒が、背筋を駆け抜ける。



「レンっ!」

「ちぃ……ッ!」



 ミナの警告の声と同時、横殴りに無数の光弾が俺に向かって襲い掛かった。

光の弾丸は俺に激突する直前に消滅するが、それでも地面にぶつかった分の衝撃でたたらを踏む。


 そしてその隙に、奴は武器を拾ってミナをその腕の中に捕まえていた。



「ミナッ!」

「おっと、そこまでだぜ色男!」



 執事の奴が、俺に勝ち誇った笑みを向ける。

それと同時、周囲の建物の間から何人もの人影が現れ、俺達を包囲した。

伏兵が居やがったか……!



「どうやら随分と上等な装備を着てるみたいじゃねぇか。だが、これじゃどうしようもねぇよな?」

「ッ…………」



 周囲には魔術式使いメモリーマスターだけではなく、剣や弓で武装した人間が計十人ほど。

対し、俺は一人で人質を取られた状況。要するに、絶体絶命だ。

一つだけ救いなのは、奴にはミナを傷つけるつもりは無いって事だ。

その気があるなら、ミナを使った脅しを仕掛けてきているはず。


 嘆息し、俺はゴーグルを取り出して装着した。



「オイ……テメェ、何のつもりだ」

「何のつもり、ね」



 どうもこうも、俺に選択の余地は無い。

ここで諦めれば、俺は確実に殺されるだろう。逃げる事は出来るかどうかも分からない。

そもそも俺は、ミナを渡す気だって毛頭無い。そんなクズ野郎にはなりたくないんでな。



「俺は、兄貴のようには強くない」

「あ……?」



 兄貴は強い。こんな人数程度に囲まれた所で、兄貴なら片手間に切り抜けられるはずだ。

だが、俺は弱い。さっきだって、もしも喰らったのが光ではなく炎の弾丸だったら、俺はやられていたかもしれないのだ。


 だから―――



「殺さないように加減するとか、そんな舐めた事は言えねぇ。覚悟しろ」



 背信者の威力を最大に上げ、銃口を両側へと向ける。

そして、装填された魔力に一つの式を与えた。



「《散弾銃ショット》」



 アルシェールさんに刻んでもらった魔術式の内の一つ、ショットガンを模倣した一撃。

第二位魔術式に相当するそれは、俺の両側にいた連中を血煙に変えた。

大砲の威力を散弾として分散させたような物だ、簡単な防御魔術式程度で防ぎ切れるモンじゃない。



「《強化:身体能力リーンフォース・フィジク》、《強化:感覚能力リーンフォース・センス》」



 右側にいた奴を4人、左側にいた奴を3人倒した為、残る人数は3人。

身体能力と感覚能力を加速させつつ、俺はその場から飛び退いた。

瞬間、俺が一瞬前までいた場所に二本の矢が突き刺さる。

その様子をゆっくりと眺めるような感覚で見られた事に、俺は思わず感心を通り越して苦笑していた。



「流石、アルシェールさんだ」



 だが、その無駄な考えはすぐに消す。

今はただ、奴らを殺す事だけを考えろ……!


 跳躍し、着地した俺に向かって次なる矢を放とうと構える敵が一人。

俺は背信者の威力をマグナム程度へ落とし、両の銃を一発そいつに向かってずつ放った。

一発は弓矢を破壊し、もう一発が奴の頭部を粉砕する。

感覚強化のおかげで、銃の命中率も上がってる……今まではこの距離を当てるのに、一度静止しなきゃ無理だった。



「死ねぇッ!」

「―――っ!」



 左側から走ってきた男に、咄嗟に反応して向き直る。

だが、俺が銃口を向ける前に、奴は俺を間合いの範囲に捉えていた。



「Shit!」



 咄嗟に、俺は二つの銃を頭上に交差するように構える。

剣の軌道は上からの振り下ろし―――その軌道をしっかりと読み、俺はその一撃を受け止めた。

そして間髪いれず、男の胴に蹴りを入れる。



「ぐっ―――」

「Good night」



 後ろへ倒れそうになりバランスを崩した男の胸に、左の銃で風穴を開ける……あとは一人!

振り向き、相手の姿を探す―――瞬間、俺の目に入ったのは顔面に向かって飛んできている一本の矢。



「くおおッ!?」



 思わず、全力で体を横に傾ける。

俺の頭を貫こうとした矢は―――ゴーグルを弾き飛ばし、こめかみに一筋の傷を付けて逸れて行った。

あっぶねぇ……が、安堵してる暇は無い!


 相手とはかなりの距離が開いていて、今ゴーグルを弾かれた事で感覚強化が途切れてしまった。

流石に、この距離を一瞬で完全にエイムする自信は無い。

さらに、俺の身体は横に倒れつつある。この状況では次の一矢を避けきれない。


 ならば―――



「大盤振る舞いだ!」



 咄嗟に、俺は銃を乱射した。貴重な弾丸だが、背に腹は変えられない。

ハンドガンに替える時間すら惜しんで放った弾丸は―――八発のうち、三発が命中した。

右肩から先を吹き飛ばされ、胸と腹に風穴を空けられた人猫族ヴェーア・キャットの女が、力なく倒れ付す。



「っ、はあっ、はあっ……」



 極度の緊張から息が上がる。だが、まだ終わってはいない。

すぐさま立ち上がり、さっきの執事に向かって銃を向ける。



「何、だ……何なんだテメェ、その武器は何だッ!?」

「何でもいいだろうがクソッタレ、さっさとミナを放せ……!」



 奴は最初の一撃で呆然としていたのか、逃げると言う選択をしていなかった。

それは僥倖だが、あまり良い状況と言える訳ではない。

追い詰められた人間ってのは何をし始めるか分からないからだ。


しかも奴はミナを捕まえたまま……もし奴が正気を失えば、本当にミナを殺しかねない。

かと言って、人質がいる状況ではこっちも撃つ事は出来ない。

いくら射撃に自信があると言ったって、誤射のリスクを冒すには状況が拙すぎる。



「畜生、テメェの所為で……テメェさえ、テメェさえ居なければあ嗚呼アッ!」



 拙い、半狂乱状態か! どうす―――え?


 次の瞬間起こった事は、俺にとって―――おそらく奴にとっても―――理解不能の事だった。

突如として、奴の頭上二メートルほどの場所に金属の球体が現れたのだ。

突然虚空に現れた物体だが、それは当然のように落下し、奴の頭を見事に直撃した。

赤ん坊の頭ぐらいはある金属塊だ、そんなものが直撃してただで済むはずがない。


 頭を強打した執事は、一瞬で意識を飛ばされたのか、ふらりと後ろ向きに倒れ―――そこを、上から飛び降りてきた銀色の狼によって押さえつけられた。



「な……何なんだ、一体」



 銀色の狼は執事の喉笛に噛み付こうと口を開いたが、何やらぴくりと耳を震わせると、攻撃を止め顔を上げる。

そして―――その姿が、人間へと変化した。


 いや、って言うか。



「リル!?」

「わう!」



 いや、そんな元気良く頷かれても困るんだが。

……分からない事は多いが、今はそれよりも。

俺はすぐに、執事から放り出されたミナに駆け寄った。



「ミナ、その……怪我は無いか?」

「……」



 コクリと、ミナは頷く。

最初に会った時とあまり様子は変わらないように見えるが……どうだろう、怖がらせてしまっただろうか。

どうだかは分からないけど、一応拒絶はされてないみたいだ。

とりあえずは安堵し、倒れた執事の方へ向き直る。



「……」



 ……ここで始末しておくべきだろうか。

背信者を持つ腕を上げようとして―――その腕を、リルが掴んだ。

殺すな、って言う事だろうか。



「……けど、こいつはまたミナに害を及ぼすかもしれない」

「わふ」



 それに関してはリルも賛成なのか、首を縦に振ってきた。

が、それでも俺の腕を放す気配は無い。

嘆息し―――俺は、銃をホルスターに戻した。



「はぁ、分かったよ……って言うかリル、さっきの変身は何なんだ?」

「わぅ? わん!」



 俺の言葉に首を傾げたリルは、ナイフを抜くとその場で四つんばいの姿勢を取った。

そしてそのまま―――その姿が先程の狼に変貌する。

何か、変身する時にすっげぇ痛そうな音がしてるんだが、大丈夫なんだろうか。



「ガウ」

「ああ、いつも使ってるナイフが腕のブレードになるのか……どんな仕組みなんだ、これ」



 まあ、聞いても犬語でしか返って来ないのでさっぱり分からないが。

ふとミナの方を向いてみると、彼女は興味を引かれたような瞳でじっとリルの事を観察していた。

うーむ……二人ともよく分からん。


 俺が首を傾げているうちにリルは再び元の人狼族ヴェーア・ウルフの姿に戻る。

そして、ふるふると首を振ってから、視線である方向へと向けた。


 視線を向ければ、その先から黒ずくめの見知った人影が走ってくるのが見える。

あれは―――



「兄貴!」

「ああ……とりあえずは、問題無さそうだな」



 周囲をキョロキョロと見回し、兄貴はそう呟く。

そしてそのまま、深々と嘆息を漏らした。



「今回は俺が甘かったようだな……警戒が足りなかった」

「ははは。まあ、何とかなったし」

「リルが駆けつけなかったらどうなってたか分からんくせに、何言ってやがる」

「うぐ……」



 全くもって正論だった。

声に詰まった俺を半眼で見つめていた兄貴は、不意に肩を竦めて深々と嘆息する。



「まあ、ともあれよくやった。完璧とは言えんが、十分な手柄だ」

「あ……ああ!」



 兄貴の賞賛と言う珍しいものを耳にし、俺は驚きつつも頷いていた。

今回は反省点も多かったが、それでも賞賛は素直に受け取っておこう。

額に手を当てながら大きく息を吐き出し―――ぬるりとした感触に、手を離す。



「げっ」



 そう言えば、一応怪我してたんだった。

頭の傷だから結構派手に出血してるようだ。ハンカチか何か持って無かったかな……?

と、ポケットを漁っていた俺の腕が控え目に引っ張られた。



「ん、ミナ?」

「……ん」



 振り向くと、ミナが俺に向かって白いハンカチを差し出している所だった。

いつもと変わらない無表情。だが、少しだけ眉が眉間に寄っているように見えた。

心配してくれてるの、かな?



「ありがたいけど、ハンカチが汚れちまうぞ?」

「……いい、あげる」



 言いつつ、ミナは制止する間もなく自分から俺の頬に流れる血を拭ってしまった。

慌ててハンカチを受け取り、自分で傷を押さえる。

ミナの服に血を付ける訳には行かないしな。


 やれやれ……ああ、そういえばゴーグルを吹っ飛ばされてたんだった。

傷を押さえつつも、離れた所に落ちていたゴーグルを回収に行く。



「アレを食らって傷一つ無しか……強度が上がってるとか言ってたけど、そういうレベルじゃねぇだろ」



 まあ、壊れてないに越した事は無いので、そのまま畳んでポケットに入れておく。


 とにかく、これで一件落着か―――そう思って振り向いた俺は、視界に入った兄貴の表情に首を傾げていた。

地面に落ちていた金属の球体を拾って、何やら複雑そうに顔をしかめている。



「兄貴、どうかしたのか?」

「……何でもねぇよ。とにかく、公爵家に向かうぞ」



 表情は変えぬまま金属球を持ち、そして槍に執事を引っ掛けて持ち上げながら兄貴は踵を返す。

そんな兄貴の様子に疑問を抱きつつも、俺たちはその背中を追ったのだった。











《SIDE:OUT》





















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