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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
139/196

133:戦争の気配

記憶の足跡こそが、世界の真実へと繋がる。












《SIDE:REN》











 ミナの為とか、仲間達の為とか……この貴族って言う身分は色々と便利だけれど、それを差し引いてもやっぱり面倒だ。

まあ、ここを取り仕切ってるガラント伯は俺達にも好意的に接してくれる人物だし、まだ良かったんだけどな。


 俺は今、煉瓦の街並みの中を歩いている。

立ち並ぶのは皆赤茶けた建物ばかりだが、日本では見かける事の無かった光景に、俺は少しだけ心踊るのを感じていた。

この世界に馴染んできたとは言え、やっぱり初めて訪れる場所は見たこと無い物だらけなんだよな。


 しかし、街中の様子はどこかピリピリしている感じだった。

やはり、戦争の話は伝わって来ているんだろう。近くの農村から避難して来た人達もいるし、噂はすっかり広まってしまっているみたいだ。

まあこれに関しては、今となってはむしろ積極的に広めて貰った方がいいだろう。完全に不意打ちでパニックになられた方が困る。



「戦争か……」



 元の世界―――と言うか、日本ではまるで縁の無かった話だ。

俺達の世代は完全に平和な日常を生きていたし、そんな大きな殺し合いなんて現実味の無い話だった。

そんな俺達が、まさか戦争の当事者になるなんてな。



「……まあ、今更って言えば今更だがな」



 思わず、小さく苦笑する。

この世界に来てから、非日常的な体験なんて腐るほどしてきたんだ。それの延長線みたいなものだろう。

俺のやる事は変わらない。ただ相手を見つけて、引き金を引くだけだ。

標的に対する思い入れとか、そんなものは全く必要ない。

……まあ、思い入れがある相手が居ちまってる時点で、スナイパーとしては失格なのかもしれないが。



「……蓮花」



 水淵蓮花。ディンバーツ帝国の第二師団師団長。邪神ダゴンをその身に宿す存在。

そして、俺達と同じ……《神の欠片》を持つ、異なる世界から導かれた少女。

世が世なら、争う事などなく、仲間になっていたであろう人物だ。

タイミングが悪かったんだろう。けれど、それの所為でこんな形でしか向かい会えなくなってしまったのは、不幸だった筈だ。

でも―――



「俺が必ず、お前を殺す」



 それだけは、絶対に譲れない。決めていた事だからだ。

あいつを倒すのは、俺だと―――俺以外には、認めないと。

仲間である事ができなかったのは残念だが、それとこれとは話が別だ。



「……ん?」



 と、ふと道端に開いている露店のようなものを見つけ、俺は目を瞬かせた。

そこに座っている店主らしき男性は、設置したイーゼルで絵を描いていたのだ。



「へぇ……この世界でも、こういうのあるんだな」



 元の世界では、よく駅前とかでこういう人々を見かけていた。

自分で描いた絵を売ったり、ストリートミュージシャンとして歌ったり……意外と、そういうのは変わらないモンなんだな。

何となく懐かしさから興味を引かれ、並べられている絵へと視線を向ける。

どうやら、普通の風景画のようだ。



「お、これはフェルゲイトか……」



 見覚えのある白亜の城の姿に、俺は思わず笑みを浮かべる。

こうやってこの世界の地名を思い浮かべる事ができるようになるほど、俺もこの世界に馴染んできたって事だろうか。

と、そんな時―――



「……え? こ、れは……!?」



 俺は、目に留まった一つの絵画に描かれた光景に、思わず驚愕の声を漏らしていた。

これは、この景色は、間違いなく―――



「な、なあ店主!」

「ん、何だい? 気に入ったのが見つかったのか?」

「これ、この景色! これは何処で描いた物だ!?」



 俺が指差したのは、真円の月と小高い丘を描き出した一枚の絵画。

行った事も無く、見た事も無い筈なのに……俺は何故か、この情景を知っていた。

そう、あの日……蓮花と再会する直前に脳裏に浮かんだ、あの光景だ。



「ああ、これかい。こいつはこの近辺だよ」

「この辺りに……それ、何処だ!?」

「あ、ああ……」



 俺の剣幕に押されたように、店主は頷く。

かなり引かれちまってる気はするが、今はそんな事を気にしている場合じゃない!

その場所に行けば、俺とあいつの間にある何かについて、分かるかもしれない。

店主は自分で描いた絵を見てしばし考え込んだ後、とある方角を指差しながら声を上げた。



「ここから西に行った辺りにある、小高い丘だ。中々見晴らしが良くてね、遮るものも無いから、空を描くにはぴったりの場所なんだ」

「西か……ありがとう! こいつはとっといてくれ!」

「え、お、おい!?」



 店主への礼もそこそこに―――ポケットの中にあった小銭を投げながら―――俺は西の方角へと走り出した。

半金貨一つ入れていたような気がしたが、この際もうどうでもいい。

今はその場所に行ってみなければ……何があるかも分からないが、それでもそこに行かなければならない気がしている。


 ぶつかりそうになる人々を躱しつつ、俺は街の外へと走って行った。





















「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」



 膝に手を当て、荒い息を整える。

見えてきた丘を前に、俺はようやく足を止めて一息ついていた。

魔術式メモリーぐらい使えばよかったかもしれない……それぐらい一心不乱に走って来てしまっていた。

と―――そんな俺に、ふと背後から声がかけられる。



「よーやく止まったわね……アンタ、一人で街の外に出て何やってんのよ?」

「え……フ、フリズ!? どうしてここに!?」

「どうしてって……あんたが走ってるのを見て追いかけてきたからに決まってるじゃないの。

途中で声をかけたのに反応しないし、何やってたのよ?」



 若干不機嫌そうな様子で、声の主―――フリズは肩を竦める。

どうやら、ずっと無視され続けていたのが気に入らなかったらしい……俺はそれほどまでに必死になってたって事だろうか。

少し悪い事をしたかもしれないと、俺は小さく苦笑した。



「悪い、ちょっと気になった事があってな」

「『ちょっと』程度であそこまで必死になるとは思えないけど……まあいいわ。それで、何があったの?」



 不機嫌そうな様子は消し、フリズは小首を傾げてこちらに近寄りながら問いかけてくる。

さて、これはどう説明したもんかな……我ながら、無茶苦茶である事は自覚してるし。

けどまあ、ありのままに伝えるしかないか。



「前にあっただろ? 俺が喋った覚えも無いのに、皆がミナの秘密を知っていたって事が」

「ああ……未だに原因が分からないのが気持ち悪いけど、それで?」

「それとは違うけど、俺にも似たような事があったんだ。蓮花と出会う前に、突然フラッシュバックした光景が……それが、ここなんだ」



 後ろにある丘を示しながら、俺はフリズにそう告げる。

若干訝しげな表情を浮かべてはいたが、フリズは小さく肩を竦めて頷いた。

自分にも身に覚えのある事だった為か、割とすぐに納得する事が出来たらしい。



「ここが……でも、どうしてそれが分かったのよ?」

「ああ、街で絵を描いてる人を見かけてな。その人に、教えて貰ったんだ」

「……成程ね」



 そう呟き―――フリズは、深々と嘆息を漏らした。

そして、その俯かせていた視線を細め、じろりと俺の瞳を睨んでくる。

思わず一歩後ろに下がると、フリズはそのまま腰に手を当てつつ声を上げた。



「いい、煉? あたし達は、この世界に隠された秘密をかなり知っている方の人間だと思うわ。

それこそ、二千年前から生きてるアルシェールさんすら知らないような事まで知ってる」

「あ、ああ……」



 それはまあ、分かってる。

俺達が持っている力の事を知っている者は殆どいないし、それがどういう経緯で生まれたのか、どのように成長していくのかを理解している奴だってまず存在しないだろう。

けど、それがどうしたって言うんだ?



「でもね、それでもこの世界には、あたし達がまだ知らない謎がいくつも残ってるのよ。

アンタの言う、あたし達の記憶の事だってそう。本当に、何が隠されてるか予想もつかない」



 それも確かにその通りだ。

俺達はこの世界に隠された謎をいくつも聞かされてきたが、それでもまだ知り得ない事はいくつもある。

けど、それぐらいは俺だって承知の上なんだがな……一体、何が言いたいんだ?

俺が要領を得ていない事を察したのか、フリズはイライラした様子で地団太を踏みながら声を上げた。



「あーもう察しが悪いわねアンタは! いい、アンタの言うその場所は、その秘密に繋がるような場所かもしれないのよ!?

つまり、何がいるかも分からないし、何が起こるかも分からない。不測の事態が起こった時、アンタ一人で対処するつもり!?

自分一人で何でもやろうとするんじゃないって、この前言ったでしょうが!」

「っ……心配、してくれてたのか」

「だー! そうよ、悪い!?」

「いや、悪くは無いけどよ」



 顔を紅潮させながら叫ぶフリズに、俺は思わず苦笑する。

さっきから何となく遠回しに言ってたのは、あの時の事を思い出さないようにする為だった訳か。

しかしまぁ……確かに、フリズの言う通りだな。

あの時、俺達全員で戦って、幸せな未来を掴むと誓った。それなのに先走っちまってたのは事実か。

けど―――



「確かに、お前の言う通りだった。それは謝る」

「……いやに素直ね、アンタ」

「けど、これは俺にやらせて欲しいんだ」



 そう告げた言葉に、フリズが目を見開く。

けれど、次に口を開けば確実に罵声が飛んでくるだろうし、ここは先に言わせて貰おう。



「皆でやるべき事だって言うのは分かってる。けど、これは蓮花に関する事なんだ。

あいつとの決着は、俺自身の手でつけたい……だからこれも、俺が何とかしたいんだ。頼む」

「……男って奴は、どうしてこう……ハァ、分かったわよ」



 真っ直ぐと瞳を見つめて言い放った言葉に、フリズは深々と嘆息しながら相好を崩した。

その顔に浮かんでいるのは、どこか困ったような笑みだ。

ちっと勝手過ぎたかもしれないが……どうやら、認めてくれたみたいだな。



「でも、アンタ一人じゃ手に負えないと思ったら、問答無用で手を出すからね。

いくらあんたの頼みでも、アンタの命が危険に晒されるような所を黙って見てるつもりは無いわ」

「……まあ、それぐらいなら仕方ないか。分かった、迷惑かける」

「自覚してるんなら止めなさいってのに……面倒な性格してるわよね、男って。いや、アンタ達が特別変なのか」

「……色々と辛辣だな、お前」



 思わず、小さく嘆息する。

けどまぁ、折角認めてもらったんだ。ここはこの機会をしっかりと活用させて貰うとしようか。

とりあえず目指すは、この丘の上かな。



「とりあえず、上ってみようぜ」

「ええ、そうね……一応、警戒はしとくわよ」



 敵がいる気配もないし、妙な魔力も感じないけれど……一応、何かありそうな場所だって言うのは事実だしな。

俺も、いつでも銃を抜けるような状態にしておく。

視界はかなり開けてるし、危険があったらすぐに気付けるとは思うけど。


 とりあえず俺達は視線を合わせて頷き合い、ゆっくりと短い草に覆われた丘を登ってゆく。

特に何も無い……周囲も、まだ俺の記憶にあるような景色とは一致しないな。

けど、ここに何かがある―――そんな確信だけが、俺の中にあった。


 ―――そして、頂上まで上りきる。



「うわぁ……」



 それと同時、フリズが感嘆の吐息を漏らしていた。

近くに高い木々や建物も無いおかげか、周囲は景色を遮る物が無く、そこにはただただ広い遠景が広がっていた。

遠くに見えるのは街道や森、そしてその向こうにある山々。

反対側を向けば、アルメイヤの街が見えていた。



「……記憶にある光景は夜だけど、確かにここだ。俺はここで、満月を見ていた」

「一体、いつの事なのよ?」

「それが分かったら苦労しないって……けど、ダメだな。これだけだと何も思い出せない」



 何となく記憶の片隅に引っかかる物を感じてはいるんだが、詳しい事は何も思い浮かばない。

ここで一体何があったのか、何故この場所の記憶を持っていたのか……それは、完全に謎のままだ。

何と言うか、思い出せそうで思い出せない気持ち悪さがある。



「思い出せないなら、どうするの? ここで何かやったら思い出せそうとか、そういうのでもある訳?」

「いや、さっぱり……精々、満月の夜にここに来てみるぐらいしか思いつかないな」

「満月ね……大体、一週間後ぐらいだったかしら」



 そういえば、確かに月は結構大きくなって来ている頃だったな。

それだったら、その時にもう一度ここに来てみればいいか。

幸い、しばらくはここに滞在する事になりそうだしな。

もう一度ここに来る覚悟を固めていたその隣で―――フリズは、半眼で俺の方を見つめていた。



「言っとくけど、その時もちゃんとあたしは連れて行きなさいよ。一人で何とかしようとするのは認めないからね」

「ああ、分かってるさ。無茶をするつもりは無いって」

「どうだか……蓮花のお誘いなら、勝手に行っちゃうでしょうに」

「う……」



 それは流石に否定できないな……って言うか。



「お前、今日はやけに絡んでくるな……しかも今の、何か嫉妬してるような感じに聞こえるぞ」

「な……っ!? だ、誰が嫉妬なんかッ!?」

「……ホント、分かりやすい反応というか何と言うか」



 コイツは一々反応が読みやすくて面白いな。

まあ、加減を誤ると暴走し始めるから注意が必要だが。

既に髪の毛を逆立て始めてるし、そろそろからかうのは止めておくか―――と。



「ん……?」

「何よ、何かあった訳?」

「いや、ちょっと」



 ゴーグルを掛け、感覚強化の魔術式メモリーを唱える。

向くのは右側―――街の位置から見て、北の方角だ。

その先に、何か見えたような気がしたのだが―――



「……煙?」

「え?」

「かなり向こうだから、肉眼で見るのは難しいと思うが……あっちの森の向こう側から、煙が上がってるのが見える」



 感覚強化つきでも微かにしか見えない辺り、かなり遠くの場所だ。

まだ百キロ以上は離れているのではないだろうか。

手で影を作って目を凝らしながら、フリズは首を傾げる。



「森の方で煙って、火事でも起こってるの?」

「いや、煙は黒くない……白の煙だ。火事じゃない感じだな」

「……判断しづらいわね。一応、いづなに報告しに行った方がいいんじゃないかしら?」

「そうだな……よし、戻ろう」



 いつまでもこうしていても仕方ない。

あそこはディンバーツ帝国領内だし、俺達が手を出す必要も無いだろうが……何か異変があったとなれば、いづなに知らせておくべきだろう。

何もせずに見ているだけよりは、よっぽどマシだ。


 俺とフリズは頷き合うと、二人で街の方へと戻っていった。

……まあ、フリズはその後、デートしていたのかとからかわれる事になったのだが。











《SIDE:OUT》





















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