表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
135/196

129:父への想い、国への怒り

「これも、一つの幸せなんだろう。でも、あたしは満足しない」











《SIDE:FLIZ》











 最終調整の話し合いの日。

蓮花の転移に備えて会議の場を結界の張られた例の神殿へと移し、話が続けられている。

ただし、警備として呼ばれたあたし達は神殿の中には入れなかったのだけど。



「……これ、警備の意味あるのかしら?」

「ど、どうでしょう……?」



 まあ、マリエル様にはいづなが付いてる訳だし、そこまで心配する必要は無いと思うけど。

そもそも、転移が出来ない以上は普通に忍び込むしか方法は無い訳だし、つい先日失敗したばっかりなんだから、そうそうすぐに攻めてくるとも思えないけど。

まあ、念には念を入れておくべきって言うのは確かなんだけどね。


 あたしと桜がここに選ばれたのは、最終防衛ラインだって言う事と、他に異変があってもすぐさま駆けつけられるからっていう理由がある。

桜は遠く離れた場所でも攻撃できるし、あたしは位置さえ教えてもらえればすぐにでも駆けつける事が出来る。

まあ、移動の際には注意しないといけないけど。肩がぶつかっただけで人が死ねるもの。

一応移動時の衝撃波は抑えているんだけど、それはどうしようもない。


 正直な所、あたしはあたしの幸せを奪ったグレイスレイドの人間を護衛する気は無い。

まあ、ミナのお姉さんだって言う聖女様に関してはそうでもないんだけど……教皇は嫌いだわ。

お父さんが死んでしまったあの事件の時、調査不足であった事に関しては、別に教皇の責任だって言う訳じゃないと思ってる。

そこまで恨んでるって訳じゃないし、別にどうだっていいと思ってるだけだ。

でも、あたしをグレイスレイドの人間として引き抜こうとした事―――アレだけは、許せない。

いづなが煉の耳には入らないように注意しながら教えてくれたんだけど……あの教皇、あたしやお母さんがグレイスレイドの人間だから、グレイスレイドの軍に入るべきだ、ですって!?



「……ッ!」



 桜には見えないように拳を握り、唇を噛む。

お父さんが護ろうとしていた国だもの、確かに協力はしていたわよ。

そこにいるだけで効果があるって言われたから、極力ファルエンスから離れないようにしていたわ。

でも、あたしたちはグレイスレイドの言いなりになっていたつもりなんて無い。

向こうが頭下げて協力してくれって言ったから、力を貸していただけだ。

それを……お母さんが倒れた途端に、偉そうに!



「……ねえ、桜」

「はい、何ですか……?」

「聞くべきじゃないかもしれないけど……故郷に思い入れとか、ある?」



 あまり聞くべきじゃないと、暗黙の了解になっている事柄。

特に誠人の前じゃ、殆ど禁句扱いされている言葉。

でも……聞いておきたかった。

そんなあたしの内心を察してくれたんだろう。桜は少しだけ目を見開いて沈黙した後、おずおずと声を上げた。



「私は……あまり。両親にも疎まれていましたし、友達もいませんでしたから……」

「そっか……ゴメン、あたしはまだマシな方だものね」



 あたしよりも、桜の方が辛かった筈だ。

向こうの世界では椿以外には誰からも必要とされず、殺されかけながらこの世界に来る事になって、挙句改造なんてされた。

普通に暮らしていたあたしより、遥かに辛い経験をしていた筈だ。



「……あの、フリズさん」

「ん、何?」

「私は、今は幸せだって……そう、思います。私を、大切に思ってくれる人がいるから。だから、普段から『幸せになりたい』って思ってる訳じゃありません」

「え?」



 思わず、首を傾げる。

確かに桜からすれば、昔と比べて今は幸せなのかもしれないけれど。

でも、どういう事なのかしら?



「勿論、人は誰だって幸せになりたいと考えます……でも、普段からそれを意識している人は、殆どいないんですよ?」

「普段から、って……」



 あたしは確かに、いつも幸せになりたいとは思ってる。

それこそがあたしの願いだし、あたしの見出した価値の先に目指すのはその光景だ。

あたしは、その少数派だって言う事?


 桜は目を瞑り、小さく息を吐き出しながら続ける。



「心の底から幸せになりたいと思う人は、本当に辛い経験をして……そして、今でも苦しみ続けている人だけなんです。

それなのに、幸せになる事が出来た私が気遣われてしまったら、私の立つ瀬がありません」

「え、えっと……」

「だから、私の事を気遣う必要は無いんです……フリズさんは、フリズさんが幸せになる為に努力する事だけを考えてください」

「ご、ごめんなさい」



 まさか、そんな風に怒られるとは思ってもみなかったわ。

で、ええと……何の話だったんだっけ?

ああ、そうだ。故郷の思い入れの話だ。



「えっと、それで話を戻すけど……」

「はい、故郷の話でしたよね……それで、何ですか?」

「うん。あたしはさ、このグレイスレイドで生まれ育った訳でしょ?」



 この世界に転生してから、あたしはグレイスレイドで生活してきた。

だから、決してあのファルエンスの街に愛着が無いって言う訳じゃない。

でも―――



「それでも、あたしはこの国を好きになれなかった……ファルエンスは宗教色も薄いド田舎だったし、こういう首都に近くなった辺りの事は遠い話だったから、尚更ね」

「……無理は、無いと思います。フリズさん、意識は日本人ですし……」

「まあ、ありがちな無宗教人間だったからねぇ」



 或いは、多宗教人間と呼ぶべきなのかしら?

とにかく、ああいう風に教義に従うだの何だのって言うのは、馴染みの薄いものだった。

だから、元々どうにも胡散臭い印象ばかりを受けていたし、それにお父さんの事も重なってからは、国の事なんて胡散臭いとしか思っていなかったわ。



「……お父さんが命を懸けて護っていた国だって言うのは、分かっているのよ。お父さんがこの国の事を好きだったのだって理解してる」



 物心つく前に死んじゃったけれど、幼い頃の曖昧な記憶に、お父さんがこの国形式の祈りを毎日捧げていた事を覚えている。

お母さんは決してやろうとはしなかったけれど。



「だから……この国の事は好きにはなれなかったけれど、嫌いにもなれなかった。

ううん、嫌いになりたくなかったんだと思う。大好きなお父さんが、大切にしていた国だから」

「……はい」

「でも―――」



 教皇は、あの男は……お母さんが倒れても、何も言わなかった。

直接顔を合わせてないから言っていないだけかもしれないけれど、いづなの話を聞く限りじゃ、あいつはあたしとお母さんの事をただの戦力としか見ていなかった事になる。

それが、許せない。



「この国を、嫌いになりたくない。そう思ってはいるのに、この国を許せなくなりそう。そんなあたしが、あたし自身が嫌なのよ」

「……無理も、無いと思います。期待していた事を裏切られるのは、辛い事ですから」



 あたしは、期待していたのだろうか。

お父さんの死を謝罪してくれる事? それとも、お母さんが倒れてしまった事を慰めてくれる事?

確かに、期待していたのかもしれない。そうしてくれていたのなら、この国を好きになる事が出来たかもしれないから。

でも―――そんな言葉は、一つも無かった。

期待していたかどうかはともかく、あたしはその時確かに失望していたのだろう。



「ホント……何なのかしらね。お父さんはずっと、あんな奴の下で働いてたのかしら」



 その結果あんな風に死んでしまったんだとしたら、あたしは本当にこの国を許せなくなってしまいそうだ。

それで自己嫌悪してるんだから、本当にバカみたいだけど。

嘆息しつつ、一歩二歩と前へ―――特に意味は無い。目に付いた小石を蹴っ飛ばしに行っただけだ。


 と―――



「フリズさん、らしいです」

「え、何が?」



 クスクスと響いた笑い声に、振り返る。

見てみれば、桜は口元に手を当て、淡い笑みを浮かべていた。

かつて、初めて出逢った時、顔に貼り付けていたような歪んで濁った笑みとは違う、純粋で澄んだ笑顔。

桜は本当に、今幸せなんだな、と―――そう、納得させられた。

何だか、ちょっと悔しいかもしれない。


 まあ、それはともかく―――あたしらしいって、どういう事だろう?



「結局優しくて、人を見捨てられない所……凄く、らしいなって」

「へ? い、いや……どこが?」

「この国の事……見捨てたく、ないから……だから、苦しんでるんですよね」

「い、いや。そんな大層なモンじゃ―――」



 無い、と、思うんだけど……こう断言されると、自分でも自信なくなってきたわね。

あたしは、お父さんが好きだった国を嫌いになるのが嫌なだけで、国を見捨てるだの何だの、そういうスケールの大きい話じゃないつもりだったんだけど。

でも、そういう風に言われるとそう思えて来てしまうから不思議だ。



「嫌いになりたくないのなら、無理に嫌う必要なんて無いんです……その分、きっと皆が嫌いになってくれますから」

「い、いや、それってどうなのよ?」

「だって、フリズさんを無理矢理引き抜こうとしたんですから……そりゃあ、怒ります」



 まあ、あたし達は全員揃っていてこそって言うのは分かってる。

更に、あの独占欲の塊の耳に入ったら、我を忘れるほど怒り狂うであろうことも理解してる。

確かに、皆この国の事を嫌いになりそうだけど―――



「でもきっと、この国全てが嫌いなんじゃありません……ファルエンスの人々や、聖女様……好きだと思う人は、皆にもいます……」

「……それじゃあ、何? 教皇だけ嫌いになれって事?」

「むしろ、フリズさんを連れて行こうとした人達全員ですね。そういう人たちは、私達皆で嫌ってやりましょう」

「……あはは」



 成程、そりゃ強烈だわ。

こんな人外みたいな力を持った連中に嫌われたら、そりゃあ気が気じゃないでしょうね。

そっか、相手が国のトップの辺りの人間だから、国を丸ごと嫌いそうになってた訳か……そうね。別に、この国の人間であるおっちゃんを嫌いになれる訳じゃないし。



「好きな奴は好き、嫌いな奴は嫌い……それでいいって事ね」

「はい。煉さんの事、私達の事……そして、この国の大切な人達の事。そういう人達の事を好きならば、それでいいんですよ」

「いや、何でそこで煉が最初に来るのよ!?」

「ふふ……他意は無いです」



 ぅあー! 傍観派だった桜にまでからかわれるなんて!

相手が桜だから、あたしの失言拾って更にからかうような真似はしてこないけど……うう、安息の地が無くなってゆくー!

と、頭を掻き毟って身体を捩るあたしを見つつ、桜はふと疑問の声を上げた。



「そう言ってますけど……フリズさん、煉さんの事は好きじゃないんですか?」

「い、いや……好きか嫌いかで言われりゃ、そりゃ好きな方だけどさ……」



 元々煉はライバルとか、喧嘩友達とか……そういう方面で見ていたから、恋愛対象とか言う意識は無かったのだ。

それがいきなりああいう態度を取り始めたから、こっちは混乱してるのよ。

そりゃまあ、大切な仲間だとは思ってるし、好意を向けられて嫌な感じがするって訳でもないけどさ。



「あいつは、何て言うかこう……放っておけないじゃない? だからつい気にかけちゃうと言うか」

「母性をくすぐられるのとは別の方向で放っておけないと言うか、危なっかしい感じのような気はしますけど……」

「うん、まあそれは確かに」



 悪いけど否定できないわよ、煉。

って言うか、アンタはあたし達の中でも随一の危険人物だし。

まあ、決して悪い人間って訳じゃないんだけどさ。



「だからこう、放って置くと何しでかすか分からないから目を離せないとかそういう感じなのよ!

あたしが引っ張って行ってあげないと、何処に行くか分からないじゃない。ほら、好意とは色々と違うでしょ?」

「……ぇと、何と言うか……」



 ん、何か言いづらそうな感じだけど、どうかしたかしら?

桜は小さく苦笑すると、おずおずと声を上げた。



「どちらも我が強くて、性格が対立してるのに……引っ張っていこうとするには、流石に好意的な感情が無いとやる気にならない気がするんですけど……」

「え?」

「えーと……その、多分私には無理です。あ、いえ、煉さんの事が嫌いなんじゃないんですけど……あの人の性格を知りながら、真っ直ぐぶつかっていくのは、多分無理……」



 え、何? あたしがおかしいの、これ?

い、いや、好意的な感情だから。好意そのものだとは言ってないから、うん。



「ま、まあ、あれよ。あいつの事はいい奴……ではないわね。ええと、悪い奴では無いと思ってる訳だし、好意的な感情は持ってるんじゃないかしら?」

「じゃあ、好きなんですか?」

「違うから! 好意じゃなくて好意的だから!」



 だから、あたしとあいつはそういうのじゃないって!

そもそも、世が世なら敵対してるような奴なのよ、あいつは。

桜は何だか納得できないような表情で首を傾げているけど、納得出来ないのはこっちの方よ。



「……まあ、とりあえずはそういう事に……」

「とりあえずじゃない……あ、もういいわ。泥沼にしかならない気がしてきた」



 そうか、こういう事なのか。適度な所で引っ込まないからいつもからかわれるのか。

いづなの奴は毎日毎日こうやってあたしを弄ってた訳ね。ちくしょう。

思わず、あたしは深々と溜め息を吐いていた。



「まあ、でも―――」

「まだあるの……?」



 桜が発した言葉に、あたしは胡乱な視線を向ける。

そういやそうね、あたしが下手に突っ込まずに身を引いたとしても、向こうから勝手に話を続けてくるわね、いづなとかの場合。逃げ道とかないじゃないの。

そんなあたしの様子に、桜は苦笑しながら声を上げる。



「あれだけ熱烈に求愛してくれている訳ですし……ちゃんとした答えは、考えておいた方がいいのかもしれないですよ」

「え……」

「まあ、今は立て込んでますから、落ち着いたらでいいとは思いますけど」



 ちゃんとした答えって……あいつ、返答とか求めてないような気がするんだけど。

でも、確かにそうなのよね。このままだとスッキリしないのは確かだわ。

けど―――ど、どうしたらいいのかしら?



「うう……」

「んー? 何悩んどるん?」

「そりゃ、煉への返答……って、いづな!?」

「ぁ……お疲れ様、です」

「ん、二人もお疲れ様やね」



 突然聞こえた声に振り向けば、そこにはいつの間にかいづなが立っていた。

ヒラヒラと手を振りつつ苦笑し、いづなは声を上げる。



「それで、煉君への返答って……フーちゃん、ついに告白するん?」

「違うでしょ!? 向こうがして来てるんでしょ!?」



 会話になって一言目がそれか!

何か最近、あたしをからかう事に命賭けてるんじゃないの!?

……何か、あながち冗談にもならなそうで困るわ。

とはいえ、あたしだって学んでいないわけじゃない。こういう時は下手に突っ込まず、話題を変えるのが吉!



「―――で、話し合いはどうなった訳?」

「ああ、色々と条件だの何だのはあるんやけど、まあ一般的な軍事同盟の形に収まったと思うで。

流石に友好としての同盟は、違う宗教しとる国同士やと難しいやろうしね」

「とりあえずは協力し合えるって事ね」



 まあ、安心かしら。

とりあえず、これで帝国との戦いに備える事が出来る訳ね。

ふと後ろを振り向いてみれば、改めて握手を交わしているマリエル様と聖女様の姿があった。



「……ッ!」



 ―――そして、その傍らに立つ教皇の姿も。

思わず、唇を噛む……この国を嫌いになる必要はないという結論は出たけれど、やっぱりあの男は許せない。

けれど、怒ったって何にもならないのだから……落ち着こう。

目を閉じて息を吐き出し、意識を鎮め―――ようと、していたんだけど。



「フリズ・シェールバイト! おお、話に聞いていた通り、カレナ・シェールバイトの生き写しだ」

「……向こうから来るか」



 目を開ける。見れば、教皇は笑みを浮かべながらこっちの方へと歩いて来る所だった。

とりあえず、まだ落ち着いてはいられる。けど、余計な事を言われて冷静でいられるかどうかは、正直分からないわね。

教皇は人の良さそうな笑みを顔に張り付かせ、上機嫌に声を上げる。



「出会えて嬉しいぞ。今回は大変な事になってしまったがな」



 笑顔で話すな、と言いたい。

その『大変な事』の中には、うちのお母さんの事だって含まれてるんだから。

教皇の後ろでエレーヌが睨んでるけど、正直どうでもいいわ。

こいつらの事は、もう気にしない。


 もう、どうでもいい。あたしが好きなグレイスレイドと、こいつらとは関係ない。



「さて、ところで―――」

「一介の傭兵でしかないあたしに話しかけていては、周囲に何を言われるか分かったものじゃありませんよ」



 教皇の言葉を遮り、あたしはそう声を上げる。

どうせ口から出てくるのは、国に戻る気はないかとかそういう話だ。

そんなもの、今のあたしにとっては欠片も興味無い。

あたしの言葉に、教皇の表情が一瞬揺れたが、彼はすぐさまそれを取り繕った。

まあ、国の上層部に立つだけはあるんでしょうね。



「……君の父親がかつて率いていた部下達に会ってみる気はないかね? 君の事を知っているよ」

「興味ありません。騎士団の人間が相手だと、学べる事は無さそうですから」

「そうか……ところで、君は何故傭兵を? 金が必要なのかな?」

「いいえ、別に。やりたいからやっているだけです」



 今はお金に困ってる訳じゃないし、稼ごうと思えばいくらでも稼げる。

正直、今の状態ならばどんな魔物退治だってこなせるだろう。

それこそ、ドラゴン退治だって行ける筈だ。

お母さんの治療費でお金を取られる可能性はあるけれど、それだってどうとでもなる。



「しかし、もう少し安定した職業に就くべきでは―――」

「今でも十分安定しています。仲間がいますから」

「仲間?」

「あたしは、仲間達の元から……煉の元から、離れるつもりはありません」



 仲間と一緒にいてこそ、一緒に戦ってこそ意味がある。

それに、煉はあたしが見ていないと、どんな風に転んでしまうか分からない。

あたしが、目を離さないようにしていないと―――と、そう思いながら視線を上げると、何故か教皇が驚愕の表情のまま硬直していた。

え、何?


 思わず首を傾げて周囲に視線を向けると、苦笑している桜とにやりと笑っているいづなの顔が目に入る。

そして、その向こう―――こちらへと歩いてくる、煉と誠人の姿を発見した。

うわ、よりによってこのタイミングで……大丈夫かしら。



「おーい、話は終わったんじゃ―――」

「き、貴公! 貴公が、レン・ディア・フレイシュッツ卿であったな!」

「え? あ、はい」



 そしてあたしの視線の先を追った教皇が、煉の姿を発見してしまった。

会話になっちゃったけど、これ本当に大丈夫な訳?

気になりながらいづなの表情を伺ってみると、若干緊張しているようなものの、先ほどの笑みを浮かべたままだった。

いづなはそんなに気にしてないのかしら、この状況―――



「き、貴公とフリズ・シェールバイトは―――」

「はぁ、フリズは俺のモノですが」

「って、だからアンタは堂々と公言すんな!」



 よりにもよって国のトップの前で!

いい加減恥ずかしいって事を自覚しなさいよ、あたしばっかり恥ずかしがってるじゃない!

……って違う、恥ずかしいんじゃない! あたしは怒ってるの!



「そ、そうか……失礼したな」

「って、あれ?」



 もう一言ぐらい文句を言ってやろうとした所で、教皇はなぜか意気消沈した様子で踵を返した。

エレーヌがこっちに一回鋭い視線を向けてから去ってゆくけど……訳が分からず、あたしは首を傾げながらいづなに尋ねる。



「……あれ、どういう事?」

「やー、離れたくないとはお熱い事やね。しかも煉君もばっちり応え、さらにはフーちゃんも恥ずかしくて真っ赤になっちゃって。もう末永く幸せになりゃええんやないの!?

……とまあ、傍から見ててそんな感じやったけど?」

「……は?」



 思考が停止する。

え、いや、ちょっと待って……えええええ!?



「い、いや、あたしはそんなつもりで言ったんじゃ!」

「受け取り方は向こう次第やって。やー、国のトップの前で熱愛宣言とは……大胆やねぇ」

「だから違うー!」



 さ、さっきせっかく話題を回避したのに、何でこんなに状況が悪化してるのよ!?



「まあまあ、諦めてくれたっぽいし、ええんやないの? 婚姻は神聖やって、前にも言ったやろ?」

「……何がどうなってんだ、一体?」

「あ、実は―――」

「説明すんなー!」



 あーもう、何でこうなるのよ!?

とにかくいづなを黙らせるため、あたしは拳を握り締めるのだった。











《SIDE:OUT》





















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ