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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
133/196

127:一先ずの収束

けれど、それは仮初の平穏に過ぎない。











《SIDE:MINA》











 シャルシェントの神殿の中。

強力な結界が張られており、邪神の眷族は近付けないと言うこの場所に、わたし達は避難して来ていた。

他宗教の人間は入れたくないらしいけど、緊急事態だからしょうがない、らしい。



「……」



 その中で、わたしは静かに目を瞑って待っていた。

今、わたしは皆に回帰リグレッシオンの力を繋いでいる。

皆がわたしに声を伝えようとすれば、すぐに聞こえるように。

繋がっている事に気づいているかどうかは分からないけれど、この力が繋がっている限り、皆は無事。

だから、安心できる。


 と―――



『わう、ミナ』

「リル……ありがとう」



 一番最初にわたしに声を飛ばしてきたのは、皆ではなくリルだった。

というのも、わたしはリルにあるお願いをしていたから。

今日は、そのお願いが果たされるような事は無かったけれど。



「レンは、大丈夫だった?」

『わふ』



 姿は見えないけれど、リルが頷いた気配が、力を通して伝わってくる。

力が繋がっているのだから大丈夫だって分かっているのだけれど、それでも気にせずにはいられない。

わたしには、レンがいないとダメだから。



「……また、お願い。ホントは、やっちゃいけない事かもしれないけど」

『わぅ……わかった』



 リルがわたしの言う事を聞いてくれるのは、ジェイがそういう風に言っておいてくれたから。

わたしがしたのは凄く無茶なお願いだったけれど、リルは頷いてくれた。

それは、ジェイの願いを叶える事でもあったから。



「それじゃあ、また後で……レンから、目を離さないでね」

『わう!』



 リルは元気良く頷いて、交信を終了する。

今回は、レンは大丈夫だった。でも、いつ危険な事になるか分からない。

レンがいなくなってしまったら、わたし達は勝てなくなってしまう。

だから……お願い。



『―――おーい、ミナ。聞こえるか?』

「……レン」

『お、良かった。そっちも無事だったんだな』

「ん……他の、みんなは?」

『ああ、全員合流したよ。いづなはそっちにいるんだろ?』

「ん」



 コクリと頷いて、わたしは後ろの方へと視線を向ける。

そこには、マリエル様やゼノン様と話をしているいづなの姿があった。

忙しそうだけど、いづなも心配してる。伝えないと。



「いづな」

「ん……ミナっち? どないしたん?」



 わたしが声を掛けると、いづなはすぐに反応してこっちへと走ってきた。

やっぱり、気にしてたみたい……さっきの話は、聞かれていなかったみたいだけれど。

……とにかく、この事を伝えよう。



「レンから、連絡。皆と合流した、って」

「お、さくらんもおるん?」

「ん」



 サクラの心も、レンのすぐ傍から感じる。

レン、マサト、フリズ、サクラ、ツバキ……全員、揃っているみたい。

とりあえずは、安心。



『で、ミナ。何処に向かえばいい?』

「……街の中心の神殿―――」

「あ、ミナっち、ちょっと繋いで貰ってええ?」

「ん」



 いづなの言葉に頷き、わたしは回帰リグレッシオンの力の範囲を更に広げる。

《欠片》を通して、自分がわたしの力の影響下に入った事を感じたんだろう。

いづなは小さく頷くと、遠くはなれた場所にいるレン達へと声を上げた。



「皆、大丈夫なん?」

『……いづなか。ああ、全員問題ない。ほぼ無傷だ』

「……そか」



 いづなの心が安堵に満たされる。

それと、誠人の声を聞くことが出来た嬉しさのような物。

けれど、いづなはそれらの感情をしっかりと制御していた。



「えーと、とりあえず神殿の前までは来れると思うんやけど、恐らく入れへんから、うちらの方から出迎えるわ」

『入れないって、どういう事よ?』

「ここ、宗教的に結構重要な場所やから。他宗教や身元不明の人間やとは入れへんよ。

まあ、煉君は身元不明って訳や無いけど……身分を証明できひんと、ただの侵入者やからね」

『……了解』



 力の向こうでレンが頷いた気配。

それに続くようにわたしも頷き、それを見たいづなが小さく苦笑する。

ようやく、肩の力が抜けたような感じだ。



「で、皆が相手しとった連中はどないしたん?」

『蓮花とあの魔人なら、また来るみたいな事を言って帰ってったぜ』

『人形遣いも似たような感じね……不気味な奴だったけど』

『ぁ……えと、星崎さんは、眠らせて放置してきました……』

「や、眠らせてって……」



 曖昧な表情で呟いたいづなの声に、サクラが慌てたような感じで声を上げる。



『あ、あの! あの人、すっごく再生力が強くて……!』

「あー、ごめんゴメン、別に怒っとる訳やないんや。ただ、さくらんでも倒し切れんかったんかなぁ、と」

『ぁ……は、はい。炎で焼き尽くしたり、雷で砕いたり、凍らせたり吹き飛ばしたり埋めたりしたんですけど……その、どれも効果が無くて……』



 深々とした溜め息とともに、サクラの憂鬱な感情が伝わってくる。

想像しただけでも大変そう。

力の燃費が悪いサクラとは、ちょっと相性が悪かったのかもしれない。



「あ、あー……そういう方面の厄介さは想定しとらんかったね。まあ、了解や。やっぱりフーちゃんを向かわせた方が良かったかもしれんなぁ」

『あたしも、あの人形遣いとか言う奴はもう勘弁よ。あの糸を張り巡らせてくるのとか魔術式での防御とか……一々面倒臭かったわ』

「……了解。相手が分かっとったら、次からは逆にするで」



 いづなが頬を引き攣らせながら言う隣で、わたしは小さく頷く。

二人の心からは、本当に疲れが伝わってくる……もう会いたくない、という感じの感情も。

逆に、レンとマサトの二人はまた戦いたいと思っているみたいだったけど。



『蓮花の奴はまた来るって言っていた……次は決着をつけるともな。あいつが来た時は、俺に回してくれよ』

『ガープはオレの方に頼む』

「あーもう男二人は……分かったから、とっとと戻って来ぃ」



 やれやれと嘆息して、いづなは交信を打ち切る。

内心から伝わってくるのは、『心配して損した』という事らしい。

そういった感情を表に出さないのは、流石だと思う。


 あまり読むべきではないのは分かっているけど、最近は目を見ないでも感情が伝わって来てしまうから……ちょっと、申し訳ないかも。

あまり人の心を勝手に読むべきではないと分かっているけれど、わたしの力は常時発動でも感情を読めてしまうから、どうしようもない。

流石に、正確に読もうとするのならば力を任意発動しないといけないけれど。



「さてと。ほんなら、マリエル様たちに話して、皆を迎えに行こか」

「ん……怪我してなくて、良かった」

「にゃはは、せやね」



 いづなは笑う。

笑顔から伝わってくる感情は、心からの安堵。

悪い事じゃない。わたしも、凄く安心していたから。


 でも―――いつか、本当に危険な戦いが来てしまう。

それまでに、力をつけないと。



「……行こ、いづな」

「お? 珍しく積極的やね……よし、ほんなら行こか」



 わたしの様子を受け入れるように笑いながら、いづなは歩き出す。

その背中を追いかけながら、わたしは静かに心を研ぎ澄ませていた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











「手を貸す事が出来ず、済まなかったな。だが、大儀であった」

「いや、王子に動かれた方がこっちとしても困るので」

「本当に頼むから、兄上は自重してくれ」



 数日間に渡る旅の間に少しだけ仲良くなったんだろうな。何となく、ゼノン王子とも気軽に話す事が出来るようになってきた。

仲が悪いのはクローディン第三王子だけか……まあ、彼が成長すればその内感情の整理もつくだろう。

アレはただ単に、ルリア王女とかに嫉妬して感情の制御が出来ていないだけだろうし。


 とまあ、それはともかく。

ディンバーツ帝国の人間の襲撃を上手く躱した俺達は、ようやくこうやって合流する事が出来た。



「ふむ……しかし、厄介な事になったな。相手が空間転移能力者……それも、転送に近い力を持っているとなると、かなり厄介だ」

「一応、本国の方にも連絡しといたんで……アルシェールさんに結界張ってもらう、っちゅー事になると思います」



 蓮花の能力は、どうやらあの黒い水で人を転送する事が出来るらしい。

まあ、アレは《神の欠片》ではなく、その身に宿した邪神の力なのだろうが。

ダゴンって、そんな事も出来たんだな。



「オレ達の収穫としては、水淵が持っている力の事、ガープがあの女と共に行動している事、そして背後にいる存在の事だ」

「あと、あの人形遣いドールマスターとか言う魔術式使いメモリーマスターの事もね」



 誠人の言う蓮花の力は、空間転移の事だけでは無いだろう。

そう……俺達が持つものと同じ、《神の欠片》の力。

あいつは確か、《静止アンシュラーグ》とか言っていたな。

俺が見た限りでは、体の表面近くに、あらゆる物を静止させる不可視の膜のような物を張る能力。

防御力ではフェゼニアの力の方が強力そうに思えるが、蓮花の力はどうやら自動で発動しているらしい。

普通に戦おうとすると、非常に厄介な相手だ。


 と、俺が一人でそんな事を考えていたその時、何かを思い出したようにマリエル様が顔を上げた。



「そうか、アリシア・ベルベット……聞いた事がある名前だと思っていたが、あの人形遣いか!」

「おん? マリエル様、知っとるんですか?」

「ああ……かつての邪神龍との戦いの時、我が国はあらゆる高名な戦士や魔術式使いに声をかけていた。

その中の一人が、あの人形遣いだったのだ」

「あれ、じゃあ仲間だったんですか?」



 フリズが首を傾げながらマリエル様に問いかける。

しかしその言葉に、マリエル様は顔をしかめながら首を振った。



「いや、彼女は我が国の勧誘を蹴ったのだ」

「え……相手は邪神なのに?」

「興味が無かったんでしょうか……?」



 相手は人類共通の敵なんだから、協力し合ってもいいと思うんだけどな。

一体、どうして協力出来ないと言い出したんだろうか。

俺達の疑問に満ちた視線を受け、マリエル様は深々と溜め息を漏らす。



「彼女はな……アルシェール殿と肩を並べて戦うのが嫌だといったのだ」

「は?」

「彼女も優秀だったのだが、アルシェール殿の登場でお株を奪われてな。それ以来、彼女の事を敵視していたらしい」

「……何? もしかして、今回ディンバーツ帝国に協力してるのって―――」

「アルシェール殿を意識しての事であろうな」



 頭痛を感じたように頭を抱えるマリエル様―――まあ、俺達も同じような感想ではあったが。

あの人は、一体どれだけ周囲から恨みを買っているんだろうか。

まあ、あの星崎とか言う奴はともかく、この人形遣いとやらは勝手に恨んでるだけだが。

兄貴と言いアルシェールさんといい、敵を作るのが得意な人達だな、本当に。



「アルシェールさんに教えたとして―――」

「興味ない、って言うだろうな」



 フリズの言葉に、肩を竦めつつ俺は告げる。

生憎と、あの人は興味無い事にはとことん興味無いだろうし。

俺の言葉に同意するように頷きつつ、マリエル様が続ける。



「一応伝えてはおくが、彼女の動きは私達では制御出来ぬ。彼女の意志に任せる他無いだろうな」

「……まあ、そっちの事に関しちゃ、うちがちゃんと考えとくんで……まあそれにしても、考える事多いんやけどなぁ」

「お疲れとしか言えないが……感謝している」

「改まって言わんでもええって」



 誠人の言葉に照れたように笑いながら、いづなはパタパタと手を振った。

アクの強い俺達をただ纏め上げてるだけじゃなく、しっかりと理解した上で指示を出してるからな……ホント、頭が上がらない。

今後はもっと大きく事が動いていくんだろうし、もっと世話になる事になりそうだな。


 で、だ―――



「マリエル様、話し合いの方はどうなったんですか?」

「うむ、途中であの騒ぎが起こってしまったが、ほぼ話し合いは完了している。

我が国とグレイスレイドは同盟を結ぶことで決定した……後は細かい調整さえ行えば、本国に戻れるぞ」



 ふむ。結構時間がかかるものだと思っていたけれど、意外とスムーズに進んでいたんだな。

まあ、グレイスレイドの方もそれだけ困っていたって事なんだろう。

あまり悠長に話していても危険が増えるだけだと言う事はよく分かったのだろうし。



「ここに滞在するのは後数日程度……奴らが転移能力を持っている以上、あまり悠長にしている時間は無い。報告はお前に任せるぞ、いづな」

「まあ、やっとるんはミナっちなんですけど……了解しました」



 いよいよ切羽詰ってきた感じか……戻っても、またすぐに仕事する事になりそうだな。

けれど―――それはつまり、再び蓮花と戦うと言う事だろう。

あいつは言っていた。『次こそ決着をつけよう』と。


 ―――望む所だ。

あいつを倒せるのは俺だけだし、あいつを倒していいのも俺だけだ。

必ず、俺の手で決着をつける。



「……レン」

「ミナ? ……心配すんなって」



 若干不安そうな表情で俺の事を見上げていたミナに、小さく笑いかける。

俺の心を読んでしまったんだろう。まあ確かに、こんな戦闘狂みたいな事を考えていたら不安がってしまうかもしれないが。



「俺は負けないさ。必ずあいつに勝つ」

「ん……レンなら、勝てる。信じてる」



 ミナの言葉に淀みは無い。ならば俺も、その信頼に応えなくちゃな。


 出来れば、あいつと戦うまでに回帰リグレッシオンを使えるようになりたい所だが―――流石に、難しいか。

けれど、現状あいつを倒す方法が無い訳ではない。

絶対に回避不可能な状況に追い込み、必殺の一撃を撃ち込む……俺のすべき事は、それだけだ。

狙撃手としていつもやっている事だし、気負う必要も無い。



「……待っていろよ、蓮花」



 必ず、俺がお前を奪い取ってやる。











《SIDE:OUT》





















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