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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
132/196

126:剣と拳、そして銃

似た者同士の二組は、互いの想いをぶつけ合う。












《SIDE:REN》











 鈍い金属音を響かせて、銃身と銃身がぶつかり合う。

至近距離で睨み合いつつも、俺達の顔に浮かんでいるのは愉悦に歪んだ笑みだった。



「自動拳銃の形してるくせに、どうなってるのかしらね、その銃! ちょっと頑丈すぎるんじゃない!?」

「さあな! お前の方こそ、そろそろ銃身が歪むぐらい殴ってるんじゃないのか!?」



 まあ言わずもがな、銃はこんな風に使う物ではない。

殴るとしても、デリケートな銃身の方ではなく、比較的頑丈に作られたグリップの方でやる筈だ。

が、魔術式メモリーによって強化されていると思われる俺達の装備は、そんな程度では壊れたりはしない。

まあ、原理なんて何だっていいが。要するに、戦えさえすれば問題ないのだ。



「喰らえッ!」

「甘いわ!」



 蓮花の銃を弾きながら、左の銃で至近距離からの三連射。

しかし蓮花は、一発は能力を使って受け止めつつも、他の二発は驚異的な反応速度で躱してしまう。

コイツの軍服にも、俺のジャケットと同じように魔術式が刻まれているのだろうか。

まあ簡単に終わってしまっては面白くないし、個人的には好都合だ。

逃げる蓮花へと銃口を向け、連続して引き金を絞る。



「すばしっこい奴だな……」



 連続して雷のような銃声が響き渡り、そのつど会議場の机や壁が破壊されてゆく。

しかし、感覚強化を使った俺の射撃を躱しながら、蓮花は俺に対して銃口を向けてきた。

小さく笑みを浮かべ、こちらも走り出す。

互いに円を描くように走りながら、相手へ向けて引き金を絞り続ける。



「ふふ、あはは! 楽しいわね、煉!」

「ああ、全くだ!」



 否定のしようもない。俺は、この殺し合いを楽しんでいた。

蓮花との戦いを、俺は待ち望んでいたのかもしれない。

何か懐かしい気配すら感じるほどに、俺達は銃口を突きつけ合う。



「《徹甲榴弾ブラストシェル》!」



 蓮花の進行方向上へ向かって、炸裂弾を発射する。

蓮花の能力は、物体の動きを静止させる事。だったら、爆発などは通用するのかどうか。

蓮花は俺が外しただけだと思ったのか、そのまま前へと進み―――それと同時に、弾丸が炸裂した。



「きゃっ!?」

「―――!」



 油断無く構える。もしも爆発をマトモに喰らっていたのならば、到底悲鳴では済まない様なダメージを受けるからだ。

そして案の定、蓮花は爆発の中から何事も無かったかのように姿を現した。

その顔に、興味深そうな表情を映して。



「弾丸に性質を付加して撃ち出してるのねぇ。すっかり騙されたわ」

「ハッ、言う割に無傷じゃねぇか」



 流石に、苦笑するしかない。

あいつには、俺が力を込めた弾丸しか通用しないと言う事だ。

例え不意を突こうが何だろうが、俺が能力を使う以外にこいつの防御を貫く方法は無い。

そういう意味では、相手が俺で良かったのだろうが。



「さてと……どうしたもんかね、コイツは」



 小さく、一人ごちる。

あらゆる攻撃を命中の直前で静止させ、ダメージを受ける事のない蓮花。

恐らく、俺が両方の銃の弾丸に力を込めて同時に放てば、蓮花の防御を貫き倒す事ができるだろう。

しかし、俺の力はかなり消耗が激しいらしく、そんな事をしてしまえば、俺自身もしばらく行動できなくなってしまう。

もしも攻撃に失敗すれば、間違いなく反撃を受けて敗北する。


 とは言え、蓮花も同じような状況だろう。

俺の能力は、認識してさえいれば魔力攻撃を無力化できる。

放たれる直前に来ると言う事が分かっていれば、相手の魔力を霧散させられるからだ。

蓮花の物ほど防御に向いた力と言う訳では無いが、一対一で正面から戦っている以上は、俺が攻撃を受ける理由は無い。



「中々、決着はつきそうにないわね」

「元々今日はそのつもりじゃなかったんだろ?」

「まあ、そうだけど」



 言って、蓮花は苦笑する。

向こうにも何かしらの事情があるのだろう。俺としても、今は正直気分が乗り切っていると言う訳ではない。

ここはある程度の所で退いておくべきなのだろうが―――どうにも、その退き際が見極められない。



「ねえ、煉。貴方は、どんな決着がお望みかしら?」

「何だよ、藪から棒に」



 突然の言葉に、思わず首を傾げる。

コイツは一体何を言い出すんだ、こんな突然。

そんな俺の様子に、蓮花は小さく苦笑を漏らす。



「アタシ達が行き着く結果なんてそう種類は無いでしょうけど……でも、決着はつけないといけない訳だし。

だから、煉。貴方は一体どんな決着を望むのか……それが気になっただけ」

「決着、ねぇ」



 言われても、想像など出来ないのが正直な所だ。

俺は、ただ―――



「正直、決着がどうとかは考えて無いんだよ」

「あら。じゃあ、何を考えて戦っているの?」

「ただ単に……お前が、俺以外の誰かのモノである事が気に入らないだけだ」



 その一言に、蓮花は大きく目を見開き―――そしてクスクスと、愉快そうに笑い声を上げた。

腹を抱えて、身をよじりながら、ただただ楽しそうに。



「あははははっ! そうね、そりゃ気に入らないわ!」

「ま、お前なら分かるだろ?」

「ええ、本当に……本当に、その通りよ」



 その時、蓮花の言葉に僅かな硬さが混じったように感じた。

違和感を覚え、思わず眉根にしわを寄せるが、顔を上げた蓮花の表情の中には特に変わった所は無い。

気のせい、だったのか?



「まあ、そうね。アタシが貴方のモノになれない理由の一因だもの。

どっちにした所で、アタシは貴方のモノになるつもりは無いけど。逆ならやる気満々だけどね」

「結局はそんな感じか。ま、仕方ないかもな」



 肩を竦める。

浮かべる表情は、蓮花と同じようなものだったが。



「さてと、それじゃあ鬱憤晴らしも含めて―――」

「―――もうしばらく遊ぶとしましょうか!」



 二人で笑む―――そして、再び二つの銃声が交錯した。

紅色の弾丸が俺の眼前で弾け、銀色の弾丸が蓮花の眼前で停止する。

同時に笑み、俺達は弾けるように後退した。

そんなバックステップの最中すらも、銃口は互いの急所を射抜こうと向けられる。



「堕ちろ!」

「そっちが!」



 空中にいる互いに対して、無数の弾丸が放たれる。

空中で撃ち落しあい、弾かれた弾丸は再び荒れ果てた周囲を蹂躙し、突き抜けてきた弾丸は互いに受け止める。



「ははは!」



 笑う。嗤う。

銃同士での戦いなんて、本当に久しぶりだ。

いや、向こうの世界にいた頃サバゲーで遊んでいた程度だったし、こんな派手な撃ち合いなんて始めてやった。

だからこそ―――もっともっと愉しみたい!



「そう思ってるだろ、お前も!」



 地面に着くと同時に、跳躍。俺が一瞬前までいた場所を三発の弾丸が貫いて行く。

お返しとばかりに、今度はこちらから同じ数の弾丸をお見舞いするが、蓮花も即座に反応して横に走りながら回避した。

舌打ちしつつ、机の上に着地。そこから再び駆け出そうと―――した瞬間。



「油断大敵っ!」

「ぬおっ!?」



 俺が足を着けていた机が、銃弾によって破壊されてしまったのだ。

思わずバランスを崩した俺に対し、続け様に複数の弾丸が襲い掛かる。



「Shit!」



 落下しかけの状態ながらも、かろうじて残っていた机の一部を蹴って地面に転がる。

ギリギリ反応する事が出来た弾丸を打ち消しながら、俺は転がった状態で蓮花の銃を狙い撃った。



「くっ!?」



 自分の肌に触れる直前の攻撃はまだしも、どうやら銃への攻撃は止められなかったらしい。

蓮花の右の銃が俺の弾丸によって弾かれ、空中で静止する。

どうやら、遠くまで飛ばされるのを防ぐ為に途中で止めたらしいな。

まあともあれ、これで何とか一方的に攻撃されるのを防ぐ事は出来た。

すぐさま起き上がり、銃を回収したばかりの蓮花へとダブルタップで弾丸を放つ。



「ッ……ホント、やるわね!」



 身体を翻すように、蓮花は能力を発動しながらこちらへと向き直る。

静止する弾丸の向こうで踊る桃色の髪と黒い軍服は、魅了されるほどに綺麗な弧を描いた。


 ああ、本当に―――コイツが、俺以外の誰かのモノである事が許せない。

コイツをこの世界に導いたのは、間違いなくエルロードだろう。

だが、コイツを拾ったのは一体誰だ?

誰がこいつに邪神の力など与えた?

誰が、誰が、誰が―――!



「……許しはしない」



 呟き―――そして、俺は再び駆けたのだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:MASATO》











 銀の剣閃が翻る。

オレの振るった刃は、オレが見た未来の通りに、ガープが交差した腕によって受け止められた。

やはり、攻撃力不足だ。精霊付加した状態ならば、防御の上からダメージを与えられると言うのに。

小さく嘆息しつつも、オレはガープが攻撃してくる未来の光景から身を躱す。



『チッ、やっぱり当たらねぇ……そうか、それが例の力って奴か』

「何……?」



 思わず、眉間にしわを寄せる。

どういう事だ。まさかコイツ、《神の欠片》の事を知っているのか?

後ろに跳躍して距離を開けつつ、オレはガープへと問いかける。



「お前は、オレ達の力の事を知っているのか。一体、誰に聞いた?」

『あー? ああ、アレか。うちのボスだよ……気に入らねぇ野郎だが、確かに強い。

けど、あいつと戦おうとは思えねぇな。俺様の臨むような戦いにはなりそうにねェ』



 野郎、という事は男か。

そいつがガープたち―――即ち、水淵を始めとしたディンバーツ側を操る者と言う事だろう。

しかし、ガープが戦いたいと思えないような強さとは、一体どういう事なのだろうか。

あまりにも強すぎるのか、それとも特異な能力を持っているが故なのか。



「……そいつは何者だ?」

『生憎、そいつは教えられねェよ。勝手に話しちまったら何言われるか分かったモンじゃねェ』



 やはり、簡単には教えてくれないか。

しかし、そういった黒幕的な存在がいる事は分かった。

そして、その男とやらがオレ達の事を注意していると言う事も。


 《神の欠片》の事を詳しく話したのは、リオグラスでも国王しか存在しない。

その男は何処でその情報を手に入れたというのか。

現代で知っている者は数少ないのだが、そこから知ったのか……或いは、二千年前縁の人物と言う事か。

どうとも判別は付けられないが、同にしろ厄介な相手である事は確かなようだ。



『ま、奴の事なんざどうでもいい。テメェが強くなってくれるんなら、何だっていいさ!』

「やれやれ……」

『前もこんな様子だったのか、コイツは?』

「まあな」



 狡猾さは無く、単純で分かりやすい相手であるため、返って好ましい性格ではあるのだが―――敵である事に変わりは無い。

ある意味では、本当に厄介極まりない相手だ。



「ともあれ、あまり街中で暴れる訳にも行かないからな。早々に退場願おうか」

『ツレねぇな。ま、何であろうと楽しむ事に変わりは無いけどよ―――!』



 叫び、ガープの姿が爆ぜる。

予めその動きを予見していたオレは、それを横に飛んで躱すが―――流石にその速度を追う事は出来ず、追撃は不可能だった。

ガープはそのまま身体を翻し、建物の壁へと足を付け、そこを蹴る事で再びオレの方へと飛び出してくる。

壁を砕け散らせながら飛んでくるガープへと、オレは再び撫でるように刃を合わせた。



『効くかァ!』

「ち……っ!」



 通り抜け様にガープが放ってきた回し蹴りを、オレは身体を沈みこませる事で躱す。

あらかじめ分かっていなかったら、蹴りで首を刈り取られていたかもしれない。

いくら未来が見えていたとしても、大きいのを喰らってしまえば一撃必殺、油断する事は出来ないだろう。



「はァッ!」



 下から掬い上げるように一閃。

ガープの背中を狙った一撃は、しかしガープが体を捩った事で致命傷を外される。

ちまちま攻撃を与えてはいるが、高い再生能力を持っている以上意味がない。

背中にある魔力噴射口程度か、こいつの弱点は。



『あの力が無いとそんなもんか、アァ!?』



 体を捩った勢いをそのままに、ガープがオレのこめかみを狙ったフックを放つ。

食らえば一撃で意識を消し飛ばされるだろうな、これは。

無論、見えていたので当たる筈も無いのだが。


 とはいえ、あまり力を過信しすぎるのも良くないだろう。

持ちうる全ての感覚を操ってこそ、意味があるというものだ。


 ともあれ、間合いが近すぎてはオレの刀は振るえない。

あいつの攻撃後を狙って後方へと跳躍し、オレは距離を開けた。

当然、この次の行動は―――



『ハッハァ! 行くぜェェェエエエッ!!』



 強烈な魔力の噴射と共に、ガープがオレへ向かって突撃してくる。

その一撃はまさに砲弾、喰らえば一撃で消し飛ばされる破壊力だ。

だが、見えている以上対応するのは容易い。


 ふと、こいつの状態でのスピードと、フリズが回帰リグレッシオンを使った時ではどちらが速いのかが気になったが、まあ目視する事も叶わなかったフリズの方が速いのだろう。

突き抜けて行ったガープはそのまま建物の壁へと激突し、そこを粉砕する。



『……猪だな』

「それに関しては同意せざるを得ないな」



 呆れたような椿の言葉に、オレは嘆息しつつ同意する。

直線で突っ込んでくる辺りはまさにそれだ。

どちらにしろ、壁に激突した程度では止まらないのだろうが。


 と―――ガープが開けた穴、その場所に見えた未来に、オレは思わずピクリと眉を跳ねさせていた。



『っと、勢いつけすぎちまったぜ―――おお?』



 壁の穴から出てきたガープの背中に、黒い軍服―――水淵が激突したのだ。



「ったた……ガープ、アンタ盾になりなさい!」

『は!? テメ、自分で防げるだろ……って、うおお!?』



 そしてそれに続くように無数の銃声が響き、ガープはそれを弾きながら後退する。

弾丸でガープを押しのけるようにしながら現れたのは、両手の銃を構える煉だった。



「お、何だ、合流しちまったか」

「あれだけ撃ちまくっておいて、今更言うのかお前は」



 にやりと笑う煉に、オレは小さく嘆息する。

しかしまた、随分と派手に戦っていたようだな、こいつも。



『おいおい、邪魔してんじゃねぇぞ、テメェ』

「そりゃこっちの台詞だ。水を差されてんのは同じだっての」

「場所が悪かったわねぇ」



 睨みあう二人と、事も無げに肩を竦める水淵。

しかし、あちらも両者無傷か……先ほどから乱射と言えるほどのレベルで銃声が聞こえてきていた気がしたが、それだけの闘いでも傷一つ無いのはどういう事か。


 と―――嘆息し、水淵は自らの足元に黒い水を発生させた。

警戒し、オレと煉は同時に武器を持ち上げる。

しかし攻撃してくる気配は無く、むしろ抗議の声を上げたのはガープの方だった。



『おい、レンカ! テメェ、何のつもりだ!?』

「アンタ、今回の目的見失ってたでしょ……まあアタシも人の事は言えないけど、そろそろ潮時よ。

ここで決着をつけるのもつまらないしね」



 その言葉と共に、二人の体が黒い水の底へと沈んでゆく。

とっさに武器を向けるが―――オレ達も、引き際を見極めかねていた所だった以上、追撃を加える気は起きなかった。

沈む途中の水淵はその口元に笑みを浮かべ、声を上げる。



「それじゃ、また会いましょう、煉。次こそは本気で……決着をつけましょうね」



 そして、こちらの返答を待つことなく、水淵とガープは姿を消した。

小さく嘆息し、オレ達は武器を納める。



「派手にやったみたいじゃねぇか」

「そちらこそな」



 ボロボロになった建物を見上げ、肩を竦める。

弁償などを求められても困るが……まあ、聖女は話の通じる相手なのだし、何とかなるだろう。

とりあえず―――



「他の連中と合流するか」

「……だな。よし、行こうぜ」



 あまり納得の行く戦いではなかったが、気にしていても仕方ない。

オレ達は互いに頷き合うと、街の方へと向けて駆け出していった。











《SIDE:OUT》





















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